最近、いつも手元に置いておく本があります。寝る前に読んだりもします。『會津八一書論集』(長島健編・二玄社)で、新潟市の會津八一記念館にいる Y さんからいただいたものです。多くは昭和20年前後の講演速記とか講義記録です。その内容がじつに痛快で面白い。
會津八一 (あいづ・やいち、1881–1956)は日本の書家、歌人、文学博士で美術史家です。早稲田大名誉教授でもありました。バーナード・リーチとも親交があったようです。そういう学識を持ちながら、日本の書道に関して、講演でこんなことを言う人でした。以下、本からちょこっとだけ引用します。
「字といふのはどこまでも平明に書かなければならぬ」
(同じ字でも読みようが違うとか、別の字でもほとんど同じに見える公卿の仮名のまぎらわしさについて)
「まちがったら手をたたいて笑おうと思って待ってをる人があるやうな気がして、おっかなくて読めない。(中略)さういふのはペダンチックである。物識りの風の、人を驚かさうとする、さういふ衝動からやつたことである」
「見ると同時に頭にピタピタと入るやうな書道をおやりになること、これはもつとも藝術的な方法であり、態度でもあるであらう」
「筆の順序などは、どうでもいことです。三の字をどこから書いても、合計三本あればいいことです。」
スッゴイこというなー。1950年ころにそんなこと言ってたんだ。
「書道って何が書いてあるか分からないからヤだなー」と思って敬遠していた私は、このズバズバ言う八一を「ロックしていた書家」と勝手に呼んでます。彼の書は、丸文字みたいなんじゃなくて格調がある。しかもすらすらと読める!
その八一はローマ字についても鋭い目を持っていました。
これもこの本の中に書いてあるんですが、あるとき、東京にできた新しい建物の銘板か何かを見たベテラン英語教師が八一のもとにやってきて「U の字が V になつている」のを「重大なミステーク」「どうも国辱である」と憤慨して言ったらしい。
そこで八一がピシっと、「これこそローマ字綴りだ。君はいはばイロハも知らないで英語を教えたことを恥ぢなければならぬ」といって叱り、ローマ字の資料を持ってきて納得させたそうです。
さらにアルファベットのデザインに及ぶことまで言っている。英語を教えていながら大文字 A の左右の斜め線のどっちが太いかなんて知らない人たちを叱っている。八一さんデザイナーになっていたら面白かったのに。
彼の言った大文字 A の太さについて、また別の記事で書きます。