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「小説家になろう」のWeb小説における異世界ファンタジー類型まとめ

maezimas.hatenablog.com
このあたりの話題から、「小説家になろう」(以下「なろう」)における異世界召喚や転生などの類型の話が出てきていたので、思いつくかぎり挙げていってみる。

ただ、私もここ一年くらいは紙のラノベに専念していて、Web小説の方はほとんど追いかけられていない。そもそも一番読んでいたときだって、ランキングを毎日チェックするようなことはなかったし、2chとかも見ていなかったので流行にも疎かった。そのことは、これからの文章中に「だろうか」「気がする」を連発していることからも察していただけると思う。

そんなわけで、もっと詳しい人が、もっと詳しい解説を書いてくれればいいな、と思います。

異世界転生(そのまま)

トラックに轢かれて死亡後、神様的な存在と出会い、特殊能力を貰って異世界に送られる、というのが「トラック転生」「転生チート」などと呼ばれるものである。現在アニメ放送中の『この素晴らしい世界に祝福を!』がこのパターン(のパロディ)だ。

このタイプの異世界転生は、主人公の姿形は変わらず、アイデンティティを保ったまま転生するので、実質的には「召喚」とほとんど変わらない。神様的な存在から目的を提示されているので、序盤から行動に迷うこともなく、スムーズに異世界に馴染んでいくことが多い気がする。

導入部分がテンプレ化しているのは、そういった「前置き」をプロローグで済ませてしまって、さっさと「本編」である異世界に入りたいからだろう。古くからのファンタジー読者の中には「オリジナリティ溢れる異世界をゼロから構築することこそファンタジーの醍醐味」とお思いの方も多いと思うが、「なろう」では「どうでもいいところは積極的に共通化して自分の書きたいところに注力する」というスタイルの作品が多いように感じる。どちらが悪いというわけでもない。スタイルの違いである。と思う。

異世界転生(生まれ変わり)

その一方で、「死んだと思ったら異世界に転生して赤ん坊になっていた」という設定の作品も多い。というか、こっちが本来の「転生」である。現在の累計一位である『無職転生』がその代表格だ。

このパターンでは、生前とは別の人間として生まれることになる。主人公の誕生直後から始まり、こっそり本を読んで*1魔法などを覚えたりしつつ、幼児から少年へ、少年から青年へと成長し、それに伴い物語の舞台も変遷していく、といったような筋書きになる。同じ転生ものでも上記の「アイデンティティを保ったまま転生」とは全くストーリーが変わってくるのだ。

さらに捻ったパターンとしては「多重転生」と呼ばれるものもある。主人公が何度も転生を繰り返し、様々な世界を渡って、いろんな世界の能力を獲得している、みたいなやつである。

と、ここまで書いてきて何だが、このあたりの話は漫画家の後藤寿庵氏のブログの記事が素晴らしくよくまとまっているので、そちらを読んだほうがいいと思う。

「モンスター転生」も紹介しておこう。これは文字通り「転生したと思ったらモンスターになっていた」という話で、ゴブリンだのスライムだのといった雑魚モンスターとなり、別のモンスターを倒してレベルアップしたり、その能力を吸収したりして徐々に強くなっていく、といったものが定番である。代表作は『Re:Monster』や『転生したらスライムだった件』あたりだろうか(どっちも未読)。

Re:Monster(リ・モンスター)

Re:Monster(リ・モンスター)

転生したらスライムだった件1 (GCノベルズ)

転生したらスライムだった件1 (GCノベルズ)

  • 作者:伏瀬
  • 発売日: 2014/05/30
  • メディア: 単行本

他にも、モンスターに生まれて魔王軍で出世を目指すとか、魔王の子供として生まれて魔界で「内政」するといったパターンもある。テンプレが確立されると「それを逆手に取ってやろう」という意識が働くわけだが、「悪の側から描く」というのもその一形態なのだろう。

女性向けでは「ドラゴンなどに転生して将軍や騎士と仲良くなる」といった話をたまに見かける。異類婚姻譚みたいなものだろうか。

異世界転移

死んだり生まれ変わったりするわけではなく着の身着のまま異世界にやってくるパターン。かの『不思議の国のアリス』や『オズの魔法使い』でも使われた伝統の手法だ。

「転生」と違って何の説明もなく異世界に放り出されることになるので、手探りで冒険していく話が多い気がする。「なろう」での代表格はなんだろう。個人的に印象に残っているのは『異世界迷宮の最深部を目指そう』だけど。

女性向けでは、王宮の庭あたりにいきなり現れて、居合わせた王子様に一目惚れされ、「彼女は伝説の聖女だ…」といった感じでラブロマンスになることが多いような気がする。

異世界召喚

異世界転移の下位カテゴリになるのだろうか。勇者や聖女として異世界に召喚されるパターン。勇者として召喚されることで「勇者」に相応しい能力が備わったりする。

転生トラックの省略されっぷりと比べれば、「どうして異世界に召喚されたのか?」「誰が主人公を召喚したのか?」ということが問題になりがちで、それが物語全体の謎とされることもある。先ほど挙げた『最深部』も実はそんな感じだし、あとアニメ化決定の『Re:ゼロから始める異世界生活』もそうだ。

「召喚する側が実は悪役でした」ということも多く、召喚された異世界人が奴隷のように扱われるのを察知して主人公が逃げ出したり、主人公が魔王を倒したところで仲間に裏切られたり*2…といったバリエーションがある。たとえば『ウォルテニア戦記』は自分を召喚した魔術師を殺すところから始まったりする。

ウォルテニア戦記 (HJ NOVELS)

ウォルテニア戦記 (HJ NOVELS)

あるいは、友人と一緒に召喚されたけど、友人だけが勇者認定される、みたいな話とか。「なろう」テンプレはわりと「脇役」志向である。こちらのパターンは『異世界魔法は遅れてる!』とか。

集団転移

異世界召喚からの派生で、「大勢の勇者が召喚された」とか、「クラス全員で異世界に転移した」といったパターン。その際に全員がスキルを身に付けるが、主人公は一人だけ役に立たないスキルで、他の仲間たちから切り捨てられてしまい…といったパターンをよく見かける。『十五少年漂流記』の系譜なのかもしれない。

『灰と幻想のグリムガル』(外伝が「なろう」で連載)のように、転移者がぽつぽつとやってきている設定も、一種の「集団転移」に含まれるだろうか。

異世界接続

こちらの世界と異世界が接続されていて行き来ができる、というパターン。「なろう」掲載ではないが『ゲート 自衛隊 彼の地にて斯く戦えり』が代表格だろう。とは言え「なろう」においては、現代と異世界を往来するような作品は少ないように感じる。

「店が異世界と繋がっていてファンタジーの住人たちがやってくる」という『異世界食堂』『異世界居酒屋「のぶ」』のような作品もある。が、個人的にどっちも未読だし、他に同種の作品があるかも知らないので、何とも言えない*3。どんな店を異世界に繋げるかでバリエーションがありそうだが…。

異世界食堂 1 (ヒーロー文庫)

異世界食堂 1 (ヒーロー文庫)

異世界居酒屋「のぶ」

異世界居酒屋「のぶ」

VRMMORPG

ヴァーチャルリアリティなMMORPGを舞台にしたパターン。要するに『ソードアート・オンライン』である*4。ゲーム内では完全にファンタジーな世界が再現されているので、実質的に異世界と変わらない。たった一人で異世界にやってくる転生ものと違って、一緒にプレイしているゲーマーたちがたくさんいるという点では、「集団転移」に近いかもしれない。また、MMORPGではなくFPSやRTSを題材としていることもある。

「不人気ジョブを極めたら強かった」とか「使えないスキルも工夫すれば強かった」といった展開が定番である。とはいえ、そのスキルを何に使うわけでもなく、わりと淡々とレベルアップして、新たなスキルを習得して、珍しいアイテムを錬成して、新しいマップに行って…といった起伏の少ない話になることが多い気がする。「なろう」の異世界ファンタジーはよく「ゲーム実況」に喩えられたりするが、このタイプの作品はまさにゲーム実況そのものと言える。

また、ゲーム世界の中で鍛冶や料理、回復薬などの「生産職」を極めんとする作品も多い。そのあたりのクラフトマンシップ感は、「異世界で料理人になる」系の話に繋がるし、「現代知識で内政」系と通じるところもある気がする。

一時期は、SAOの影響を受けて「ログアウト不能」「ゲームオーバーは現実での死」というデスゲーム系も勢いがあったが、最近は下火になっていると思う。

チートやデスゲームといった特別な設定のない、VRMMORPGを普通のゲームとして普通にプレイする作品*5も「なろう」には存在しているが、そういうのは「異世界」っぽさが薄いのでここでは省く。

ゲーム実体化

VRMMORPGものをさらに押し進めて、ゲームが実体化して完全に異世界になっているパターンである。

というか、特に「ゲームが実体化した」と断らなくても魔法でステータスっぽいものが見えたりする作品も多いので、「異世界がゲーム的になっている」と言うべきかもしれない。

ゲーム寄りの異世界にすると何が良いのかと言えば、「ステータス」という形で情報を整理できる点である。たとえば初登場のキャラだってステータスを出せば名前から種族まで一発で説明できる。主人公についても「ジョブ」や「スキル」を持ちだして説明することで、これからどんなキャラを目指すのか、これまでにどのくらい成長したのか、新しく習得した能力がどのようなものなのか、といったことを分かりやすく説明できるのである。

『ログ・ホライズン』はゲーム実体化+集団転移の作品だが、『オーバーロード』のように「一人だけゲーム世界に取り残された」といった作品も多い。

モンスター系の話とも相性が良いようで、主人公がゲームで作り上げていたモンスター軍団が実体化して…という作品も、いくつか見かけたことがある。他ならぬ『オーバーロード』がその一つだが、このパターンは『オーバーロード』が元祖なのだろうか。そのあたりの歴史はよく分からない。

オーバーロード1 不死者の王

オーバーロード1 不死者の王

  • 作者:丸山くがね
  • 発売日: 2012/07/30
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

モンスター系で言えば、「ダンジョンマスターとなってモンスター蠢く迷宮を運営する」というのも一つのジャンルになっている。ダンジョンを大きくして、モンスターを配置して、やってくる冒険者たちを罠にかけて…という筋書き。これもどこから出てきた発想なんだろう。

Web小説の偉い人は「このジャンルはこの作品が元祖!」「このジャンルはあの作品の影響を受けている!」「このジャンルとこのジャンルを初めて組み合わせたのがこの人!」みたいなことをもっと積極的に書き残して欲しいと思う。

ゲーム転生

「転生してみたら何だか見覚えのある世界が…これは俺がハマっていたMMORPGじゃないか!?」というパターン。実質的には「ゲーム実体化」と変わらない。

女性向けにおいては、「乙女ゲーの中の世界に生まれ変わる」ものと、その派生として「乙女ゲーの悪役ヒロインに生まれ変わったけどこのままだとバッドエンドを迎えるのでなんとかしなきゃ」系が猛威を振るっている。いわゆる「悪役令嬢もの」である。悪役令嬢もので最大のヒットは、ファンタジーではないが『謙虚、堅実をモットーに生きております!』*6。ただ、全体としてはファンタジーを舞台にした作品の方が多いと思われる。
http://ncode.syosetu.com/n4029bs/

また悪役令嬢ものの場合は「普通に暮らしていた主人公があるとき突然に前世の記憶を思い出す」という導入が多い。まあ乙女ゲーで乳幼児期の話をしても仕方ないしね。

異世界内転生

異世界の人物が死んで同じ世界に生まれ変わるパターン。というか、こっちが本来の「転生」である(二回目)。

老いた大賢者が「もっと道を極めたい」という一念で生まれ変わったりとか、世界を救った英雄が誰かに殺されて生まれ変わるとか。作品としては『火刑戦記を掲げよ!』『エルフでやり直す武者修行』あたりが思い浮かぶ。

火刑戦旗を掲げよ!  1 (MFブックス)

火刑戦旗を掲げよ! 1 (MFブックス)

タイムスリップ

異世界で現代知識チートする作品と言えば、まずは『アーサー王宮廷のコネチカットヤンキー』や『戦国自衛隊』が出てくるわけで、つまりタイムスリップだって広い意味で言えば異世界転移のようなものである。

死んだと思ったら戦国時代に生まれ変わっていた、気が付いたら第二次世界大戦の戦場だった、といった作品は「なろう」においても多く書かれている。いわゆる「架空戦記」の系譜でもあるのだろうし、歴史系やる夫スレや、ニコニコ架空戦記なんかともつながっているのだろう。

異世界憑依

「転生」が「異世界の人物として新しく生まれる」ものだとしたら、「憑依」は「異世界に存在している第三者の意識を乗っ取る」というものである。どうしてこういう分類があるかと言えば、「なろう」のWeb小説は二次創作文化からの影響を強く受けているからで、そして二次創作においては「原作キャラクターの意識をオリジナル主人公が乗っ取る」という作品が多かったからである。と思われる。

オリジナルが中心の「なろう」において、わざわざ「既に存在している第三者の意識を乗っ取る」必要があるジャンルといえば、そう、歴史ものである。歴史ものはいわば「史実の二次創作」。主人公が歴史上の偉人になりかわるときに「憑依」という表記が使われることがある。代表格は、元はArcadia掲載だが『腕白関白』あたりか。
http://ncode.syosetu.com/n2046bc/

というか、「なろう」における二次創作界隈の影響というのもあまり明文化されていないと思うので、二次創作SSの偉い人は死ぬ前に是非ともそのあたりを書き残しておいて欲しいと思う。

純異世界

いくら「なろう」に異世界転生・召喚が多いと言ったって、異世界だけで完結している作品も、もちろん存在しているのである。『死神を食べた少女』とか『リーングラードの学び舎より』とか。

死神を食べた少女 (上)

死神を食べた少女 (上)

  • 作者:七沢またり
  • 発売日: 2012/12/15
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
死神を食べた少女 (下)

死神を食べた少女 (下)

  • 作者:七沢またり
  • 発売日: 2012/12/15
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

女性向けだと中華ファンタジーもかなりある。そう言えば「中華ファンタジー」の定義って「中国っぽい架空の世界」を舞台にしているだけじゃなくて仙人とか妖怪とか出てこないと駄目なんだろうか。『薬屋のひとりごと』や『紅霞後宮物語』は中華風ではあるけどファンタジーではないよなあ。

薬屋のひとりごと (ヒーロー文庫)

薬屋のひとりごと (ヒーロー文庫)

  • 作者:日向 夏
  • 発売日: 2014/08/29
  • メディア: 文庫
紅霞後宮物語 (富士見L文庫)

紅霞後宮物語 (富士見L文庫)

まあ、それを言ったら西洋ファンタジーだって、魔法とか出てこなくても思わず「ファンタジー」と言ってしまうことがあるし、「文明が滅んだあと科学技術を魔法として使っている」みたいなのだとSFになるし…いや深く考えるのはやめよう。

最後に

テンプレートというのは、面倒な部分を省略して自分が書きたい部分に集中するための補助器具であると同時に、「俺ならこの設定はこうするぜ」「俺はこのお約束を逆手にとってやる」といった形で多様性を生み出すジェネレーターでもある。

この記事を読んでいるあなたも、「現代の弁護士が異世界召喚されてファンタジー裁判する話なんて面白そうだ」とか、「MMORPGの代わりに格ゲーを題材にするのはどうだろう」とか、そんなふうに発想が広がっていかなかっただろうか*7。

何かのテンプレートをもとに膨大なバリエーションが恐ろしいスピードで生まれていくのは、小説サイトのみならず、SNSや掲示板、イラストサイト、動画サイト、その他さまざまなネットコミュニティの常であり、決して珍しい現象ではない。

問題は、そういった流行を外から眺めたときに、そのスピードについていけず、ひとつひとつの作品の違いを見極められないことである。そうなったときに「最近の若者のなんたらかんたらな願望充足がどうたらこうたらで同じ話ばかり読んでいるなど嘆かわしい」などと切り捨ててしまってはもったいない。是非ともこの記事を参考に「なろう」をスコップ(=面白い作品を新しく探すこと)していただければと思う。

*1:ちなみに「本は高価だからなかなか手に入らない」とか「貴族の家に生まれたので高価な本がたくさんある」といった描写も定番である。そのあたりをテーマに据えた作品に『本好きの下克上』がある。

*2:物語的には、その裏切られたところから始まる。あるいは裏切られて死んで転生したところから始まったりする。

*3:料理ネタ自体は、現代知識チートの一種として定着しており、異世界でレストランを営んだり、宮廷料理人になったりする作品が多い。

*4:ちなみにSAOは「小説家になろう」の作品ではない。

*5:ゲーム世界だけでなく現実世界の出来事も描かれるタイプ。

*6:ツッコミが入ったので補足。『謙虚』の世界は乙女ゲームではなく少女漫画なのでこの項に入れるべきではなかった。自分の中で『ログホラ』が「VR」ではないのと同じくらい忘れがちな設定…。

*7:ちなみに検索してみたらどっちも普通にありました。