誤差1%と高精度の需要予測を可能にする森岡毅氏の数学マーケティング。今や、刀の強さをつくる武器になっているが、森岡氏は容易にそこにたどりつけたわけでない。追い込まれた末のある決断がその後の人生を大きく変えた。『森岡毅 必勝の法則 逆境を突破する異能集団「刀」の実像』(中山玲子著、日経BP)から一部を抜粋してお届けする(本文敬称略)。
盟友、今西との出会い
のちに森岡や刀がビジネスを展開する際の武器とする数学マーケティング。その芽生えには、もう1つの運命的な出来事が不可欠であった。刀の共同創業者でCIO(最高インテリジェンス責任者)である今西聖貴との出会いだ。
2000年代中ごろ、森岡が米プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)の世界本社に移籍したとき、今西は世界中の市場分析と需要予測モデルの開発をリードしていた。
「英語で話しかけてきて、中央アジアの方かな?と思ったら日本人だった。僕より19歳も年上なのに偉ぶらず、カジュアルに接してくれた」(森岡)
意気投合した2人は「ダンキンドーナツ」でよく語り合った。そこで森岡は今西に、個人的に師と仰ぐアレンバーグの存在を明かした。
「アレンバーグの理論をどうやって実践マーケティングに取り入れるか。今まで僕がやってきたことをすべて今西に開示した。今西もすごく喜んでくれた。『うわ、こんなことをやる人が、自分以外におったのか』と」
森岡は「我々の需要予測が精密なのは、時間と距離抵抗を読むからだ」と明言する。テーマパークにせよ商業施設にせよ、目的地までの距離の受け取り方は人それぞれ。遠くても飛行機で行けるなら近いと感じる人もいるだろう。
千差万別の“距離”への抵抗感――。
「これを数学的に計算するのは不可能だといわれてきたが、統計学的に処理してしまう方法を彼(今西)は思いついたんですよ」と森岡は感服する。のちに刀へと続く物語は、森岡と今西の「奇跡の邂逅(かいこう)」から始まった。
【初割・2/5締切】お申し込みで…
- 専門記者によるオリジナルコンテンツが読み放題
- 著名経営者や有識者による動画、ウェビナーが見放題
- 日経ビジネス最新号13年分のバックナンバーが読み放題