「GIGAスクール構想で生徒1人ひとりが端末を使ってインターネットに接続するようになると、不正アクセスなどによるトラブルが起こる可能性がある。そのときに原因を特定し被害を最小限にとどめたり、再発防止策を講じたりするのが目的だ」。名古屋市教育センターの藤谷浩一学校情報化支援部部長は、同市において生徒の端末使用に関する操作ログを収集する目的をこう説明する。
操作ログの収集はセキュリティー上の理由で講じた対策の1つだったが、これが名古屋市において市内の小中学生に配布した端末の使用を中止する原因となった。同市は市内の小中学生などを対象に2021年7月末までに約16万台の端末を配布する予定で、そのうち5月末時点で約7万台を配布している。6月10日に同市は配布したすべての端末の使用を中止し、18日に使用を再開した。
端末の使用は再開したものの、根本的な問題の解決にはまだ至っていない。名古屋市が端末の使用を一時的に中止にした経緯についてはログの収集についての考え方と、収集したログの保管先である「センターサーバー」の必要性という2つの疑問点が残る。
ログの収集目的を明示せず、市の個人情報保護条例に抵触の疑い
端末の使用を中止しなければならなくなったのは、ログを収集する目的を生徒や保護者に対して説明していないことが同市の個人情報保護条例に抵触する疑いがあったためだ。名古屋市教育委員会は小中学生に対して配布する端末に、端末の起動・終了やアプリケーションへのログインなどの操作ログを収集するためにエージェントソフトウエアを導入している。
収集した操作ログはセンターサーバーに集約して保管する。学校内のLANに接続しているときはリアルタイムに端末内のエージェントからセンターサーバーへログのデータを送信する。一方で生徒が端末を家庭に持ち帰るなど学校外で端末を使用する場合は、「ログを端末内に一旦保存しておき、学校内のLANに接続したときにエージェントがセンターサーバーへ送信する。校外のネットワークに接続した場合には操作ログは送信されないように制御している」(名古屋市教育センターの長坂雄也学校情報化支援部事務係長)。
そもそも操作ログを収集する方針を決めた背景には、「名古屋市情報あんしん条例」の細則の記載があるという。藤谷部長はその経緯を「同条例の細則第43条に機密情報を取り扱うネットワークなどにおける無線LANの利用禁止が明記されている。学校で使う端末で無線LANを使うためには情報審査委員会の審査を受ける必要があり、それぞれの所管と相談したうえでセキュリティー対策の1つとして操作ログを取得するようにした」と語る。
同市教育委員会は操作ログの他にも、インターネットにアクセスしたかどうかが分かる「アクセスログ」と、ドリルなどの教材における進捗や点数などの「学習ログ」を収集している。藤谷部長は「名古屋市の個人情報保護条例では個人情報を取得する場合、あらかじめ利用目的を明示する必要がある。教育委員会が収集しているログのうち、操作ログとアクセスログの収集が条例に抵触するかどうかについて、所管と話をしている最中だ」とする。
ログの収集が条例に抵触しているかどうかについての議論は進行中だが、同市教育委員会は6月17日に保護者に対してログ収集の目的を説明する文書を各学校経由で配布し、翌18日に端末の使用を再開した。
名古屋市はGIGAスクール構想による1人1台環境になる以前から、教室に設置したタブレットや職員室のパソコンなどの端末における操作ログを取得していた。長坂係長は「1人1台環境になる前は1つの端末を複数の生徒が使っていたので個人情報という認識はなかった。1人1台になり端末が個人に結び付くようになって初めて、端末の操作ログが個人情報に当たるという認識に至った」と話す。