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by chekosan
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映画「鉄くず拾いの物語」(2013年)

ひとりボスニア・ヘルツェゴビナ週間。

「ボスニアの花」に続いて、今のボスニア・ヘルツェゴビナの抱える問題を、当事者たちが「再現」した映画「鉄くず拾いの物語」を観ました。

この映画、公開当時に観たいと思いながら逃していました。

昨年、主演したナジフ・ムジチさんが亡くなったというニュースを見てショックを受け、観なくちゃと思いつつ、ようやく今頃です。



映画「鉄くず拾いの物語」(2013年)_b0066960_15365993.jpg


ボスニアの山里に住む貧しいロマ(いわゆるジプシー)のお母さんが3人目の赤ちゃんを流産するのですが、保険証がないために、高額の掻把手術を受けられません。後払いも分割払いも受け入れてもらえません。

ロマ人団体が社会保障事務所にかけあいますが、なんの支援もしてもらえません。

「子供の地」という団体が一緒に病院に行って交渉すると言ってくれるのですが、すでにそれまでに2回も病院から追い返されたお母さんは、もう行かないと言います。

最後の手段で、親せきの保険証を借りて、名をかたって処置をしてもらいます。一難去ってまた一難、病院に行っている間に電気が止められてしまいます。薬代や電気代をまかなうため、お父さんは故障した車を解体して売り、一家はなんとか危機を乗り越えます。


よくある普通のハンドカメラで撮影したドキュメンタリーのような作品。脚本もなしだそうですが、見入ってしまいました。

まずは仲睦まじい家族たちの様子、お母さんの作る、おいしそうなパンやおかず、斧や糸鋸だけで薪をつくったり、車を解体したりするたくましくて優しいお父さんの普段の生活の様子がていねいに再現されます。

ところがお母さんの具合が悪くなって、病院で門前払いをくうところからは、本人たちが当時を再現しているのだから無事乗り切ることはわかっているのですが、みなさんとても演技が自然なのでハラハラしどおしです。

でも、お父さんは憤ったりせず、方々にかけあい、仕事もし、子どもたちにも常に優しく接するのです。

お父さんの声が少し荒くなるのは、支援団体の人たちに、戦争の時の凄惨な光景を語ったときだけです。

この時の会話で、4年も戦争に行っていたのに、定職はなく、恩給も生活保護も児童手当も何ももらっていないこともわかってきます。

内戦が収まっても、国が混乱し、立て直せていないしわ寄せが、少数民族であるロマの人たちにはとりわけシビアに襲ってきているのです。


ただ、監督は、彼らはたまたまロマだったけれど、そこ(だけ)が主眼なのではなく、「ひとりの女性が医療を拒まれ、出血で死にそうになったという事実」に怒りを感じたのだと言っています。

これは誰にでも起こりうる話で、貧困の問題であり、国の医療システムのありようの話であり、医療者の良心の問題です。

かつてのユーゴでは、このようなことは起こらなかったといいます。国の崩壊、経済の崩壊、倫理の崩壊が、弱者をより苦境に追い詰めているのです。

必要なときに適切な医療を受けられて当然のことであるという制度や考えは、絶対的、恒久的ではないのです。日本でも崩壊しないとも限りません。

なんてひどい国、日本で良かった、とよそ事として言っていられるかどうか…  

監督のインタビュー↓

この作品はベルリン国際映画祭で銀熊賞、最優秀男優賞を獲得しました。それによって、ムジチさんは、一時期は定職を得て、保険証も手にしたそうです。

ところが、AFPの報道によると、その後、ムジチさんたちは、再びドイツを訪れ、難民申請をしますが、却下、国外退去を命じられます。鉄くず拾いに戻り、食べるのもやっとの生活に戻ってしまいました。





そして、銀熊賞のトロフィーを売って作ったお金で再びドイツに行って、ベルリン映画祭の主催者らに窮状を訴えようとしますが、それもかなわず、2018年2月、病気で亡くなったとのこと。まだ48歳でした。お父さんを亡くして、妻子はどうしているのでしょうか。


ーーー

この映画の監督は、ほかにも社会派の作品をいくつも発表しています。2016年の「サラエヴォの銃声」は劇場で観ることができました。ほかの作品も観ていきたいと思います。









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by chekosan | 2019-07-22 17:02 | 本、書評、映画 | Trackback | Comments(0)