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低温物理学の歴史

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低温物理学は、ハイケ・カマリン-オンネス(Heike Kamerlingh-Onnes)によるヘリウムの液化(1908年)に始まると言って良い。液体ヘリウムの沸点は4.2K(ケルビン)=摂氏マイナス269度)とあらゆる物質の中で最低温度であり、さらに強制蒸発により1K程度までの温度が安定して得られるようになった。ヘリウムを寒剤として様々な物質が冷やされると、まさに人知を超えた多様な物理現象が発見されていった。金属の超伝導(1910年)、液体ヘリウムの超流動(1938年、異常な挙動はそれ以前に観測されていた)、電気抵抗極小(1930年頃)などが、その代表例として知られる。の低温現象の解明には量子力学が本質的であることは早くから認識されていた。発見と前後して1920年代に量子力学が完成したことで、磁性を含む多くの低温現象が量子力学的効果に支配されていることがわかった。しかし、超伝導や超流動などの量子現象の解明には、その後も長い時間が必要であった。

低温技術の面では、1930年代より低温生成の手法として断熱消磁法が考案され、希釈冷凍機が普及するまでの低温研究で重要な役割を果たすとともに、1970年代からの核断熱消磁技術による超低温物理学の発展に寄与した。また第二次世界大戦における原爆開発と戦後の原子炉建設により、ヘリウムの同位体であるヘリウム3(3He)の大量生成と液化が可能となったことは重要である。人類が液体ヘリウム3を手にしたことにより、現在の量子情報技術に不可欠である希釈冷凍機が発明され、また液体ヘリウム3の超流動の発見が凝縮系物理学の大きな進展をもたらした。

低温物理学における多くの基本概念が確立したのは1950-60年代で、特に超伝導のBCS理論(1957年)、ランダウのフェルミ液体理論(1957年)は以後の物理学全体に大きな影響を与え、物理学理論構築の指針となってきた。また磁性不純物を含む金属が低温で抵抗極小を示す現象は1930年代から長く謎とされてきたが、1964年に近藤淳が理論的解明に成功し、この現象自体が近藤効果と呼ばれるようになった。近藤効果も低温物理学の重要な研究対象であり、素粒子物理など様々な分野に影響を与えている。アンダーソンはその著書「Basic Notions in Condensed Matter Physics(凝縮系物理学の基本概念)」の中で、最も重要な凝縮系物理学の基本概念として「対称性の破れ」と「断熱的連続性」を挙げているが、超伝導・超流動研究が前者へ、近藤効果やフェルミ液体の研究が後者の概念の確立に、極めて重要な役割を果たした。

低温物理学の発展は、1960年代に3つの大きな技術革新をもたらすことになる。それは3He-4He希釈冷凍機、超伝導磁石、超伝導量子干渉素子(SQUID)であり、これらはそれぞれ3He-4He混合液、第二種超伝導、ジョセフソン効果の研究成果に基礎を置いている。希釈冷凍機とジョセフソン効果(素子)は現在の超伝導量子コンピュータの核となる技術であり、超伝導磁石はMRIや加速器の磁場発生装置として、現代文明の発展に不可欠なものになった。