あけましておめでとうございます。2025年は「巳(み)年」。脱皮と成長を繰り返すヘビは、復活と再生の象徴とも言われます。日本経済も復活と再生を期す年にしていくことができるでしょうか。
昨年はホンダと日産自動車の経営統合に向けた動きや、セブン&アイ・ホールディングスに対するカナダのコンビニ大手アリマンタシォン・クシュタールの買収提案など、大きM&A(合併・買収)を目指す動きが相次ぎました。ウクライナや中東での紛争が収束しないまま、朝鮮半島や台湾を巡る緊張が高まっている点も気がかりです。1月20日には「タリフマン(関税男)」を自称するドナルド・トランプ氏が米大統領に就任。その政策は米国のみならず世界経済にも大きな影響を与えることは必定です。
2025年はどのような年になるでしょうか。日経ビジネスの副編集長陣に、今年の経済動向を読み解いてもらいました。
[電機]
2025年の電機業界の注目分野は、引き続き半導体です。世界半導体市場統計(WSTS)は24年12月、25年の半導体市場が24年予測比11%増の6971億ドルになるとの見通しを発表しました。日本円にして100兆円を超える額です。けん引役は生成AI(人工知能)。AI開発に不可欠な画像処理半導体(GPU)が需要を押し上げます。もっとも生成AI一辺倒の成長ストーリーには危うさも感じます。ラピダスが先端半導体の27年量産を目指すなど日本でも高まる半導体産業への期待。一方で実需がどれほど生まれるのかをしっかり見極めていく必要がありそうです。
[自動車]
自動車産業の秩序破壊の震源地は中国です。2024年は稼ぎ頭だった中国でシェアを落とした欧州自動車メーカーが業績不振に陥り、リストラを迫られました。同じく中国製電気自動車(EV)の攻勢にさらされたホンダと日産自動車が、経営統合に向けた協議を始めました。25年も中国メーカーの躍進は続きそうです。電動化や知能化の投資負担は重く、単独ではそれをまかなえないメーカーが多いため、既存の大手メーカーを中心に再編が進む可能性があります。
[金融マクロ]
京都など観光地にあふれるインバウンド(訪日外国人)は「安いニッポン」に大喜び。ところが我々日本人は賃金がなかなか増えず、身の回りで相次ぐ値上げにため息をついています。かつて駐在した東南アジアでも、高級店で羽振りがいいのは外国人とごく一部の現地富裕層という光景がありました。同じことが今、アジアをリードする先進国のはずだった日本で起きています。2025年は戦後80年の節目です。日本経済を再び立ち上がらせるため、政府・日銀や産業界はどう動くのか、しっかり目を凝らしていきます。
[エネルギー]
25年のエネルギー業界は、脱炭素に向けた新しいステージに突入します。12月に公表された「第7次エネルギー基本計画」の原案では、電源構成のうち再生可能エネルギーの割合を40年度には4~5割に引き上げ最大の電源とすることが示されました。立地制約が少ないペロブスカイト太陽電池など、日本が強みを持つ新たなエネルギー産業も立ち上がります。原子力政策も推進へと大きく舵を切ります。生成AI(人工知能)の普及で電力需要が急増しており、温暖化ガスが生じない原子力が重みを増しました。日経ビジネスはこうした最新動向を追いかけていきます。
[小売り]
2024年はセブン&アイ・ホールディングスがカナダの小売り大手アリマンタシォン・クシュタール(ACT)から受け、激震が走りました。MBO(経営陣が参加する買収)による非上場化もセブン側の対抗策として浮上しており、この展開に目が離せない年になるでしょう。百貨店大手のそごう・西武は夏に西武池袋本店(東京・豊島)を改装して開業します。ヨドバシカメラの出店で百貨店面積は半減。この大転換の成否はいかに。このほか、連結売上高が10兆円を突破しそうなイオンや、同3兆円を突破してグローバル展開を突き進むファーストリテイリングなどが、引き続き注目企業となるでしょう。
[テック]
2024年のテック業界をけん引した生成AI(人工知能)ですが、25年は「幻滅期」に突入するとの見方があります。米調査会社のガートナーは24年7月、生成AIのプロジェクトのうち少なくとも30%が、25年末までに頓挫するとの予測を発表しました。AIへの投資コストがかさむ一方、投資に対するリターンが現時点で見積もりにくいのが主な要因です。株式市場では24年、AI開発に伴う画像処理半導体(GPU)需要の高まりを受け、米エヌビディアが一人勝ちの様相を呈しましたが、こちらも株価高騰が一服する可能性があります。しかし、そうなったとしてもAIへの過剰な期待が落ち着くだけです。AIの社会実装において世界を驚かせるニュースは25年も次々と出てくるでしょう。
[通信]
まずは楽天モバイルが目標に掲げてきた、24年内のEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)ベース単月黒字化を達成できるかどうかに注目です。25年2月の通期決算でその結果が示され、楽天の今後を占います。NTTドコモの銀行事業参入も25年早々に動きが見られそうです。ドコモの前田義晃社長は「24年度中にめどをつけたい」と話す一方、24年11月には「少し焦っている」と進捗の遅れを示唆しています。国内競争環境を変える動きになるため注目です。24年は通信事業者による人工知能(AI)やデータセンター投資が目立ちました。25年もこの傾向は続くでしょう。NTTが総力を挙げて進める次世代情報通信基盤「IOWN(アイオン)」は、大阪・関西万博で従来の8分の1の低消費電力を実現するサーバー「IOWN2.0」を披露する予定です。こちらもIOWNの成否を占う大きな注目ポイントになります。
[人的資本]
人的資本の情報開示が義務化され、2025年で3年目。企業間で開示内容の充実度に差が出ています。開示情報は株主に限らず、学生や求職者からも広く注目を集めています。すべての団塊の世代が75歳以上になる「2025年問題」への対応も大きな課題です。国民の6人に1人が後期高齢者となり、シニアを戦力化することがすべての企業に求められます。働き方では4月に施行される改正育児・介護休業法が注目です。共通するのは企業主体から従業員主体の労働環境への変革です。人的資本に対する経営者の本気度が問われる年になるでしょう。
[経営]
日本を支える自動車、国境の壁に守られていた小売りなど、様々な分野で大再編の波が訪れています。記者として電機業界を担当していた身からすると、ある種の既視感を感じる光景です。感じるのは、「追い込まれてから手を打つことの難しさ」。生き馬の目を抜く資本市場では、目先の好不調によらず適時適切な経営判断を下し続ける、常在戦場の心構えが常に求められています。2025年1月20日、米国で第2次トランプ政権が始動します。多極化に向かう中で世界情勢は一層混迷を深めており、突発事態に対する機敏な経営判断が要求されそうです。一方、長らく閉鎖的とされてきた日本の資本市場は、株式持ち合いの解消が進むなど大きく変わりつつあります。大企業から中小・新興企業まで、どのようなステージの企業にとっても「経営の巧拙」がより厳しく問われる1年になりそうです。
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中村 元
Gen Nakamura
日経ビジネス副編集長
[電機]
2025年の電機業界の注目分野は、引き続き半導体です。世界半導体市場統計(WSTS)は24年12月、25年の半導体市場が24年予測比11%増の6971億ドルになるとの見通しを発表しました。日本円にして100兆円を超える額です。けん引役は生成AI(人工知能)。AI開発に不可欠な画像処理半導体(GPU)が需要を押し上げます。もっとも生成AI一辺倒の成長ストーリーには危うさも感じます。ラピダスが先端半導体の27年量産を目指すなど日本でも高まる半導体産業への期待。一方で実需がどれほど生まれるのかをしっかり見極めていく必要がありそうです。
大西 孝弘
Takahiro Onishi
日経ビジネス副編集長
[自動車]
自動車産業の秩序破壊の震源地は中国です。2024年は稼ぎ頭だった中国でシェアを落とした欧州自動車メーカーが業績不振に陥り、リストラを迫られました。同じく中国製電気自動車(EV)の攻勢にさらされたホンダと日産自動車が、経営統合に向けた協議を始めました。25年も中国メーカーの躍進は続きそうです。電動化や知能化の投資負担は重く、単独ではそれをまかなえないメーカーが多いため、既存の大手メーカーを中心に再編が進む可能性があります。
小谷 洋司
Hiroshi Kotani
日経ビジネス副編集長
[金融マクロ]
京都など観光地にあふれるインバウンド(訪日外国人)は「安いニッポン」に大喜び。ところが我々日本人は賃金がなかなか増えず、身の回りで相次ぐ値上げにため息をついています。かつて駐在した東南アジアでも、高級店で羽振りがいいのは外国人とごく一部の現地富裕層という光景がありました。同じことが今、アジアをリードする先進国のはずだった日本で起きています。2025年は戦後80年の節目です。日本経済を再び立ち上がらせるため、政府・日銀や産業界はどう動くのか、しっかり目を凝らしていきます。
吉岡 陽
Akira Yoshioka
日経ビジネス副編集長
[エネルギー]
25年のエネルギー業界は、脱炭素に向けた新しいステージに突入します。12月に公表された「第7次エネルギー基本計画」の原案では、電源構成のうち再生可能エネルギーの割合を40年度には4~5割に引き上げ最大の電源とすることが示されました。立地制約が少ないペロブスカイト太陽電池など、日本が強みを持つ新たなエネルギー産業も立ち上がります。原子力政策も推進へと大きく舵を切ります。生成AI(人工知能)の普及で電力需要が急増しており、温暖化ガスが生じない原子力が重みを増しました。日経ビジネスはこうした最新動向を追いかけていきます。
谷口 徹也
Tetsuya Taniguchi
日経ビジネス編集委員
[小売り]
2024年はセブン&アイ・ホールディングスがカナダの小売り大手アリマンタシォン・クシュタール(ACT)から受け、激震が走りました。MBO(経営陣が参加する買収)による非上場化もセブン側の対抗策として浮上しており、この展開に目が離せない年になるでしょう。百貨店大手のそごう・西武は夏に西武池袋本店(東京・豊島)を改装して開業します。ヨドバシカメラの出店で百貨店面積は半減。この大転換の成否はいかに。このほか、連結売上高が10兆円を突破しそうなイオンや、同3兆円を突破してグローバル展開を突き進むファーストリテイリングなどが、引き続き注目企業となるでしょう。
伊藤 正倫
Masanori Ito
日経ビジネス副編集長
[テック]
2024年のテック業界をけん引した生成AI(人工知能)ですが、25年は「幻滅期」に突入するとの見方があります。米調査会社のガートナーは24年7月、生成AIのプロジェクトのうち少なくとも30%が、25年末までに頓挫するとの予測を発表しました。AIへの投資コストがかさむ一方、投資に対するリターンが現時点で見積もりにくいのが主な要因です。株式市場では24年、AI開発に伴う画像処理半導体(GPU)需要の高まりを受け、米エヌビディアが一人勝ちの様相を呈しましたが、こちらも株価高騰が一服する可能性があります。しかし、そうなったとしてもAIへの過剰な期待が落ち着くだけです。AIの社会実装において世界を驚かせるニュースは25年も次々と出てくるでしょう。
堀越 功
Isao Horikoshi
日経ビジネス副編集長
[通信]
まずは楽天モバイルが目標に掲げてきた、24年内のEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)ベース単月黒字化を達成できるかどうかに注目です。25年2月の通期決算でその結果が示され、楽天の今後を占います。NTTドコモの銀行事業参入も25年早々に動きが見られそうです。ドコモの前田義晃社長は「24年度中にめどをつけたい」と話す一方、24年11月には「少し焦っている」と進捗の遅れを示唆しています。国内競争環境を変える動きになるため注目です。24年は通信事業者による人工知能(AI)やデータセンター投資が目立ちました。25年もこの傾向は続くでしょう。NTTが総力を挙げて進める次世代情報通信基盤「IOWN(アイオン)」は、大阪・関西万博で従来の8分の1の低消費電力を実現するサーバー「IOWN2.0」を披露する予定です。こちらもIOWNの成否を占う大きな注目ポイントになります。
宇賀神 宰司
Saiji Ugajin
日経ビジネス副編集長
[人的資本]
人的資本の情報開示が義務化され、2025年で3年目。企業間で開示内容の充実度に差が出ています。開示情報は株主に限らず、学生や求職者からも広く注目を集めています。すべての団塊の世代が75歳以上になる「2025年問題」への対応も大きな課題です。国民の6人に1人が後期高齢者となり、シニアを戦力化することがすべての企業に求められます。働き方では4月に施行される改正育児・介護休業法が注目です。共通するのは企業主体から従業員主体の労働環境への変革です。人的資本に対する経営者の本気度が問われる年になるでしょう。
広岡 延隆
Nobutaka Hirooka
日経ビジネス副編集長
[経営]
日本を支える自動車、国境の壁に守られていた小売りなど、様々な分野で大再編の波が訪れています。記者として電機業界を担当していた身からすると、ある種の既視感を感じる光景です。感じるのは、「追い込まれてから手を打つことの難しさ」。生き馬の目を抜く資本市場では、目先の好不調によらず適時適切な経営判断を下し続ける、常在戦場の心構えが常に求められています。2025年1月20日、米国で第2次トランプ政権が始動します。多極化に向かう中で世界情勢は一層混迷を深めており、突発事態に対する機敏な経営判断が要求されそうです。一方、長らく閉鎖的とされてきた日本の資本市場は、株式持ち合いの解消が進むなど大きく変わりつつあります。大企業から中小・新興企業まで、どのようなステージの企業にとっても「経営の巧拙」がより厳しく問われる1年になりそうです。