「女装したらデート」女装から始まったちょっぴり不思議な交友関係。その先にいた、ありのままの自分を愛してくれる人
公開日:2024/12/30
恋人の前で、好きな人の前で、素の自分を出すことができない。
好きな人の前ではかわいく、そしてかっこよくいたいからこそ、さまざまな人が抱えがちなこの悩み。各々がその悩みにぶつかりながらも、少し歪な形の交流を経て、素の自分を見せられる安心感を知っていく――そんな男女の恋物語を描いたのが『休日限定彼女』(いなばみね/KADOKAWA)である。
物語の主人公・椎名は、かわいい女の子が大好きな独り身のOLだ。
モデルやアイドル、お店の店員さんに職場の後輩…。かわいい女の子の存在そのものが癒しでもある椎名。ある日、そんな彼女が社内一のモテ男・松井から告白されることに。
だがかわいい女の子以外に興味のない椎名は、むしろ自信満々の松井にドン引き。
高いプライド故か、やたら強引に迫る彼を拒否するため、椎名が出したのは「女装したらデートしてあげる」という提案。するとそれを真に受け、松井がまさかの女装に挑戦!?
女性だけど、イケメンより断然かわいい女の子が好き。
誰からも理想のイケメンとして見られるが、女装も意外と嫌いじゃない。
椎名と松井それぞれの“普通じゃない部分”、もとい人に引かれるかも、という一面を軸に描かれる本作。
ふたりの抱える一面とは異なるかもしれないが、「自分の本当の素顔を他人には、とくに恋人には見せられない」という点において、きっと彼女らに共感する人もいることだろう。
他者に見られたい自分の像と、本当の自分の像。その不一致に苦しむ経験は、おそらく男女問わず一定の人が経験したことのあるものだ。相手の求める自分でありたい。それは確かに好きな相手への思いやりからくる気持ちであり、そうやって背伸びをすることで、自身の成長に繋がることもある。
だが、人間は完璧な生き物ではない。だからこそ、背伸びが“たまに”ではなく、“ずっと”だといつか必ず疲れてしまう。
そのような経験を知っていればこそ、少しずつありのままの姿で距離を縮めていく椎名と松井を応援したくなってしまう人もいるはずだ。
そしてそんなふたりを見ているうちに、家族や友人、恋人でも、自分がありのままでいられる相手をもっと大事にしよう、とも思えるはず。
突拍子もない流れから始まった人生初の女装経験、そしてふたりの“女友達”としての交流。その先には、改めて男女として歩み寄るだけでなく、人として互いを尊重し合える関係になったふたりの姿がある。
物語は全3巻で完結。どんどん尊さと愛おしさが増してゆくじれったい恋路を、最後まで見届けてほしい。