イスラエル:暗黒の源流 ジャボチンスキーとユダヤ・ファシズム 6a
第6部 イスラエルの母胎:ナチス・ドイツ (2007年3月)
[国家社会主義とは?]
Naziのドイツ語正式名称はNationalsozialistische Deutsche Arbeiterpartei、英語訳ではNational Socialist German Workers' Party、そしてこれが日本語になると「国家社会主義ドイツ労働者党」である。
この名称の中にあるnationalというのは厄介な言葉である。ナチス以外にnationalを「国家の」と和訳している例はあるのだろうか。「国家主義」に対応する英単語はstatism(あるいはestatism)であり、本来なら「国家社会主義」はstate socialismの訳語のはずだ。実際にマルクスと同時代の社会主義者で同様にユダヤ系であるラッサールは国家の権力を用いて再分配の平等を目指す社会としてこのStaatssozialismusつまりState Socialismという言葉を用いている。これをマルクス主義者に言わせれば共産主義に至る過渡的な社会のあり方とでもなるのだろう。
私は言語学者や社会学者ではないので厳密な定義は分からないのだが、nation, nationalというヨーロッパ言語は実際の使用の中で極めて幅広い現れ方をする。そしてその思想的な面であるnationalismは使用される場面や使用する主体などに応じて「民族主義」「国民主義」「国家主義」「国粋主義」などと振り分けて翻訳されるのだが、無理な和訳はやめて「ナショナリズム」をそのまま用いる場合もある。
日本語で言う国家主義とは、国家というシステムとその権威を政治、社会、経済の単位として、そして道徳的な目標として、価値の最上位に置く思想と言うことができるだろう。確かにnationalismがそのような意味で使用されることがある。以後、「国家主義」の意味で使用される場合には「国家主義=nationalism」と表記する。
多民族国家の内部には少数民族のnationalismがあり同時に支配民族にもnationalismがあるのだが、その様々に異なる文化的・社会的な要素を超越した強力な「国家主義=nationalism」で全体を束ねていく必要があるだろう。さらには旧ソ連やかつての中国など共産主義を掲げた多民族の国々でも、現実的な共同体の最も強力なあり方が国家である以上、そのinternationalismの主張とは裏腹に強力な「国家主義=nationalism」が貫かれざるを得ない。
米国のような多種の民族(ethnic groups)が集っている上に多くの州(state)で構成される国ではfederalism(「連邦主義」と訳される)で全体をまとめるのだが、しかしいざとなったときに「God Save America」の一言でまとまってしまう姿を見ると、それはやはり「国家主義=nationalism」の面を強く持っているようだ。
このnationalismでは、単に制度・権力構造としての国家(state)よりも、構成員のmoralityつまり道徳性やある種の神話めいた精神的一体感がより強調されるように思われる。だから日本やドイツのような単一民族国家に近い国では容易に神秘的な「血の思想」と一体化して「民族=国家主義」となるだろうし、それが極端に排外的になれば国粋主義と言われるものになるのではないか。
現在の日本国家にはやはり「天皇教」が堅固に存在している。古代の天皇陵の発掘がなぜ未だにタブーであるのか、あるいは天皇家の結婚や出産がどうして巨大な反応を引き起こすのかを考えてみれば、この国家の根本に普段は意識されることの無い神話体系が存在していることが明らかだろう。当然だが中国には強力な中華思想が厳然として存在する。旧ソ連ではこの「国家主義=nationalism」が共産主義イデオロギーで支えられていたが、イデオロギーである以上それがある種の世俗化された神学としての一面を持っているに違いあるまい。
米国の場合はどうか。英語でFederal Theology(あるいはCovenant Theology)という言葉がある。「契約神学」と訳されるが、これは「神の前での誓約共同体」をその信仰の基盤とするカルヴァン派の考えである。これがメイフラワーの誓約につながり米国の「連邦主義」の重要な基盤の一つとなったと言われる。つまり米国のfederalismは最初から神学的な様相を帯びていることになる。ユダヤ=キリスト教の神を前面に出せばfederalismは容易にnationalismと重なってしまうだろう。
「民族主義」にせよ「国家主義」にせよこのnationalismという定義困難な用語の背後にはこういったある種の神学の世俗的な解釈という面が常に潜んでいるように思える。だからこそ時としてnationalismは狂信としての非常に危険な顔を表面化させることがありうるのだ。
おそらく客観的な社会システムとしての国家(state)と、主観的な共同体としての面を強く持つもの(nation)との間にあるものは、実際には『紙一枚分の相違』ではないか。日本語の国家主義はやはりnationalismでありstatismの訳語は未だに存在しないようだ。したがってナチの「国家社会主義」という訳は当を得ているのだろう。
ドイツにすでにstate socialismの用語が存在した以上、stateとnationの間にある『紙一枚分の相違』を取り外した上で、『世界に冠たるゲルマン民族』の神話(その裏にはオカルト主義が存在したようだが)を前面に押し出して「民族=国家主義」となったnationalismをsocialismと結び付けることは容易であろう。しかしこのnational socialism的なあり方がドイツだけにあてはまるものとは到底思えない。
【以上、参照資料】
http://en.wikipedia.org/wiki/State_socialism
http://www.pressiechurch.org/Theol_1/Covenant-john_owen_and_federal_theology.htm
[ユダヤ国家社会主義]
スウェーデン籍のユダヤ人作家ラッセ・ウィルヘルムソンは『ユダヤ国家社会主義としてのシオニズム』という文章の中で、共産主義につながるべき社会主義社会の建設を標榜した者達が、statismと「民族=国家主義nationalism」との間にあった『紙一枚』を取り外して国家社会主義者の群れとなっていく姿を描いている。彼はその国家社会主義こそがシオニズムの本当の顔であると主張する。 (参考: National Association of Zionist International)
ウィルヘルムソンは、シオニズムの根幹にある精神の一つとして、1897年の第1回シオニスト会議で行ったテオドル・ヘルツルの演説の要旨を次のようにまとめる。
反ユダヤ主義はユダヤ人が他と同化することによって除去できるものではない。
ユダヤ人は自分自身の国家を持つ権利を有する種族である。
パレスチナ(すなわちシオン)がユダヤ国家のあるべき場所である。
その目標は社会主義的理想郷、一つのモデル国家なのだ。
ここで私が「国家」と訳した単語はstateであり、「ユダヤ国家」はJewish State、「社会主義的理想郷」はa socialist Utopiaなのだが、果たして『紙一枚』は残されているのだろうか。「種族」と訳したのはraceであり、これは「民族」と訳されることが多いようだが血の流れを共有する集団という面が強い。「民族」はethnic groupと対応するのだがこちらはむしろ文化的な共有性という面が意識されるだろう。(以後も「種族」と書いてあればこのraceの意味とお考えいただきたい。)
次にウィルヘルムソンは19世紀の半ばにカール・マルクスと共に共産主義運動を推進したモーゼス・ヘス(Moses Hess, 1812-75)について言及する。

モーゼス・ヘスはドイツの社会主義者でありカール・マルクスの親友だった。彼は「共産党宣言」の中にある宗教批判―大衆にとっての阿片―をまとめることに貢献した。ここで我々は、伝統的なユダヤ教が《神から遣わされたメシアを待たずに人間の意志でパレスチナの地に戻ること》を固く禁じている点に注目しなければならない。現在でもこの伝統的な宗教者の立場からシオニズムに反対するユダヤ人達が少なからずいるのだ。彼が「共産党宣言」に盛り込ませた宗教に関するメッセージがユダヤ教徒にとってどのような意味を持っていたのか明らかであろう。
その後に彼がマルクスと仲たがいをしてユダヤ民族主義者に転身したとき、マルクスはその排他主義を忌み嫌った。当時「共産主義ラビ」と呼ばれ現在では最も初期のシオニストとして認識されているヘスは、1862年にシオニズムの大著である「ローマとエルサレム」を書き著した。そしてこれがヘルツルに決定的な影響を及ぼしたのである。ヘスはユダヤ国家(the Jewish Nation)を次のような要素を持つものと表現した。
ユダヤ種族-優越的であり選ばれたものである。
パレスチナ-ユダヤ人民の故国である。
ユダヤの宗教-ユダヤの国民性を最も保証するものである。
ここで「国民性」はnationalityである。この当時のヨーロッパで盛んに強調された血の思想がヘスの考えを貫いていた。同時に彼はその選民主義とパレスチナへの執着を支えるものとして宗教を取り上げている。ヘスが「阿片」と罵ったのは《神の許しがあるまではパレスチナに戻ってはならない》という教えのみであり、それ以外の部分は世俗化された形で現在のイスラエル国家とシオニズムに貫かれている。パレスチナは、イスラエル国民と指導者達の大多数が信じてもいない『神』によって「約束された」地であり、ユダヤ人は「反ユダヤ主義」のレッテルによって非ユダヤ人を社会的に抹殺できるほどに神聖不可侵な『選ばれた種族』なのだ。
続いてベル・ボロチョフ(Ber Borochov, 1881-1917)だが、彼は第1回シオニスト会議の後に強力にシオニスト計画を推し進め、マルクス主義シオニスト政党である「シオン労働者(Poalei Zion)」党を創設した。

これは1901年にブンドがシオニズムを拒否した後にロシアの各都市に広がったサークルである。彼らはロシア革命を熱心に支持したのだが、その党員の中に「イスラエル建国の祖」ダヴィッド・ベン-グリオン[David Ben-Gurion, 1886-1973]がいた。

ベン-グリオンはボルシェビキを自認し全ての国での労働者階級による独裁を叫んだが、パレスチナだけは別だった。そこはシオニズム独裁でなければならず、ユダヤの国家的な利益が階級の利益に優先すべきものであった。もはやstate socialism とnational socialismを隔てていた『紙一枚』は完全に消えている。
シオン労働者党が分裂した後にベン-グリオンは社会民主党の指導者としてシオニズムの中心的存在となりパレスチナの植民地化を推進していく。ユダヤ国家建設にとって最大の要件はいずれパレスチナの現地人を追放するであろう軍の存在である。後のイスラエル国防軍につながるハガナーは1920年に創設された。
ここでウィルヘルムソンは我がゼエヴ・ジャボチンスキーを登場させる。

もちろん彼は社会主義者ではない。ウクライナの中で反ボルシェビキ活動を行うために、かつて大規模なポグロムを指揮したシモン・ペティルラと手を組もうとしたほどの人物である。彼は1922年にシオニズム運動の大黒柱とも言うべき『鉄の壁(The Iron Wall) 』を書き、翌年にハイム・ワイツマンを筆頭とするシオニスト主流派と袂を別ってrevisionist運動を起こしベタールを創設した。

また彼はハガナー創設に最も力を尽した一人でもある。
しかしこのrevisionistという用語は極めて興味深いものの一つである。日本語では一般的に「修正主義者、修正主義の」と翻訳されるが、元々はレーニンやスターリンが党内の反対派を封じ込めるために使用した言葉の英訳である。共産主義の内部では革命の徹底化に反対する勢力というほどの意味だろうが、要は左翼の国家社会主義者たちが反対者を悪魔化するために使用する呪文か護符以上のものではあるまい。もちろんジャボチンスキーの後輩達が自らをrevisionistと名乗ることはない。
また当然のごとくだが、このrevisionistという用語はもっと一般的に、ニュルンベルク・トーキョー裁判判決によって正当化される歴史観(=ニュルンベルグ‐トーキョー史観 )に疑問を呈する研究者達、とりわけホロコーストに対する懐疑論者を悪魔化するためのレッテルとしても使用される。他人にこのような呪文を唱えお札を貼り付ける者達は始めから自分の正体を暴露しているのだ。
それはともかく、ウィルヘルムソンはジャボチンスキーがその『鉄の壁』の中で述べた次の言葉に注目する。
『我々は、シオニズムが道徳であり正義であると主張する。そしてそれが道徳であり正義であるがゆえに、正義は果されなければならないのだ。・・・。それ以外の道徳性など存在しない。』
シオニズムはすなわち道徳であり正義である。前回までに述べたようにジャボチンスキーはファシズムに傾倒した。ファシズムは「民族=国家主義」を個々の国家構成員の道徳性と正義、内部から個人を突き動かす本能と言って良いものにまで深化させる。これが国家社会主義の中枢に座れば、もうそれは立派なナチズムであろう。表面上の反目はともかく、あの社会主義者達(ベン-グリオン、メイア、シャレットなど)とジャボチンスキー系統のファシスト達(ベギン、シャミール、シャロンなど)がガッチリと手を組んでいたことに疑いの余地は無い。この二つが共同して始めて「仏」に「魂」が入ったのである。シオニストは押しも押されもせぬ「国家社会主義ユダヤ党」、つまり「ナチス・ユダヤ」以外の何ものでもあるまい 。
【以上、参照資料】
http://www.israelshamir.net/Contributors/wilhelmson.htm
http://en.wikipedia.org/wiki/Poalei_Zion
[ナチス・ドイツと酷似するイスラエル]
イスラエルのあり方を見れば見るほどナチス時代のドイツにそっくりであることに驚かされる。ドイツ人をイスラエル人に、ユダヤ人をパレスチナ人(イスラム教徒)に置き換えてみるとよい。例えば、イスラエル国内で次のような政策がとられる。
-非イスラエル人がイスラエル国籍の非ユダヤ人と結婚した場合、市民権を得ることはおろかイスラエルへの入国すら禁止される。(ユダヤ系イスラエル人との結婚であればイスラエルの市民権を得ることができる。)
-治安問題容疑の非イスラエル人(要はパレスチナ人)に対しては判事による取り調べなしで警察が96時間拘束することができる(イスラエル人なら48時間まで)。非イスラエル人を1回につき20日間拘束を延長できる(イスラエル人は最大15日)。非イスラエル人に対しては50日間弁護士との面会を拒否できる(イスラエル人は最大21日間)。
-非愛国的なイスラエル人(敵対国を訪問した、テロ行為を補助した、等とされる者:具体的にはアラブ系)から国籍を剥奪する。
-ネゲヴ砂漠に住むベドウィンの村に水を与えないこと、およびその強制移住は合法的である。
以上はごく近年に人権団体から問題とされた事例のほんの一部だが、本気で書き出せばそれだけで何冊もの本ができるだろう。イスラエルは人種差別撤廃条約の適用を拒否しているのだ。イスラエル国内で人口の20%を占めるアラブ系住民は2%の土地に押し込められ、民法上・刑法上・教育上の様々な差別が合法とされる。国政世論への言い訳程度に彼らの選挙権と被選挙権を認めているが、イスラエルが「ユダヤ人の国家」である以上、ユダヤ人を最優先し、非ユダヤ人、特にアラブ人の人口増加と権利拡大を押さえ込むことがこの国にとっての絶対的命題である。
さらに、東エルサレムを含む西岸地区の不法占領地ではパレスチナ人に対するユダヤ人の日常的な暴力(殴打、投石、糞尿による虐待、家への侵入と破壊、農地の破壊、など)と水資源の強奪、移動の制限と生活・教育・文化破壊が延々と続く。エルサレムの民族浄化は露骨に進められている。ガザ地区への気まぐれな攻撃と侮辱、殺人、破壊は日常化されており、占領地ではグアンタナモと同様の状態で延べ十数万人が長期間(最長の者で25年間)正式な裁判を受けることも無く拘留され虐待と拷問を受け続け、家族の面会も妨害されほとんど飢餓状態に置かれている。
イスラエルは現代の世界の中で、ある種族だけが優先的な権利を授けられる政策を固守する唯一の国である。
ほんの十数年前まで南アフリカが同様であった。米国でも40年程前まで悪名高いジム・クロウ法によるアパルトヘイトがあったし、ドーズ法以来アメリカ先住民に対する法的・制度的差別が続いた。しかしこれに関しては日本人も偉そうには言えない。アイヌ人に対する明らかな差別法である「北海道旧土人保護法」が撤廃されたのは実に1997年のことなのだ。
一方で悪の代名詞のように晒し者にされ続けているのは、それら「イスラエルの友人達」ではなく、ドイツで1935年からわずか10年間ほど続いただけのニュルンベルク法なのだ。確かにこの法はかつての南アフリカに迫るくらいの状態を作り出しただろう(南アフリカで「劣等種族」とされた黒人の方が多数派だった違いはあるが)。しかしこのヒトラーの政策とシオニスト国家の政策との類似性は覆い隠すべくもあるまい。より悪いことに、イスラエルのアパルトヘイト政策と「水晶の夜」は現在もなお60年間にわたって続いているのである。
しかしながら事の本質は、イスラエルのあり方が国家社会主義であること、つまりナチス・ドイツ国家と雌型-雄型の関係にある同じ構造を持つ基本精神が引き継がれた国である点だろう。どのようにそれが引き継がれたのだろうか。その答はやはりナチス時代のドイツの中に求めなければなるまい。
【以上、参照資料】
http://commentisfree.guardian.co.uk/daphna_baram/2006/05/apartheid_thats_what_it_is_cal.html
http://electronicintifada.net/cgi-bin/artman/exec/view.cgi/11/4258
http://hrw.org/english/docs/2006/03/15/israb13002.htm
http://www.imemc.org/article/46504
http://electronicintifada.net/v2/article5788.shtml
http://www.asyura2.com/07/war90/msg/151.html
http://0000000000.net/p-navi/info/news/200609280309.htm
http://0000000000.net/p-navi/info/news/200602100231.htm
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容量の関係で引っ越したら、画像消えちゃいました。ぜんぜん「忍び」になっていない。
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http://whatreallyhappened.com/IMAGES/GazaHolo/index.html
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