石原莞爾とは (イシワラカンジとは) [単語記事]

石原莞爾は昭和初期の陸軍軍人。生没年1889年（明治22年）～1949年（昭和24年）。

若いころからから特異なキャラクターで、天才とも異端児とも言われた。

姓の読みはイシハラではなくイシワラ。しかし孫にあたる石原俊爾はイシハラであり、現在はイシハラと読まれることも多く、どちらでも間違いではない。

出自

山形県の生まれ。あまり体は丈夫ではなかったが、やんちゃな少年であり、陸軍軍人への道を選んで、陸軍地方幼年学校に進学する。陸軍中央幼年学校→陸軍士官学校→陸軍大学校と順調に履歴を重ね、いくつかの実技を除いて抜群の成績を修めている。反面、破天荒な性格から問題児とも見なされた。当初、石原は幹部候補となって陸軍大学校まで行く意思はなく、現場での部隊勤務を志望していたが、上官命令でやむを得ず進学したという。最終的には陸軍大学校を次席で卒業している。

石原は軍務をこなしつつ、戦略研究を重ね、将来に起きるであろうアメリカとの世界大戦に備えて、満蒙に王道楽土を建国すべきと着想するに至り、実現させるべく行動を開始する。

満州事変

1928年に関東軍作戦主任参謀（中佐）として満州に渡り、関東軍の参謀らと柳条湖事件を画策する。

当時満州は日本の支配を嫌った朝鮮人が多数入植しており、現地人の満州人や中国人と農地や治水を巡ってたびたびトラブルになっており、その際には中華民国の領土であるにもかかわらず朝鮮に赴任していた日本の憲兵が介入するなど治安の面で不安定なところがあり、ときには銃を用いての戦闘も起きていた。

朝鮮半島では大正時代に入ると朝鮮人が日本の植民地支配からの独立運動が盛んに起きており、日本の朝鮮総督府は朝鮮人が起こす暴動を厳しく取り締まっていたが、満州においてはノータッチで朝鮮人たちの満州開拓での揉め事は朝鮮人が暴れる分には放置していた。当時の日本は南満州鉄道の利権を満州に持っていたため、朝鮮人の満州開拓は長期的に見て日本には都合が良かったからである。

昭和に入ると田中義一総理大臣が満州利権を日本のものにしようと積極的に動くようになり、南満州鉄道の防衛についていた関東軍も張作霖爆殺事件を起こすなど次第に暴走を起こすようになった。それに対し当時満州軍閥を治めていた張作霖の息子の張学良は父を日本軍に殺害されたことから日本に激しい恨みを持ち、中国国民党政府と結託して満州支配の確立に乗り出した。政府と関東軍の満州進出願望、朝鮮人の満州開拓、中華民国の満州支配確保の動き、これらが絡まって満州は紛争の下地が出来つつあった。

石原莞爾はそんな満州の事情を察知し、戦争を起こす火種さえあれば軍事力で勝る日本軍の手によって満州を占拠して日本のものにできると考えるようになり、占拠する大義名分のため『日本側の満州鉄道を自分達で爆破して、中国側の仕業に見せかけて軍を動かす』謀略を画策して実行。要はマッチポンプである。

当時満州には23万人といわれた軍閥・張学良の軍勢が存在していたが、石原莞爾は1万2千人の関東軍の兵力では足りないと見ると独断で朝鮮軍に満州への出動を要請し、朝鮮軍総司令官の林銑十郎も石原莞爾の謀略に相乗りして昭和天皇の詔勅と政府の許可を待たずに独断で朝鮮軍を満州に派遣させる。言うまでもなく重大な統帥権干犯であったが、これによって満州制圧は成功。当時の政府も昭和天皇も関東軍と朝鮮軍の暴走を止めることが出来なかった。世に言う満州事変であり、やがて満州国の建国へと繋がっていく。

満州事変は純軍事的・方面的には大成功な作戦であったが、中央のコントロールを無視した関東軍の暴挙でもあった。やがて上層部の許可を得ずに実績を築き、勲功を稼ごうとする中堅軍人の野心を刺激し、暴走の原因ともなった。ただ、関東軍の暴走自体は満州事変以前から存在している。

2.26事件

1936年、参謀本部作戦課長（大佐）の時に2.26事件が発生する。陸軍（皇道派）の青年将校が国家の元老を「君側の奸」として襲撃して殺害するクーデターを敢行する。皇道派や統制派といった派閥に属さない石原は、天皇親衛の一武人として振る舞い、陸軍省を制圧しにやって来た反乱軍の安藤輝三や栗原安秀が銃を突き付けて威圧してきたことに毅然と一喝して『何が維新だ！天皇陛下の軍隊を私物化するな！』と激しく怒鳴りつけて反乱軍の介入を許さなかった。

このことは昭和天皇も高く評価しており、満州事変の首謀者でありながらも2.26事件での石原の功績を認めている。

軍部での孤立

満州国建国までは石原の計画通りであったが、理想家である石原と現実は大きく乖離していく。あくまで日本が支配するのは満州までで、満州の資源や利権を日本が獲得して有効に使って発展させる石原の理想に反し、関東軍はさらなる中国支配の拡大を目指して動き出し、石原は次第に困惑していく。

柳条湖事件が発生して中国に進出している日本軍が再び独断の動きを見せているときに、石原莞爾は抑えに赴いたが、関東軍参謀の武藤章から「閣下が満州でやっていた事と同じ」と言われた時は、舌鋒鋭い石原も黙るしかなかったという。現に日中戦争前には中国との全面戦争をする路線には反対を唱えている。石原の構想では中国は敵国ではなく、協調してアメリカと当たる為の存在であった。もっとも石原莞爾が起こした満州事変と満州国建国によって中国人の反日世論に火がついて、当時の中華民国では内戦状態にあった中国国民党政府と中国共産党が抗日で一致して日本に対して徹底抗戦の構えを見せており、石原の理想は甘い考えでしかなかった。中国人たちが自分の理想に従うはずもないことを考慮していなかったのである。

困り果てた石原は親交の深い板垣征四郎を陸軍大臣にすべく、首相候補となる林銑十郎大将に接近するも、その林銑十郎もまた中国支配拡大に傾いていたことから何ら得るものが無く徒労に終わる。

東條英機との対立

1937年に再び満州に渡り、関東軍副参謀長（少将）として着任する。この時の関東軍参謀長が東條英機であった。満州国に不干渉という石原の方針は東條には受けいられず、性格の不一致もあって両者は感情的にも深刻に対立する。

翌1938年に石原は左遷同然に満州を離れ、本土での司令官～師団長～予備役に転補される。軍での出世街道から外れるだけでなく、太平洋戦争前に石原の軍歴は閉ざされる事となった。最終階級は中将。対照的に東條は中央に戻って重きをなし、陸軍大臣～首相へと上り詰める。

予備役以後の石原は主に大学講師を務めるが、東條の圧力もあり程なく辞職する。

太平洋戦争

太平洋戦争では絶対不可と主張し、それまでの大陸での戦果を手放してでも回避すべきとしたが受け入れられ事はなかった。開戦後は必ず負けると公言している。戦時中は軍事に関わる事はほとんど無かったが、政治的には東亜連盟の指導者として一勢力を築いており、中国ラインを通じての和平工作や、東條英機暗殺計画にも一枚噛んでいるが、ともに失敗している。

戦後・晩年

終戦後は東久邇内閣からの内閣顧問へ打診があったが断っている。また、極東軍事裁判へと出頭するが、満州事変の主犯格の一人にもかかわらず、戦犯からは外される。皮肉にも筆頭戦犯となった東條と敵対していた事が幸いした。この裁判で数少ない軍部での理解者であった元上官の板垣征四郎は別件で起訴されて、A級戦犯として処刑されている。

以後は末弟と支持者・同志たちと農場で暮らして余生を過ごす。1949年の終戦記念日に、かねてからの病が悪化して死去。享年60才。

人物

現在でも著名で人気のある軍人の一人であり、カリスマをもつ軍事的天才と見なされる事も多い。
目上の者には非常に強く、目下の者に対しては優しい人となりだったという。特に連隊長・師団長時代、兵士と直に接する立場の時は、兵士の待遇改善に心を砕いていたという。国籍を問わず熱心な支持者も多かったが、陸軍内部では組織におさまらず、かなり嫌われていた。昭和天皇も石原のような癖の強い人物は忌避していたようで、師団長に勅任するには難色を示していたという。投書魔である石原は天皇にまで投書をしていたといわれる。

軍事理論家としても知られ、いくつかの著書を遺している。特に先達としてナポレオンとフリードリヒ2世（大王）に傾倒していた。熱心な日蓮主義の信者であり、石原独特の戦略思想にも重大な影響を与えている。代表的な著書である『最終戦争論』と『戦争史大観』は現在まで版を重ねている。

豪傑めいた面とは別に酒や煙草を嗜まず、女性関係も清廉（若い頃の事故が原因といわれる）であった。結婚は二回している。

逸話

誇張された伝説も含めて逸話が豊富な人物である。

少年時代に乃木希典の家にアポ無しで遊びに行き、ご飯を食べた。
学生時代、面倒臭い写生の授業に対抗する為に一計を案じ、自分の一物を写生。「我ガ宝ヲ写生ス」と提出。教官大激怒。
戦地における便所での暗殺防止に野糞を推奨。部下の羞恥心を取り除く為、部下を集めて目の前で用便をした。
宴会で上官から酒を勧められた時、下戸であった石原は「飲まぬ」と終始拒否して、上官の不興を買おうがおかまいなしであった。
連隊長時代に、農地を避けて突撃させた演習のやり方を、視察官に咎められた時は、死んだふりをしてやり過ごした。
2.26事件時に荒木貞夫大将と出会った時「おまえのせいだ馬鹿」と怒鳴りつける。荒木は若手将校をとても可愛がり、それが彼らの増長につながった事を咎めての事だと思われる。当然荒木大激怒。当時石原の階級は大佐であった。無礼を責める荒木に対して「そもそもクーデターが起きてんだから、上下も関係無いだろう」。
東條英機を「東條上等兵」と評して嫌い、それを隠そうともしなかった。講演会で「東條英機は銃殺されるべき」と暴言した事もあり、慌てる開催者のフォローも虚しく、「これは公的な発言です」と嘯いている。後に東條との対立を聞かれた時には「自分の意見が無いやつとは対立のしようがない」と答えている。
辻政信から「導師」と呼ばれて心酔されていた。
東京裁判出張所に赴く為にリアカーを使い、運転手は大山倍達たちが務めた。裁判で戦争の責任は何処まで遡るかと聞かれた時に「（開国の責任がある）ペリーを生き返らせて連れて来い」と無茶ぶりを言う。また、「満洲事変を起こした自分をどうして戦犯として起訴しないのか」と啖呵を切るが、これは公式の資料で事実でないとされる。石原なら言いかねないとして広まった有名な伝説。