業界2位のコンビニエンスストア、ローソンが新たな経営体制を発表した。6月1日付けで、竹増貞信副社長を社長兼COO(最高執行責任者)に昇格させ、玉塚元一社長が、会長兼CEO(最高経営責任者)に就く。

3月28日、会見後に固く手を握ったローソンの竹増貞信副社長(左)と玉塚元一社長(撮影:都築雅人)
3月28日、会見後に固く手を握ったローソンの竹増貞信副社長(左)と玉塚元一社長(撮影:都築雅人)

 「三菱商事グループ全体をもっと巻き込んで、グループの総力戦にもっていく。そうしないと勝てない」

 3月28日に開かれた会見で、玉塚社長は新体制の狙いをこのように説明した。筆頭株主であり、ローソンの株式を約32%保有する三菱商事。同社との連携を深め、グループ総力戦で戦うために、三菱商事出身の竹増副社長を、社長に据えるという。

 筆頭株主との連携を深めるように考えた背景について、玉塚社長は「最近のファミリーマートの動きなどを見ていて、三菱商事グループのリソースをもっと積極的に活用する必要があるという思いを強くした」と打ち明けた。

 ファミリーマートは今年9月をメドに、サークルKサンクスを傘下に持つユニーグループ・ホールディングス(GHD)と経営統合を計画している。ファミリーマートとユニーGHDの経営統合に向けた動きを機に、コンビニ業界の再編機運は急速に高まった。

 ファミリーマートの筆頭株主は伊藤忠商事。伊藤忠は、ファミリーマートの株式を36.9%保有している(2015年8月時点)。さらにファミリーマートとユニーGHDの統合までに、約6.7%の株式を買い増し、統合後の新会社でも約33.4%を保有する方針を発表している。

 業界再編を機にファミリーマートと伊藤忠の関係に注目が集まる中、玉塚社長は「業界再編はチャンスでありピンチ。ローソンも三菱商事グループの総力戦で取り組まないとピンチに陥るという大きな危機感がある」と語った。

ローソン次期社長に就く竹増貞信副社長の経歴とは(撮影:都築雅人)
ローソン次期社長に就く竹増貞信副社長の経歴とは(撮影:都築雅人)

 社長に就任する竹増副社長は、2014年に三菱商事からローソンに副社長として派遣された。三菱商事の畜産部門出身で、この4月から三菱商事社長に就任する同社生活産業グループCEOの垣内威彦常務とは畜産部門時代に約13年間、上司・部下の関係にあった。ローソンに入社する前の4年間は、三菱商事の小林健・現社長に業務秘書として仕えた。こうしたことから、「三菱商事出身者が社長となることで、三菱商事の覚悟を期待できる」と玉塚社長は語った。

筆頭株主、三菱商事が抱く思惑は?

 三菱商事出身の竹増副社長を、ローソンのトップに据えることは、三菱商事側にとっても大きな意味がある。ローソンとの関係をこれまで以上に強化したい思惑があるためだ。

 三菱商事は3月24日、2016年3月期の連結業績が1500億円の赤字に転落すると発表したばかり。資源価格の長期低迷を受けて、チリの銅事業などで4300億円の減損損失を計上することが原因だ。

 三菱商事にとって、安定的に利益を稼ぐために、非資源分野を強化することは喫緊の課題。畜産や食糧などの分野を歩んできた垣内常務が次期社長に就くのも、そうした背景と無関係ではない。三菱商事の小林社長は業績見通し下方修正の記者会見で、「これからはB to B(企業間取引)だけではなく、B to C(消費者向け取引)、コンビニやスーパーといったリテール(小売業)にかなり入っていく」と語った。

 非資源分野からの収益を拡大したい三菱商事にとって、ローソンはサプライチェーンの“川下”を強化するためにも重要な出資先だ。

 「三菱商事は今、非資源分野を強化しようとしている。(三菱商事出身者が社長になるのは)タイミングがいい。我々の方から三菱商事のリソースを貪欲に取り込んでいきたい」と玉塚社長は会見で語った。

 今後は、弁当など中食の製造委託先の生産改革や物流改革で、三菱商事傘下の三菱食品などと協業を深めるほか、原材料の調達やドラッグストアとの併設店の強化、今後予定するシステムの刷新などでも、「三菱商事グループのリソースを最大限活用していく」(玉塚社長)方針だという。

 竹増副社長は、「中国やタイ、フィリピン、インドネシアで展開している海外事業で、三菱商事の力をもっと生かせると考えている」と語った。

 両社の連携強化が、三菱商事の出資比率引き上げにつながる可能性について、玉塚社長は「ローソン側からコメントする話ではない」と言及を避けた。

新浪元社長、玉塚社長並みの存在感を持てるか

 新体制になった後も、当面の間は玉塚社長がコンビニ事業を統括し、竹増副社長は成城石井など、これまでローソンが買収した企業の運営や新事業を担当する。ローソンは現在、銀行業務への参入などを検討しており、ローソンの業容拡大を進める中で、三菱商事のリソースを活用するためにも、竹増副社長がローソンと三菱商事の連携を深める役割を担うというわけだ。

 だが、この日発表された新体制に対して、ローソンの加盟店オーナーからは疑問の声も挙がっている。

 2002年以降、ローソンを10年以上率いてきた新浪剛史元社長から、玉塚社長にバトンタッチされたのが2014年のこと。それまで玉塚氏は、2011年にローソン副社長に就任して以降、新浪元社長のナンバーツーとして加盟店オーナーなどとコミュニケーションを重ねてきた。

 そのため加盟店オーナーの中には、新浪氏から玉塚氏へのバトンタッチを好意的に受け止める声もある。「新浪さん時代はトップダウンで組織がまとまっていた。それが玉塚さんに変わってチームで運営する体制に変わった。今は加盟店オーナーもローソン本部と一体になって改革を進めている。我々の意見を聞いてくれる玉塚さんを好ましく思う加盟店オーナーは多い」。ある加盟店オーナーは、玉塚社長の手腕を評価する。

竹増副社長(写真左)のリーダーシップが問われる(撮影:都築雅人
竹増副社長(写真左)のリーダーシップが問われる(撮影:都築雅人

 一方、次期社長に就く竹増氏については、「正直、まだ竹増さんの印象は薄い。カリスマ性で率いた新浪さんや、チームをまとめる玉塚さんに続いて、ローソンの加盟店オーナーを束ねることができるのだろうか」と話す。

 確かに、竹増氏がローソン副社長に就いたのは2014年と最近のこと。玉塚氏が社長に就くまでおよそ3年、新浪元社長の片腕を務めたのに比べれば、ローソンの在籍期間そのものが短い。ローソン副社長に就いた後も、店舗開発や事業開発、ローソンストアの建て直し、エンターテインメント・サービス事業などを担い、加盟店オーナーとの関係が非常に深いというわけではないようだ。

 仮に今後、竹増副社長がローソンの事業全体を掌握することになるとすれば、それまでに加盟店オーナーの信頼を得ることが重要になる。折りしも今年9月に予定されているファミリーマートとユニーグループ・ホールディングスの経営統合を通して、ローソンはコンビニ業界の2位から3位に転じる。

 本部と加盟店オーナーの意欲を高め、もう一度2位の座を目指すためには、経営陣のさらなるリーダーシップが必要だ。筆頭株主である三菱商事との連携を深める戦略には理があるが、商社の経営資源をつぎ込んで、コンビニの本業が強くなるという保証はない。業界トップのセブンイレブンは、商社の系列の中で成長してきたわけではない。ローソンでは新浪氏、ファミリーマートでは上田準二氏と、長く筆頭株主である商社の出身者がトップを務めてきたが、両氏とも商社とは一定の距離を保った独自の経営手法が奏功してきた面がある。

 今後、ローソンは三菱商事との関係強化に大きく舵を切る。だが強力なライバルと戦うための「未来図」を描き、社員と加盟店を率いることも求められている。難しい環境の中で、竹増次期社長は試されることになる。

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