パソコンで動画を気軽に楽しめるようになるまでの歴史というか思い出。

 現在、インターネット上に様々な動画配信サイトが存在しており、無料の動画投稿サイトから、有料で高品質のドラマを制作配信するサイトまでネット上で動画を楽しむ環境はずいぶん発展している。それはもう、電波で放送されるテレビを時代遅れにしかねないほどになっている。多くの人がパソコンやスマホ、タブレットなどで動画を楽しんでいる。なんというか、昔をのことを考えるとすげえなあと思うのだ。

 1970年代から1980年代、パソコンは動画を再生するのに向いた機械ではなかった。動画とは、一秒間に24枚から60枚程度の静止画を連続して表示するものである。8ビットパソコンや初期16ビットパソコンの時代、モニターを埋め尽くすドットを一秒に数十回切り替えるのは処理速度から現実的ではなかった。また、ストレージの容量も足りなかった。一秒24枚として、映画の二時間を納めるには17万枚ほどの静止画を保存する必要がある。これをフルカラーデータとして収録しようとすると80年代のパソコンのフロッピーやハードディスクではあっという間に溢れてしまう。ゲームなどで部分的にキャラを瞬きさせたり、口を動かす程度のアニメーションがせいぜいだった。

 パソコンにおける実用的な動画再生規格の試みは、H.261を経て、MPEG-1に至る。この規格は、日本のNTTが主導したらしい。1988年ころから規格の策定が始まり、1992年に最終規格が承認されるのだが、その前の1991年、AppleがQuicktimeを発表し、パソコンで動画を作り再生する方法をなんかすげえ事みたいに発表する。非可逆圧縮で40MBくらいしかないハードディスクでもそれなりに動く動画を再生できるようにし、プレイヤーやエディタをうまい感じに実装して、QuickTimeはパソコンの初期動画規格として大成功を納める。まあ、発表当時のハードウェアでは、「切手のような小さい画面でちょこちょこ動くだけ」と酷評されたのだけど。

 Microsoftは、QuickTimeに対抗してAVIという動画フォーマットを作り、あれもそこそこ普及したのだけど、AppleがQuickTimeをWindowsにも移植し、無料で最小限の編集ができるQickTime Playerを配布したこともあり、動画編集するならQuickTimeフォーマットで保存すべしみたいな流れになったと記憶している。Appleの規格はいつも上から目線でMacユーザー以外からはそっぽを向かれていたのだけど、Quicktimeに関しては、1990年代を通して、嫌でも使わざるをえないフォーマットとして普及していた記憶がある。まあ、流石に2000年代以降は多くの動画再生編集アプリからQuicktime読み込み、書き出し機能は削除されていくのだけど。

 AppleのQuicktime、MSのAVIやWMV。これらは1990年代から2000年代にかけてパソコンユーザーの間で普通に使われていたのだけど、2010年代になると、もうほとんど使われなくなる。動画はみんなMP4みたいになっていくんだよね。MPEG動画規格は、まごうことない国際規格なのだけど、ことパソコンOS上の動画としては、初期の頃あんましうけなかった。AppleもMSも自社の動画規格を作って囲い込もうとしてたからね。

 インターネット黎明期って、1970年代あたりまで遡りそうだけど、そこまでいかない、1990年代。USENETなどで動画をHEXファイルで送信していた人たちがいたが、あの頃のフォーマットはMPEG1が多かったと思う。大学や企業のUNIXミニコンやワークステーションを使っていた人たちがインターネットを引っ張っていた時代なので、あのころインターネットに動画を上げていた人たちは、MacやWindowsではなく、UNIX上で動画をエンコードし、投稿していたのだろう。当時はインターネットも音声電話にモデムで2400bps~54000bpsくらいで接続してたし、デジタル回線のISDNでも64kbps~128kbpsの時代である。動画はリアルタイムで再生されるものではなく、数十分から数時間かけてダウンロードしてバイナリにデコードし、視聴するものだった。僕も無修正ポルノ動画をダウンロードするため、USENETのalr.binaries系グループを探索したものである。