白石一郎を読み直して(2)
「おんな舟 十時半睡事件帖」(白石一郎)は、舞台が福岡藩から江戸屋敷へと移っている。後ろの解説を読むと、本作からそうなったようだ。ここでも十人の目付を束ねる総目付としての活躍だが、江戸の市井の模様も織り込まれ、現代でいう「援助交際」をテーマにした「おんな宿」は、弱い者に寄り添う半睡の優しさが描かれる。厳しさと優しさを備え持つ半睡は著者の生き様でもあるのだろう。
<黒田藩江戸総目付となり早や二年。半睡の見事な捌きで幾多の難事珍事は解決し、藩邸内に再び平安な日々が訪れた。「そろそろ邸内を離れ、江戸の市中で暮らしてみるか」そう思い立った半睡は、周囲の反対をよそに深川の町家で仮家住まいを始めた。江戸庶民と半睡の心温まる交流を描いた、珠玉の連作時代小説集。
「東海道をゆく 十時半睡事件帖」は、国許へ帰る半睡とその主従の東海道を西へ下る旅の模様を描いているが、最後の七話目は著者の絶筆で終わっている。事件らしい事件はなく、道中危難に遭ったところを助けた、病死した肥後藩重役の夫の遺骨を持って国に帰る未亡人との心の交流が中心となっている。
<「生きる者は生き、死ぬ者は死ぬ」。福岡藩江戸屋敷総目付を務める名物老人・十時半睡は、重病の息子弥七郎を見舞うために国許への旅に出る。息子の天運を信じる半睡はあえて陸路東海道を悠々と旅してゆくのだが、道中には様々な事件が巻き起こる。惜しくも著者の絶筆となった人気シリーズ最終作>
このシリーズは最初と最後の方を読んで、ちょうど真ん中(「刀」「犬を飼う武士」「出世長屋」)が抜けているのだが、記憶によれば、集中的に白石さんの作品を読んでいる時に読んでいるはずなので、「どうしても」読みたいというほどではない。そのうち機会があれば読んでみようとは思って居るのだが。それにしてもこのシリーズ、白石さんの晩年の過ごし方の理想像のような気がして仕方ないのだが。