東武6050系とは (トウブロクセンゴジュッケイとは) [単語記事]

東武6050系とは、東武鉄道が保有する近郊型電車である。

概要

元々は国鉄の『日光型列車』『準急型列車』に対抗するために、DRCと共に、旧型列車を置き換えることにより、アコモデーションや走行性能の向上を目的として、8000系で培った技術を反映した近郊型電車『6000系』をルーツとする。
勘の良い皆様ならもうお分かりかと思うが、この605 0系は、6000系の走り装置に完全新造の車体を組み合わせるという、所謂車体更新型の車両として、昭和60年より営業運転を開始した。

私鉄なのに・・・

乗ったことがある方達ならお分かりかと思うが、古き良き時代のあの列車消毒剤独特の匂いを纏う本系列は、国鉄急行型列車を連想された方も多いのではないだろうか？全盛期の運転区間は東京都台東区の浅草～栃木県日光市の東武日光・過去は福島県南会津町の会津田島と会津方面では実に190km以上の距離を走破していた事からも、現代の首都圏では珍しくなった『中距離列車』であったが、現在は最大２両組成とし、臨時運用で南栗橋周辺まで顔を見せる以外では、野岩鉄道会津鬼怒川線の新藤原～会津高原尾瀬口間のローカル輸送に従事しており、一部が鬼怒川温泉まで直通する。

6000系時代からこのような走行区間であるために、又、駅間距離が特に長い区間での運用が主のため、かなり特殊な走行性能となっている。

まずは山岳区間での登坂性能を稼ぎだすため、8000系と同様当時最強クラスの130kw/h出力の主電動機を装備した。これにより、日光線の連続25‰勾配にて停止しても、余力をもって発進出来るようにした。
その反対の連続下り勾配にて、速度を節制させる目的(下り勾配には駅間標準勾配の数値によって制限速度が法律で適用される)で抑速ブレーキを装備。それに対応するために、発電ブレーキを装備している。

ところが、全て2両編成の本系列。しかも1M1Tであることから、どうやって発電ブレーキとカム進段を両立するん？という問題を『永久直列24段』という荒業でやってのけている。24段というと大した事無さそうだが、直列つなぎのみで、電機子電流を制御するというのは、加電圧を増し増しに出来ない=引張力を犠牲にするので、あんまり採用例はない。それを通常の倍以上のカム段数を差し込み、限流値を適正に保つことで一定以上の性能を確保している。床下の抵抗器がビッシリ並んでいるのはこれが理由である。
また、湯西川温泉駅以北からは豪雪地帯となるので、耐寒耐雪仕様となっており、無接点化によるメンテナンスフリー化も施されている。
ちなみに直並列制御に換算すると営団3000系クラスの力行77段相当の細かい制御方式であることを明記しておこう。また、平野区間での高速性能を両立するために、弱め界磁を20％までと広く取り、通常起動加速度の1.65km/h/sが多少85km/h以上から緩やかに落ち込みつつも時速100km/h付近までずっと続く仕様となっている。尚、いつの間にか営業最高速度が向上されており、従来300系同様の105km/hだったものが、それらが揃って110km/h（実際筆者も結構目撃＆下記の草加駅の通過動画がほぼ110km/h）となっているようだ。尚、限流値増モードとすると、起動加速度が2.5km/h/sとなる。東武の整備班は非常に優秀なのか、この系列に限らず直流電動機を結構な過負荷で使用している物が非常に多いのだが、OVR故障をほぼ聞かない。話こそ逸れるが、特筆すべき事項だと思われる。
同様な事例としては、名鉄（103 0系 123 0系が超過負荷運用＆電動機が50年物）や近鉄(大阪線下り榛原までの連続登り33‰勾配の連続力行)もなのだが、長大私鉄の整備班は化物揃いということなのだろうか。

とにかく揺れない

前述の走行装置も去る事ながら、電動空気圧縮機の2重装備、砂撒き装置、住友金属謹製ミンデンバネ台車等、この時代の列車としては破格の重心の低さに加え、通常なら特急車両にしか装備しないオイルダンパーを軸バネに装備する、細かい直列進段による電流のジャーク具合など、乗り心地がとにかく良い。

設備

2扉車である。2022年現在は野岩鉄道線内完結運用(極一部、東武鬼怒川線に入る)に従事しているが、過去は送り込み輸送で早朝深夜の旧準急(現：区間急行)にも充当されていた。・・・お察しの通り、準急・区間急行は激しくドア付近が混んでいました・・・。
駄菓子菓子、もといだがしかし。1,525mmと広めのシートピッチが確保されているので、ボックスシートなのに窮屈さを感じさせない（参考までに、JR 車両の標準的なシートピッチは1,490～1,500mm前後である。流石に419系や西武4000系、京急600形・1000形や南海1000系・2000系の車端部に設置されたボックスシートには負けるが）、大型テーブル装備でお弁当も楽に食べられる、ふかふかクッションと背もたれのフィット感(実は更新車と新製車でちょっと角度が違う。後者の方がRがよりつく)はあまり他に類を見ない。とても快適に長距離移動が出来る仕様だ。

また、関東では非常に珍しく蛍光灯カバー装備、トイレとゴミ箱装備、東武お馴染み強力冷暖房等、車内設備は、当時の近郊型としてはかなり豪華な部類なのではないだろうか。また、過去の快速運用時は運行の性格上3階立て列車も頻繁だったので、誤乗防止の為に車内にも字幕式行先表示器が設置されている。

634型

605 0系のうちの6177・6178編成が総合車両製作所にて魔改造され634 型という名前をもらい2012年 9月27日に出場、逗子から新鶴見や熊谷貨物ターミナルを経て甲種輸送された。愛称は「スカイツリートレイン」勘の良い方ならもうお気づきだろうが634 型の「634」というのはスカイツリーの高さ634ｍにちなんでいる。座席高床構造化や天窓もどきの展望窓、前面展望スペースなどもありかぶりつきも出来るようになっている。2012年 10月27日にデビューする予定でしばらくは団体専用列車として運転されるとのこと。

余談

とにかく過去は運転区間が広かったので、今のローカル運用専属になっても字幕の数が半端じゃない。乗車機会があれば東武日光や会津田島・新藤原等で字幕回転を見て頂くのもいいだろう。中々行き先まで回り切らない。
2018年 6月現在は、日光線南栗橋以北での特別料金不要列車においての、唯一の優等運用を担当する車両である。以前はバンバン浅草から中距離列車が出ていたが、分断化の理由はわからなくもないが、混んでいるJRよりも銀座線で浅草に逃げて東武で北上するユーザーはかなり居たのだけれど、今後に期待。期待してるよ東武さん！
その唯一の優等である急行運用時の走りは、全く老いを感じさせない見事なものである。

(余談だが筆者は昔、再開発された浅草～10両で、動物公園で切り離して4両宇都宮か日光行き・6両伊勢崎行きの優等が将来出来るんだろうなとか思っていた。)

又、この605 0系は野岩鉄道・会津鉄道も保有している。経費節減の為に東武鉄道からの譲渡という形を取っている。従って、検査や運行は東武車と全て同一である。

中扉締め切り機構を持つが、半自動扉ではない。なので、座る場所によっては、野岩鉄道線内の交換待ちでスーパーサムイ現象を体験出来るかもしれない。

ちなみにこの605 0系のデザインは、後の8000系更新車や100 30系に採用され、カラーリングは100系、300系・350系に採用されている。割りと最近の東武車のパイオニア的存在だったりする。
そして急行灯がなんかちょっと格好良い。

そうそう。この東武6050系、今では臨時とはいえ都内にまで乗り入れる車両としては恐らく最後のDH-25形コンプレッサー搭載車両です。
あの独特のトコトコトコトコ・・・という音を味わえる、最後の車両です。貴重品です。

ついに廃車発生

代替計画もなく、安泰だと思われていたが、2017年のダイヤ改正でリバティこと東武500系が就役し、都内から福島県までの中距離輸送全てを担うことになった。
これにより、605 0系は南栗橋以北専属運用となり、組成両数も4両となった。従って、余剰車が発生したために残念ながら廃車が発生した。

これからは、野岩鉄道と会津鉄道の懐事情にもよるが、車齢で言えば6000系からの更新車は還暦を迎える車も出てくるので、跡継ぎが出てくるのは時間の問題であろう。
しかしながら、私見ではあるが、変に半導体を使わない純然たる抵抗制御車なので、部品調達で苦労すると思われるのは電機子のブラシくらいであろうか？チョッパ車よりは整備面では有利と思われる。

東武らしさが随所に光る本系列。
皆様も是非、この車が居なくなってしまわないうちに、乗っておいて頂きたいと願うばかりである。
運用区間の沿線車窓はトンネル多めの野岩線を含めても素晴らしい、の一言と言っておく。

2022年現在、全ての車両が東武線完結運用を失い、野岩鉄道線内で2運用のみの寂しい状況となった。
現状コロナ禍で定期外収入が大きく落ちている現状で、野岩鉄道の収益状況も厳しいものとなっており、インバウンド等定期外収入が大きくなる要素が無い限りは、廃車を前提にした休車措置となる。
日光線系統の特別料金不要列車は20400系に置き換えられ、全てワンマン運転となったので、今後605 0系の運用が復活する可能性は限りなく低くなっている。
しかしながら、貴重なトイレ付きクロスシート車両でもあるので、長距離運行を含む日光鬼怒川エリアでの使い勝手は抜群に良いために、再度の表舞台登壇を筆者としては願っている。