被災地の復興事業をめぐる闇 震災の爪痕を直視する社会派ミステリー『彷徨う者たち』中山七里インタビュー

※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2024年3月号からの転載です。 甚大な自然災害が起きると、そこには“亀裂”が生じる。東日本大震災後の宮城県を舞台にした『彷徨う者たち』は、亀裂によって立場を、そして心を隔てられた人たちの物語だ。 取材・文=野本由起写真=川口宗道 「以前、アスファルトに亀裂が走っている被災地の映像を観たんです。同じ地域であっても、亀裂の向こう側は建物や電柱が傾いているのにこちら側は何ともない。とはいえ、こちら側に住む人たちも元通りの暮らしはできませんし、被害が少ない分、補償金が減額されるかもしれません。そのうえ、大きな被害を受けたあちら側の人たちとの関係もぎくしゃくするでしょう。『助かってよかった』ですむはずはなく、その亀裂が人間関係を隔てる境界線にもなる。心に生じた境界線を書けば、ひとつの小説になると考えました」 本書は、映画化された『護られなかった者たちへ』とその続編『境界線』に続く宮城県警シリーズの完結編。前2作の流れを汲んだ社会派ヒューマンミステリーであり、現代日本の様々な問題も炙り出している。 「今、経済やジェンダーによる格差など、…