2020年 2月11日 宮城県大崎市の荒雄神社

2020年02月29日
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宮城県 大崎圏
仙台市にある定義山を皮切りに,気仙大工と石井寅正氏のコンビで造営した登米市の横山不動尊,美里町の山神社を巡ってきました。
今回は山神社とほぼ同時期に造営された大崎市古川地区にある荒雄神社に行って参りました。
ここは山神社同様,気仙郡出身の村田吉助氏を棟梁として,地元の大工が建設しました。
彫刻は石井寅正氏です。
当時は山神社の建設がやや先行していますが,おおよそ同時期に建てられています。
そのため山神社まで手が回らなくなり,村田氏は山神社の後見棟梁を気仙大工に頼みました。
美里町の山神社は気仙大工が参加して建てた神社となったのです。
荒雄神社は村田氏が古川の地に留まり,地元の大工によって建設されました。
建立は昭和6年なので,山神社建立の2年後となります。
御由緒の看板では彫刻が上山寅正氏になってますが,これは石井寅正氏の別名です。
宮城県神社庁のHPから由緒をコピペします。

昭和天皇御即位記念事業奉祝の微裏を表せんが為荒雄村の素封家青沼彦治翁は嫡男吉治氏の名を以って荒雄村に献金出願、村議会決議を以って荒雄神社御造営は成されたと村誌にあるが事実は十萬金を以って彦治翁自ら指揮監督に当たり県下稀にみる大神社をここに建設されたものである。尚祭神分祀は彦治翁嫡男吉治夫妻を伴い自ら京都神戸に赴き各神社宮司に懇請宮司方はその赤誠に感じ御分霊に応じられたとある。

今でも古川地区のこの辺は青沼姓が多くあります。
地元の篤志家が郷土のために出資して建立した神社なのですね。
主祭神は菅原道真公、楠木正成公、和気清麿公です。
勇ましい時代を反映しての神様ですね。

神社はJR古川駅から新幹線の高架沿いに約1kmほど北側に上ったところにあります。
この辺は荒雄公園という公園があったり吉野作造記念館などがあります。
その一角に荒雄神社が鎮座しています。
周囲は住宅地になっています。
駐車場が道路に面してあるので,平時であれば,車で簡単に行けますよ。

駐車場から道路に戻り,一の鳥居に入り直します。
参道はコの字型になっています。
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狛犬ならぬ狛牛?があります。
祭神に菅原道真公が祀られているからでしょう。
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沿革の看板があります。
石井(上山)寅正氏以外は地縁在住者なりとありますが,棟梁の村田吉助氏は気仙郡出身です。
江戸に出て師匠が見つからず,故郷に帰る途中で日光東照宮の造営に10年ほど携わり,終了後,気仙郡に帰る途中でたまたま古川で宿をとった際に,神社造営の話をいただいた縁で,この地に留まることになったのです。
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気仙大工はもともとは岩手県の海側南部の気仙郡一帯(現在の陸前高田市周辺)に居住する大工集団を指します。
リアス式海岸で急峻な山が海まで迫っているこの地区では,農地が狭く,農家の次男以下は出稼ぎで糧を求めました。
その出稼ぎの一つとして大工(建築)仕事があったわけです。
ある程度の年齢に達すると大工の師匠に丁稚奉公で出され,あちこち出稼ぎをしながら技を研鑽しました。
道中,まな板一枚からかんながけを丁寧に快く仕事することから,人柄の評価も高かったようです。
そのようなことから自然発生的に大工集団が生まれ,気仙大工と言われるようになりました。
もともと住居専門の大工集団だったのですが,繊細で丁寧な技術,腰の低い人柄が評価されて,宮大工の仕事も手掛けるようになりました。
住居,宮大工の他にも公共事業も手掛け,宮城県では登米市の旧登米小学校,旧金成小学校の校舎も手掛け,こちらも見学できます。
 →旧登米小学校の記事はコチラ 2019年 8月25日 宮城県 登米市の教育資料館と長沼のはす祭り,玄昌石の館と警察資料館

手水舎です。
なかなか立派な造りです。
木鼻の処理,蟇股の彫刻など丁寧ですね。
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神社の全景です。
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全景の写真の手前右手に見渡神社があります。
この神社は14世紀頃に勧請されたようですが,詳しい由緒は分かりません。
実は近くの江合川を越えたところにも見渡神社があります。
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狛犬です。
神社の建立よりも古く,大正時代に作られた物らしいですよ。
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それでは荒雄神社の拝殿からです。
軒唐破風付きの入母屋造りですね。
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向拝のアップです。
お馴染みの鳳凰の軒破風,龍の蟇股,木鼻の唐獅子ですね。
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と思いきや・・・唐破風の彫刻・・・鳳凰か?
私の目では分からなくて,自宅で写真をクローズアップすると・・・
ん~どうやら顔の部分が損傷しているようですよ。
折れた木口が中央にあります。
しかもよく見ると翼はあれど,身体には鱗をまとっています。
もしかしたら龍なのか? でも翼もあるし・・・?
他の方のブログを見ると2017年には既に破損していました。
あー! 石井寅正氏の彫刻ですよ!何とか修復できないものでしょうか?
鳳凰なのか龍なのかも分からないミステリアスな彫刻です。
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下におりて,虹梁の蟇股は龍の彫刻ですね。
アップで撮影しました。
制作時期が山神社と同時期だけに似てますね。
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唐破風奥にある蟇股です。
こちらは鶴でしょうね。
非常に奥行きある彫刻できれいです。
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木鼻の唐獅子です。
子唐獅子や牡丹はありません。
でも・・・お! ちょっとほっぺたがふくよかですね。
全体的にむっくりとした印象を受けます。
木肌を生かした毛並みの表現などは,さすが石井氏の彫刻です。
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軒の蟇股には十二支に因んだ彫刻がずらっとありました。
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木鼻の処理や扇垂木がきれいです。
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向拝の扁額です。
青沼~とあるので地元の方の字ですね。
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海老虹梁には菊の花が彫り込んであります。
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手挟みは松や鷹が彫り込んであります。
鷹が特にいいですね~。
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入母屋の懸魚と軒板も細かで見事でした。
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拝殿の中に入ることができたので,参拝がてら撮影してきました。
外陣にある扁額です。
揮毫は元帥公爵東郷平八郎氏ですね。
すげー!
大日本帝国海軍連合艦隊司令長官です。
日露戦争ではロシアのバルチック艦隊を日本海海戦で見事な戦術を駆使し,勝利に導いた方ですね。
私は帝国主義でも軍国主義でもありませんが,ちょっと感銘を受けてしまいました。
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他にも当時の世相を反映した絵などが奉納されていました。
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内部の正面と御祭神の肖像画と説明書きです。
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外に出て,今度は奥殿を見ます。
御神域のせいか,柵に囲まれて立ち入りができないので,ズームでねらっていきます。
ちょっとだけ神明造りが入った入母屋造りですね。
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向拝の唐破風には鳳凰の彫刻です。
やはりちょっとふくよかで,目の表情は山神社と似てますね。
下にある中央の蟇股ですが,良く見ると翼のある龍ですね。
ドラゴンです。
もしかすると拝殿の唐破風の彫刻も龍だったのかもしれませんね。
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左右の蟇股には鯉がいました。
エラのひれが翼のようになっています。かっこいい!
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向拝の木鼻は唐獅子です。
やはりちょっとまるっこくなっていて,シンプルな印象を受けます。
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斗栱が複雑でかっこいいです!
ここはかなり宮大工さんの意地が見えますね。
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ということで,じっくりと参拝して参りました。
まさか私の住んでる地域に石井氏の彫刻や気仙大工ゆかりの神社があるとは思っていなかったので,とても興味深く見ることができました。
返す返すも,拝殿の破風の彫刻は残念ですね。
何とか修復できないものかと思いました。



定義山で気仙大工の花輪喜久蔵氏と仙台の彫刻師の石井寅正氏の大傑作を見て,
横山不動尊で同じ時期に急造した花輪氏と石井氏の協演を見て,
花輪氏が石井と組むきっかけとなった,気仙大工が造営した山神社を見て,
気仙大工ゆかりの棟梁と石井氏が組んだ荒雄神社を見てきました。
建物や彫刻の美しさ,変遷の興味深さなどもありますが,人と人の縁を見てきたような気がします。
気仙大工や石井氏が作成した寺社は他にもあるので,機会を見て訪問したいと思います。

そういえば石井寅正氏のお弟子さんに,畠山登雲氏という方がいます。
この方も非常に精密な彫刻を残している方です。
以前,私が見てきた加美町の瑞雲寺山門の彫刻もこの方でした。
最近,石井氏のお弟子さんだったということを知り,驚きました。
 →瑞雲寺山門の記事はコチラ 2018年 3月21日 宮城県加美郡加美町の瑞雲寺と中新田城跡,大崎市の安国寺と氷室薬師堂村上寺

荒雄神社・・・大崎市もちょっと文化財としての価値を認めて欲しいものです。
大事に後世に遺したいですね。
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Snufkin
Posted by Snufkin
ご訪問ありがとうございます。
気に入ったところは何度でも行っちゃうんです。
どうぞよろしくお願いします。

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