偏読老人の読書ノート

すぐ忘れるので、忘れても良いようにメモ代わりのブログです。

百年文庫(93)

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93巻は「転」(コリンズ・中島賢二訳「黒い小屋」 アラルコン・会田由訳「割賦帳」 リール・山崎恒裕訳「神様、お慈悲を!」)


<収録作3篇はいずれも海外の作品。貧しい境遇におかれた主人公が、それぞれ事件に巻き込まれながらも強い意志と知恵で危機を乗り切り、人生を切り開いていくお話。タイトルからは「機転」「転機」といった言葉が浮かびます。特におすすめは、ドイツ語翻訳家・山崎恒裕さんによる新訳、リール作『神様、お慈悲を!』。舞台は16世紀、大聖堂脇で物乞い人生を送る偏屈な老人ハンスと、「彼こそ最大の友人であり、自らの後継者」と見定めた若者との交流、別れがユーモアを織り交ぜながら描かれます。テンポよく展開し、思わぬ結末に導かれる三篇>


初めて知る名前の作家さんばかり。「黒い小屋」は、サスペンス小説で、追い詰められた娘と、ならず者二人との必死の闘いが臨場感たっぷりで、息もつかせず展開していく。ラストはハッピーな「転」になるのも良い。三篇の中での私のお薦めは本作だ。

「割賦帳」は、自分が作った南瓜に対するまるで自分の子供に対するような愛情を注ぐ農夫の物語。盗まれた南瓜を市場でみつけたとき、自分の畑でとれた南瓜だと証明する場面が、なんとも微笑ましい。思わずこの南瓜を食べてみたくなること必至だ。

「神様、お慈悲を!」は、一種の教養小説だ。自分の仕事にどう誇りを持って全うするかを教えてくれる。その仕事の神髄に触れた時、それを伝えたい師はもうこの世にいないというのは、「孝行したいときに親は既になし」に通じるものがある。


 <著者略歴

 コリンズ Wilkie Collins 1824-1889
イギリスの小説家、劇作家。ロンドンに生まれる。一時、画家や法律家を志すが、ディケンズらと交流を結び、本格的に作家を志す。1860年の『白衣の女』は大成功を収め、『月長石』は探偵小説として高く評価された。そのほかの作品に『ノー・ネーム』『黒い衣』など。


 アラルコン Pedro Antonio de Alarcón 1833-1891
スペインの小説家。南部の町グァディスに生まれる。スペイン・モロッコ戦争での従軍記録、『アフリカ戦争従軍記』で作家デビュー。おもな作品に、『三角帽子』『醜聞』『球を捧げる幼児イエス』など。


 リール Wilhelm Heinrich Riehl 1823-1897
ドイツの小説家、文化史家。ナッサウ公領(現ヘッセン州)に生まれ、ボン大学で哲学、歴史学、美術史を学ぶ。83年に貴族の称号を得、バイエルン国立博物館館長に就任した。歴史学の主著に『ドイツ民俗の自然史』、小説に『さすらいの娘』『主の年に』など。>

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