2006年 11月 23日
6カ国協議は北朝鮮崩壊までの「時間稼ぎ」(NETアイ:プロの視点,2005-10-14)
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ともかく,まず以下の記事を読んで欲しい.これは日経新聞の春原剛編集委員が2005年の10月(つまり一年前!)に執筆し,NIKKEI.NETの「21世紀のアメリカ外交と国際情勢」というコラムに掲載された記事である.記事の中に出てくる「日付部分」だけを無視して読めば,現在再開作業が進められている6カ国協議の「予定稿」ではないかと思われるほどだ.そう思って読んでも何の違和感もなく全文を読み切ることができる.デジャヴ!というヤツだろうか?
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北朝鮮の核疑惑に関してはこの数年間ずっとこのような堂々巡りを繰り返しているのである.将棋で言えば「千日手」,チェスなら「パペチュアル」と呼ばれる状態である.チェスにはこの他に次に打つ手(合法手)がない状態―ステイルメイト(手詰まり)というのがあり,いずれも引き分けになる.連続チェック(王手)の千日手は特にパペチュアルチェックと呼ばれ,しばしば不利な側が強制的にドローに持ち込むために使われる.確かに北はミサイル発射・核実験で「連続チェック」をかけてきたと言える.これを北の「パペチュアルチェック」と見れば,「ドロー」が意味するものは北を「核保有国」として(国際的に)認知することに当たるだろう.次号ではこの「千日手」という状態について少し「数学的」に考えてみる.(馬場英治)
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6カ国協議は北朝鮮崩壊までの「時間稼ぎ」(10/14)
(NIKKEI.NET:NETアイ:プロの視点.2005-10-14)
第4回6カ国協議で共同声明を採択し、握手する(左から)米国のヒル国務次官補、外務省の佐々江アジア大洋州局長、中国の武大偉外務次官、韓国の宋旻淳外交通商次官補、北朝鮮の金桂冠外務次官、ロシアのアレクセーエフ外務次官=9月19日午後、北京の釣魚台迎賓館
北朝鮮の核開発問題をめぐる第4回6カ国協議は9月19日、北朝鮮が「すべての核兵器および既存の核計画の放棄」を確約するという内容を骨子とした初の共同声明を採択し、閉幕した。この中で、北朝鮮は核拡散防止条約(NPT)への早期復帰と国際原子力機関(IAEA)による査察受け入れも約束。見返りとして、ブッシュ米政権は北朝鮮を攻撃、あるいは侵略する意図がないことを国際社会に向けて確認した。最後の関門となった北朝鮮への軽水炉提供問題については、「適切な時期に議論する」という文言で米朝痛みわけの格好を取った。
この辺のやりとりについては、ライス長官自身も米タイム誌とのインタビューで一部を開陳している。ライス長官によると、中国が声明の第5次草案の作成段階で北朝鮮が求める軽水炉提供を「適切な時期に議論する」との文言を新たに加えた上で、米側に「受け入れるか、否か」と打診。この返答を巡って、ブッシュ、ラムズフェルド、ライスの3氏の間などで激しいやりとりがあったという。インタビューの中で、ライス長官は最終的に「受け入れ」を決めた理由として、草案の文言で核廃棄の範囲について、北朝鮮が主張する「核兵器関連計画」に限定せず、あらゆる核計画を対象に含めていたことを挙げている。
だが、ホワイトハウス内部のやりとりに通じている米政府筋はこれを「あくまでも表向きの理由」と断じる。そして、米側が合意文書受け入れを決めた本当の理由について、自嘲気味にこうつぶやいた。
「実態は問題の先送り。坂道に向かって、カンを蹴ったようなもの。それが現実だ……」。
「政権交代」を究極の目標にしているとされたブッシュ政権の北朝鮮政策については、国内外から「無策の典型」(キャンベル米戦略国際問題研究所副所長)と激しい批判を浴びていた。6カ国協議開催は幾分、それらを和らげたものの、ブッシュ政権の高官らは本音ベースで「結局、北朝鮮が核兵器を諦めることはないだろう」(前ブッシュ政権高官)と漏らし続けていた。ここで基本的な疑問が生じる。6カ国協議を続けながら、それが有効ではないと察知しているとしたら、米国は一体、どうしたいのか。北朝鮮の「非核化」という当面のゴールに向け、ブッシュ政権はいかなる政策を志向していくというのだろうか。
この疑問を解くため、父ブッシュ政権時代の1992年に北朝鮮交渉に臨み、子ブッシュ政権の内情にも詳しいカンター元国務次官(政治担当)の言葉を再び引用したい。
「政権交代とは政策の目標ではなく、自然発生的に起こることの結果に過ぎない」
これまでの経緯から見て、ブッシュ政権は北朝鮮が今後も核放棄を巡ってきめ細かい条件闘争を繰り広げ、米国を2国間交渉に引きずり込んでくる可能性が高いと見ている。一方で、北朝鮮の国内情勢について、ブッシュ政権内には「崩壊に向かって突き進んでいる」(前米中央情報局=CIA高官)との見方が根強い。そして、残る任期が3年を切ったブッシュ大統領にとって、この問題を任期中に片付けられる可能性は極めて少ない。
これら3つの変数を組み合わせると、6カ国協議という連立方程式はブッシュ政権にとって、北朝鮮崩壊までの「時間稼ぎ」の場に過ぎず、その合意内容も北朝鮮に核を放棄させるためというより、この問題が自国の外交・安全保障政策上の重大な懸案にならないための「保険」のようなものと解釈できる。
もちろん、北朝鮮が米側の悲観的予測に反して、核放棄に向かって具体的に動き始める可能性も除外はできない。逆に、米国にとっての「時間稼ぎ」が北朝鮮にとっても強硬派・ブッシュ退陣までの「時間稼ぎ」となり、ブッシュ政権の問題先送り姿勢をいいことに、核開発計画を一層進展させる恐れも否定できない。
それでもブッシュ政権は「金正日政権の交代、あるいは崩壊は政策上の目標ではなく、自然の帰結であり、我々は外部からそれを見守っているに過ぎない」との立場を崩さないだろう。合意文書の中で「共存共栄」という表記を巡って、米側が文字通り「共存」を意味するような「co-exist」ではなく、単に物理的に「そこにいる」という意味合いが強い「exist together」にすることを主張したのも、そうした深遠の意図をうかがわせる。
具体的に北朝鮮の体制転換がいつとは言えないが、6カ国協議という枠組みも、その合意内容もすべては「その時」のための舞台装置であり、将来の米国の為政者にとってもこの措置がベストなはずだ――。そんなホワイトハウスの論理回路が透けて見えてくるようだ。
米タイム誌のインタビューで、ライス長官は最後にこんな言葉を残している。
「(北朝鮮が供与を求めた)軽水炉は将来の問題であることを関係国が明確に表明することが重要だ」――。
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北朝鮮の核疑惑に関してはこの数年間ずっとこのような堂々巡りを繰り返しているのである.将棋で言えば「千日手」,チェスなら「パペチュアル」と呼ばれる状態である.チェスにはこの他に次に打つ手(合法手)がない状態―ステイルメイト(手詰まり)というのがあり,いずれも引き分けになる.連続チェック(王手)の千日手は特にパペチュアルチェックと呼ばれ,しばしば不利な側が強制的にドローに持ち込むために使われる.確かに北はミサイル発射・核実験で「連続チェック」をかけてきたと言える.これを北の「パペチュアルチェック」と見れば,「ドロー」が意味するものは北を「核保有国」として(国際的に)認知することに当たるだろう.次号ではこの「千日手」という状態について少し「数学的」に考えてみる.(馬場英治)
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6カ国協議は北朝鮮崩壊までの「時間稼ぎ」(10/14)
(NIKKEI.NET:NETアイ:プロの視点.2005-10-14)
北朝鮮の核開発問題をめぐる第4回6カ国協議は9月19日、北朝鮮が「すべての核兵器および既存の核計画の放棄」を確約するという内容を骨子とした初の共同声明を採択し、閉幕した。この中で、北朝鮮は核拡散防止条約(NPT)への早期復帰と国際原子力機関(IAEA)による査察受け入れも約束。見返りとして、ブッシュ米政権は北朝鮮を攻撃、あるいは侵略する意図がないことを国際社会に向けて確認した。最後の関門となった北朝鮮への軽水炉提供問題については、「適切な時期に議論する」という文言で米朝痛みわけの格好を取った。
◇ ◇ ◇
各国代表団が採択した共同声明の骨子は以下のようなものである。- 北朝鮮はすべての核兵器および既存の核計画を放棄し、NPTとIAEAの保障措置への早期復帰を約束
- 米国は北朝鮮を攻撃・侵略する意図がないことを確認
- 北朝鮮の核の平和利用の権利を他の参加国は尊重し、適切な時期に軽水炉提供を議論
- 米朝は国交正常化への措置を取ると約束
- 日朝は平壌宣言に従い、過去の清算と懸案の解決を基礎に国交正常化への措置を取ると約束
- 第5回6カ国協議を北京で11月初旬に開催
(9月20日付け日本経済新聞から)
このほど極秘に来日した米政府筋によると、米側で合意締結に熱心だったのはライス国務長官だった。ラムズフェルド国防長官ら国防総省の中枢や、ホワイトハウスでは北朝鮮の「約束」に懐疑的な空気も強かったが、当初から6カ国協議を推奨していたライス長官はブッシュ大統領に対し、「イラク情勢が難しいままのことを考えれば、イラクに集中すべきだ」(米政府筋)などと進言。結果、ブッシュ政権は発足当初の「北朝鮮とは一切取引も交渉もしない」という立場を大幅に変更し、妥結に踏み切ったという。この辺のやりとりについては、ライス長官自身も米タイム誌とのインタビューで一部を開陳している。ライス長官によると、中国が声明の第5次草案の作成段階で北朝鮮が求める軽水炉提供を「適切な時期に議論する」との文言を新たに加えた上で、米側に「受け入れるか、否か」と打診。この返答を巡って、ブッシュ、ラムズフェルド、ライスの3氏の間などで激しいやりとりがあったという。インタビューの中で、ライス長官は最終的に「受け入れ」を決めた理由として、草案の文言で核廃棄の範囲について、北朝鮮が主張する「核兵器関連計画」に限定せず、あらゆる核計画を対象に含めていたことを挙げている。
だが、ホワイトハウス内部のやりとりに通じている米政府筋はこれを「あくまでも表向きの理由」と断じる。そして、米側が合意文書受け入れを決めた本当の理由について、自嘲気味にこうつぶやいた。
「実態は問題の先送り。坂道に向かって、カンを蹴ったようなもの。それが現実だ……」。
「政権交代」を究極の目標にしているとされたブッシュ政権の北朝鮮政策については、国内外から「無策の典型」(キャンベル米戦略国際問題研究所副所長)と激しい批判を浴びていた。6カ国協議開催は幾分、それらを和らげたものの、ブッシュ政権の高官らは本音ベースで「結局、北朝鮮が核兵器を諦めることはないだろう」(前ブッシュ政権高官)と漏らし続けていた。ここで基本的な疑問が生じる。6カ国協議を続けながら、それが有効ではないと察知しているとしたら、米国は一体、どうしたいのか。北朝鮮の「非核化」という当面のゴールに向け、ブッシュ政権はいかなる政策を志向していくというのだろうか。
この疑問を解くため、父ブッシュ政権時代の1992年に北朝鮮交渉に臨み、子ブッシュ政権の内情にも詳しいカンター元国務次官(政治担当)の言葉を再び引用したい。
「政権交代とは政策の目標ではなく、自然発生的に起こることの結果に過ぎない」
これまでの経緯から見て、ブッシュ政権は北朝鮮が今後も核放棄を巡ってきめ細かい条件闘争を繰り広げ、米国を2国間交渉に引きずり込んでくる可能性が高いと見ている。一方で、北朝鮮の国内情勢について、ブッシュ政権内には「崩壊に向かって突き進んでいる」(前米中央情報局=CIA高官)との見方が根強い。そして、残る任期が3年を切ったブッシュ大統領にとって、この問題を任期中に片付けられる可能性は極めて少ない。
これら3つの変数を組み合わせると、6カ国協議という連立方程式はブッシュ政権にとって、北朝鮮崩壊までの「時間稼ぎ」の場に過ぎず、その合意内容も北朝鮮に核を放棄させるためというより、この問題が自国の外交・安全保障政策上の重大な懸案にならないための「保険」のようなものと解釈できる。
もちろん、北朝鮮が米側の悲観的予測に反して、核放棄に向かって具体的に動き始める可能性も除外はできない。逆に、米国にとっての「時間稼ぎ」が北朝鮮にとっても強硬派・ブッシュ退陣までの「時間稼ぎ」となり、ブッシュ政権の問題先送り姿勢をいいことに、核開発計画を一層進展させる恐れも否定できない。
それでもブッシュ政権は「金正日政権の交代、あるいは崩壊は政策上の目標ではなく、自然の帰結であり、我々は外部からそれを見守っているに過ぎない」との立場を崩さないだろう。合意文書の中で「共存共栄」という表記を巡って、米側が文字通り「共存」を意味するような「co-exist」ではなく、単に物理的に「そこにいる」という意味合いが強い「exist together」にすることを主張したのも、そうした深遠の意図をうかがわせる。
具体的に北朝鮮の体制転換がいつとは言えないが、6カ国協議という枠組みも、その合意内容もすべては「その時」のための舞台装置であり、将来の米国の為政者にとってもこの措置がベストなはずだ――。そんなホワイトハウスの論理回路が透けて見えてくるようだ。
米タイム誌のインタビューで、ライス長官は最後にこんな言葉を残している。
「(北朝鮮が供与を求めた)軽水炉は将来の問題であることを関係国が明確に表明することが重要だ」――。
by exod-US
| 2006-11-23 20:26
| 金正日ミサイル乱射事件