偏読老人の読書ノート

すぐ忘れるので、忘れても良いようにメモ代わりのブログです。

「バックトス」と「商品学」

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1950年のバックトス」(北村薫)は全部で23の短編集(内、掌編が10編ある)。初出が「小説新潮」のものは概ね面白かったが、なかでも最初の方の二作、「百物語」「万華鏡」が良い。北村さんはエッセイ(「読まずにはいられない」)を読んだことはあるが小説は初めてだ。実は、北村さんがそのエッセイ集で鮎川哲也さんのことをベタ褒めしているのを読んで、私も読んでみたのだが… 私には向かなかった。私に向かない小説を傑作という作家さんの本を読んで面白いわけがないというのは、私の読書の歴史が証明している。そんなわけで手をださなかったのだが、短編なら、と思って借りてきたという次第なのだが、いやいや「直球」あり「変化球」あり、たまに「死球」ありで楽しませて貰った。

「謎に満ちた心の軌跡をこまやかに辿る短編集」と帯にあるが、ここに書かれている多くは、「謎に満ちた心の軌跡」でなく誰でも経験することがあるちょっとした「不思議体験」だ。だが、私がこの人の小説にハマることは多分ないと思う。何故なら、こういう作風を嫌いではないが、あまり好きではないからだ。

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 「文学的商品学」(斉藤美奈子)は、「商品情報を読むように小説を読んでみよう」という帯のコピーにあるように、「商品」(ファッション、食べ物、ホテル、オートバイ等)が小説の中でどのように描かれているかを「評論」した文学評論集だ。ストーリーを追うだけでなく、こういう細部にこだわって読む小説の楽しみ方もあるのだと教えてくれる。私には「商品」の説明と描写の違いが今一つよく分からなかったが、こういう読み方もあるのだと、蒙を啓かされた。

<文学の面白さはストーリーや登場人物の魅力だけではない。作品に登場するモノやその描写を見ていくと、思いもかけなかった読み方ができることに気づくだろう。ファッション、食べ物、ホテル、バンド、野球、貧乏など、9つのテーマをめぐり、のべ70人、82作品で語られる文芸評論。>

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