明晰夢工房

読んだ本の備忘録や日頃思ったこと、感じたことなどなど

中国史

ソグド人は唐建国や玄武門の変にも関わっていた──森部豊『唐 東ユーラシアの大帝国』

唐―東ユーラシアの大帝国 (中公新書) 作者:森部豊 中央公論新社 Amazon ソグド人といえば、シルクロードで東西交易に従事した民族というイメージが強い。だが『唐──東ユーラシアの大帝国』を読むと、唐の政治・軍事にも深くかかわっていることがわかる。この…

「遼来来」は「張遼さんおいでおいで」という意味になってしまうらしい

三国志 運命の十二大決戦 (祥伝社新書) 作者:渡邉義浩 祥伝社 Amazon 遼来来。ご存じのとおり、張遼が来た!という意味だ。泣く子を黙らせるために使われた点では、日本における「蒙古が来た」と似たようなフレーズだが、実は「遼来来」では「張遼さん来て来…

『完訳 華陽国志』の巴志の部分が志学社のサイトで読めます

【試し読み公開】ご好評頂いている『完訳 華陽国志』、最初の「巴志」がまるっと読める約30ページ太っ腹の試し読みPDFをご用意致しました! 購入の検討にぜひお読み頂けましたら幸いです!!https://t.co/qD6tTWeoxi — 志学社 (@shigaku_sha) 2023年4月4日 …

「風流天子」徽宗皇帝の野心とチベットへの軍事行動

草原の制覇: 大モンゴルまで (岩波新書) 作者:崇志, 古松 岩波書店 Amazon 宋の徽宗皇帝は、一般的には風流人のイメージがある。水滸伝における徽宗は、芸術好きでプロレベルの画才をもつが、政治に無関心なため高俅や蔡京などの奸臣に朝廷を牛耳られる「被…

白起の最後の台詞と史記の因果応報論

中国の歴史(二) 陳舜臣 中国の歴史 (講談社文庫) 作者:陳舜臣 講談社 Amazon 陳舜臣『中国の歴史』2巻を読み返している。この巻は諸子百家の活躍や始皇帝の中国統一、項羽と劉邦の対決、漢と匈奴の戦いなど古代中国史のハイライトを描いているので、読みど…

なぜ水銀を飲むと不老不死になると信じられていたのか

水銀は毒物なのに、なぜか健康にいいなどとSNSで主張する人たちがいるらしい。ほとんどの人は相手にしない主張だが、かつて水銀の服用を推奨する書物『抱朴子』が、中国では広く読まれていた。この書物は道教の重要文献で、水銀を用いた「還丹」が神仙になる…

【感想】五胡十六国時代を舞台に、人型の麒麟と遊牧民の青年の友情と戦いを描く『霊獣記 獲麟の書(上)』

霊獣紀 獲麟の書(上) (講談社文庫) 作者:篠原悠希 講談社 Amazon 晋の統一ははかない。三国時代がようやく終わり、一見中華は平穏を取り戻したかにみえるが、少しづつ内乱の足音が近づいてくる。気候の寒冷化も進み、半農半牧の生活を送る遊牧民の青年・ベ…

【書評】桑畑がナンパスポット、市場では受刑者の悲鳴……見てきたように秦漢時代の生活を描く『古代中国の24時間 秦漢時代の衣食住から性愛まで』

古代中国の24時間 秦漢時代の衣食住から性愛まで (中公新書) 作者:柿沼陽平 中央公論新社 Amazon こんなに秦漢時代の生活がくわしくわかる本はほかにない。当時の人間になりきり、午前五時頃から時間帯ごとに古代中国の民衆の生活を追っていく内容なのだが、…

【書評】中国の南北朝時代が新書一冊でわかる!会田大輔『南北朝時代 五胡十六国から隋の統一まで』

南北朝時代―五胡十六国から隋の統一まで (中公新書) 作者:会田大輔 中央公論新社 Amazon これは大変コスパの高い一冊。新書一冊で西晋の崩壊から隋の統一にいたる長い分裂時代を概観できるうえ、各所に新知見が盛り込まれている。政治史中心で、主要人物のエ…

「日出処の天子」は倭と隋が対等という意味ではない?河上麻由子『古代日中関係史 倭の五王から遣唐使以降まで』

古代日中関係史-倭の五王から遣唐使以降まで (中公新書 2533) 作者:河上 麻由子 発売日: 2019/03/16 メディア: 新書 「日出づる処の天子より、日没する処の天子に書を致す」──これは、聖徳太子が隋の煬帝に送ったとされる書状の文言としてあまりに有名だ。だ…

【書評】殷の女性兵士から兵馬俑の髪型の秘密まで、古代中国史の最新知見を得られる『戦争の中国古代史』

戦争の中国古代史 (講談社現代新書) 作者:佐藤信弥 発売日: 2021/03/17 メディア: Kindle版 古代中国史の入門書として文句なしにおすすめできる本が出た。本書『戦争の中国古代史』はタイトル通り軍事についての記述が多いものの、殷~前漢の政治史を要領よ…

【感想】菊池英明『太平天国 皇帝なき中国の挫折』

太平天国――皇帝なき中国の挫折 (岩波新書 新赤版 1862) 作者:菊池 秀明 発売日: 2020/12/19 メディア: 新書 なぜ太平天国軍は清朝にかわり、中国の支配者になれなかったのか。そう問いを立てつつこの本を読みはじめた。読み進めると、太平天国側の体制にはあ…

岩波新書『シリーズアメリカ合衆国氏』『シリーズ中国の歴史』が電子書籍化

岩波書店の電子書籍、12月はすごいことになっています。『孤塁』『ブルシット・ジョブ』といった単行本から、少年文庫70点(!)、そして新書は『シリーズアメリカ合衆国史』『シリーズ中国の歴史』の配信が始まります。https://t.co/1t8HOadMsi pic.twitter…

【感想】千葉ともこ『震雷の人』

震雷の人 作者:ともこ, 千葉 発売日: 2020/09/17 メディア: 単行本 安史の乱の混乱に巻き込まれ、敵味方に分かれた兄妹の運命を描く大河小説。主人公の采春は男以上に剣や弓を操る女傑で、安禄山の眼前では足で弓を射る腕前を披露する場面もあるなど、武侠小…

【朗報】講談社『中国の歴史』シリーズが講談社学術文庫に来る!

なんと累計150万部を達成したシリーズ「中国の歴史」全12巻、ついに学術文庫で発売開始ですᕦ(ò_óˇ)ᕤ pic.twitter.com/iISrdGp16P — 講談社学術文庫&選書メチエ (@kodansha_g) 2020年10月2日 日本だけでなく中国でもずいぶん売れた講談社の中国の歴史シリーズ…

なぜ清朝の中国では産業革命が起きなかったのか?岡本隆司『「中国」の形成』

「中国」の形成 現代への展望 (シリーズ 中国の歴史) 作者:岡本 隆司 発売日: 2020/07/18 メディア: 新書 岩波新書のシリーズ中国の歴史の最終巻になるこの本のまえがきでは、アジアと西洋の「大分岐」についてふれている。18世紀の終わりころからイギリスな…

【書評】中国歴史人物選『秦の始皇帝 多元世界の統一者』

秦の始皇帝―多元世界の統一者 (中国歴史人物選) 作者:籾山 明 メディア: 単行本 始皇帝の本は古いものだと、どうしても史記のエピソードを並べることに終始しがちだ。長平の戦い、呂不韋と出生の秘密、嫪毐の乱、荊軻の暗殺未遂事件、焚書坑儒と長城建設、全…

【感想】檀上寛『陸海の交錯 明朝の興亡』

陸海の交錯 明朝の興亡 (シリーズ 中国の歴史) 作者:檀上 寛 発売日: 2020/05/21 メディア: 新書 明代はモンゴル史家から「暗黒時代」と評されることがある。では、明代の専門家はこの時代をどう見ているのか。中国史の概説としてはめずらしく明代史のみを取…

【書評】岩波新書シリーズ中国の歴史3『草原の制覇 大モンゴルまで』

草原の制覇: 大モンゴルまで (岩波新書) 作者:崇志, 古松 発売日: 2020/03/21 メディア: 新書 王朝別の歴史記述を乗りこえるため、中国史を地域ごとに分けてマクロな視点からみていくシリーズの三冊目となる本。本書では鮮卑が華北を征服した南北朝時代から…

【感想】ケン・リュウ選『現代中国SFアンソロジー 月の光』

月の光 現代中国SFアンソロジー (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ) 作者:劉 慈欣 発売日: 2020/03/18 メディア: ハードカバー 一言で中国SFといっても多様だ。とはいえ、中国ならではのSF作品というものもやはり存在する。当人もすぐれたSF作家であるケン・リュウ…

【書評】岩波新書シリーズ中国の歴史2『江南の発展 南宋まで』

江南の発展: 南宋まで (岩波新書) 作者:充拓, 丸橋 発売日: 2020/01/23 メディア: 新書 従来のような時代別ではなく、地域史にも着目した新たな中国史概説をめざす岩波新書シリーズ中国の歴史の二冊目が出た。本書では古代の長江流域の文化から筆を起こし、…

【感想】高橋源一郎『一億三千万人のための「論語」教室』の訳が自由過ぎる件

一億三千万人のための『論語』教室 (河出新書) 作者:高橋源一郎 出版社/メーカー: 河出書房新社 発売日: 2019/10/26 メディア: 単行本 高橋源一郎さんによる『論語』の全訳なんですが、この訳はまぁ、なんというか……かなりぶっ飛んでますね。高橋さんはこれ…

【書評】岩波新書シリーズ中国の歴史1『中華の成立 唐代まで』

中華の成立: 唐代まで (岩波新書) 作者:渡辺 信一郎 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 2019/11/21 メディア: 新書 これは概説書としてみればかなり硬い部類になる。初学者がいきなり読めるものではない。物語性を求める読者にはまったく向いていないが、学…

岩波新書からシリーズ中国史が全5巻で刊行開始

11月からシリーズ中国史が刊行開始です。第1巻『中華の成立 唐代まで』渡辺信一郎第2巻『江南の発展 南宋まで』丸橋充拓第3巻『草原の制覇 大モンゴルまで』古松崇志第4巻『陸海の交錯 明朝の興亡』檀上寛第5巻『「中国」の形成 現代への展望』岡本隆司※時代…

明・清と同時代のモンゴルやチベットの歴史を知りたい人におすすめの講談社学術文庫『紫禁城の栄光』

紫禁城の栄光―明・清全史 (講談社学術文庫) 作者: 岡田英弘,神田信夫,松村潤 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2006/10/11 メディア: 文庫 購入: 1人 クリック: 3回 この商品を含むブログ (14件) を見る 明・清代の歴史の概説書としては講談社の中国の歴史シ…

魏志倭人伝は日本を褒める根拠となり得るのか?という話

togetter.com 百田尚樹氏の『日本国紀』の内容があちこちで話題になっていますが、上記のまとめを読んで気になったことは、この本が魏志倭人伝の記述を用いて日本人を褒めているという点です。 倭国伝 全訳注 中国正史に描かれた日本 (講談社学術文庫) 作者:…

万人敵・震天雷・流星錘……バラエティ豊かな中国史上の兵器を網羅した『Truth in FantasyⅧ 武器と防具 中国編』

武器と防具〈中国編〉 (Truth In Fantasy) 作者: 篠田耕一 出版社/メーカー: 新紀元社 発売日: 1992/05/01 メディア: 単行本 購入: 3人 クリック: 7回 この商品を含むブログ (4件) を見る 表意文字である漢字の強みは、字面だけで雰囲気を出せることだ。中国…