中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

奇妙なペットが流行中。石を飼う、マンゴーの種を飼う。そして今、粘菌を飼うのがブームに

小学生から大人まで、粘菌を飼うのがブームになっている。ECでは簡単に飼育できるキットも多数販売されるようになっていると光明網が報じた。

 

石を飼う

若者の間でペットを飼うことが流行している。と言っても、犬や猫ではない。単身者にとってペットを飼うことは負担が大きすぎる。経済的な問題もあるが、世話の負担が大きく、旅行に行くこともできなくなり、夜遅くまで遊ぶこともできなくなる。

そこで奇妙なペットが流行をしだしている。最初に話題になったのは「石」だった。自分で形のいい石を拾ってきて、家をつくってあげ、名前をつけて、目をつけ、帽子を被せるなどして写真に撮り、SNSにあげる。

▲石を飼うのも流行した。名前をつけ、服や帽子を着せ、家をつくってあげる。外出する時は連れていき、各地で写真を撮る。

 

マンゴーの種を飼う

次に流行ったのがマンゴーの種だ。マンゴーの種を乾燥させ、ブラッシングをすると毛がふさふさになってくる。これには手間がかかるが、ふわふわになったマンゴーの種に名前をつけ、目をつけたり、毛を染めたりして可愛がる。

害のない遊びだと言えばそれまでだが、一部からは、若者の精神的な健康に問題が起きているのではないかと心配をする声もある。

▲マンゴーの種も流行した。毛並みをそろえ、顔をつけ、名前をつけて可愛がる。

 

そして、今、粘菌がブームに

そして、今、流行っているのが粘菌だ。日本では南方熊楠が研究をしたことで有名で、胞子によって繁殖する植物的な性質もありながら、移動をする動物的な性質もあり、飢餓状態になると集合体となって、神秘的な文様を描き出す。アメーバの一種だが、他の生命体とは大きく異なる性質を持っている。

これを飼うのが、若者の間で流行し、EC「淘宝網」(タオバオ)などでは飼育キットが多数販売され、よく売れている。元々は大学生たちが面白がって飼育を始めたが、その流行は小学生たちにも広がり、親に「粘菌を飼ってほしい」とせがむ小学生も増えている。

▲小学生から大人まで、粘菌を飼育するのがブームになっている。粘菌の描き出す文様が魅力になっている。

▲ECでは粘菌の飼育セットが多数販売されている。50元(約1000円)程度のものが多く、手軽に始めることができる。

 

粘菌が逃げ出してパニック!

粘菌を飼育するのは難しくない。温度と湿度に気をつけ、暗所に置いておき、オートミールを置いておけば食べて成長する。飼育キットには飼育方法を解説したビデオへのリンクもついているので、誰でも簡単に飼うことができる。

ただし、問題は、気をつけないと粘菌は逃げ出すということだ。うっかりすると、粘菌の一部が逃げ出し、家の中の隅の方で成長してしまう。その姿は、粘菌を知らない人から見ると卒倒するような光景で、親たちは、子どもの健康に悪い影響がないのかを心配するようになっている。

そのような保護者の声が高まったことを受け、杭州市衛生健康委員会など、各地の衛生機関が「粘菌そのものは人体に悪い影響を与えないが、繁殖時には胞子を放出するため、吸い込むとアレルギー反応を起こす可能性がある」と注意喚起をする事態になっている。

教育関係者は、粘菌を飼育することは教育的な効果が大きいことから肯定をしており、保護者に理解を求めている。

タオバオなどでは粘菌の飼育セットは、ヒット商品とも言えるほど売れてきており、まだしばらくは粘菌の飼育ブームは続きそうだ。

▲粘菌はうっかりすると逃げ出す。家の隅で繁殖をし、知らない人にとっては卒倒するような光景となる。

 

返品の仕組みでEC化率はあげられる。返品制度のメリットとデメリットとは

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今回は、ECの返品問題についてご紹介します。

 

運転手の時間外労働時間に上限が定められる2024年問題により、物流が大きな問題に直面しています。その中で、日本のアマゾンがおかしくなり始めています。アマゾンは配送を各宅配便会社に委託をしていますが、「アマゾン配送サービスパートナー」の扱う荷物が増えています。このパートナーとは実質ギグワークであり、その配送の質が問題になり始めています。

特に問題になっているのが「勝手に置き配」です。対面配達を希望しても、さらには宅配ボックス配達を指定しても、玄関前に勝手に置いていってしまうという問題です。チャイムも鳴らさないために配達されたことに気がつかず、長時間置きっぱなしになってしまうこともあるようです。戸建て住宅などでは雨に濡れてしまうこともあります。

私の周辺でも困惑している方が多く、私自身も宅配ボックスがあるにも関わらず何度か勝手に置き配される経験をしました。SNSを検索すると、多くの人が同じ問題を訴えています。まだ、この件を報じているメディアはないようですが、そのうち問題化するのではないかと思います。

 

置き配で心配になるのは盗難です。問題なのは、盗難なのか、受取人が受け取っておきながら盗難されたと主張しているのか、証明のしようがないことです。配送人は置いたことを写真で記録をしますが、それでわかるのは置いたという事実だけで、配送人自身がそのまま持ち去ることもできますし、別の誰かが盗んでしまうこともありますし、受取人が受け取っておきながら受け取っていないと主張することもあり、そのいずれかであるかが、誰にも証明ができません。

このような曖昧な状況というのは、システムの脆弱性となり、モラルハザードを生むホットスポットになります。

アマゾンに苦情を言っても、サービスパートナーがギグワークであり管理体制が取れていないため改善がされません。おそらく、今のアマゾンであれば、トラブル化しそうであれば返金をすることで対応してしまっているのではないかと思います。

 

「サービスパートナーでなく、ヤマト運輸などの配送業者を指定できるようにしてくれ」という声は以前からあります。私もそう思いますが、こんな記事を見つけました。

 

「スマホをパクってるのは絶対にスキマバイトの連中だろ」…150億円の赤字に転落した「ヤマト運輸」で「iPhone窃盗」が頻発している「謎」

https://news.yahoo.co.jp/articles/fe19b8ba02fd068f8e7fefc0f5be3187bc2681cb

 

ヤマトの配送中に、スキマバイトで集められたスタッフが、荷物の中のiPhoneを盗んでいるという話です。にわかに信じがたい話で、実際にはごく一部であるとは思いますが、この記事には説得力があります。

どことなく、日本のインフラサービスが崩壊に向かっている嫌な感じがします。

 

そもそも日本の個人消費はまだコロナ禍が終わっていません。「令和5年度電子商取引に関する市場調査報告書」(経済産業省)を見ると、個人消費がかなり深刻な状況であることがわかります。

次のグラフは、2023年の世帯支出額を項目別にコロナ前の2019年と比較をしたものです。

▲2023年の世帯支出額の2019年との比較。日本の個人消費のコロナ禍はまだ終わっていない。アウトドア支出がまるで回復していない。

 

非常にわかりやすく、コロナ前よりも増えているのはインドア商品ばかりで、アウトドア商品はまだまだ回復をしていません。旅行も海外は物価が高い、国内はインバウンド客で混雑をしているということから、行く頻度が減少したままになっているという方は多いのではないかと思います。

では、インドア商品が受けるのであれば、ECの利用は伸びているのではないか。実際、コロナ禍以降ECの利用頻度があがったという方は多いかと思います。ところが、同じ報告書の中のEC化率を見ると、日本は多少伸びていますが、低いままに止まっています。

▲世界各国のEC化率。中国が突出しているのは当然としても、日本は韓国やインドネシアから比べても非常に低い。

 

私のイメージでは20%は突破しているのではないかと思っていましたが、13.7%に止まっています。日本は、国土が狭く密集をして暮らしている傾向があり、なおかつオフライン小売のレベルが高いですから、中国のように高いEC率になることは考えられません。しかし、状況も国民性も似ている韓国並みになってもおかしくないと思いっていました。しかし、実際は半分程度のEC化率なのです。

 

商品別のEC化率を見てみます。

▲商品別のEC化率。あらかじめ買う商品が決まっているものは高くなる。Shopping(商品の選定から購入まで)の習慣が定着していない。

 

おそらく、想像どおりではないかと思います。ソフト、家電、デジタルなどが高く、食品、化粧品などが低くなっています。

これは、あらかじめ購入したい商品が決まっているものはECで買われているということです。一方、いろいろ比較して見て選びたい化粧品や食品に関しては、圧倒的に店舗が好まれます。生活雑貨や衣類なども、ひょっとしたらMUJIやユニクロの商品が多くて、見なくても品質はわかっているという理由から使われているのかもしれません。つまり、日本人はオフライン小売ではShopping(ショッピング=品定めをして購入する)をしますが、ECではBuying(バイイング=購入のみ)しかしないのです。

 

もちろん、社会としてEC化率が高くなければならないということにはありません。それはそれぞれの社会のあり方ですから、EC化率が高い国もあれば、低い国があってもいいわけです。

しかし、ぜひ、みなさんに「では、なぜ中国のEC化率は高いのか」という問題を考えていただきたいのです。「中国は国土が広大で、近所にお店がないところがたくさんあるから」。確かにそうです。しかし、多くの人は日本よりも稠密な大都市に暮らしています。地下鉄の駅ごとにショッピングモールがあり、オフライン小売の質はともかく量だけでは日本に負けません。辺鄙な場所で暮らしている人の割合はそう大きいわけではありません。しかも、ECを頻繁に利用するのは大都市の人が中心です。

中国のEC化率が高い理由を生成AI「Perplexity」に尋ねてみました。

 

中国のEC利用率が高い主な理由は以下の通りです:

1)インターネット普及率の急速な上昇:2023年12月時点で、中国のインターネット利用者数は10億9200万人に達し、普及率は77.5%となっています。

2)スマートフォンとキャッシュレス決済の普及:スマートフォンの普及率が高く、ALIPAYなどの電子決済システムが広く浸透しています。

3)経済発展と消費需要の増加:中国の実質GDP成長率は高水準を維持しており、消費者の購買需要が高まっています。

4)ECプラットフォームの集中:アリババやタオバオなど、大手ECプラットフォームに小売業者やメーカーが集中しており、消費者が簡単に多様な商品を購入できます。

5)物流インフラの発達:人口密度の高さを活かした効率的な物流ネットワークが構築されています。

6)政府の支援:中国政府はEC市場の拡大を支援しており、海外ブランド商品の購入も容易になっています。

7)実店舗と比較した低コスト:ECでは実店舗運営にかかる様々なコストを抑えられるため、商品を安価で提供できます。

これらの要因が相互に作用し、中国のEC利用率を押し上げています。

 

他の生成AIでも似たような回答です。しかし、いずれも日本にもそれなりにあてはまる理由であり、中国のEC化率が高く、日本のEC化率が低いことの理由にはなっていないように思います。

なぜ中国のEC化率は高く、日本のEC化率は低いのか。その理由は先ほど触れたShoppingとBuyingの違いによるものです。日本のECはBuyingですが、日本以外のEC化率が高い国はECでもShoppingが行われます。例えば、服や靴などのサイズがある商品では、3サイズぐらいを注文するのは珍しいことではありません。試着してみて、合うものを手元に置き、残りを返品します。

日本でもアマゾンがtry before you buyというサービスを行っていますが、対象となる製品がどんどん減っています。そのため、日本では購入してみてサイズが合わないと交換を申し出ることになります。それから別サイズを送ってもらって、それでもサイズが合わないと、もうECで買うのが面倒になってしまうのではないでしょうか。「やっぱり店頭で買った方が面倒がなくて早い」ということになってしまいます。

 

返品率の統計というのは、販売業者やプラットフォームは公開したくない統計であるため、正確なことはわかりません。しかし、調査会社などがだいたいの数値を出しています。正確な統計とは言えませんが、まとめてみました。

▲主な国の返品率。不正確な情報である可能性がある。日本が突出して返品が少ない傾向のあるのは間違いないのない事実。

 

返品率が高い国ほどEC化率は高い傾向があります。返品が気軽にできるとなると、BuyingではなくShoppingができるようになります。イメージと違ったものは返品すればいいからです。

中国では消費者権益保護法により「7日間無理由返品」が認められています。これはBuyingをShoppingに転換する大きな力となり、ECが広く使われるきっかけになりました。一方、日本でもECで購入した商品については特定商取引法により「法定返品権」が認められています。購入して8日間以内であれば、理由を問わず返品できる権利です。

ところが、特定商取引法の定めでは、販売店が特約を定めている場合は、それが法定返品権に優先することになっています。つまり、「当店では返品を受け付けておりません」と書いておくだけで、返品を受け付けなくていいのです。逆に、うっかり何も特約を書いておかないと、法定返品権が認められてしまうために、ECショップを開くときは特約を必ず記載するように注意しなければなりません。

現実には、まるまる法定返品権を認めているショップというのはほぼなく、この法定返品権は有名無実化してしまっています。ここが、Buyingのままに止まり、EC化率があがらない原因になっています。

 

特定商取引法の仕組みは、販売業者と消費者の取引条件を、販売業者側が一方的に定めることができるようになっているため、公平なものだとは言い難いところがあります。消費者保護というよりも、販売業者保護の色合いが濃いものになってしまっています。

しかし、返品条件を販売業者側が定めることができるという点は、逆に利用すれば、大きな武器になる可能性があります。例えば「ウチは30日間無条件で返品OKです!」とうたって、そのとおり対応するのであれば、まったく問題がないからです。つまり、返品条件を制御することで、消費者のShopping行動を引き出すことができ、EC売上を大きく増やせる可能性が出てきます。

といっても、無制限に返品を受けていたら、商品ロスが大量に発生してしまいます。そこで、中国のEC販売業者たちが、この返品制度をどのように練り上げてきたかをご紹介しようというのが今回のメルマガの趣旨です。

中国ですから、素直に利用する消費者ばかりでなく、制度の穴をついて得をしよう、小遣い稼ぎをしようという人がたくさん現れてきます。それを抑えながら、販売数が増えるように、さまざまなプラットフォームが頭を悩ませながら、制度を洗練させてきました。ECの売上を伸ばしたいという場合、中国の販売業者のやり方をそのまま模倣することは難しくても、ヒントにはなるのではないかと思います。

今回は、ECの返品制度についてご紹介します。

 

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今月、発行したのは、以下のメルマガです。

vol.257:BYDはなぜ強い?答えは、コア技術+エンジニアの合理性を活かした経営

vol.258:夢の次世代電池「全固体電池」はいつ登場するのか。その技術課題と各社の動向

vol.259:中国EVは過剰生産に陥っているのか。赤字経営でも値下げをするNEVメーカーが描く未来展望

 

Sora、Klingを超えたバイトダンスのビデオ生成AI「即夢」。すぐにでも広告映像に応用が可能

生成AIの真打とも言えるバイトダンスが、ビデオ生成AI「即夢」を発表した。先行するSora、Klingと比べ、破綻がまるで起きないことから、多くのクリエイターから注目されている。すぐにでも広告などの産業に応用ができる水準に達していると機器之心が報じた。

 

ビデオ生成AIの真打バイトダンスの発表

OpenAIからビデオ生成AI「Sora」(https://openai.com/index/sora/)が登場したことは世界中を驚かせた。簡単なテキストプロンプトを入力することで、ビデオを生成することができ、映像の世界を大きく変えることを予感させた。

一方、中国ではビデオ共有サービス「快手」(クワイショウ)が「可霊」(Kling、https://kling.kuaishou.com/)を発表し、世界中の話題を集めた。Soraよりもスムースな映像が生成できたからだ。

そして、人々の関心はバイトダンスに集まった。快手のライバルである「抖音」(ドウイン)、TikTokを擁し、以前からAIによる特殊効果で人気を集めてきたバイトダンスは当然、ビデオ生成AIを開発していると思われるからだ。

そして、9月24日、深圳市で開催されたAIイノベーションイベントで、バイトダンス傘下の「火山エンジン」が、2つのビデオ生成AIの大規模モデルを開発していることを明かした。ひとつはPixelDance、もうひとつはSeaweedと名づけられたもので、いずれもSoraやKlingからは生成されるビデオの質が向上をしている。この大規模モデルを使ったビデオ生成AI「即夢」(ジーモン、https://jimeng.jianying.com/ai-tool/)では、無料版がSeaweedを利用し、Pro版ではSeaweedとPixelDanceの両方の大規模モデルを利用して、ビデオを生成することができる。

 

 

破綻が起きないビデオ生成AI「即夢」

即夢の最大の特徴は、破綻が起きないことだ。これまでの生成AIでは、動作や表情に破綻が起きてしまうことがしばしばあり、そこを避けるようにビデオを生成しなければならなかった。しかも、どのようなケースで破綻が生じるかは試行錯誤で確かめていくしかない。多くのクリエイターが、ビデオ生成AIにはひとつの動作=歩く、笑うなどを指示し、「困った表情をしてサングラスをかける」など複数の指示を与えないようにしていた。

しかし、即夢ではそれが破綻なく生成することができる。これまではダンス映像と言っても、同じ動作を繰り返すことが限界だったが、即夢ではひとつの動きから次の動きへとシームレスにつなぐことができ、本格的なダンスをさせることも可能になっている。

 

マルチシーケンスによるストーリーがつくれる

このマルチアクションシーケンスを可能にしたことは、ビデオ生成AIに新しい道を拓くものだ。なぜなら複数の動作をシームレスにつなぐことで、ストーリーを生むことができるようになるかだ。

サンプルのゴッホのビデオは、ゴッホが突然大きな口を開けて笑い、それから厳粛な顔をする。これだけで、視聴者はゴッホの感情や心理を読み取ったり、想像したりできるようになる。つまり、ドラマがつくれる道を拓いたのだ。

 

背景のモブキャラにも破綻が起きない

「二人の宇宙飛行士が夜の繁華街の路上を歩く」というプロンプトで生成されたビデオは、宇宙飛行士だけでなく、背景の人々にも破綻が起きていない。従来のビデオ生成AIでは、背後にいる人が突然ワープをしたり、4本足になったりするという小さな崩壊が起きることがあった。それがまるで起きていない。

 

矛盾のない動きが生成される

「一匹のカタツムリが、雨が降った後の森林の地面をゆっくりと這い、その後には粘液の光った跡ができる」というプロンプトで生成されたビデオでは、カタツムリの皮膚の質感が細部まで表現されており、動きに合わせた伸び縮みにも矛盾がない。

 

特性に合わせた動きを生成

「たくさんのクラゲが水中を泳ぎ、その体は透明で、深海の中で発光している」というプロンプトで生成されたビデオでは、クラゲの泳ぎが見事に生成されている。

 

モブキャラも文脈に合わせた動きをする

「写実。一人の女子が誕生日ケーキの蝋燭を吹き、それから笑う」というプロンプトで生成されたビデオは、背後に家族らしき人がいて、誕生日にありがちな拍手やビデオ撮影などの動作をしている。

 

アングルも自由に指定することができる

即夢のもうひとつの特徴が、アングルが多彩であるということだ。ズーム、広角、対象追跡といった撮影手法を指定することができる。

「カメラが前進をし、街路樹に沿った住宅街の通りを撮影する。昼間で、空は晴れて青く、色彩は飽和をし、コントラストは高い」というプロンプトで生成されたビデオは、指示通りの映像を生み出している。

 

タイムラプス映像も指定可能

「北極の空にオーロラが踊り、星はきらめき、白い雪に覆われた風景のタイムラプス撮影」というプロンプトで生成されたビデオは、その通りにタイムラプス映像になっている。オーロラの光は実際には弱く、現実とは異なるのかもしれないが、雪の地面はオーラの光を反射して幻想的な映像になっている。

 

写真に動きをつけることもできる

即夢は、他の生成AIと同じように、入力された写真からビデオを生成することもできる。写真を入力し、「金魚は泳ぎ、水中には気泡が出る」というプロンプトで生成されたビデオは、カメラがズームバックするという要素も付け加えられた。

 

わずか10秒でもストーリーをつくれる

即夢は現在のところ、最長10秒までのビデオしか生成することができない。これは技術的な限界ではなく、サーバーリソースを制限するためだ。しかし、わずか10秒の中でも起承転結のあるドラマを生成することができる。

眠れる美女の生成AIでは、場面転換をし、王子様がやってきてキスをするところまでが一気に生成できる。場面が切り替わっても、映像のスタイルの一貫性が保たれている。

 

細部に至る精密な表現

即夢は細部に至るまで精密な表現を可能にした。「サングラスをかけたホッキョクグマが海を泳いでいる」というプロンプトで生成されたビデオは、水面にクマの姿が反射されているところに注目をしていただきたい。

 

動きに合わせた自然な動き

「一匹の擬人化された猫がステージの上を歩いている」というプロンプトで生成されたビデオは、猫は自然に瞬きをし、歩きに合わせて服は素材感を保ったまま変形し、しかもフードのひもが自然に揺れる。

 

自然な動きを推定して付加する

「ハスキー犬がコーヒーを飲んでいる」というプロンプトで生成されたビデオは、コーヒーを飲んだ後に、椅子の上にカップを置くという動作がプロンプトで指定されてなくても付け加えられた。

 

広告にも応用できる水準に達している

即夢はすでに広告映像の制作にも応用ができる水準に達している。図のような香水の広告写真を入力して、「青い煙がゆっくりと立ち昇る」というプロンプトで写真を動かすことができる。煙の動き方をさらにプロンプトで細かく指定していくことも可能だ。



現状では弱点が見あたらない「即夢」

今のところ、即夢には弱点が見あたらない。特にストーリーのある映像がつくれるようになった点は大きい。これまでのビデオ生成AIは実用性という点ではまだ課題があり、「どんな映像が生成できるのか、いろいろ試してみる」という使い方だったが、即夢は、目的を持ったビデオ生成に使われるようになっていくことは間違いない。ドラマや映画を生成することにはまだまだ長い道のりを歩まなければならないが、ウェブに掲載される写真の多くが、動くショートビデオになっていくことがすでに現実になろうとしている。広告やメディア業界に大きな変革をもたらすことになりそうだ。

 

高齢者の食事問題、昼食難民問題を解決するコミュニティー食堂「海淀食堂」。官民協力の食堂が年内に60店オープン

北京市海淀区は、コミュニティー食堂「海淀食堂」というユニークな取り組みを行っている。2024年10月に7つの食堂が正式にオープンをし、年内に60ヶ所にまで増やす計画だと北京日報が報じた。

 

昼食難民が多い中関村のある北京市海淀区

人口312万人の北京市海淀区は、北京大学、清華大学という中国のトップ校があり、さらには中関村にはテック企業が集中をする地域。しかし、発展をする前は郊外の住宅地であったため、高齢者の人口も多い。

この海淀区最大の問題が食事だ。高齢者には配食サービなども行っているが、人手不足で行き渡らず、コストもかかる。また、テック企業が集中をしているため、昼間には昼食難民が大量に発生する。そのためフードデリバリーが盛んに利用されるが、今度はデリバリースタッフの食事問題が発生をする。飲食店はあるものの、価格が高めであるため、デリバリースタッフの報酬ではなかなか手が出ない。結局、コンビニで買うか、キッチンカーなどを利用することになる。

▲公共のコミュニティー食堂「海淀食堂」。区民または区内の企業に勤めている人であれば誰でも利用ができる。

 

官民が協力して公共食堂を設置

この食事難民の問題を解決するために、海淀区政府は「海淀食堂」の設置を進めている。官民が協力することで、コミュニティー食堂を設置していくというものだ。運営は、飲食企業の「満座児」が行っているが、広く一般企業の協力も求めている。

民間企業には場所の提供をしてもらっている。ひとつは介護施設で、介護施設内の食堂を拡張して、コミュニティー食堂として海淀区民に開放をしてもらう。もうひとつは企業の社員食堂でこれも海淀区民に開放をしてもらう。さらに、大型スーパーには一部を食堂に改装して開放してもらう。また、海淀区所有の公共施設も食堂にする。

▲官民協力をして運営しているのが特徴。企業には場所を提供してもらう。

▲ある企業は社員食堂を海淀食堂として開放をした。昼時には社員を中心に混ざって区民も食事にやってくる。

 

ファストフードより安い海淀食堂

このような海淀食堂には海淀区政府からの補助金が出る。そのため、価格が安いのが特長で、昼食であれば10元前後で食事が取れる。客単価は20元前後だという。ファストフードでも30元ほどになってしまうので、安いということから多くの区民がやってきて賑わっている。

場所を提供する民間側にもメリットがある。スーパーの場合、海淀食堂が集客になる。お年寄りがやってきて食事をした後、買い物をしてくれる。社員食堂を開放した場合は、運営コストが下がるというメリットがある。社員食堂の利用者数が増えることにより、食材の仕入れコストが下がるからだ。

▲セルフサービス方式だが、レトルト食品は使っていないので、温かい料理を食べることができる。

▲多くの海淀食堂では、量り売りをしている。料理に限らず、すべて重さで料金を計算するため、レジの混雑が緩和できる。

▲高齢者にとっては、友人と待ち合わせをしたり、スタッフとおしゃべりをしたり、交流の場にもなっている。

 

年内に60店舗をオープン予定

最初の7つの海淀食堂は、区所有の施設に1軒、介護施設に1軒、スーパーに1軒、社員食堂に2軒、地域公共施設内に2軒が開設された。すでに開店準備に入っている海淀食堂もあり、年末までには60軒がオープンする予定だという。

コミュニティー食堂は、低価格で安心できる食事が取れるという住民サービスでもあるが、官民が協力をして実現をするという点でも注目をされている。この海淀食堂プロジェクトが成功するかどうか、他の地方政府も注目をし、視察の申し込みも相次いでいる。

 

タイで「ラブブ」が過熱人気に。ポップマートの世界展開が始まった

タイで、ポップマートのキャラクター「ラブブ」が過熱人気になっている。ナリラタナ王女までラブブをバッグにつけている姿が報道されている。ポップマートは世界展開を本格しており、その計画に大きなはずみがつくことになったと澎湃新聞が報じた。

 

タイでラブブが過熱人気に

タイでLabubu(ラブブ)というキャラクターが爆発的な人気になっている。けむくじゃらのこのキャラクターを制作したのは中国のポップマート(https://www.popmart.com.cn/home)。

今年2024年7月に、タイのバンコクにある東南アジア最大規模のショッピングモール「メガバンナー」にポップマートが出店した。オープン時には人気のLabubuをテーマにしたキャンペーンを行ったところ、1日の売上が1000万元(約2億円)を突破し、ポップマートの海外店舗の売上記録を塗り替えることになった。

ポップマートは海外店舗を拡大し、国際的なブランドになろうとしている。2024年上半期、ポップマートの海外市場での売上は13.5億元で、前年比259.6%もの増収となった。東南アジア市場は5.6億元で、ポップマートの海外市場の41.1%を占めている。Labubuの人気が貢献していることは間違いがなく、タイだけでなく、周辺国での人気も上昇中だ。

▲ラブブのブラインドボックスシリーズ。デザイナーは北欧の精霊をヒントにデザインしたが、タイで人気となった。

▲バンコクのポップマートの店舗。人気のラブブがメインに陳列され、オープン時には1日の売上が2億円を突破する記録をつくった。

 

BLACKPINKのLisaの投稿から火がついた

このLabubuを捜索したのは、香港出身のアーティスト龍家昇氏。面白いことに、東南アジアではなく、北欧の森の精霊をイメージしたものだという。いたずら好きで明るい性格の精霊であるLabubuは、尖った耳とギザギザの歯を見せて、笑ったような困ったような表情を見せている。

当初、中国で発売され人気となったが、突出した人気とは言えなかった。ポップマートは2023年9月、バンコクのセントラルワールドに出店をし、Labubuを含むタイでの販売を始めたが、Labubuの人気は平凡なものだった。

ところが、2024年4月になって、タイ出身で韓国のK-Popグループ「BLACKPINK」のメンバーであるLisaが、SNSにLabubuが好きだという投稿をし、バッグにつけている動画を投稿したところ、にわかに人気に火がついた。

さらには、タイのシリワンナワリー・ナリラタナ王女がバッグにLabubuをつけている姿が報道されるに及んで、完全に人気に火がついた。

タイ国家観光局は、Labubuを「不思議なタイ体験官」に任命、タイの民族衣装を着て、インバウンド観光客を迎えるキャラクターにもなっている。

▲BLACKPINKのLisaの投稿。この投稿から、にわかにラブブの人気に火がついた。

▲タイのシリワンナワリー・ナリラタナ王女。バッグにラブブがついている姿が報道されて、ラブブ人気に火がついた。

▲ラブブは、タイのインバウンド観光の公式キャラクターにも選ばれた。

 

中国のライブコマースにタイの視聴者が殺到

価格は550バーツ(約2500円)からだが、どのポップマートの店舗でも売り切れで、転売が行われ、2600バーツにまで相場があがっている。

中国で行われたポップマートのライブコマースには、タイからの視聴者が殺到。コメント欄にはタイ語で「タイに発送してもらえるのか」「支払いはどのようにすればいいのか」という質問であふれ、Labubuが完売をすると、タイ語で「完売のお知らせ」を出すほどの事態になった。

中国国内でも、タイに転売をするためにLabubuを購入する人が大量に登場し、タイでも中国でもLabubuは店頭在庫がない状況になっている。

▲中国で配信されたライブコマースに、タイの視聴者が殺到し、タイ語で大量のコメントを投稿した。ポップマート側でもタイ語で案内を出さざるを得ない事態となった。

 

ポップマートの世界展開が本格化

タイでは、Labubu人気により、ポップマートの主力商品であるMollyなどのブラインドボックスフィギュアなどにも火がつき始めている。

ポップマートは欧米を含めた世界展開を進めている。2020年9月に韓国ソウル市に開店したのを皮切りに、今年7月にはパリオリンピックの開催に合わせて、パリのルーブル美術館に隣接するショッピングセンター「カルーゼル・デュ・ルーブル」にも出店をしている。

しかし、やはり人気になっているのは東南アジア市場だ。東南アジア各国は高齢化とは無縁の若い社会であり、経済成長をしているため、生活を楽しむための商品への関心が高くなってきている。さらに、同じアジア圏であるということから、中国の審美感が受け入れられやすい。ポップマートは、日本のサンリオ、米国のディズニー、デンマークのレゴを目指しているが、その足がかりをバンコクに築こうとしている。

▲パリのルーブル美術館に隣接するカルーゼル・デュ・ルーブルにも、パリ五輪に合わせてポップマートの店舗が開店した。

▲ポップマートの創業者、王寧CEO。玩具は儲からない、玩具は水ものとされる中で、常に投資資金を獲得することに苦労をしながら、ポップマートを成長させてきた。

 

どんどん枚数が増えていく洋服のタグ。資源の無駄遣いであるのに、なぜ増えていくのか

洋服についているタグが近年増えていることがSNSで話題になっている。5枚、6枚はもはや珍しくない。着る前に取り外す作業も煩わしくなってきている。タグが増えるのには、ブランド側にもそれなりの理由があると中国新聞週刊が報じた。

 

どんどん増えてきた洋服のタグ

最近、服を買うとタグの枚数が多すぎると感じている人が増えている。以前は、1枚が一般的で、そのブランドの考え方などが記載されていただけだが、最近は3枚ほどついているのがあたりまえで、中には6枚、7枚もついていることがある。そのすべてを切って外さなければならないため、面倒だという声があがっている。さらには、紙資源の無駄ではないか、意味のないタグがつけられている、セールの時に買い物をするとタグでトランプがつくれそうだという声もある。

その根底にあるのは、「こんなにたくさんのタグをつけて何の意味があるのか?」ということだ。

▲タグの現状。多くのブランドが5枚程度のタグをつける。資源の無駄ではないかという人も増えている。

▲話題になったある人の投稿写真。1年間で、これだけタグが溜まってしまったというもの。さすがに資源の無駄だという声があがっている。

 

認知を広げたいブランドほどたくさんのタグをつける

このようなタグの枚数は、ファストファッションやカジュアルブランドでは少ない。ZARA、ユニクロなどでは、タグはほとんどの服で1枚になっている。稀に2枚ついていることがあるが、それは生地の特殊性や手入れの方法を説明するためのもので、2枚にする理由がある。

消費者も環境や持続可能な社会に対する意識を持っている人が多く、ブランドもそのようなメッセージを発信しているため、無駄なタグは極力使わないようだ。一方、認知を広げたいブランドほどタグの枚数が増える傾向にある。

▲ユニクロやMUJIなどのカジュアルブランドはタグが少ない。ブランドとしても環境についてメッセージを発信している。

 

防犯防止や返品防止をねらったタグも

また、ECで購入した衣類もタグの枚数が多い傾向がある。さらに、最近増えているのが盗難防止タグだ。大きなタグが服の外側にくるように取り付けられており、外すにはハサミなどの道具が必要になる。来店者がジャケットなどを着て、自分の服であるかのように装って万引きをしようとしてもタグがついていることでわかってしまうというものだ。さらに、この盗難タグには「購入後、外すと返品はできない」旨が記載されているものもある。

▲タグのついでに消臭剤などのおまけをつけるブランドもある。

 

タグを増やす理由1:ブランド認知

タグの枚数が増えていった理由は主に2つあると言われている。

ひとつはブランドの認知だ。ブランドはその認知を広げるため、衣類に自社のロゴを刺繍やプリントなどで入れることが多い。ところが、このロゴが目立てば目立つほど購入意欲が低下をする。サウザンプトン大学のポーラブ・シュクラらの研究「Should luxury brands display their logos prominently? Implications for brand authenticity, coolness and behavioral intentions」(https://pure.roehampton.ac.uk/portal/en/publications/should-luxury-brands-display-their-logos-prominently-implications)によると、ロゴが大きければ大きいほど購入意欲は低下をし、なおかつブランド忠誠度の高い人ほど購入意欲の低下が顕著だったことが明らかになった。

要は、いくら好きなブランドであっても、「このブランドを着ています」と宣伝して歩くようなことはみっともないと考える人が多いのだ。

そこで、衣類にロゴをつけられなくなったブランドが、ブランドをアピールするためにタグに大きなロゴやブランドからのメッセージなどをつけるようになり、枚数が増えていった。中には、タグに香りをつけたり、香木をつけたりして、クローゼットの中を爽やかな香りにするというものものまである。

▲ブランド認知のために、デザインを工夫したタグをつけることも増えている。

 

タグを増やす理由2:返品防止

もうひとつは返品防止だ。ECで販売する商品には、大きなタグが外側にくるように取り付けているものが増えている。外側にあるため、試着をする分には影響はほとんどない。しかし、そのタグを取り外すと「返品不可」である旨が記載されている。

これは、ファッションインフルエンサー対策だ。ファッションインフルエンサーは次から次へと服をECで買い、自宅で試着をして写真を撮り、その後、返品をしてしまう。衣類の場合は「サイズが合わなかった」「素材感がネットの写真とは違った」などの理由をつけられると返品に応じざるを得ないからだ。

しかし、大きな返品防止タグがあれば、つけたまま商品を試着することはできるが、写真を撮ってSNSに投稿することはできなくなる。タグを内側に入れ込んでも、外側に取り付けられているため、タグがついたままであることがわかってしまうからだ。

このような理由で、衣類のタグの枚数はどんどん増えていくことになっている。一方、真面目な消費者は、買った服を着る前に何枚ものタグを切り離さなければならなくなっている。

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誰もが迷惑に感じているAI営業電話。あの手この手を考え出す業者に、キャリアが対抗策

1日に何件もAI合成音声による営業電話がかかってきて、多くの人が迷惑に感じている。2018年に、キャリアは発信規制をかけるようにしたが、それをすり抜ける外線システムが販売されている。キャリアは迷惑電話の着信音を鳴らさない機能で対抗をしたと中国経済週刊が報じた。

 

多くの人が迷惑に感じているAI営業電話

スマートフォンユーザーの誰もが悩んでいるのが、AIの合成音声による営業電話だ。保険加入や消費者金融、投資を誘う内容が多い。多くの人はスマホの機能を使って、そのような営業電話を着信拒否にしていくが、相手は発信元電話番号がどんどん変わっていき効果がない。

このような営業電話などかけても応じる人は少なく、効果がないのではと誰もが思う。実際、このような電話営業で顧客を見つけられる確率はきわめて低い。しかし、このようなAIテレマーケティングシステムは、すべて自動で1日に3000件から2万件の電話をかけることができる。応じる人がわずか1%だとしても30人から200人は見込み客を捕まえることができる。このようなシステムを5つも用意すれば、じゅうぶんに成り立っていくのだ。

 

キャリアは発信規制で対応

2018年7月、工業情報化部(工信部)は、「迷惑電話の総合整治特別行動計画」(https://www.gov.cn/gongbao/content/2018/content_5350056.htm)を発表した。これを受けて各携帯電話キャリアでは、発信回数が常識外に多い電話番号の発信規制を行うようになった。発信規制をする条件は各キャリアにより異なるが、一般には1日400件以上の発信をすると規制にひっかかり、しばらくの間は発信制限がかかったり、場合によっては電話番号が無効化される。

 

発信規制をクリアする外線システム

ところが、この特別行動計画はあまり効果がなく、一時期収まっただけで、現在もあいかわらず、AI迷惑電話は続いている。

この理由は「外線システム」が大々的に販売されていることにある。建前は企業のAIテレマーケティングを支援するソフトウェアだが、実質は迷惑電話をかけることができるシステムになっている。例えば、10元以下で販売されている最も安い外線システムアプリを購入すると、自分のスマホから1日に500件程度のAI営業電話がかけられるようになる。内容はテキストで入力をすれば、AIが音声に変えてくれる。販売業者の説明によると、「キャリアの規制に引っ掛からず、応答率は60%を超える」ことをうたっている。

より性能の高い外線システムでは、PC端末からもAI営業電話がかけられるようになり、オプションをサブスク契約すれば1日に2万件程度のAI営業電話がかけられるようになる。アプリ価格はいずれも10元から100元程度だが、このようなオプションのサブスク契約をとることで利益を上げていると見られる。

▲タオバオで販売されている外線システム。大量の電話を自動で発信し、AI音声による営業電話を可能とする。多くは10元程度で、大量に使う場合は別途サブスク契約が必要になる。

 

外線システムが発信規制をクリアできる秘密

なぜ、このような外線システムは、各キャリアの発信規制にひっかからないのか。答えは単純で、大量の電話番号を保有し、分散して発信することで規制を免れている。この規制をかける判断基準は外部には公開されていないが、外線システムを運営する業者たちは規制に引っかかった番号の履歴などから、判断基準を推定し、システムの調整を行っている。

このような外線システムの販売そのものを禁止すべきだという声が消費者団体からあがっているが、現在の消費者権益保護法などでは、営業電話が明確に違法だとは規定をされていないという問題がある。もうひとつは、公共機関やメディアなどが社会調査やアンケート調査などで、このような外線システムを使うことがあることだ。

そして、最大の問題は、消費者からの苦情の多くが「相手先不明」であることだ。多くのスマホ利用者が電話に出てAI営業電話だとわかると電話を切ってしまうために、苦情の相手先企業名がわからない。相手が不明の苦情というのは消費者団体でも非常に動きづらい。

 

キャリアは不審な着信では無音にするサービスを導入

今年に入って、各キャリアは新たな無料サービスを始めた。それは、キャリア側が高頻度に発信している電話番号を把握し、その番号から着信の場合、着信音を鳴らさないようにするというものだ。SMS(ショートメッセージ)も同様で、内容を表示せず、スパムであることだけを通知をする。いずれも、着信記録は残り、ショートメッセージの場合はタップをすれば内容を読むことができる。また、ホワイトリストにも対応し、利用者が登録をした電話番号以外からの着信は無音にすることもできる。

工信部の発表によると、2024年第2四半期、このような各キャリアの無音サービスにより、合計653億回の着信が無音化されたという。これにより、AI迷惑電話の問題は鎮静化をしたが、業者たちは新手を考えてくる可能性もあり、これで完全解決かどうかはまだわからない。

▲各キャリアのミニプログラムで、迷惑電話、迷惑メッセージの着信時に呼び出し音を鳴らさない機能を利用することができるようになった。これで迷惑電話問題はだいぶマシになった。

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