映画。ことしはぼんやりと順位をつけてみます。
1: 『ソウルの春』
12月3日に韓国で起きたクーデター未遂を経て、もう絶対に1位から外せない作品になった。1979年の粛軍クーデターを描くポリティカル・サスペンスですが、「止められたのに!何度も止めるチャンスがあったのに!」と、腸煮えくり返る思いを味わえる。ラストのトイレのシーン、ファン・ジョンミンの一世一代の怪演が、観客の悔しさをズタズタにして踏みつける、本当に怖い。現実の12月3日に、戒厳令発布に対して韓国の国会議員たちと市民があれほど素早く的確に反応したのは、この映画を含む韓国エンタメが歴史を風化させていない、という背景が少なからずあると思う。
2: 『ボーはおそれている』
なんせこんなに面白かった映画もなかなかないんだが、これを面白がることは社会的にあんまり正しくないんじゃないかという一抹の不安もある。ひどくマニピュラティブな母親に、「あんたはセックスしたら死ぬんだからね」と育てられた限界童貞中年男がありとあらゆるタイプの狂人に酷い目に合わされる、という話で、まあモラル的には褒められたもんではないですね(苦笑)。しかしこういった捻じくれた物語から生まれる勇気みたいなものも確かにある。こんなに酷い話でボッコボコにされるのにちゃんと笑えるあたり、おじさんのレジリエンス?には刮目すべきものがあるな!
3: ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ
シリーズ3作目、今回はなんといっても池松壮亮。そもそも「最強の敵」という設定なのだが、画面中の立ちふるまいから匂い立つ「最強」の説得力がものすごい。足運び、視線、動き方と止まり方、姿勢、何から何まで見ていて「こいつ強え...」と思わされる。もちろんアクションが売りのシリーズだけど、こんな風にアクションでキャラ表現ができるレベルに達していたとは。そしてメイキングも観たんですが、池松壮亮をあそこまで引き上げたのは相手となった伊澤彩織だと知って深く納得した。ラストバトルの撮影、二人のアクションは誰も間に入れないレベルに高まっていく。それもうマンガじゃん!
4: ホールドオーバーズ 置いてきぼりのホリディ
もうどう転んでも「いい映画」。よくないところがない。アンガス役のドミニク・セッサ、演劇部の高校生でこれが映画初出演?あの鋭く危うく人に懐かない猫のような雰囲気、あれはモテるぞー。世界は公正には回っていなくて、人はしばしば理不尽に分不相応な不幸に叩き込まれるけど、でもそこでいくばくかの高潔さを守ることはできて、それがちょっとだけ報われることもあるのだ、という話。公開は夏だったけど、ホリデーシーズンにこそ観たかった。
5: 『シビル・ウォー アメリカ最後の日』
僕はこの映画、社会派ドラマの皮を被ったサイコホラーだと思っています。正気が失われた戦場の熱に当てられて主人公が人間やめる話。ラスト近くのシーンで、「マニュアル巻き上げのフィルムカメラで、撃たれて崩れ落ちる人間をあんなに何ショットも撮れるはずがない」ってのあるじゃないですか。僕はあれってロバート・キャパと『崩れ落ちる兵士』のスキャンダルを参照してると思うんだよね。だとすると要するにアレックス・ガーランドが言いたいのは、「マグナム・フォトだか戦場カメラマンだかの連中が撮ってくるもんなんて所詮フィクション、信用してはいけない」ということで、意地の悪い映画だな!と思います。
6: チャレンジャーズ
なんじゃこれ(笑)。スポーツものかと思えばそういうわけでもなく、ラブロマンスかと思えばそういうわけでもなく、欲望欲望、ああ欲望がトレント・レズナー&アッティカス・ロスの絶妙に卑猥で下品な4つ打ちテクノに乗って繰り広げられる。ドッドッドッドッってキックが流れてくるたびに笑ってしまう。ラストの展開とかこれ何ビデオよ?と途方にくれていたらそのまんまのアークで飛んでいってしまうという。すごい怪作ですが、観る価値は大いにあると思います。
7: 悪は存在しない
全然理解できないけど、そもそもその「理解できなさ」がテーマの映画なんだと思います。ものすごくリアルにちょっとダメな人々がいて、彼らには「この土地」は決して理解できない。観客としての自分も理解できない側にいて、だからこその憧憬ともどかしさと恐怖がリアル。
8: 関心領域
固定カメラとデジタルなのに退色したような色彩設計、そしてあの音!が繰り返し夢に出てくる映画。実際何度も悪夢を見るはめになったので、この映画を観ていない人生のほうが幸せであったとは思う。褒めています。
9: 侍タイムスリッパー
時代劇という文化に対する愛が映画になりました!という作品。主演の山口馬木也がなんとも素晴らしく、リアル侍感とでもいうべき不思議なキャラを創り上げている。あと、地味にメシがうまそうな映画。弁当とかショートケーキとか本当にうまそうで、新左衛門に色々食わせたくなる。
10: 落下の解剖学
推理サスペンスのような建て付けだが、内実は『マリッジ・ストーリー』と同ジャンルの限界カップルもの。舞台がヨーロッパということもあり、言語の使い方が巧みだった。主人公サンドラはフランスで暮らしているのに英語で話しているのだけど、明らかに母語話者ではないアクセントがある。なぜ彼女は母語でも、居住地の言語でもない英語を使っているのか?というのが、このキャラクターの立場を解き明かす鍵になっていく、という。いつか授業で例に使いたい。
番外、『パスト・ライブス』と『ロボット・ドリームズ』が全くハマらなかったという話はFacebookに書いたものを。明日は2024マンガ!