全公演見終わった。楽しかった!

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 今回月蝕歌劇団2回連続公演は、学芸大学駅(大学自体はもうなくなっている)近くの千本桜ホールというところで行われた。
 9月公演もここだそうだ。
 ぼくの家から近い。歩けば歩けるのだ。じっさい歩いてみた。1時間半ぐらいで着く。
 ちなみに廻天百眼の紅日毬子さんが少年店主をやっているバー『月光密造舎』と千本桜ホールも近くて、歩くと25分ぐらいだ。これもじっさい歩いてみた。
 以上アングラ豆知識でした。

 劇場が家から近いと、かえって油断が生じて、ちょいちょい遅刻してしまった。
 土曜日は詩劇ライブが完全に始まってから劇場に到着するという荒技をやってしまった。スタッフの方の計らいで物販コーナーの時に入れてもらった。スミマセン。
 日曜日はなんと、昼の部のチケットを無駄にしてしまった。もったいない!
 昼の部=>ライブ=>夜の部(千秋楽)という進行だと勘違いしていたのである。実際には昼の部(千秋楽)=>ライブで公演終了という変則的な公演だったのだ。
 いつも、遠くの会場でやるときは、きちんとチケットの時間のみならず電車のルートや会場の場所を調べて、自分用の「旅のしおり」を作ってから観劇に臨むのだが、今回は家から近いので油断して、いろいろミスしてしまった。
 気づいた時は2時頃で、昼の部の途中で入れるとも思ったのだが、2日連続でスタッフさんに迷惑を掛けられないので、見送った。昼の部は超満員で、カオス状態で面白かったらしい。

 『津山三十人殺し 幻視行』はストーリーがいい、と観た人みんなが言っていた。
 少年倶楽部の冒険小説と、少女倶楽部の「母もの」の小説が大好きで、自分も進学して小説家になる大志を持っていた都井睦雄青年は、貧しさと病のために挫折する。そしてムラ社会の閉鎖的な人間関係の中で鬱屈し、昭和を代表するもう一つの猟奇事件である阿部定事件に魅せられ、大量殺人願望にとられていく。
 演劇では、睦雄が農学校に行く傍ら書いた冒険小説『雄図海王丸』の登場人物たちが、なんとか睦雄を病魔と悲惨な運命から逃れさせようと尽力する。そうすれば自分たちは存在できるのだ。
 物語には阿部定のやはり悲惨な青春期と、昭和維新を企む青年将校、死病であった結核の抗生物質の発明も絡んでいる。
 高取氏お得意の歴史改変SFであるが、今作は数多くの運命が自然に引き寄せられ、からみあっていくところが良かった。

 睦雄の阿部定崇拝のくだりと、小説『雄図海王丸』のプロットは、最新の研究によると実はドキュメンタリーを書いた筑波昭氏の捏造である可能性が高いそうだ。
 ぼくは学生時代、筑波が書いたドキュメンタリーを、劇中で阿部定の取り調べ調書に耽読する睦雄のように読みふけった。ぼく自身小説家志望で病弱だったから、自分の現実と本の世界が入れ子状態になっているような気がして、どっぷりのめり込んで読んだ。
 その、もっとも面白かったこの阿部定と海王丸の話が実は筑波氏の捏造であったらしい。しかし、睦雄をただ発作的に殺人を犯した小人にとどめず、巨大で独特な精神世界を持った青年でもあったことを、筑波氏は描き出したかったのであろう。そしてドキュメンタリーを読みふけっていたぼくの脳内では、睦雄はそのような才能豊かで異常な好奇心を持った快男児、怪男児として、確かに存在していたのである。それは、雄図海王丸の主人公4人組が、睦雄の未完の小説によって存在を許されていたのと同じだ。

 三上ナミさんは阿部定と対立する昭和の不良の役ということで、なんと三上寛バージョンの「夢は夜ひらく」を抜粋して歌っていた。

三上寛 夢は夜ひらく 歌詞

 昭和と平成の「2大三上」による時空を超えたコラボである。

 三上さんと言えばもう一役、マッド・サイエンティスト田村信先生の部下で生きたカエルを使って抗生物質を作るナースという役もやったが、ぬめぬめした大ぶりの生きたカエルをつかみ出して客席に突き出すパフォーマンスがあってすごかった。最前にいたときは何らかのシル的なものが飛んで来そうな勢いだった。このカエルにはムツオという名前が付けられていたそうだ。

 今回スペシャル生写真をオーダーした白川沙夜さんは、はまり役の旧日本軍将校と村の美人教師の二役で、色っぽくて良かった。演劇後にご挨拶できたが、気さくな笑顔で芝居中とのギャップが半端なかった。と、よく言われるということだ。

 睦雄は少年時代をタカハタアミさんが、青年時代を倉敷あみさんが演じた。あまり年格好が変わらないので最初ふたりいる意味があるのかなーと思っていたが、こうなりたかった自分、こうあるべき自分、そうはなれなかった自分、こうなってしまった自分が去来する様子と、運命を変えたいと切実に願う気持ち、運命は簡単には変わらないという現実が描かれていて感動した。

 今回はさすが三十人殺しというだけあってキャストが多く、死屍累々というスペクタクル感があって良かった。睦雄と絡む美少女軍団もフレッシュで良かった。ちなみにぼくは水幾まどかちゃん推し。


 お楽しみ「詩劇ライブ」。最近は高取氏作詞の曲や、J・A・シーザー氏作曲の曲に留まらず、昭和歌謡の曲を歌っている。

 とりあえず柴奏花さんの「どうにも止まらない」が脚が長くてヘソ出しで最高だった。
 柴さんはゲネプロには参加せず、代演でタカハタアミさんと三上ナミさんが歌っていて、その様子がDVDに入っているというので物販コーナーで買った。三上さんは安定の完全カバーで、アミさんがアドリブ全開で最高。

 三上ナミさんは「妖怪エレジー」を倉敷あみさんのダンスとともに、そして「真っ赤な情熱」をソロで歌った。
 そして、最後に「セーラー事件簿」を歌ったのだが、杉田舞さんとタカハタアミさんがバックダンサーで出てきて、セーラー服で踊り狂った。これもテンション高くて最高。
 タカハタアミさんに対する認識を改めた。

 最後は倉敷あみさんのソロコーナーだが、1曲目が『花札伝綺』で使われた三上ナミと謎の公務員の曲でこれも良かった。
 ナミナゾのおかげで月蝕歌劇団は音楽的にパワーアップして新鮮味を増していると思う。これからもバンバン、ナミナゾの新曲を月蝕の舞台で聴きたい。

 そんなこんなでまるまる一週間、月蝕づくし、月蝕まみれで楽しかった。