チケット購入+モバイルオーダーでの顧客体験向上、施設のDX化――シネコン市場で初めて「Amazon Pay」を導入したティ・ジョイが語る施策の効果
フィルム上映からデジタルシネマへといち早く移行、最新鋭の音響や映像技術の導入による劇場の独自性を追求するなど、東映傘下のシネコンチェーン「T・ジョイ」を展開するティ・ジョイは、シネマコンプレックス(シネコン)市場で “新しい価値”を創出し続けている。オンラインチケット予約やフードのモバイルオーダー導入、ストレスのない買い物体験の実現のためにAmazonの ID決済サービス「Amazon Pay」導入などデジタル化も強力に推進する。
興行部施設管理室長兼東日本エリアマネージャーの原晋也氏、吉原幹貴氏(興行部劇場運営室運営管理チーム兼システム管理チーム)、島田貴行氏(興行部劇場マーケティング室劇場宣伝チーム長)に話を聞いた。
都市部の駅近から郊外まで、全国でシネコン「T・ジョイ」を展開
東映グループでシネマコンプレックス運営事業を手がけるティ・ジョイは、創業した2000年に第1号の劇場「T・ジョイ東広島」を開業。現在は、全国19劇場(他社との共同経営を含む)まで拡大している。シネコンの多くが郊外で展開するなか、ティ・ジョイは2007年に「新宿バルト9」を開業して以降、郊外だけでなく主要都市の駅前や駅ビルなどの都市型劇場も積極的に展開していることが特長と言える。
今や当たり前のデジタルシネマ。自社でコンテンツを開発し、業界に先駆けて推進してきたのがティ・ジョイ
ティ・ジョイは、映画館のデジタル化を先駆けて推進し、業界に革新をもたらした企業だ。2000年の創業以来、独自のコンテンツ開発や最新技術の導入により、映画鑑賞の体験価値を高めてきた。最近ではT・ジョイ京都と横浜ブルク13に「ScreenX with Dolby Atmos」を導入し、270度の視界と360度の立体音響を実現している。
スマホで座席の予約ができても、フードを買うときや入場の際には列に並ばなければならず、特に小さなお子さま連れのお客さまなどは疲れるだろうと懸念していた。不便やストレスなく、純粋に映画を楽しんでいただきたいと考えた結果、座席や売店の予約もお客さまの手元から自由にアクセスができ、時間になったら並ばずスムーズに入れる劇場へと進化した。(原氏)
最近は顧客体験の価値向上に注力し、映画鑑賞の一連の行動(予約、鑑賞、感想共有、次回検討)をデジタル化し、より高い価値を提供しようと取り組んでいるようだ。オンライン予約システム「KINEZO」でチケットレス入場を可能にし、スマートフォンアプリ「キネパス」で感想共有機能を提供している。最近では、飲食物の事前予約機能「KINEZOモバイルオーダー」も導入し、顧客の利便性を高めている。
映画館の取り扱う商品は文字通り「映画」。各劇場の特徴を表現し、店舗開発や作品とのコラボレーションなどで独自性を出すことが求められ、シネコン企業のなかでは後発だが、業界の先駆けとなる新しい取り組みをこれまで数多く着手してきた。その1つが映画館のデジタル化である。
チケットの予約販売はフローが煩雑。ストレス軽減に向け業界で初めて「Amazon Pay」を導入
ティ・ジョイはデジタル施策の一環として2019年10月、「KINEZO」にAmazonが提供する決済サービス「Amazon Pay」を導入した。導入を決めた理由の1つが、映画のチケット購入ならではの煩雑なフローをできるだけスムーズにすることだった。
通常のECサイトと異なり、映画のチケット購入は作品、劇場、時間帯、座席など、選択する項目が多い。その先の支払い方法のフローでクレジットカード情報の入力が必要となると、煩雑さにストレスを感じるユーザーは少なくないだろう。スマホなどデバイスの操作を極力減らし、ストレスをなくしてコンバージョンを高めようと考え、Amazonアカウントの情報で簡単に決済できる「Amazon Pay」を導入した。
「Amazon Pay」からの素早い対応と丁寧なサポートも高く評価
ティ・ジョイはオンラインチケット予約からチケットレスで映画を鑑賞できるという仕組みを採用しているため、「Amazon Pay」の住所情報連携は実施していない。ただ、AmazonアカウントでのIDログイン機能を実装。Amazonアカウントを持つ利用者であれば、簡単にログインや会員登録ができる環境を実現している。
こうした「Amazon Pay」導入・実装までのスケジュールについては、想像よりスムーズに進んだ印象で、「Amazon Pay」からの素早い対応と丁寧なサポートも高く評価できると話す。
システムやサービスを提供する事業者自身がここまで手厚くサポートしてくれる体制は、結構まれなパターンだと思った。ほとんどの場合は、APIの仕様書を開示してもらうところまでで終わってしまうが、「Amazon Pay」はシステム担当者と当社の開発メンバーとが、プロジェクト管理ツールを使って直接やり取りできるようにしてくださった。実装までの手厚いサポートにより、導入を決めてから短い期間でローンチできたと思っている。(吉原氏)
「Amazon Pay」導入後にCVRが向上。チケットの争奪戦でも重宝される決済手段
インターネット上の映画チケット予約サービスは、消費者が観たい作品の初日の良い座席や、舞台挨拶のある回などで特にアクセスが集中する。そうした時も、クレジットカード情報などの入力が必要なく、圧倒的な早さでチケット購入が完了できる「Amazon Pay」はユーザーから重宝される決済手段である。
実際、人気作品の予約が始まった際にSNS上でユーザーの声をチェックすると、「『KINEZO・キネパス』が一番スムーズに取れた」という投稿があり、「Amazon Pay」が体験価値の向上に寄与していることを実感したという。
また、導入前の狙い通り、コンバージョン率も向上。従前は、購入フローで作品、劇場、時間帯、座席など多くの選択項目を進めた後、完了まであと一歩の決済で離脱してしまっていた。導入後、その課題が大きく改善したという。
また一旦座席だけを確保しておき、予約した回に行けると確定したタイミングでオンライン決済ができるようにもしている。このときに「Amazon Pay」で手軽に支払える利便性も、コンバージョン率向上に寄与したと考えている。
「Amazon Pay」経由で新規会員が増加
「Amazon Pay」を導入した翌春に、Amazonアカウントとティ・ジョイ会員のID連携を実現。実装後、ティ・ジョイの新規会員の約半数がID連携によって会員登録し、想定を大きく上回る結果を得たという。
オンライン決済による売上高のうち、2020年には「Amazon Pay」のシェアが15%ほどを占め、2023年には20%に到達。2024年には25%に迫る利用率推移しており、全体の会員数も増加し続けている。
「Amazon Pay」導入を機に、オンライン決済の利用比率も各段に向上。2019年時点での全社的なオンライン決済比率は約50%だったが、2020年にはコロナ禍の影響で非接触ニーズが高まり、特に都市部では80%を超える劇場がほとんどという。「Amazon Pay」を使った簡単で便利な決済方法がその流れを加速している。
映画館の券売機などは、システムを自社開発するためイニシャルコストが高く、保守も必要となる。昨今は、そういった機械への設備投資をいかに少なくしていくかを考えなければならず、加えて、お客さまの持つデバイスにレジスターの機能を寄せていく考え方が主流となっている。そのため、オンライン決済は時流にあった手段だ。「Amazon Pay」は、そういったお客さまとティ・ジョイの双方のニーズに合致した決済手段と言える。(吉原氏)
スマホで売店のフードが注文できる「KINEZOモバイルオーダー」にも「Amazon Pay」を導入
「KINEZO」を通じてスマホからフードの注文・決済ができる「KINEZOモバイルオーダー」の機能は、2024年4月に「T・ジョイ長岡」で運用をスタート。最新の劇場「T・ジョイ エミテラス所沢」でも開業時から導入しており、順次全国に展開していく計画を掲げる。
モバイルオーダーを導入した劇場のモバイルオーダー利用率はまだ10%弱ではあるものの、モバイルオーダーによって観客動員数に対する購買率が高まることがわかってきた。モバイルオーダーを導入した劇場はこれまでのフードの平均客単価より約30%ほど上がっているという結果も出ているようだ。
モバイルオーダーはゆっくり商品が選べるため、「売店に人が並んでいるから諦めよう」といった買い控えが軽減できるほか、対面接客では忙しい時間帯にお薦め商品が十分に案内できなくなりがちなところ、画面上でおすすめのタブを用意して訴求できることから、フードの売り上げに大きく貢献しているようだ。小さな子どもを連れたファミリー層なども長い列に並ぶことなく購入できる利便性もフードの平均客単価を上げる一因となっている。
このモバイルオーダーの決済手段にも「Amazon Pay」を採用しており、利便性とコンバージョン率のさらなる向上につながっている。
Amazonとのキャンペーンは集客効果大。「Prime Video」をきっかけに劇場に来る観客も
「Amazon Pay」の大きな導入メリットの1つに、導入企業は「Amazon Pay」が主導するキャンペーン(たとえば、Amazonギフトカード還元キャンペーンなど)に参加できることがあげられる。
ティ・ジョイは2024年8~9月にかけて、「Amazon Pay」決済でアニメ映画「KING OF PRISM -Dramatic PRISM.1-」を鑑賞した観客から抽選で100人に、オリジナルデザインのAmazonギフトカード5000円分が当たるキャンペーンを実施。
「KING OF PRISM」は作品自体に既存のファンが多かったが、「Prime Video」上での告知や外部メディアに取り上げられたことで告知の場が充実し、新規のファンも獲得できたと思うし、ティ・ジョイのアクティブユーザー数も増加傾向だ。
こうしたOMO的な相乗効果が見いだせるため、映画館と配信は競合関係にあるとは考えていない。むしろ、「Prime Video」をきっかけに多くのお客さまが映画館を訪れたので、日頃から「Prime Video」を観る視聴者の来場が期待できる取り組みを実現できるのはAmazonならではだと感じている。(島田氏)
オフラインの施策も模索。Amazonと共同で行動全体の新たな価値観を提供したい
劇場やスポーツなどのチケッティングビジネスにおいて、ティ・ジョイは先駆けて「Amazon Pay」を導入。チケット購入やモバイルオーダーでの顧客体験向上、施設のDX化を実現した。チケット販売や劇場・スポーツといった施設内での飲食販売のDX化の“お手本”となるような取り組みを進めていると言える。
さまざまなID決済があるなか、「Amazon Pay」を選んだ決め手の1つとして将来的にAmazonと共同で「何か画期的な取り組みがしたい」という期待を持ったというティ・ジョイ。「Amazonとの良いコラボレーションの形」を模索し、日常生活に溶け込んでいるAmazonが抱える消費者を、映画館へ呼び込むための施策をさらに発展させたいと考えている。
「KING OF PRISM -Dramatic PRISM.1-」のキャンペーンが奏功したように、「お客さまは映画コンテンツを『観て、帰る』で終わる消費体験とするだけでなく、記念品などのリアルなものも求めていると強く感じる」と原氏。「Amazon Pay」と共同で入場者特典などの企画にも力を入れていきたいと言う。
現在はオンライン上でのみ「Amazon Pay」が使える段階だが、私たちはリアルの施設を運営しているので、今後はオフラインでの施策にも取り組んでみたい。映画館に来場したときに、「『Amazon Pay』で決済してよかった」と楽しんでいただけるような、リアルのプレゼントやサービス、プライム会員限定特典など、面白い企画ができる可能性はまだまだ広がっていると思う。
また、普段は映画を観ない人や、映画館の利用は少ないものの自宅で映画を観ている人に対しても、Amazonとともに新たな価値観を提供していきたいと考えている。(吉原氏)
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