年々厳しくなっている国土交通省の騒音規制。ハイパフォーマンスマフラーを開発するHKSではどのように対応しているのか。現在開発中の新型GRヤリス用マフラーのテストを特別取材した。
スーパーターボマフラー開発中
静音・低背圧をコンセプトにしたスーパーターボマフラー。GRカローラ用リーガマックススポーツで得た知見を生かし、重厚な低音を強調した力強いサウンドを再現。
自社内の試験路で即テストデビューから3年でビッグマイナーチェンジを実施して「進化型」にスイッチしたGRヤリス。伝家の宝刀、G16E-GTS型1.6L 3気筒ターボエンジンの最高出力は従来型の272馬力から304馬力に、最大トルクが370Nmから400Nmに引き上げられたことに伴い、マフラーの構造も一部変更されている。
HKSでは後期型(2024年4月以降のマイチェン後モデル)に適合するスポーツマフラーの開発にいち早く着手。道路運送車両法保安基準について国土交通省が定める認証機関により確認を受け、認証された「車検対応品」のスーパーターボマフラーを2タイプリリースする。
前述した保安基準とは10年4月1日以降に生産されたクルマに適用される消音器(アフターマーケット用マフラー)に対する騒音規制のことで、GRヤリスなどフロントエンジン車の近接排気騒音は96dB以下、加速騒音は82dB以下という条件をクリアしなければならない。
HKSは自社内に消音器の基準適合性の確認を実施できる試験路を持ち、国交大臣の登録を受けた認証機関(JQR)が騒音試験に立ち合い、性能を確認したマフラーに対しては「性能等確認済表示」がなされ、マフラー本体にプレートで溶接される。
路面の規格なども厳格に定められていて、自社内でマフラーの騒音試験ができるのはHKSを含めごくわずか。試作品ができたらすぐにテストして課題点を洗い出して……を繰り返せるのが自社に試験路がある強みで、開発期間を大幅に短縮できる。
後期用マフラーの開発に役立ったのが、スペックが近いGRカローラの知見だった。低回転時の不快なこもり音を抑え、回転上昇に比例して迫力を増す重厚なサウンドを奏でるように、サイレンサー内部のパイプの長さなどを細かく調整しながら試験路を走り、車外と車内で聞こえる音を納得ゆくまで調律した。
難しかったのが静粛性と通気抵抗を減らす低背圧の両立。スーパーターボマフラーはマフラー交換以降のECU書き換えなどのアップデートを見据え、純正よりもパイプ径を太くして排気効率を高めている。車内のこもり音を抑え、加速騒音を基準値内に収めるためにトライ&エラーを重ねて、3気筒独特の音を低減。快音を奏でるマフラーを完成させた。
HKS[エッチ・ケー・エス]
スーパーターボマフラー アーバンマットエディション開発中
金属の質感を残しつつ柔らかく上品な輝きを放つ、インナースリット加工を施したアーバンマットテール。卓越した溶接技術が備わる匠によって作られるフラッグシップマフラーだ。センターパイプも付属する。
●近接排気騒音は車両・測定マフラーを十分に暖機し、最高出力回転数の75%の回転数までエンジンを回した状態を一定時間保持し、急激にアクセルを離しアイドリング状態になるまでの最大音量値を測定する。マイクはマフラー端から45度・0.5m後方に設置●加速走行騒音の測定機器。フロントバンパー中央のセンサーが加速騒音測定区間に設置した磁気マーカーに反応し運転者にスタートとゴールを知らせる。車外の検査官が認識できるよう、アクセルを全開にすると屋根上のランプが点灯する●周囲の反射音の影響を受けない乾燥した平坦舗装路で、風速などさまざまな条件が定められている●3速・50km/h定速で走ってきて、測定区間に入ったらアクセル全開にして加速走行騒音を計測。ATやCVTはアクセルオンでキックダウンして回転が急上昇するために騒音を抑えるのに苦労する写真左より
開発部 マフラー開発課
中村雅治さん斉藤龍弥さん小林大祥さん●認証取得のレギュレーションに合致させつつ、スポーツマフラーに求められる性能を追求し音質にこだわった。試験をクリアしスタッフの表情にも自信がみなぎる〈文=湯目由明 写真=岡 拓〉
■問い合わせ先
HKS
TEL:0544-29-1235
https://www.hks-power.co.jp/