横浜市営地下鉄グリーンラインの「センター北」駅(どこやねん)の近くにあるイオンシネマ港北で、庵野秀明監督によるゴジラの新作「シン・ゴジラ」を見てきた。
 ちなみにイオンシネマ港北はいまいちスクリーンが大きくないので、わざわざ映画館で見る人はもっとでっかいところに行けばいいと思う。
 とりあえず映画は本当に面白かった!

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 怪獣映画として、いままでぼくのベスト1は「ガメラ 大怪獣空中決戦(1995)」であった。
 僅差の2位が「GODZILLA ゴジラ(2014)」である。
 しかし、「シン・ゴジラ」はそれらを完全に凌駕して、ぼく史上、完全1位になった。

 映画全部の中でもかなりの上位に入る。
 別に映画通を気取るわけではないけど、「天国と地獄」、「エクソシスト」、「ジョーズ」、「シャイニング」ぐらいの作品と肩を並べる映画だと思う。
 アカデミー賞(アメリカのオスカーの方)狙えるのではないだろうか。
 ぼくが大好きなバンホーベンの「スターシップ・トゥルーパーズ」にも勝ったんじゃないかと思われる。

 SF映画、怪獣映画、パニック映画であって、とにかく見てびっくりするために作られた映画である。
 だから、事前に一切の情報を入れないで見るのが望ましい。
 こんなブログなんかで情報を入れてしまったら、最悪だ。

 だから、ちょっとでも見る可能性がある人は、このブログの画面を閉じてしまって、まず映画を見て欲しい。
 たまに映画を見る人で、「何か見ようかな〜」と思ってる人、この夏はこれがおすすめだ。
 ぜひ見てください。

 以下ネタバレする。

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 警告したからな!

 数年前に「ゴジラを東宝がまた作る」、「監督は庵野秀明」と聞いたとき「ああ<あの監督>じゃなくて良かったなー!」と思った。
 庵野さんの映画を褒めるために他の監督や映画をけなすような不純なことは、今はしたくないので、誰を念頭に置いたかは書かない。

 と同時に、「庵野さんで大丈夫かな〜?」とも思った。

 ぼくは古手のSFファンで、ダイコンフィルムの自主映画は学生時代に非常にハマった。
 でも、アニメファンではないので、「トップをねらえ!」も、「不思議の海のナディア」も、「王立宇宙軍オネアミスの翼」も、そんなに熱心には見ていない。
 「新世紀エヴァンゲリオン」は、まあ一時期そこそこハマっていた。でも、あれは最初の「ヤシマ作戦」(思えば「ゴジラ対ヘドラ」のオマージュ)ぐらいまでが良かった。後半の、個人的な人間関係がグジャグジャ出てきたところからは、それがSF的な設定とどう絡むのかがおじさんの頭脳では理解できなくて、一応最初のテレビシリーズの最後、あと劇場版の前後編までは目を通したが、そこで降りてしまった。
 「エヴァQ」はそれでも気が向いて見に行ったが、映像は最高だと思ったものの、ストーリーが拒絶反応を示してしまった。とりあえず「ぼくは見なくていい映画」と思ったのである。男の子が二人でピアノの連弾をするシーンとか気持ち悪いから!
 ということで、庵野さんに関しては「SFマインドは最高」、「映像作成能力は最高」、「でも人間ドラマを入れるとわけがわからない」という、わりと平均的な意見だと思うけど、そういう風に思っていた。
 
 それで、庵野さんがゴジラを作ると聞いて「本人はそりゃあ作りたいに決まっている」、「映像的には最高なものになるだろう」、「でも変な、わけがわからない映画になったらどうしよう」、「やっぱり<あの監督>にしとけば良かったみたいな話になったら、日本のSF映画は完全な暗黒時代になる…」みたいな、別に映画関係者でも、SF関係者でもないのに余計な心配をしていた。

 それが、完全な取り越し苦労だった。
 ぼくは見る目がなかった!
 堂々たる大傑作映画だったのである。

 ぼくは、基本的に小説やマンガが好きで、あと最近は演劇にハマっている。
 映画もまあ普通に好きだ。アニメもまあ好きだけど、そんなに見ない。
 小説、マンガ、映画、アニメ、演劇、この5つは、似ているようで全然違う。
 受容者の想像力をどこまで当てにするか、受容者の時間をどこまでコントロールするか、受容者がいっぺんにどれだけの情報を受容できるか、などの要素が、ぜんぜん違うのだ。
 だから、同じスジでも違う作品になる。

 今回の庵野ゴジラは、ものすごく映画っぽい。
 小説とも、演劇とも、アニメともまったく違う、映画でなければ出せない表現が詰まっている。
 映画館に映画を見に来なければ、味わえない感覚があふれているのだ。

 上の方で「エクソシスト」を引き合いに出したけど、フリードキン監督に似ている。
 ドキュメンタリー・タッチだ。
 真面目で、辛口である。
 でも冷静に考えて、怪獣が東京で大暴れする映画を「ドキュメンタリー・タッチで、真面目に、辛口に描いた」映画があったらどうだろうか。
 これ以上面白いことはないんじゃないだろうか。

 ぼくは最近の日本映画、特に特撮ヒーロー映画を見ていて、虫酸が走る思いをすることが何回もある。
 まず、お涙頂戴が出てくる。
 なよなよしたイケメンの主人公が恋愛をし、どっちかが自らの命を犠牲にして地球を救う。
 病気の子供が急に出てきて、「必ず怪獣を倒して帰ってくる、約束だ」とか言って敵地に向かう。
 こんなので感動しますか。
 なんでそんなのいちいち出さないといけないんだろう。
 いや、何年かに一本、そんな映画があってもいいかもしれないけど(ぼくは見ないけど)どの映画もいちいちそんな風にする必要あるだろうか。

 あと中途半端なコメディ要素が出てくる。
 先日アマゾン限定配信の「仮面ライダー・アマゾンズ」というのを見ていた。
 なかなか奇妙な味で期待を持たせる感じだったが、半端なコメディ要素が出てきてゲンナリした。
 ところがレビューを見ると「もっとコメディ要素を入れたほうがいい」と書いている人がいてびっくりびっくり。
 お前か!
 いや、コメディ要素あってもいいけど、なくてもいいと思うし、ないほうがいい場合もあると思いますよー。

 庵野ゴジラにはそれらが一切ない。
 なくていいのである。
 商業的に、幕の内弁当的にそういう需要もおさえていたほうがいいという、オトナの不純な考えを、スッパリ切り捨てている。
 だからこそ、異様な迫力がある。
 本当に怪獣が現れたら、我々はみんな気が狂って、なすすべもなく、みじめに死んでしまうのではないだろうか。
 そんな状況に、正気を失わず、冷静に対処でき、パニックに陥っている他の人を説得できる人間はいるのか。
 そういうことを真剣に考えさせてくれる。
 これに夢がある。
 「コメディ要素おさえておきました」、「恋愛入れておきました」、「ここで泣かせます」、「ヒット曲入れときました」という妥協が一切ない。
 なくても映画が成立するのである。
 こんなに真剣に怪獣映画を作ってくれて、感謝、感謝である。

 政治家がいっぱい出てくる映画である。
 じっさい、怪獣が出たらそうなるのが当然であろう。
 孤島やビルに数人の関係者が閉じ込められて…というありがちな展開ではない。
 有名な俳優がいっぱい出ているが、柄本明と石原さとみ以外は「役者がやっている」ということを忘れてしまう場面がいっぱいあった。
 「2001年宇宙の旅」なみに役者の匿名感が強い。
 こんな地味な演出で、個性を押し殺した映画で、よく役者が納得したなーと思う。

 会議が長い。
 これがいい。
 ていうか怪獣が出てきたら世の中会議だらけになると思うのである。
 つい上で同じようなことを書いた気がするけど気にしないのである。
 いままで見た映画で一番会議が長い映画は黒澤明の「天国と地獄」であったが、庵野ゴジラはあれよりも長いのではないか。
 無駄な会議も多い。
 状況がどんどん変わるからである。
 これが怖い!
 ネットを見ていると「会議が長くて子供が退屈する」とか、「セリフが難しくて子供が退屈する」と書いている人がいた。
 なんでオトナが、空想上の子供のことをわざわざ心配して、それをてこに映画を批判しないといけないのか分からない。
 オトナが楽しめる怪獣映画があってもいいじゃないか。
 じっさい、今日回りに座っていた子供たちも、会議を食い入るように見ていたし、愚かな大人たちの右往左往っぷりを見て、きちんと笑っていた。
 だいたい、ぼくのようなオトナ、老人であってもあの会議のすべての言葉、軍事用語は分からない。
 わからないなりに、異様な迫力が伝わってきて感動する、ということもあるんですよ。

 全体として「日本の意思決定の遅さの打破」、「非常事態における強いリーダーシップと超法規的措置の必要性」を訴えた映画で、最近の右派の意見に近い。
 それにはぼくは反対の立場であるが、怪獣が出てきたらそうなるのも仕方ないと思うし、そうそう怪獣なんか出てこないから、現実の政治に別に結び付けなくてもいいと思う。
 むしろ面白かったのははっきり反米的な姿勢の表明であって、これはアメリカ人の保守的な人はウムムと思うだろう。
 アカデミー賞取れないかもしれない。
 ただ、今までの怪獣映画が、自衛隊は結構出てくるが「米軍なにしてんの…」と思っていたので、この疑問が解消されていて良かった。
 怪獣を人間が紆余曲折の上に倒すのであるが、倒し方も派手で、ユーモアがあり、納得が行って良かった。

 低予算映画という話である。
 15億円だそうだ。
 ちなみに等身大ヒーローが戦う「ダークナイト」が189億円だそうだ(トラックが転がるシーンはCGじゃないんだってね)。
 「ホーホケキョ となりの山田くん」が23億円だそうである。
 なぜゴジラを15億円で撮れるんだろう。
 言われてみれば予算を削減してるなーという場面がある。
 実相寺昭雄的な変なドアップもある。
 これもオマージュを感じて楽しい。
 オマージュ、オマージュとやたら昔の名作の半端な引用をする人がいるけど、ほんとのオマージュというのはこうするもんだと思う。
 あと、超兵器が出てこず、自衛隊と米軍が通常兵器で戦って、歯が立たない。
 これも怖い。
 低予算を逆手に取っている。

 ということで、ドキュメンタリー的な、プロジェクトX的なゴジラ映画、『シン・ゴジラ』、見るまでにここまで読んでしまった方も、じっさいの映画の魅力はとてもこんな文章では語り尽くせないので、ぜひ一度ごらんください。
 ラスト・シーンの美しさを思い出すだけで鳥肌が立つ。