進学校のエリートコースに乗ったのに、突然、勉強をやめると子どもに言われたらどうする?(写真:yamasan/イメージマート)

 子どもの将来を思うからこそ、親はつい口うるさくなる。しかし、その小言は本当に子どものためになっているのか。『子どもを見守ること』(大和書房)を上梓した医師で臨床心理士の田中茂樹氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)

──本書の中で、田中先生は「どうしたら親は子どもに小言をいうことをやめられるのか」「その結果、どのような変化が生じるのか」という点について説明されています。

田中茂樹氏(以下、田中):親がさまざまな“とらわれ”から解放されて、家の中で気楽に過ごすことを大事にする。そうすることで、子どもは貴重で短い「子ども時代」を楽しく過ごすことができます。それを実現するためにはお金はかかりません。親が気楽になればいいだけですから。

 こうしたことは自分の子育てを通して実感してきたことです。

 カウンセリングの仕事を始めた頃は私の一番上の子どももまだ小学生で、私自身にもさまざまなとらわれがありました。

 自分はこうした分野の専門家なのだから、子どもを世間一般の意味での完璧な大人に育てることができるはず。なんてことを、どこかで思っていたところもありました。だから、テレビを見るな、ゲームはするななど、さまざまなルールや課題を子どもに課していました。

 ところが、カウンセリングを始めてみて気が付きました。子どものことで悩んで相談に来る親は、僕のように、こうしなさい、ああしなさいと、子どもに小言を言い続けていたのです。

 一方で、元気で楽しそうに育っている子どもの親は、わりと呑気に子育てをしている。そのことに気がついて、私は育児の方向性を修正していきました。大事なことは、「小言を言って子どもを正しく」と親が思うように育てることではない。本当に大事なのは、子どもが家で楽しく過ごせること。それこそが一番大切なことだと。

──優等生だった子どもが、中学や高校など、あるところから学校の勉強をしなくなり、親が焦るケースが紹介されています。かつて勉強ができただけに、親はとても悩んで焦り、つい口うるさくなるようですが、あるところまで優等生だった子どもが勉強をしなくなる背景には、どんな心理的な変化があると思われますか?

田中:最近増えてきたと感じているタイプがあります。受験を意識して小学校の低学年から塾に行かされ、中高一貫の有名校に入った。そこで、勉強についていけないとか、人間関係で悩みを抱えているというわけでもないのに、勉強をやめたり、不登校になったりするケースです。女の子も多いです。

 親から言われたことを真面目にちゃんとやる子。自分の意見を主張するよりも、周囲の意向に合わせる子。親が喜ぶことを頑張ってやってきた子。そういう子は優等生になることが多い。でも、「この方向はちょっと自分には合わないのではないか」という感覚を持ち始める。

 いわゆる一流大学を目指す成績追求型の生き方に疑問がわき、「私が本当にやりたいことはこれじゃない」と考え始めるのです。