人情話が好き
「もう一度会いたい」(小杉健治)
他人とうまく関われないで「引きこもり」になっていた青年が、アルツハイマー病の老人と出会い、記憶が失われる前にどうしても会って謝りたい女性がいると聞かされ、「人のために何かをする」ことで社会復帰への糸口をみつけることができるかもしれないと、その依頼を受けることにする。そして、家族やその女性の消息を辿っていく過程で知り合った人たちの協力を得てその女性にたどりついたとき意外な事実が…。
最初は恋愛ドラマかと思いきや、後半はサスペンス仕立てとなってストーリーは急展開するが、根っこのところでは崩壊した家族の再生を描いた家族愛小説だ。最近の私の傾向は、ラストがハッピーエンドで終わる小説が好きだ。悲しい結末の小説は後味が悪い。どうしても小説が「終わった後」のことに思いを馳せるからだ。読後、この主人公はこれから幸せになるのだろうなあと思うとついつい頬がゆるんでしまい「良かったね」と肩をたたきたくなるような終わり方が好きなのだ。年のせいかなあ。
「犯人のいない犯罪」(小杉健治)は、三代続く質店を舞台にした連作短編集。市井の人情話だが、登場人物たちの人間像に深みがない分、心に残るものがないのが残念。この人の持ち味は長編でないと発揮できないのかもしれない。短編は簡単なようで難しい。
<盗品らしき象牙の撥、金縛りに遭う蒲団……台東区浅草の天野質店には、わけありの客がいろんな質草を持ってくる。なかでも主人・天野籐吉や息子の籐一郎が驚いたのは、旧華族更級家の娘・美登利が質入れした日本最古(!?)仏像だった。ところが、その直後、更級家は全焼、美登利が蒸発した!? 連続放火、集団詐欺事件の行方は? 謎たっぷりの人情噺。>
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