2024年9月24日、抗悪性腫瘍薬タスルグラチニブコハク酸塩(商品名タスフィゴ錠35mg)の製造販売が承認された。適応は「がん化学療法後に増悪したFGFR2融合遺伝子陽性の治癒切除不能な胆道癌」、用法用量は「成人に1日1回140mgを空腹時に経口投与する。なお、患者の状態により適宜減量する」となっている。
胆道癌の中でも、胆管に発生する希少な癌である胆管癌は、肝臓内の胆管に発生する肝内胆管癌(iCCA)と、肝臓外の胆管に発生する肝外胆管癌に分類される。胆管癌は、診断された時点で進行期あるいは末期であることが多く、概して予後不良である。
また、線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)は、組織の発生およびリモデリング、血管新生並びに代謝を含む重要な生理学的過程に関与する受容体型チロシンキナーゼであり、線維芽細胞増殖因子(FGF)リガンドと結合して細胞内シグナル伝達を活性化する。ヒトにおいて、FGFRは4種類(FGFR1、FGFR2、FGFR3、FGFR4)が同定されている。
胆管癌患者では、iCCAにおいて、FGFR経路の遺伝子異常として、FGFR2融合遺伝子が高頻度に認められる。このFGFR融合遺伝子は、癌の原因となる異常な遺伝子である。FGFR融合遺伝子から産生されるFGFR融合蛋白は、リガンド非依存的にチロシンキナーゼを活性化することにより、腫瘍細胞を増殖させると考えられる。
従来、切除不能の胆道癌に対する化学療法として、ゲムシタビン塩酸塩(GEM;ジェムザール他)+テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム(S-1;ティーエスワン他)併用療法、GEM+シスプラチン(CDDP;ランダ他)併用療法などが標準治療として位置づけられており、さらにFGFR阻害薬として、2021年6月からペミガチニブ(ペマジール)が、2023年9月からフチバチニブ(リトゴビ)が臨床使用されるようになった。
タスルグラチニブは、ペミガチニブとフチバチニブに次ぐ、国内3剤目の経口投与可能な低分子のFGFR阻害薬である。FGFR融合蛋白などのリン酸化を阻害し、下流のシグナル伝達分子を阻害することにより、腫瘍増殖抑制作用を示すと考えられている。
化学療法歴のあるFGFR2融合遺伝子陽性の治癒切除不能な胆管癌患者を対象とした国際共同第II相試験(E7090-J000-201試験)において、同薬の有効性および安全性が確認された。2024年9月現在、海外で販売されている国または地域はなく、日本では2021年2月、希少疾病用医薬品に指定されている。
重大な副作用として、高リン血症(82.6%)のほか、網膜剥離の可能性もあるので十分注意する必要がある。また、その他の副作用として主なものに、爪障害(72.5%)、手掌・足底発赤知覚不全症候群(49.3%)、下痢(33.3%)、爪囲炎(26.1%)、口内炎、味覚障害(各24.6%)などがある。
薬剤使用に際しては、下記の事項についても留意しておかなければならない。
●投与対象となるFGFR2融合遺伝子陽性患者を特定するため、コンパニオン診断薬「AmoyDx FGFR2 Gene Break-apart FISHプローブキット」(2024年8月に承認)などを用いること
●食後に投与すると、最高血中濃度(Cmax)および血中濃度-時間曲線下面積(AUC)が低下するため、食事の1時間前から食後2時間までの間の服用は避けるよう患者に指導すること(添付文書の「薬物動態」を参照)
●投与中に副作用が発現した場合には、添付文書の「用法及び用量に関連する注意」の項に記載のある「減量の目安」「副作用に対する休薬、減量及び中止基準」を参考にすること
●投与中は定期的に血清リン濃度を測定し、重大な副作用である高リン血症が現れた場合には、炭酸ランタン水和物(商品名炭酸ランタン顆粒分包「ニプロ」)の使用を検討する
●医薬品リスク管理計画書(RMP)では、重要な潜在的リスクとして「眼障害(網膜剥離を除く)」「爪障害」「手掌・足底発赤知覚不全症候群」「肝機能障害患者への使用」「胚・胎児毒性」が挙げられている
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