ネルソン・マンデラ氏
2013年12月5日、南アフリカのマンデラ元大統領が亡くなった。1993年ノーベル平和賞を受賞。受賞理由は「人種隔離政策(アパルトヘイト)の撤廃」である。
マンデラ氏は、若くして反アパルトヘイト運動に身を投じ、1964年に国家反逆罪で終身刑の判決を受ける。27年間に及ぶ獄中生活の後、1990年に釈放される。翌1991年にアフリカ民族会議(ANC)の議長に就任。白人デクラークと共に南アのアパルトヘイト撤廃に尽力した。
アパルトヘイトは人ごとではない。黒人だけでなく、アジア人やカラードも白人から隔離された。だが、人種差別を訴えたのはマンデラ氏だけではない。世界で初めて国際会議の場で、人種差別の撤廃を訴えた国があった。それが日本である。1918年のことであった。日本人であることに誇りを持ちたい。マンデラ氏も日本を尊敬していたという。
さて、アフリカでは我々の知らない熱帯病も多い。アフリカ睡眠病もその一つ。アフリカ睡眠病は、患者の血液や脳脊髄液からトリパノソーマ原虫を顕微鏡下で見つけることでわかるが、現地での検出感度は低く、マラリアなどの他の熱性疾患との誤診も多かった。そのため、高感度で迅速な診断法の開発が望まれていた…。
今回、北海道大学の研究グループは、「結核」と「アフリカ睡眠病」を迅速に診断するキットを、1検体あたり約100円の低コストで開発したと発表した。
アフリカ睡眠病の診断キットはアフリカ・ザンビア共和国の医療現場で活用され、結核の診断キットは現地の大学病院で評価試験が行われている。さらに多くの開発途上国での活用が期待される。
結核・アフリカ睡眠病、“1検体100円”の診断キット
結核は「結核菌」によって引き起こされる感染症で、地球上にすむ人間の3分の1が感染し、毎年約900万人が新たな患者となり、約140万人が死んでいる。結核患者の4分の3はアジア・アフリカ諸国に集中している。日本での2011年の新規患者は2万2,681人、死亡者は2,166人にのぼる。
アフリカ睡眠病は、ツェツェバエが媒介する寄生性原虫「トリパノソーマ」によって引き起こされる感染症で、サハラ砂漠以南のアフリカ諸国に見られる。早期に発見した場合には治療できるが、中枢神経系への障害が出現し、こん睡症状などを呈した患者のほとんどは死に至る。年間の死亡者は約5万人とも推定されるという。
これまでの結核の確定検査は、患者の喀痰(かくたん)中の結核菌を培養し、直接顕微鏡で観察する方法(塗抹鏡検)で行われているが、ある程度病気が進行しないと結核菌が出ない。検査操作が煩雑で、培養から結果の判定まで約1カ月と時間がかかること、さらに実験室感染のリスクなどもある。またアフリカ睡眠病についても、患者の血液や脳脊髄液からトリパノソーマ原虫を顕微鏡下で見つけることだが、現地での検出感度は低く、マラリアなどの他の熱性疾患との誤診も多かった。そのため、これらの疾患に対する高感度で迅速な診断法の開発が望まれていた。
研究グループは、従来の遺伝子増幅法(PCR法など)とは違って、試験管内で温度の上げ下げを行わずに遺伝子を増幅する「LAMP法」を応用することで、簡単に安く、迅速に結核菌およびトリパノソーマ原虫の遺伝子を検出する技術を開発した。さらに低温設備の整っていない開発途上国でも使えるように、すべての試薬を乾燥状態にした診断キット(1検体当たり約100円)と、蛍光の違いで陽性・陰性を判定する低コストの「小型蛍光検出器」(約3,000円)を開発した。同検出器は単三電池4本で使用可能であるため、開発途上国の電気の来ていない地域でも診断が可能だ。
これらの技術により、結核とアフリカ睡眠病の安価な早期診断が可能となり、適切な治療が発病早期から開始され、死亡者数や大幅な患者数の低減にも貢献できるという。
研究成果は、科学技術振興機構(JST)と国際協力機構(JICA)が連携して実施する「地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム」(SATREPS)・研究領域「開発途上国のニーズを踏まえた感染症対策研究」(研究課題名:結核及びトリパノソーマ症の診断法と治療薬開発)によって得られた。(サイエンスポータル 2013年12月17日)
アフリカ睡眠病とは?
アフリカ睡眠病(sleeping sickness)は、ツェツェバエが媒介する寄生性原虫トリパノソーマによって引き起こされる人獣共通感染症である。病状が進行すると睡眠周期が乱れ朦朧とした状態になり、さらには昏睡して死に至る疾患であり、これが名前の由来となっている。アフリカのサハラ以南36か国6千万人の居住する領域における風土病で、感染者は5万人から7万人と推計されている。催眠病、眠り病、アフリカトリパノソーマ症とも呼ばれる。
アフリカ睡眠病の病原体はツェツェバエが媒介するトリパノソーマという原虫である。分類学的にはブルーストリパノソーマ (Trypanosoma brucei) という種であるが、このうち2つの亜種がヒトにアフリカ睡眠病を引き起こす。亜種の違いにより病状に差が出るほか、媒介するツェツェバエにも差があるため地理的分布に差がある。
ガンビアトリパノソーマ (T. b. gambiense): 主にアフリカの中央部・西部(ヴィクトリア湖より西)に分布しており、主な保虫宿主はヒトであるがブタやその他の動物からも見出される。水辺に多いGlossina palpalisグループが媒介する。発症するまでに数か月から数年にわたる慢性的な経過をたどり、その時点ですでに中枢神経が冒されている事が多い。報告される症例の9割方はこの原虫によるものである。
ローデシアトリパノソーマ (T. b. rhodesiense): アフリカ南部・東部(ビクトリア湖より東)に分布しており、狩猟動物や家畜が主な保虫宿主である。サバンナに多いGlossina morsitansグループが媒介する。数週間で発症し急性的な経過をたどる。
なお中南米でシャーガス病を引き起こすのはクルーズトリパノソーマ (Trypanosoma cruzi) という別種であり、同じトリパノソーマ属の原虫であるが性状にかなりの差がある。
感染経路
ツェツェバエに吸血されることによりトリパノソーマに感染する。それ以外にも、まれに母子感染などで感染する場合がある。
サハラ以南36か国で見られており、ウガンダ南西部とケニア西部では風土病となっており、年間4万人が死亡している。6000万人が感染のリスクにさらされており、毎年30万人が新たに感染していると考えられていたが、新規患者数は減りつつあり2007年には1万人ほどになった。アフリカ睡眠病によってのべ200万年におよぶ障害調整生存年数 (DALY) が失われていると推定されている。
ツェツェバエが媒介するため、ツェツェバエの生息地が流行地となりやすい。しかしツェツェバエが生息していても流行の見られない土地もあり、その理由はよくわかっていない。農業・漁業・牧畜・狩猟などをして田舎で暮らす人々はツェツェバエに刺されやすく、したがって罹患しやすい。流行地は往々にして遠隔地であり、医療体制が脆弱である。流行は集落に留まる場合から地域全体に広がる場合まであり、また地域のなかでも集落ごとに流行の程度に差があるのが常である。集団移住、戦争、貧困などが伝染を増やす主な要因である。
症状
はじめは発熱・頭痛・関節痛といった症状が認められ、原虫が循環系に広がるにつれリンパ節が大きく腫れ上がる。首筋の背中側のリンパ節が腫脹するWinterbottom徴候が認められる場合がある。これを放置すると、次第に感染者の生体防御機構をくぐりぬけ、貧血や内分泌系・心臓・腎臓の疾患を示すようになる。以上が第1期であるが、病原体がガンビアトリパノソーマである場合には症状に気付かぬまま過ごしてしまう場合も多い。
第2期では、原虫は血液脳関門を通過して神経疾患を引き起こす。まず神経痛が認められ、錯乱や躁鬱のような単純な精神障害が現れる。次いで睡眠周期が乱れて昼夜が逆転し、昼間の居眠りや夜間の不眠となる。そのうち常に朦朧とした状態になり、さらには昏睡して死に至る。この時期の症状がこの疾患の名前の由来となっている。
治療しなければ致命的であり、第2期には治療したとしても不可逆的な神経傷害を受けることがある。
アフリカ睡眠病患者の薄層血液塗沫標本(ギムザ染色・同一試料中の2視野)。血流型の原虫は後部にキネトプラスト(ミトコンドリア)、中央に細胞核があり、前部から出た鞭毛が波動膜を伴っている。ヒトの病原体2亜種は形態からは区別できない。長さ14から33µm。
診断は下疳液・リンパ節吸引液・血液・骨髄・髄液などを検鏡してトリパノソーマの存在を示すことによる。生鮮のまま、あるいは固定しギムザ染色した後に検鏡する。検鏡する前に遠心などの方法で濃縮することもできる。ラットやマウスに接種して原虫を単離するのは感度の良い方法だが、ローデシアトリパノソーマに限られる。
予防と治療
今のところワクチンはない。感染予防に関しては、該当地域に渡航の際、ハエに刺されないような工夫をすることが重要である。
原虫が中枢神経に達する前後で取るべき治療法が変わるため、感染者を見出した場合には腰椎穿刺による髄液の検査を行い、病状の進行段階を見極める必要がある。原虫が中枢に達する前(第1期)であれば予後は比較的良好であるが、中枢に達した後(第2期)は治療はより困難になり、治癒したとしても後遺症が残る場合が多くなる。
また治療後は再発を捉えるために、2年間にわたって6か月ごとに腰椎穿刺による検査をすべきである。 (以下の記述は英語版ウィキペディアによる。厚生労働省研究班による寄生虫症薬物治療の手引きも参照のこと。)
参考 Wikipedia:アフリカ睡眠病 北海道大学プレス:結核・アフリカ睡眠病の100円診断キット
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コメント一覧 (1)
高度医療も結構だが、こういう技術の研究も頑張って欲しい