WINDBIRD::ライトノベルブログ

ライトノベルブログ

結局「ダークファンタジー」ってよくわからん問題

「ダークファンタジーって知ってる?」

と訊かれたら「なんか暗くて怖くて重くて人がたくさん死んでいくような、漫画で言えば『ベルセルク』とか、ドラマで言えば『ゲーム・オブ・スローンズ』とか、ゲームで言えば『エルデンリング』みたいなファンタジーのことでしょ?」と答える人が多いのではないだろうか。

でも「ダークファンタジーってホラーのことだよ」と言われたらどうだろう。確かにそんな用法を見かけることもある気がする。たとえば『呪術廻戦』は公式でそう銘打たれている。

異才が拓く、ダークファンタジーの新境地!

『呪術廻戦』|集英社『週刊少年ジャンプ』公式サイト

あるいは『鬼滅の刃』などもダークファンタジーと呼ばれることが多い。

まずは簡単に、『鬼滅の刃』自体の概要を紹介しよう。本作は、「人を食う鬼と人間の闘いを描いたダークファンタジー」だ。

【解説】映画『鬼滅の刃』に宿る名作漫画への敬愛と「人の弱さ、心の強さ」の美学『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』 :2ページ目|CINEMORE(シネモア)

これらは「呪霊」や「鬼」といったオカルトホラー的な要素から「ダークファンタジー」と呼ばれているのだろう。

つまり現代においては「ファンタジー系ダークファンタジー」と「ホラー系ダークファンタジー」というまったく異なる二つの用法がなんとなく使い分けられて流通しているわけだ。

なぜそんなややこしい状況になっているのだろうか?

手っ取り早く英語版Wikipediaを読もう

翻訳はDeepL。

A strict definition for dark fantasy is difficult to pin down. Gertrude Barrows Bennett has been called "the woman who invented dark fantasy". Both Charles L. Grant and Karl Edward Wagner are credited with having coined the term "dark fantasy"—although both authors were describing different styles of fiction.

ダークファンタジーの厳密な定義は困難である。ガートルード・バロウズ・ベネットは「ダーク・ファンタジーを発明した女性」と呼ばれている。また、チャールズ・L・グラントとカール・エドワード・ワグナーも「ダーク・ファンタジー」という言葉を作ったとされているが、両者とも異なるスタイルのフィクションを表現している。

Dark fantasy - Wikipedia

これによると、「ダークファンタジー」というジャンルを作ったのがベネット、「ダークファンタジー」という呼称を作ったのがグラントとワグナー、しかしグラントとワグナーではその言葉が指す範囲が違った、ということらしい。

この三人についてさらに掘り下げてみよう。

まずはガートルード・バロウズ・ベネットから

彼女は「フランシス・スティーブンス」というペンネームで1917年から1923年までのあいだに作品を発表していたようだ。

In 2004, scholar Gary Hoppenstand compiled one of the more recent reprints of Gertrude’s work, releasing The Nightmare, and Other Tales of Dark Fantasy under her nom de plume. He writes, “Dark fantasy is defined as a type of horror story (possibly containing science fiction and fantasy elements) in which humanity is threatened with destruction by hostile cosmic forces beyond the normal ken of mortals,” (p. ix).

2004年、研究者のゲイリー・ホッペンスタンドは、ベネット作品の最新の復刻版の一つである「The Nightmare, and Other Tales of Dark Fantasy」を編纂して、フランシス・スティーブンス名義で発表している。ゲイリーは「ダークファンタジーは、人類の通常の理解を超えた敵対的で神秘的な力によって人類が滅亡の危機にさらされる、ホラー小説の一種(SFやファンタジーの要素を含む場合もある)と定義されている」と説明している。

Navigating the Weird Mind of Gertrude Barrows Bennett — the Mother of Dark Fantasy (pt. 1) - The Fandomentals

Bennett has been credited as having "the best claim at creating the new genre of dark fantasy". It has been said that Bennett's writings influenced both H. P. Lovecraft and A. Merritt, both of whom "emulated Bennett's earlier style and themes". Lovecraft was even said to have praised Bennett's work. However, there is controversy about whether or not this actually happened and the praise appears to have resulted from letters wrongly attributed to Lovecraft.

ベネットは「ダーク・ファンタジーという新しいジャンルを作り上げた最高の人物」であると評価されている。ベネットの著作は、H・P・ラヴクラフトとA・メリットの両者に影響を与え、両者とも「ベネットの初期のスタイルとテーマを模倣した」と言われている。ラヴクラフトはベネットの作品を絶賛していたとさえ言われている。しかし、実際にそうであったかどうかについては議論があり、この賞賛は、ラヴクラフトのものと誤ってされた手紙に起因しているようである。

Gertrude Barrows Bennett - Wikipedia

このあたりの解説を読むかぎり、まず「ダークファンタジーといえばクトゥルフ神話みたいなオカルトホラーのことだよな」という認識があり、「つまりダークファンタジーの祖はラヴクラフトだよな」ということになり、「ちょっと待ってラヴクラフトの前にこんな作家がいてラヴクラフトも絶賛してたみたいだよ!」ということでベネットが紹介されて、「ベネットこそがダークファンタジーの祖である」という評価が定着し、しかし後々調べてみるとラヴクラフトが絶賛していたというのはどうも誤りではないか、という流れのようだ。

具体的に言うと「オーガスタス・T・スウィフト」という人物がベネットを絶賛していたのだが、長らくこのスウィフトはラヴクラフトの別名だと思われていたのだという。しかし近年の研究によりスウィフトは実在の人物だと判明したので、ラヴクラフトとの同一人物説は否定されたということらしい。その前提が崩れると「ベネットがダークファンタジーの元祖」説も危うくね?大丈夫か?

次にチャールズ・L・グラントについて

グラントが本格的に作品を発表しはじめたのは時代が飛んで1971年ごろのようだ。

Charles L. Grant is often cited as having coined the term "dark fantasy". Grant defined his brand of dark fantasy as "a type of horror story in which humanity is threatened by forces beyond human understanding". He often used dark fantasy as an alternative to horror, as horror was increasingly associated with more visceral works.

チャールズ・L・グラントはしばしば「ダーク・ファンタジー」という言葉を作ったとして引用される。グラントは、自身のダークファンタジーを「人智を超えた力によって人類が脅かされるホラー小説の一種」と定義している。「ホラー」がより本能的な作品と結び付けられるようになったため、彼はしばしば「ホラー」の代替として「ダークファンタジー」という語を使用した。

Dark fantasy - Wikipedia

Mr. Grant was a master of suspense, of gradually building pressure in the readers mind until the skin at the back of their neck tickles with anticipation and fear. He dealt in shadows, fogs and darkness, in worlds like ours, but somehow slightly off-kilter.

グラントはサスペンスの達人であり、首の後ろの皮膚が期待と恐怖でくすぐったくなるまで、その心に徐々に圧力をかけていく。彼は影・霧・暗闇を扱って、私たちの世界と似た、しかしどこか少しずれた世界を扱った。

There is a theory as to why he hasn’t lasted as long as those of his contemporaries and that’s because even in the 70s and 80s Grant’s horror did not represent the pulse of the time, that pulse being grotesquery and blood-letting.

なぜ彼が同時代の作家たちほど長く残らなかったかといえば、70年代・80年代においてもなお、グラントのホラーは当時の時流に乗っていなかったからである、グロテスクで血みどろという時流に。

Charles L Grant: The Almost Forgotten Master of Suspense - Horror Oasis

総合して考えると、つまり自身のオカルトサスペンス的なホラーを、流行のスプラッタホラーと区別するために、「ダークファンタジー」や「クワイエットホラー」と自称して差別化を図った、ということなのだろうか。

グラントが「ダークファンタジー」という語を使っていたということは、彼の1987年の書評から裏付けられる。

The best of 1987's many horror novels that emphasize fantasy was Patricia Geary's Strange Toys, a tale of voodoo, magic, and a young girl's entry into adulthood that Charles Grant praised (American Fantasy, Summer 87) as "one of the best dark fantasy novels of the decade."

1987年に発表された多くのファンタジー重視のホラー小説の中で最も優れていたのはパトリシア・ギアリーの『ストレンジ・トイズ』である。これはブードゥーと魔法、そして少女が大人になるまでの物語で、チャールズ・グラントが「10年間で最高のダークファンタジー小説のひとつ」(『アメリカンファンタジー』誌、87年夏号)と賞賛した。

Science Fiction & Fantasy Book Review Annual - Google ブックス


しかしWikipediaの「Grant defined his brand of dark fantasy as "a type of horror story in which humanity is threatened by forces beyond human understanding". 」という記述はかなり怪しい。なぜなら2006年にエリック・リーフ・ダヴィン氏がベネットについて説明した文章と完全一致するからだ。ますます雲行きがおかしくなってきたぞ。

最後にカール・エドワード・ワグナーについて

Karl Edward Wagner is often credited for creating the term "dark fantasy" when used in a more fantasy-based context. Wagner used it to describe his fiction about the Gothic warrior Kane. Since then, "dark fantasy" has sometimes been applied to sword and sorcery and high fantasy fiction that features anti-heroic or morally ambiguous protagonists. Another good example under this definition of dark fantasy is Michael Moorcock's saga of the albino swordsman Elric.

カール・エドワード・ワグナーは、よりファンタジー的な文脈で使われる「ダーク・ファンタジー」という言葉を生み出したとされることが多い。ワグナーは、ゴシック戦士ケインについての小説を説明するためにこの言葉を使った。それ以来、「ダークファンタジー」は、アンチヒーローや道徳的に曖昧な主人公を登場させる剣と魔法やハイファンタジーの小説に適用されることもある。また、マイケル・ムアコックのアルビノの剣士エルリックの物語も、このダークファンタジーの定義における好例である。

Dark fantasy - Wikipedia

ケイン。それは永年、悪魔のごとくその名を囁き交わされてきた死と破壊の化身。不老不死の呪いを受け、人類発祥の時代より生き続けてきた流浪の剣士にして戦いの天才。そして、彼の行くところ必ず戦乱が巻き起こる・・・。この時代にもまた一人、ケインの並外れた力を求める者がいた。ソヴノス帝国の覇者マリルに復讐を誓う妖女エフレルが、傭兵将軍として彼を召喚したのだ! 米国幻想文学界の重鎮が、闇に覆われた世に覇権を競う猛者達を描いた、波瀾万丈のヒロイック・ファンタシー堂々登場!

主人公は赤い長髪で髭面。身長約2メートルで熊と格闘して勝つほどの怪力。黒革製の短袴を身にまとっている。不老不死の呪いを受け世界を放浪するうち、妖術の知識を身につけ古代世界の神秘に通じるようになった。性格は狡猾で野心家。

『闇がつむぐあまたの影(カール・エドワード・ワグナー)』 投票ページ | 復刊ドットコム

彼の代表作がこの『ケイン・サーガ』と呼ばれるシリーズで、コナン・ザ・バーバリアンの衣鉢を継ぐヒロイックファンタジーということなのだが、主人公のケインが邪悪で破滅的なアンチヒーローであるのが特徴らしい。『ケイン・サーガ』の最初の作品は1973年に刊行されている。

ワグナーはホラー作家でもあり、ケイン・サーガは「ファンタジーにゴシックホラーの要素を取り入れている」とも評価されているようだ。ダークファンタジーの類語として「ゴシックファンタジー」という呼び方もある(こういう雰囲気のやつ)。

ただ現代日本の「ファンタジー系ダークファンタジー」用法においては「主人公がアンチヒーロー」みたいな前提はないよなあ。ただ単に「なんとなくシリアスめなファンタジー」くらいの意味合いしかないような気がする。なんか『鋼の錬金術師』がダークファンタジー扱いされているのも見たことあるし。

やはりと言うべきか、「ワグナーがダークファンタジーという言葉を生み出した」説も疑わしいようだ。Wikipediaのソースとして示されている記事を確認しても「1970年代にワグナー自身が作った可能性が高い」とそっけなく書かれているだけである。具体的に、いつどの著作で使用したり定義したりしたのか、という情報がまったく出てこないのだ。

当時の「ダークファンタジー」の使用例を見てみよう

怪しげな話ばかりで嫌になってきたので、Google Booksで「Dark Fantasy」を検索して調べてみよう。


まずは1970年に公開されたというリチャード・C・ウェスト『Contemporary Medieval Authors』である。

Many science-fiction writers fit into the genre quite comfortably: think of the weird fantasy of H. P. Lovecraft, the hero-wins-princess tales of Edgar Rice Burroughs, the "incomplete enchanter" series of L. Sprague de Camp and Fletcher Pratt, some of Poul Anderson's work (such as Three Hearts and Three Lions), or the dark fantasy of Michael Moorcock, to name only a few of the most popular writers.

多くのSF作家がこのジャンルにしっくりとなじんでいる。H・P・ラヴクラフトの怪奇幻想、エドガー・ライス・バローズの英雄と王女の物語、L・スプレイグ・ディ・キャンプとフレッチャー・プラットの「incomplete enchanter」シリーズ、ポール・アンダーソンの作品のいくつか(『Three Hearts and Three Lions』など)や、マイケル・ムアコックのダークファンタジーなど、人気作家の例を挙げればキリがない。

https://dc.swosu.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=1059&context=tolkien_journal

マイケル・ムアコックといえばファンタジー系ダークファンタジーの代表格としてしばしば挙げられる『エルリック・サーガ(エターナルチャンピオンシリーズ)』の作者である。この当時、既にムアコックの作品を「ダークファンタジー」と見なす認識が一般に存在していたのだろうか?

ちなみに、このコラムの筆者であるウェスト氏(トールキン研究者らしい)は、ラヴクラフトやバローズやムアコックや、あるいはルイス・キャロルやA・A・ミルンなどの作品をひっくるめて「twentieth-century romance(20世紀ロマンス)」と命名し(つまり最広義の「ファンタジー」を敢えて「ロマンス」と言い換えたようだ)、その20世紀ロマンスのサブジャンルとして特に『指輪物語』や『ナルニア国物語』を「contemporary medieval(現代の中世もの)」と呼んでいたようだ。独自のジャンル意識が窺えて面白い。

1972年に出版されたディーン・R・クーンツの小説指南書『Writing popular fiction』のなかでは、「ダークファンタジー」が項を立てて説明されている。

The foremost writer of dark fantasy in this century is H. P. Lovecraft (1890-1937), whose stories remain in print (even though some were written as much as fifty years ago) and enjoy regular, cyclic bursts of extraordinary popularity. With stories like "Pickman's Model," which deals with a painter who fashions portraits of monsters that, the narrator learns, are not imaginary, as they first seemed, "The Rats in the Walls."

今世紀のダーク・ファンタジーの第一人者はH・P・ラヴクラフト(1890〜1937)である。 ラヴクラフトの作品は、(50年も前に書かれたものであるにもかかわらず)今でも印刷され続けており、定期的かつ周期的に異常な人気を博している。怪物の肖像画を描く画家を扱った "Pickman's Model"や、怪物が想像上の存在でないことを語り手が知る "The Rats in the Walls"などの物語で、その人気は衰えることを知らない。

First of all, dark fantasy—unlike all other fantasies-most often takes place against a normal contemporary or recognizable historical setting. Though it could be placed in pre-history, in the far future of Earth, or in another imaginary world altogether, it seems to work best if its supernatural elements can be put in contrast with an otherwise common background.

まず、ダークファンタジーは、他のファンタジーと違って、普通の現代や歴史が舞台となることがほとんどである。別に、先史時代や遠い未来の地球、あるいはまったく別の想像上の世界を舞台としてもいいのだが、その超自然的な要素を日常的な背景と対比させることができれば最もうまくいくようだ。

http://www.saveourenvironment.ca/Writing_Popular_Fiction_Koontz_Dean.pdf

この「ダークファンタジー」はもう完膚なきまでにジャンルとして認識されているだろう。そしてそれは問答無用でホラー系を指している。「ダークファンタジーといえばラヴクラフトのようなホラーのことだよ、当たり前だろ?」と言わんばかりである。


1973年には、そのものずばり『DARK FANTASY』という名前の同人誌が出版されていたようだ。

Dark Fantasy

内容的にはヒロイックファンタジー系っぽい。

From 1975 until 1980, Gene Day published, under the imprint Shadow Press, at least 23 issues - the last being #d 24/25, and there having been no #13 - of the fanzine/magazine Dark Fantasy: The Magazine Of Underground Creators for which he was also an art contributor.

1975年から1980年まで、ジーン・デイはシャドウ・プレスというレーベルで、ファンジン/雑誌『Dark Fantasy: The Magazine Of Underground Creators』の少なくとも23号(最終号は24/25号で、13号はない)を出版し、彼はまたアート作品の提供者であった。

Gene Day - Wikipedia

この雑誌に掲載されたチャールズ・R・サンダースの「The Pool of the Moon」という作品が「The Year's Best Fantasy Stories」という選集に収められたらしいので、同人誌だからと言ってまったく箸にも棒にもかからず黙殺されたわけではないらしい。はたしてどれほどの影響があったのだろうか?

Inspired in Africa, he created the fictional continent Nyumbani (which means "home" in Swahili), where the stories of Imaro, his sword and sorcery series, take place. In 1974, Saunders wrote a series of short stories for Gene Day's science fiction fanzine Dark Fantasy. The issue of Dark Fantasy with the first Imaro story found its way to Lin Carter, who included it in his first Year's Best Fantasy Stories collection, published by DAW Books in 1975. This publication brought Saunders' work to the attention of Daw publisher Donald A. Wollheim, who eventually suggested that Saunders turn his Imaro stories into a novel. Six of the novellas originally published by Gene Day in Dark Fantasy ("Mawanzo", "Turkhana Knives", "The Place of Stones", "Slaves of the Giant Kings", "Horror in the Black Hills", and "The City of Madness") would later be used in his first novel, Imaro, which was published by Daw in 1981.

アフリカでインスピレーションを受け、彼は架空の大陸ニュンバニ(スワヒリ語で「家」の意)を創造し、剣と魔法のシリーズである『イマロ』の物語の舞台とした。1974年、サンダースはジーン・デイのSFファンジン『ダーク・ファンタジー』に短編を連載した。『ダーク・ファンタジー』誌に掲載された最初の『イマロ』は、リン・カーターに見いだされ、1975年にDAWブックスから出版された彼の最初の作品集『Year's Best Fantasy Stories』に収録された。

Charles R. Saunders - Wikipedia

1975年のこちらの書評では、タニス・リーの『アヴィリスの妖杯』という作品が「ダークファンタジー」と評されている。

Tanith lee's most powerful story to date, a dark fantasy in which three men with very differnt motives plan to steal the great cup of Avillis,

タニス・リー史上最強の物語。全く異なる動機を持つ3人の男が、アヴィリスの大杯を盗み出そうと企むダークファンタジー。

British Book News - Google ブックス

『アヴィリスの妖杯』は指輪物語オマージュの作品らしい。つまりファンタジー系の用法である。

同じく1975年にウィリス・コノヴァーが編纂した伝記『Lovecraft at Last』のなかでも、

The universality of a leaning toward dark fantasy is shown by the fact that most authors of all kinds have occasionally produced specimens of spectral literature. Mere physical gruesomeness or conventional ghosts cannot make true weird art.

ダークファンタジーへの傾倒が普遍的であることは、あらゆる作家が時として幽霊文学の標本を作っていることからもわかる。単なる肉体的なむごさや、ありきたりの幽霊では、真の怪奇芸術は生まれない。

Lovecraft at Last - Howard Phillips Lovecraft, Willis Conover - Google ブックス

などと書かれている。こちらはホラー系の用法である。

70年代半ばの時点で、ホラーとファンタジー、両方の文脈から言及されていたことがわかるが、どちらが先だったのかはよくわからない。「Dark Fantasy」というのはそれほど特殊な単語の組み合わせではなく、単に「暗い妄想」のような意味合いで使われている例も多く見受けられる。ホラー文脈やファンタジー文脈で出てきていても、確固たるジャンル意識のもとに「Dark Fantasy」という語を使用しているわけではなかった可能性もある。

まとめると

なんもわからんということがわかった。

「ダークファンタジー」という言葉は1970年代に生まれたようであるが、誰が作ってどう広まっていったかは不明である。

初期の段階から「ホラー系ダークファンタジー」と「ファンタジー系ダークファンタジー」に意味が分裂していたようである。

ホラー系ダークファンタジーは、エログロなスプラッタホラーと対置して、クトゥルフ神話などを代表とする「オカルト要素のあるサスペンスフルなホラー」に対して使われることが多い。

ファンタジー系ダークファンタジーは、正義感の強いヒロイックファンタジーと対置して、「アンチヒーロー的な陰鬱で残虐な主人公のファンタジー」として認識されることが多い。

現代日本では拡大解釈の末に、ホラー系ダークファンタジーは「オカルト要素のある異能バトル」とかにも使われているし、ファンタジー系ダークファンタジーは単なる「シリアスな雰囲気のファンタジー」とかまで指すことがある。

という感じだろうか。

ラノベにおける「ダークファンタジー」

このブログはいちおうラノベブログなので、あらすじに「ダークファンタジー」が入っているラノベをいくつか紹介して終わろう。

その辺境のギルドには、ゴブリン討伐だけで銀等級(序列三位)にまで上り詰めた稀有な存在がいるという……。
冒険者になって、はじめて組んだパーティがピンチとなった女神官。それを助けた者こそ、ゴブリンスレイヤーと呼ばれる男だった。
彼は手段を選ばず、手間を惜しまずゴブリンだけを退治していく。そんな彼に振り回される女神官、感謝する受付嬢、彼を待つ幼馴染の牛飼娘。そんな中、彼の噂を聞き、森人(エルフ)の少女が依頼に現れた――。

圧倒的人気のWeb作品が、ついに書籍化! 蝸牛くも×神奈月昇が贈るダークファンタジー、開幕!

言わずと知れたゴブスレ。全体的な雰囲気が陰鬱というわけではないと思うが、残酷描写・性描写があるという点でダークファンタジーに分類されている感じ。

農園と鍛冶で栄える小国キャンパスフェロー。そこに暮らす人々は貧しくとも心豊かに暮らしていた。だが、その小国に侵略の戦火が迫りつつあった。闘争と魔法の王国アメリアは、女王アメリアの指揮のもと、多くの魔術師を独占し超常の力をもって領土を拡大し続けていたのだ。

このままではキャンパスフェローは滅びてしまう。そこで領主のバド・グレースは起死回生の奇策に出る。それは、大陸全土に散らばる凶悪な魔女たちを集め、王国アメリアに対抗するというものだった――。
時を同じくして、キャンパスフェローの隣国である騎士の国レーヴェにて“鏡の魔女”が拘束されたとの報せが入る。レーヴェの王を誘惑し、王妃の座に就こうとしていた魔女が婚礼の日にその正体を暴かれ、参列者たちを虐殺したのだという。
領主のバドは “鏡の魔女”の身柄を譲り受けるべく、従者たちを引き連れてレーヴェへと旅立つ。その一行の中に、ロロはいた。通称“黒犬”と呼ばれる彼は、ありとあらゆる殺しの技術を叩き込まれ、キャンパスフェローの暗殺者として育てられた少年だった……。
まだ誰も見たことのない、壮大かつ凶悪なダークファンタジーがその幕を開ける。

こちらの作品はゲーム・オブ・スローンズから影響を受けているそうだが、暗い…というよりはシリアスで、やや残酷描写がある、くらいの感じ。異能バトル的な側面もあって面白い。

『異世界の勇者が救った世界』エウシュアレで一匹の闇スライム『ブラックウーズ』がこの世に生を享けた。牛や犬にも劣る小さな魔物。そんな彼が『人間』を吸収して手に入れたのは……。
――雄の欲望。
やがて彼は自分を討伐すべく洞窟にやってきた天才魔導士のフレデリカ、奴隷のサティア、王国直属のエルフの女騎士フィアーナたち精鋭を捕らえて幽閉する。全ての悪夢はここから始まった。彼女たちは無事生還できるのか……。
闇スライムが欲望の限りを尽くす。無慈悲に蹂躙される異世界を描いたダークファンタジー。今、平和だった世界に悲劇の幕が上がる。

こちらも過激な性描写があるタイプ。というかノクターンノベルズで連載されていた作品だしな。

能力値ゼロという身でありながら勇者パーティに選ばれてしまったフラム。唯一持っているのは“反転”というよく分からない能力。
案の定、戦闘ではまったく役に立たなかったが、それでもめげず、健気にパーティのためにと働く彼女を、天才として名高い賢者のジーンは疎ましく思い、ことあるごとにいびり続け、ついには強引に奴隷商に売り払ってしまう。

その奴隷商会でも虐げられるフラムは、挙げ句余興として凶悪なモンスターの餌食になろうとしていた。
だが、装備したが最後身体をドロドロに溶かしてしまう『呪いの大剣』を手にした瞬間、彼女の人生は急激に“反転”する。

呪いが祝福へと変わるとき、その絶望は反転する―― 
少女と少女が織りなすダークライトファンタジー、ついに登場!!

「ダークライト」ってなんじゃらほいって感じだけど、ライトな追放系百合ファンタジーと、かなりガチなホラー要素が混じり合った作品で、独特な面白さがある。

夏の猛暑のさなか、行方不明となっていた少年が凍った死体となって発見された。警察は事件の異常性から“マガツガミ”によるものと判断した……。古来よりこの国には人間に害を為す禍々しい神々“マガツガミ”が存在する。そして、それらマガツガミを討伐する特殊な力を持った者たちを“祈祷士”と呼んだ。連携し独自に組織を作り上げた祈祷士たちは、マガツガミたちと長きにわたり戦いを続けてきた――。
そして現代、天才的な資質を持ちながら祈祷士としての道を捨てた男・古川七日と、可愛らしくも残酷な“喰い神”の少女ラティメリア。人間とマガツガミという許されざる異種間のコンビは、法や常識に縛られることなく、彼らなりの理由と方法でもって禍々しい神々を葬っていく。
カミツキレイニー待望の新作は、「冷徹な最強の男」×「人を喰う神の少女」の異種バディもの! 共闘もするが、たまに殺し合いもする……そんなコンビが見せるダークファンタジー!

こちらは「オカルト要素のある異能バトル」的な用法。ストーリー的にはあんまりダークではない。ダークヒーローではあるかもしれない。ラティメリアちゃんかわいい。

目覚めた少年は、何者でもなかった。“再葬開始”の合図と共に、いつの間にか持っていた火の粉を纏う刃を振るい、異形の敵を倒すのみ。“境死者(ニアデッド) No.7”――赤鉄(アカガネ)。それが、彼に新たに与えられた名だった。なぜ自分は戦うのか――。
No.6である美しき少女・紫遠(シオン)と共に、訳のわからぬまま死闘に身を投じる赤鉄は、やがてある事実にたどり着く。No.7の称号を持つ“先代”がいたこと、そして自分がその人物に殺され、No.7を“継承”したことを……。
現代ダークファンタジー、開幕!

こちらも「オカルト要素のある異能バトル」的な用法。ゾンビ版「サイボーグ009」という感じ。


これら以外でも、最近なんだか「ダークファンタジー」と銘打ったラノベをよく目にする気がするけど、やっぱりジャンルとかバラバラなんだよな…。