普通に健康にしている人にとって、最大のストレス解消法、不調脱出法は睡眠である。
イヤなことがあっても、不調に見舞われても、夜寝て朝起きれば何とかなっている。

勉強も寝ないと身につかない。
何か勉強したら、その後寝ると、寝ている間に情報が整理されて記憶に定着する。
英語の勉強は昔朝やっていたが、最近は夜に切り替えた。
朝は執筆に向く。

睡眠の効用の極端な例として、寝ている間にプログラミングが出来たことがあった。
むかし仕事で、ある問題がどうしても解けなくて困っていた。
残業になり、夜遅くまでシャカリキになってやっていたのだが、起きている時間が長いとどんどん頭が悪くなる。
やればやるほど脳がヌルヌルになってきたので、その日はあきらめて寝た。

すると夢を見た。
当時お客さんだったM社のKさんという女性から電話が掛かってきて「深沢さん、それはこれをこうすればいいんですよ」と言ったのである。
(Word文書から特定のタグを抜いて翻訳し、翻訳した後に元の文書に戻すには、抜くときに抜いた場所に★1★、★2★…的なお墓を経てておいて、戻すときはそのお墓を目指して置換すればいいんですよ、という趣旨のことだったと思う。)

ハッと目が覚めて、あわててプログラムを書きとめた。
当時はまだ自宅で仕事をする環境がなかったので、自分の会社のメアドあてにアルゴリズムだけ疑似コードでメールして、出社してからプログラムを完成させた。
あっさり仕事が終わってしまった。
でもこれは夢を見ている間にぼく自身が考えたことであって、別にKさんの功績ではないと思う。

ともあれ、睡眠のすごさを思い知った。
夜に問題を持っていても、朝解決する、というのはありがちなエピソードだと思うけど、ここまでベタにお客さんから電話が掛かってくる夢を見る人は珍しいと思う。
自分でも驚いた。

ということで、夜は絶対寝たい、ぐっすり眠りたい方であるが、寝付けなくて困っている。
睡眠時無呼吸症候群なので眠りが浅く、CPAPのマスクを付けなければならないので寝にくいのは仕方ないが、それだけでは説明が付かないぐらい寝にくいのである。
昔からだ。

情報中毒なところがあるので、いろいろ考える性格であると言うのもあると思う。
ちょっとしたこと(暑さ寒さ、光、雑音、かゆみや尿意など)が気になることも大きい。
要するにこらえ性がないのだと思う。
口の中に唾がたまってくると「そういえば英語でツバって何て言うんだっけ」と気になったりする。
(spitだ。)
今は枕元にiPhoneがあってすぐにググれるが、昔はゴミ屋敷の本棚から辞書を引っ張り出して調べないといけないので大変だった。

よく言われるが、年寄りが眠れないのは体力がないからだ、と言われる。
それは分かる。
ぼくの不眠がそういうことか分からないが、何か、プールに飛び込んで深く潜って行きたいのに、体が突っ張って(?)浮いてきてしまうような気がする。
動物としての体のしなやかさが年々なくなっているような気がするのだ。

で、ぼくはガッツリ睡眠導入剤を飲んでいる。
睡眠薬ではない。
飲み始めて15分か30分の間だけ効く薬である。

これで驚くほど改善する。

眠れない人は試してみる価値があると思う。
こんなことでウジウジ悩む時間とエネルギーがもったいないのである。
別に精神科に行ってもいいし、心療内科に行ってもいいが、普通の内科に行くのもいい。
普通の内科で素直に「寝にくいんですけど」というと、一番弱い薬を出してくれる。
一番弱い薬が驚くほど効く。

薬局で買える市販薬はぼくには効かなかった。
「ドリエル」という薬があるが、「レスタミンUコーワ」という昔からあるかゆみ止めの薬と同じ成分で、しかも「レスタミンUコーワ」の方が安い。
「レスタミンUコーワ」はアレルギー性のかゆみを抑える抗ヒスタミン剤であるが、抗ヒスタミン剤と言うと眠くなるので有名だ。
この副作用を援用して「睡眠改善薬」という名前を付けて、値段を高くしたのが「ドリエル」である。

ぼくはかゆみも気になるので(本当にこらえ性がないなー)抗ヒスタミン剤も飲んでいたのだが、そんなに急速に眠くなるわけでもなく、軽い不快な眠気とだるさが一日中ダラダラ続く。
いわゆるキレが悪いので、この目的でこの薬を使うのはあまり好きではない。

普通に病院に行って処方される薬が一番即効性があり、朝もスッキリである。

などという話をすると、すぐに「体に良くないからやめなさい」、「クスリに頼って寝ても『ほんとうの』睡眠、『ほんとうの』健康ではないからやめなさい」と真顔で言う人がいる。
こういうの、本当に、驚くほど真剣にアドバイスしてくるからびっくりする。

『ほんとうの』睡眠って何だろう。

こういうのをぼくは「道徳的疑似科学」と読んでいるのだが、とりあえずぼくが何年も泣きそうになるほど苦しんで、医者と膝詰突き合わせて話し合って決めた結論を、大した科学的根拠も、統計的エビデンスもなく脊髄反射的に「心からの」アドバイスでくつがえそうとする人の気がしれない。
あんたどこの睡眠学会で論文を発表した権威なんですか、と聴きたくなる。

「クスリは良くない!」「『西洋の』お医者さんは良くない!」という考え方は、「ありがとうと言う言葉を掛けて凍らせた氷は結晶が美しくなるが、ばかやろうと言って凍らせた氷の結晶は汚くなる」というのと一緒で、個々人の浅薄な「道徳」から発した「科学的な」アドバイスである。
俗流の「科学的な」アドバイスにはみな「道徳」がくっついてくる。
「世の中は、自分の道徳的な心が思うように出来ていてほしいし、出来ていなければ困るから、そういう風になっているに違いない」と言う気持ちに発したアドバイスなのである。
おまえは神様か!

まあ議論はいろいろあっていいと思うけど、俗流の疑似科学をそのまま信じる方が明らかに頭が悪くなるし精神の健康も害すると思う。
注意してください。

もちろん睡眠導入剤も万能ではない。
まず、あらゆる薬がそうだが肝臓に負担を掛ける。
風邪薬も、抗鬱剤も肝臓に負担を掛ける。
驚いたのが「コレステロールを下げる薬も肝臓に負担を掛ける」のである。
漢方薬も肝臓に負担を掛ける。
酒も肝臓に負担を掛ける。
要するに「人体のケミストリーに影響を及ぼす濃い物質」であれば絶対に肝臓に悪いので、最少量を使う必要がある。
ぼくは一番軽い薬で確実に眠れるので、その心配はない。

さらに心配なのは、1錠では効かないから、2錠、3錠と量を増やしてしまったり(オーバードーズ)、薬の中毒になってしまうことだろう。

ぼくは処方されて以来まったく量を増やしていない。
あと持病があって毎月血液検査をしているが、特に眠剤による異常値も出ていない。
持病を診てもらっているのと同じ医者から眠剤を処方されているので、この点は安心することにしている。

休前日や旅行中には断薬日を設けることもある。
見事に眠れないのだが、一日ぐらい徹夜になっても楽しい。
もっとも、急に薬を止めるこの方法は危険かもしれないので、かかりつけのお医者さんに相談してください。

まあ、人生として100点ではないかもしれないが、睡眠導入剤を飲むのがぼくには現状ではプラクティカルなソリューションである。

Sprout sleeps

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