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DART (探査機)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
DART

所属 NASA / JHUAPL
公式ページ https://dart.jhuapl.edu
状態 小惑星に衝突成功・運用終了
(実験結果評価中)
目的 小惑星の軌道変更の実証
打上げ場所 ヴァンデンバーグ空軍基地
打上げ機 ファルコン9
打上げ日時 2021年11月24日6:21:02(UTC)[1]
衝突日 2022年9月26日23:14:24(UTC)
物理的特長
本体寸法 バス部:1.14×1.24×1.32m[1]
最大寸法 W1.8×D1.9×H2.6 m
ソーラーパネル展開幅:18 m[2]
質量 打上げ時:610 kg[1]
発生電力 4kW
主な推進器 ヒドラジンスラスタ×12基
キセノンイオンエンジン NEXT-C[3]
観測機器
DRACO 口径208 mm望遠カメラ
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DARTDouble Asteroid Redirection Test、ダート)はアメリカ航空宇宙局(NASA)が実施した世界で初めて小惑星の軌道変更を実証したプラネタリーディフェンスミッション、およびその探査機の名前である[4]

概要

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現在までの天体観測によって、将来的に地球に衝突する可能性のある軌道を周回する潜在的に危険な小惑星の存在が多数報告されている。そういった天体が実際に地球へ衝突した場合には地球規模の災害が発生すると指摘されており、早期の発見と被害を回避する手法の検討はプラネタリーディフェンスとして世界的に関心を集め議論されている。DARTミッションでは探査機を小惑星に対して高速で衝突させる方法で小惑星の軌道を人為的に変更可能であることの実証を目的としている。

探査機DARTは2021年11月24日6:21(UTC)に打上げられ[5][6]、ターゲットである二重小惑星の主星ディディモス・衛星ディモルフォスへ向けて航行、2022年9月26日23時14分 (UTC)に予定通り衛星ディモルフォスへの衝突に成功した[7]。これにより衛星ディモルフォスの公転周期は本来11時間55分だったものが33.24分短くなった[8]

DART計画の成功要件「Level 1 requirements」の5項目全てを達成した[8]

衝突実験のイメージ

計画

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計画の開始

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DARTと人工建造物、ディディモス・ディモルフォスの大きさの比較

地球に衝突し重大な災害を生じる可能性がある地球近傍天体は、その大きさが140 m以上のものに限っても2万5000個が存在すると推定されており[9]、NASAは2016年にPDCO英語版(Planetary Defense Coordination Office、地球防衛調整局)を新設し、小惑星の検出と脅威評価およびその対策の検討に当たっている。現在そのプログラムの1つとして進められているDARTは、宇宙機を小惑星に衝突させてその軌道変更が可能であることを実証する史上初のミッションである。NASAの支援を受けたJHUAPL(ジョンズ・ホプキンズ大学応用物理研究所)によって設計と製造が行われており、2018年8月にNASAの承認を得て最終設計と組立段階に移行した[10]。本ミッション総費用は3億3000万ドルである。

目標天体

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ギリシャ語で「双子」を意味するディディモスは直径780メートルの主星ディディモスと1.18 kmの距離を置いてそれを周回する直径170 mの衛星ディモルフォス(ディモーフォスとも、初期には非公式にディディムーン、Dydymoonとも呼ばれた)からなる。衝突実験を行うディモルフォスは、当初はディディモスBと呼ばれていたが、DART計画に関わるアリストテレス大学の研究者が提案した「2つの形態」を意味するディモルフォスに変更された。衝突実験により軌道が変化し、2つの形態を見せることとなるという意味が込められている[11]

運用

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DARTの軌道
      DART ·       (65803) ディディモス ·       地球 ·       太陽 ·       2001 CB21 ·       (3361) オルフェウス

2021年11月24日にSpaceXのファルコン9によって打上げられた[12]

DARTはASI(イタリア宇宙機関)の提供による小型の宇宙機LICIACubeを搭載しており、DART本体の小惑星衝突前にこれを分離してディモルフォスに衝突クレーターが生成される瞬間の撮影に使用する。

衝突の2か月前に距離3200万キロメートルから主星ディディモスを搭載カメラに捉えたDARTは軌道修正を行い[13]、衝突の15日前に2台の小型カメラを搭載したLICIACubeを分離[14]、さらに衝突の数時間前には自律誘導に切り替えた。

衝突

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DARTはディモルフォスを標的とした自律誘導を行い、2022年9月26日23時14分24秒(UTC)に相対速度6.1km/s、質量579kg、角度17°以下で衝突に成功[6]。衝突時点で地球とのディディモスの距離は1100万キロメートルで、衝突実験の結果は今後地球上の望遠鏡から観測と分析が進められる。

DARTの質量600キログラムの衝突によってディモルフォスの公転周期は11時間50分から約10分短縮されると見積もられており、NASAでは73秒以上の短縮を成功要件としている。また衝突によってディモルフォスには直径20メートルのクレーターが生成されたと推定されている[15]

10月11日実験結果を発表した。地球上の望遠鏡での観測により、衝突前の公転周期11時間55分であったが衝突後軌道が変わり11時間23分となり32分短くなった。実験前1分13秒以上短くなれば成功と判断していたが、その値を25倍以上公転周期を短縮し実験は成功とされた[16]

効果

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DARTの衝突によってディモルフォスの運動がどの程度影響を受けたのか、DARTの運動エネルギーがそのまま吸収され噴出物も全くない非弾性衝突の場合の効率をβ=1として、その何倍の影響があったのか効率βを評価指標としている。公転周期の変化は地球からの観測で判明しているが、ディモルフォスの正確な密度が不明であるためβの値は2.4から4.9の範囲にある試算されており、推定される密度の中央値と仮定するとβ=3.6、すなわちDARTの運動エネルギーの3.6倍の効果をディモルフォスに与えたと考えられている[6]。DARTによるクレーター、ディモルフォスの質量・岩石組成等は続いて2026年末以降に接近する探査機Heraにより詳細に探査される計画である。

搭載装置

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DART機体の搭載装置説明図
最終検査中のDART、巻かれた状態の太陽電池パネルROSAや円形アンテナRLSAが見える
ISSで展開されるROSA(2017年)

推進系

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主系のスラスタ12基によるヒドラジン推進システムと、キセノンを使用したイオン推進システムのNEXT-Cエンジン(NASA's Evolutionary Xenon Thruster Commercial)を搭載している[8]

カメラ

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ニュー・ホライズンズのカメラ(LORRI)を発展させた高解像度カメラDRACODidymos Reconnaissance and Asteroid Camera for Optical navigation)を搭載し、ディディモス・ディモルフォスを観測するだけではなく航法誘導のためにも使用される[8][3]。一般に探査機には各種科学観測装置を搭載することが多いが、DARTにはDRACO以外の科学観測装置を搭載していない。有意に観測できる距離に達してから衝突して機能停止までの時間が短いことに加え、取得したデータの伝送帯域が十分確保できないためと考えられる。

  • 口径:208㎜
  • 絞り:12.6
  • 観測波長:400 - 1000nm
  • 視野角:0.29°
  • 解像度:2560×2160
  • 分解能:距離300kmで1.0m、150kmで0.5m、30kmで0.1m
  • イメージセンサ:CMOS

発電系

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太陽光発電パネルとして柔軟で巻くことができるROSARoll-Out Solar Array)が搭載されており、ROSAは従来の折り畳み式のパネルよりも小型軽量な特徴を持つ。この技術は国際宇宙ステーションで2017年と2021年に試験されている。最大4kW発電する[8][3]

通信系

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LICIACube

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LICIACube
所属 イタリア宇宙機関(ASI)
国際標識番号 2021-110C
状態 運用終了
目的 ディモルフォスとDARTの衝突の観測
軌道投入日 2022年9月11日
衛星バス Argotec HAWK-6
本体寸法 展開前:10×20×30cm
質量 12.98kg
発生電力 最大80W
主な推進器 コールドガス推進(R-236fa)
周回対象 太陽
高度 (h) 1.00733 AU
:150,694,619 km
近点高度 (hp) 0.94084 AU
:140,747,082km
遠点高度 (ha) 1.07383 AU
:160,642,156km
離心率 (e) 0.06601
軌道傾斜角 (i) 3.19°
軌道周期 (P) 369.28日
元期 2023-03-31(UTC)[17][注釈 1]
テンプレートを表示
LICIACubeが撮影したDART衝突後のイジェクタの様子。異なるコントラストレベルの画像を合成したもの

DARTはイタリア宇宙機関(ASI)が開発した6U+のキューブサットLICIACubeLight Italian CubeSat for Imaging of Asteroid)を搭載し、DARTの衝突15日前[注釈 2]の2022年9月11日23:14(UTC)に放出[3][8][18]。DARTから遅れて168秒後に58km以内に最接近するように自力で推進し軌道変更して、DARTの衝突やそのイジェクタプルーム(噴出物)、クレータ等の様子を衝突から320秒後まで撮影し地球に伝送する[3]。LICIACubeは2022年11月に打ち上げられたアルテミス1号に搭載されたArgoMoonと基本設計が共通である[3]

搭載装置

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搭載する2台のカメラの名前は映画スターウォーズに登場する兄妹ルークレイアと同じ綴りである[19]

  • 観測カメラ[19][20][21]
    • LEIALICIACube Explorer Imaging for Asteroid)
      • 反射型パンクロマチックCMOSセンサ
      • 観測波長:650nm±250nm
      • レンズ径:79mm
      • 視野角:±2.06°
      • 合焦距離:25km - 無限遠
      • 解像度:2048×2048(512×512にスケール処理される)、16bit
      • 分解能:55.2kmで1.38m
      • 露出時間:1/10,000s - 30s
    • LUKELUCIACube Unit Key Explorer)
      • RGBベイヤーフィルター
      • 視野角:±5°
      • 合焦距離:400m - 無限遠
      • 解像度:2048×1088、8bit
      • 分解能:55.2kmで4.31m
  • 通信機器
  • 推進系
    • コールドガス推進システム

AIDA計画

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DARTの影響を観測する世界各地の望遠鏡

国際協力の枠組みとしては、DARTは2011年に開始されたNASAとESA(ヨーロッパ宇宙機関)の共同計画AIDA(Asteroid Impact and Deflection Assessment)を構成する2基の宇宙機の1基である。NASAのDARTが2022年にディモルフォスへの衝突実験を行った後、2023年に打ち上げるESAの探査機Heraが2026年にディディモスへ到着し、DARTの衝突クレーターを詳細に観測する計画となっている[22]。当初はESAが担当する大型の探査機AIMが先行して打ち上げられ、NASAの担当する衝突実験を小惑星周回軌道から観測する構想であったが、その後AIMはキャンセルされ、衝突実験の観測は地上の望遠鏡を使用して行われることとなった。

脚注

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注釈

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  1. ^ Ephemeris Type="Osculating Orbital Elements", Target Body="LICIACube (spacecraft)", Coordinate Center: Sun (body center), Time Specification: Start=2023-03-31 TDB Stop=2023-03-31 Step=1 (days)
  2. ^ 計画では衝突10日前に放出する予定だったが、DARTの機体パネルが曲がっていることが判明したため、最後の1ヶ月の運用計画を見直す中で衝突15日前の放出に変更された

出典

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  1. ^ a b c NASA - NSSDCA - Spacecraft - Details” (英語). NASA. 2024年11月21日閲覧。
  2. ^ DART” (英語). dart.jhuapl.edu. 2024年11月21日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g Double Asteroid Redirection Test NASA’S First Planetary Defense Test Mission PRESS KIT”. JHUAPL. 2024年11月19日閲覧。
  4. ^ DART – Hera-JAPAN Project”. 2024年11月18日閲覧。
  5. ^ Double Asteroid Redirection Test (DART) Mission”. NASA (2021年6月5日). 2021年6月30日閲覧。
  6. ^ a b c Final Technical Report to the National Aeronautics and Space Administration for the Double Asteroid Redirection Test (DART) Mission October 2023”. NASA. 2024年11月19日閲覧。
  7. ^ “NASAの無人探査機、小惑星ディモルフォスに体当たり…軌道変えたか確認へ”. 読売新聞. (2022年9月27日). https://www.yomiuri.co.jp/science/20220927-OYT1T50074/ 2022年9月27日閲覧。 
  8. ^ a b c d e f g Final Technical Report to the National Aeronautics and Space Administration for the Double Asteroid Redirection Test (DART) Mission October 2023”. NASA. 2024年11月19日閲覧。
  9. ^ “Near-Earth Object Observations Program”. PDCO Homepage. (2019年3月28日). https://www.nasa.gov/planetarydefense/neoo 2019年4月30日閲覧。 
  10. ^ “APL-Led Asteroid-Deflection Mission Passes Key Development Milestone”. JHUAPL Homepage. (2018年8月30日). https://www.jhuapl.edu/PressRelease/180830 2019年4月30日閲覧。 
  11. ^ “小惑星に衝突させる宇宙船11月に打ち上げ、軌道変更実験実施へ NASA”. CNN. (2021年10月6日). https://www.cnn.co.jp/fringe/35177628.html 2021年10月6日閲覧。 
  12. ^ “NASA、小惑星に衝突させて軌道を変える探査機「DART」の打ち上げに成功 ミッションは来年9月頃”. Reuters. (2021年11月26日). https://sorae.info/space/20211126-dart.html 2022年9月27日閲覧。 
  13. ^ “NASA’s DART Spacecraft Gets First Look at Binary Asteroid Didymos”. Sci.News. (2022年9月7日). https://www.sci.news/astronomy/didymos-images-11174.html 2022年9月27日閲覧。 
  14. ^ “DART’s Small Satellite Companion Takes Flight Ahead of Impact”. NASA. (2022年9月15日). https://www.nasa.gov/feature/dart-s-small-satellite-companion-takes-flight-ahead-of-impact 2022年9月27日閲覧。 
  15. ^ “NASA crashes DART spacecraft into asteroid in world's 1st planetary defense test”. Space.com. (2022年9月27日). https://www.space.com/nasa-dart-asteroid-impact-planetary-defense-success 2022年9月27日閲覧。 
  16. ^ 2022年10月12日読売新聞夕刊4版11面小惑星に探査機ぶつけ、軌道変更に成功…「天体の衝突から地球を守る」実験で歴史的成果
  17. ^ Horizons System”. NASA JPL. 2024年11月21日閲覧。
  18. ^ a b The First-Ever Asteroid Fly-By Performed by a CubeSat: Outcomes of the LICIACube Mission”. UtahStateUniversity. 2024年11月22日閲覧。
  19. ^ a b Italian first deep space missions to the Moon and beyond: ArgoMoon and LICIACube ready to be operated”. NASA. 2024年11月20日閲覧。
  20. ^ LICIACube: the Light Italian Cubesat for Imaging of Asteroids in support to DART”. USRA. 2024年11月20日閲覧。
  21. ^ LICIACube Explorer Imaging for Asteroid (LEIA) and LICIACube Unit Key Explorer (LUKE) Calibration Pipeline Description”. ASI. 2024年11月20日閲覧。
  22. ^ “ESA plans mission to smallest asteroid ever visited”. ESA Homepage. (2019年2月4日). https://www.esa.int/Space_Safety/Hera/ESA_plans_mission_to_smallest_asteroid_ever_visited 2019年4月30日閲覧。 

関連項目

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参考文献・外部リンク

[編集]
JHUAPL
DART
NASA
DART
月探査情報ステーション
DART