堂場瞬一が生んだ、警察小説界のアベンジャーズ。「ボーダーズ」シリーズ4作目では、人間凶器と呼ばれる男の苦悩を描く【書評】
PR公開日:2024/12/20
「これは、警察小説界の『アベンジャーズ』だ!」。そう言われるほど優れた警察官たちが活躍する小説シリーズをご存じだろうか。その作品とは、堂場瞬一による「ボーダーズ」シリーズ(集英社)。警視庁に設置されたという設定の架空の部署・SCU(特殊事件対策班)を舞台とし、一つの部署では対応しきれない「境界線上の事件」を追うチームの姿を描き出したこの物語は、才能豊かな5人のコンビネーションが見事に掛け合わさった傑作なのだ。
そんなシリーズの最新第4巻『初心の業 ボーダーズ4』(堂場瞬一/集英社)がこのたび発刊された。このシリーズは、巻ごとにひとりのSCUメンバーを中心に据え、それぞれ独立した事件を扱っているから、シリーズを未読という人もこの巻から読み始めても充分楽しめる。最新刊の主人公は、SCUのナンバー2、49歳の綿谷。SCU配属前は、20年も暴力団対策課に所属していた綿谷は、「人間凶器」とも称されるほど、剛健すぎる男だ。だが、今回はどうも様子が違う。警察官としての仕事に行き詰まりを感じ始めているのに加え、父親が脳梗塞で倒れ、一命は取り留めたものの、介護問題が浮上。警察官だって、仕事とプライベートの狭間で揺れ動くのだ。そんな矢先、綿谷は、因縁の相手が関わる事件に巻き込まれていく。
父親が倒れ、故郷・盛岡に帰っていた綿谷は、6年前に取り逃した指名手配犯、広域暴力団の元幹部・菅原が、奇しくも盛岡で人質を取って立てこもっていることを知る。綿谷は、急遽、菅原の説得に当たるが、銃を持った別の刑事が至近距離に控えていることに気づいた菅原が思わず発砲したのをきっかけに、刑事も発砲、菅原は頭に被弾し、意識が戻るか五分五分の状況になってしまった。菅原の意識が戻らなければ、逃亡生活の全容は解明できない。さらには、綿谷は何者かに突然襲われ、負傷してしまい……。
物語の前半はうまくいかないことばかり。まさか、武道に秀でる綿谷が襲われるだなんて、綿谷自身も予想もしていなかったことだろう。周囲からは心配され、休むようにと言われるが、綿谷は菅原についての捜査を進めようとする。だが、SCUという組織は何と歯がゆい立ち位置であることか。SCUは組織として歴史が浅いため、警察という組織からすると少し浮いている。捜査をするといっても、外から口を出す形となるため、自分が捜査を主導したくても、他の顔を立てなければならない場面も多い。思うように進まない捜査に、綿谷は「父親の介護のためにも、警察官を辞めて故郷に帰るべきかもしれない」という考えを拭い去ることができない。
どんなに強い人間だって、ふとした時に、自信を失ってしまうことはあるだろう。そんな時に強い味方となるのは、やはり仲間の存在だ。公安出身の謎多きキャップ・結城、捜査一課出身であり並外れた観察力を持つ八神、「初の女性部長候補」と目される由宇、交通捜査課出身で車とITに強い最上——SCUのメンバーが綿谷をぐいぐいひっぱり、綿谷は次第に、元の調子を取り戻していく。どう転ぶか分からない事件捜査もスリリングで興奮させられるが、警察官ひとりひとりの人間臭い姿、チームの存在が胸を打つ。あなたも綿谷の葛藤を、そして、彼を支えるチームの大きさを是非とも体感してみてほしい。「このメンバーのSCUがずっと続けばいいのに」。ある変化の足音が聞こえる第4巻を読み終えた時、きっとそう思わずにはいられないだろう。
文=アサトーミナミ