「くらしDIY」で多様な暮らし方の実現をめざすカインズが着目。決済サービス「Amazon Pay」で実現した新規会員獲得、EC売上向上の秘密
「利便性を高めて顧客体験を向上させ、ECサイトの売上高を高める」――。この戦略を掲げてECサイトの利便性を改善、ゲスト購入の増加による売上アップ、新規顧客の獲得、カゴ落ち率の改善などを実現したカインズのEC事業。その舞台裏をデジタル戦略本部eコマース部長・田島和修氏に取材した。
「Amazon Pay」導入早々、効果を実感
ネットで検索した顧客はカインズのECサイトにたどり着くものの、これまでは会員登録やゲスト購入での情報の入力が手間と思われ、離脱されることが少なくなかった。田島氏は、「Amazon Pay」はこうしたわずかなためらいを解消でき、「Amazonアカウントで買えるなら、今買ってしまおう」と、その場での購入につながる可能性を高めることができる決済手段と考えている。「いち消費者としての自己の体験からも、『Amazon Pay』は利用率が高いだろうと想像できた」(田島氏)という。
一方で、検討段階では「新たな決済手段を導入するだけでは、コンバージョン率は変わらないのではないか」といった意見や、決済手数料(物販は3.9%)だけを見るとクレジットカードなどよりも高く感じられるため、「『Amazon Pay』の利用が増えると収益が悪化するのではないか」といった懸念の声がなかにはあったという。しかし、ECの利用率は高まるという直感があり、導入に踏み切った。
田島氏は実際、過去に決済手段を増やしたときに、顧客数が増加したようなデータを得られなかったため、こうした声もあがって当然と思っていた。こうしたネガティブな意見や懸念は導入直後、一気に吹き飛ぶことに。「コンバージョンなどの数字が向上し、導入後すぐに説得力のある状況が作り出せた」(田島氏)のだ。
田島氏自身は、「Amazon Pay」を導入すれば利便性が向上し、数字面でプラスの効果を生み出すことは確信していたものの、早々に出た効果は想定以上だったようだ。
ゲスト購入増加が後押ししてECの新規顧客数が拡大。ゲスト購入の需要に気付くきっかけに
「Amazon Pay」の導入後の目標は二段階にわけて設定した。第一段階は新規顧客獲得とし、まずは買い物で利用できるようにする。第二段階をリピート購入の促進とし、「『Amazon Pay』利用者にカインズの会員登録を促し、会員連携を実現する」と設定した。
第一段階の目標である新規顧客数については、「Amazon Pay」導入後早々に効果が表れ、それによりEC全体の売上アップにつながったという。
カインズのECサイトでは会員登録して購入する方法と、非会員でも購入できるゲスト購入の2通りの利用方法を採用していた。「Amazon Pay」の導入により、ゲスト購入の利用者が増加。その内訳を見ると、カインズのECサイトを初めて利用する新規顧客が占める割合が増えていったのだ。
「Amazon Pay」導入は2023年3月15日。約3か月後の6月現在、カインズのECサイトでは「Amazon Pay」によるゲスト購入が全体の約1割を占めている。そのうち、95%が新規顧客。ゲスト購入による新規顧客が純増したことで、結果的にECの全体売上を約5%アップできたという。「見える形で数値が動いたのは、当初想像していた以上の効果だった」(田島氏)
「Amazon Pay」の導入後、ゲスト購入を利用する新規顧客が増えたことで、EC売上が拡大したカインズ。この結果を受け、ゲスト購入の利便性を向上させることの重要性に気付いたと田島氏は話す。
これまでは会員になったお客さまの利便性にフォーカスし過ぎてしまい、ゲスト購入の利便性にあまり重きを置いてこなかったことが反省点だと感じた。「Amazon Pay」の導入後、さまざまな数値で良い効果が表れたことから、非会員のお客さまからゲスト購入に対するニーズがこれほどにもあったのかと気付くことができた。お客さまの裾野は間違いなく広がった。
注文完了までの簡単なプロセスが顧客のライト層に有効
顧客にとっての「Amazon Pay」のメリットはまず、購入ステップが少ないことがあげられる。他の一般的な決済による購入ステップは、注文者情報や配送先、支払い方法などを入力し、注文内容を確認した後に注文確定となるが、「Amazon Pay」はAmazonアカウントでログインして注文内容を確認するだけの、簡単なステップで注文が完了できる。このため、新規の顧客には特に優しいプロセスだと言える。
カインズのプライベートブランド商品はここ数年、テレビなどのメディアで取り上げられる機会が多く、メディアで知った商品を購入するためにECサイトを訪れるユーザーが数多くいる。しかし、たまたまテレビで知って欲しくなった商品を購入するために、一から会員登録をして購入するのはハードルが高く、ECサイトに来訪したものの商品を購入せずに去っていくユーザーも少なくなかった。
カインズはこの点を課題として捉えながらも、非会員の購入の利便性向上に重点的に取り組めていなかったため、課題解決にまでは至っていなかったという。「Amazon Pay」の導入でゲスト購入の利便性が高められたことにより、ライトなユーザー層に対してかなり有効なアプローチができるようになったという。
そのため、「『Amazon Pay』が使える状況であること自体がお客さまにとってのサービスアップにつながる」(田島氏)と捉えている。
また、運用する側の視点としても、管理画面が使いやすく、AmazonのIDへのデータ連携やレスポンスも早く注文確定処理がスムーズであることを評価している。
ストレスを感じるような連携の遅さなどがない作業性が担保されている点は、さすがだと実感した。(田島氏)
「Amazon Pay」はマーケティングツール。決済手数料は売上アップのマーケ効果を含む
「Amazon Pay」の決済手数料は3.9%(デジタルコンテンツは4.5%)とクレジットカードに比べてやや高い印象がある。
しかし、「Amazon Pay」は単なる決済手段ではなく、マーケティング効果が含まれるものと田島氏は捉えている。
お客さまの利便性向上に直結し、売上アップにもつながった。「Amazon Pay」の決済手数料はマーケティング費用を含んだコストとして考えているため、決して回収できない手数料ではなく、むしろ、新規顧客獲得効果など合理的な判断として導入して良かったという結論が出ている。(田島氏)
「Amazon Pay」をフックとした会員登録率の引き上げを計画
カインズは「Amazon Pay」やAWS(アマゾン ウェブ サービス)を利用しているほか、2023年7月10日には「Amazon.co.jp」への出品も開始した。事業拡大に向け、Amazonの展開するサービスを幅広く有効活用している。
今後、「Amazon Pay」を活用した施策として、次の2点を強化していく計画だ。
- 「Amazon Pay」がカインズのECサイトで利用できることの告知
- 「Amazon アカウント」との連携によるカインズカード会員獲得と会員登録率の引き上げ
Web広告のCPA(顧客獲得単価)は年々高騰しており、広告による新規顧客の獲得がより一層難しくなっているなか、獲得単価を考えた上でも「Amazon Pay」が利用できる旨を、サイトに来訪した顧客にしっかりと告知することは有効な策になると考えている。
そして、第2段階として、「Amazon Pay」で購入した顧客がカインズのECサイトに会員登録できるよう、Amazonアカウントとカインズ会員の連携に向けた開発を、優先度を高めて取り組んでいるところだ。会員連携により、カインズから自発的にリーチ可能な会員を増やし、売上増を目標に据えている。
デジタルでも店舗同様の顧客体験に注力
1989年の創立から、実店舗をメインに事業を拡大してきたカインズだが、4~5年前からは全社的に、デジタルを通した顧客体験を向上させる取り組みも強化している。
顧客体験の向上のため、実店舗では当たり前に行っていることがさまざまある一方で、数年前までのECは、小さなチームだけで運用しているようなものだった。会社をあげてデジタルに力を入れるようになったことで、「店舗でここまでやっているから、ECでも同じ考えでお客さまの利便性を上げないといけないよね」という会話ができるようになったと思う。
2年前からのECサイトのリニューアルも、お客さまにとってより買いやすい場にするためだった。正直なところ、当初は決済の強化策まで手が回っていなかったが、今は「Amazon Pay」を活用した施策を、優先度を高めて取り組んでいる。(田島氏)
カインズでは2019年から、ECで注文した商品を希望の店舗で取り置き、店舗で受け取れるサービス「CAINZ PickUp」を開始。現在は注文件数の約3分の1を店舗受け取りが占めている状況という。
ECサイトに来訪した新規顧客が店舗に訪れる機会がますます増えると想定。今後は「Amazon Pay」が、カインズのオムニチャネルにも寄与していくと期待している。