第1章で私は、人にはそれぞれ思考の背景に自分なりの「当たり前(コンテクスト)」があり、その違いがコミュニケーションのズレを生むこと、そしてそのズレが時にリーダーを困らせることを紹介しました。個々のメンバーが、どんなコンテクストを持って仕事しているのか。そのことをリーダーが理解しておくと、チーム全体でのコミュニケーションがスムーズになります。

 皆さんが後輩1人の面倒だけを見ていればよかった頃は、相手に集中して時間を割き、話し方も相手に合わせて変えるといった調整をしてきたはずです。何か問題が起きてもそのたびに話を聞き、そのメンバーのレベルに合ったアドバイスができていたでしょう。「その人に合わせて」「問題が起きてから」対応すれば間に合っていたのです。そして「メンバーと自分の間のズレ」だけを気にしていれば、「事足れり」としていたでしょう。このとき、後輩メンバーと自分の間のコミュニケーション・ラインは1本だけです。この1本にズレが起きていなければいい。

コミュニケーションの“回線数”が一気に10倍になる?

 チームリーダーを任されてメンバー(部下)が3人になると、コミュニケーションにまつわる負荷はどう変わるでしょうか。まず、メンバーと自分のラインが合計で3本になります。コミュニケーションラインが3本に増えたときの負荷の大きさを、子育てに例えて説明しましょう。

 子供2人までは、両手で子供の手をつなげますよね。目の届く範囲で遊んでくれるなら、2人がどこにいて何をしているかを確認し続けることも不可能ではない。極論すると「何となく」見守っているような状態でも、「何とかなる」わけです。これが3人になった瞬間、誰か1人の手を離さなくてはならなくなります。「何となく」で全員をコントロールすることは、難しくなる。誰か1人に気をとられている間に、元気があり余っている子が視界から外れ、思いもよらないところまで行ってしまうかもしれません。親としては、気が気ではありませんよね。

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