アンモニアの固体化に成功
 アンモニアといえば強い刺激臭があり、体には有害な物質として肝臓に無害な尿素に変えられる。一方、アンモニアは肥料や化学製品の原料として長く使われてきた。 近年はエネルギー分野で期待が高まっている。太陽光や風力といった自然エネルギーの発電は気象や時間帯などに左右されるため、必要な時に電気を取り出せる蓄電技術が必要だ。
20240826_g01_02  そこで、発電した電気で水を分解して水素を発生させ、水素を大気中などの窒素と反応させ、アンモニアとして貯蔵する方法が注目されている。
 今回、兵庫県立大学の研究グループが、通常は常温で気体のはずのアンモニアを、固体の状態で安定させることに成功したと発表した。ホウ酸の集合体で包み込むことで固体のアンモニアが出現した。
 固体であればにおいはしない。次世代エネルギーの水素を貯蔵する手段として、飛躍的に取り扱いやすくする可能性を秘めた成果だ。この結果はアンモニアボラン化合物の研究で偶然発見されたものだ。研究者は「自然の神秘に驚かされた」と振り返る。
 予想外の成果
 この研究は当初、水素を貯蔵する物質の一種である「アンモニアボラン(アンモニアホウ素化合物)」を、安価に作ることを目指したものだった。
 「アンモニアボラン」はかなり高価だが、こうすれば安く作れるのではという方法を、ためしてみたた。  具体的には、アンモニア水溶液に酸化ホウ素を溶かし、零下196度の液体窒素で冷やして凍らせ、水(氷の状態)を取り除くことで、アンモニアボランを作ろうという実験だった。
 ところが実験は失敗、アンモニアボランはほとんどできなかった。他の分子のでき具合を調べてみると、驚いたことに、常温なのに「固体のアンモニア」が存在していることがわかった。特有のサイズや立方体で、確かにアンモニアの結晶だった。
 水溶液ではアンモニアがアンモニウムイオンに、酸化ホウ素がホウ酸イオンに変化。ここから水を除いたところ、ホウ酸の集合体がアンモニアを包む込む形になったとみられる。
 しかも加熱したところ、常温を上回る52度まで固体であり続けた。本来のアンモニアの融点は零下78度で、そこから実に130度も固体を維持したことになる。計算により、このアンモニアが常温で固体を保つことを理論的にも確認した。
 アンモニアボラン
 アンモニアボラン(ammonia borane)またはは、化学式がH3NBH3で表される無機化合物である。無色の固体で、単純なホウ素-窒素-水素化合物であり、水素燃料の原料として注目されている。
 熱すると水素が発生し容易に(NH2BH2)nまたは(NHBH)nに重合する。アンモニアボランは液化水素よりも高濃度の水素を含んでおり、常温常圧でも安定な固体である。  エタンが常温で気体であるのに対し、アンモニアボランは固体であるため性質の類似性は希薄である。アンモニアボランの高融点はその高極性と一致している。ホウ素に結合する水素は塩基性であり、窒素に結合する水素はやや酸性である。
 燃料電池車に使われる水素の保存媒体として提案されている。熱すると水素が発生し容易に(NH2BH2)nまたは(NHBH)nに重合する。アンモニアボランは液化水素よりも高濃度の水素を含んでおり、常温常圧でも安定である。