百年文庫(51)
第51巻は「星」(アンデルセン・高橋健二訳「ひとり者のナイトキャップ」 ピョルンソン・山室静訳「父親」 ラーゲルレーヴ「ともしび」)
<「結婚しない」という条件で異国の地に赴き、店番をしながら老いていったアントンさんの熱い涙を描いた「ひとり者のナイトキャップ」。息子の誕生から早すぎる死までを素朴な会話文に写し取り、父親の深い愛情が胸に迫る「父親」。数々の武勇伝を誇る乱暴な夫が、エルサレムからフイレンツェへ聖火を持ち帰る旅で人間的な優しさに目覚めていく物語の「ともしび」。清らかな心を描き出した三篇。>
「ひとり者のナイトキャップ」はアンデルセンらしい大人の童話。独身のこしょう売りの番頭が、寒い夜になかなか寝付けず、昔を思い出して思わず流した涙が一粒の真珠となり、彼のナイトキャップに残ってしまう。そして、その後、そのナイトキャップをかぶる人は、まぼろしと夢をみることになる。
<それは半世紀前に、アイゼナハ生まれのアントン老人が流した涙でした。そののちもこのナイトキャップをかぶるものは、じっさい幻と夢を見ました。自分の身の上がアントンさんの身の上になりました。それがまとまった一つのお話になり、たくさんのお話になりました。>
「父親」は愛する息子に先立たれた男の物語だが、物語の展開はすべて父親と牧師の会話で構成されている。短編と云うよりは掌編小説。
「ともしび」は自分の名誉しか考えない身勝手な男が、その身勝手さゆえに妻に去られてしまう。男は自分がもっと功名をあげればきっと妻は戻ってくるはずと十字軍の遠征に参加する。めでたく功名をあげた男は、酒宴での話がきっかけで、エルサレムからフィレンツエまで聖火をひとりで運ぶことになるが…。自分勝手な男の再生の物語だ。
<著者略歴
アンデルセン Hans Christian Andersen 1805-1875
デンマークの靴職人の家に生まれる。王立劇場の舞台に立つことを夢みるが叶わず、自費出版で本を出し作家の道へと踏みだした。「旅は人生の学校」と語り、海外の作家たちと友情を結びながら、小説『即興詩人』や『人魚姫』など約150作の童話を残した。
ビョルンソン Bjørnstjerne Bjørnson 1832-1910
19世紀のノルウェーを代表する詩人で、故国ではイプセンと共に人気がある国民作家。若き日より新文学のリーダーとして活躍し、山間地の美しい恋愛を描いた小説『アルネ』など、純朴でヒューマンな作風で知られる。詩はノルウェー国歌にもなっている。
ラーゲルレーヴ Selma Lagerlöf 1858-1940
『ニルスのふしぎな旅』で世界中に愛読者をもつ、スウェーデンの作家。教師時代に雑誌の懸賞に応募した『イェスタ・ベルリングの伝説』が大きな反響を呼び、各国で翻訳、出版された。女性初のノーベル文学賞受賞者。