二つ前の記事「合字(5)」で、このローマン体活字書体 Baskerville の中の tz 合字について読者からのご質問をいただきました。
右から二番目が tz 合字。
図版をつけた方がわかりやすいので記事にします。
tz 合字は、もともとはブラックレターで使われることが多かったので、z が下に巻き込む形になっているのも、ブラックレターの書き方です。ローマン体では、ステンペル社の Baskerville みたいに tz 合字を持っている書体は異例で、同じステンペル社でも Garamond の見本では tz 合字は出てこない。
私の本棚の中(そんなに多くない)で、書籍の本文で tz 合字を使っている例。Rudolf Larisch の『Unterricht in ornamentaler Schrift』(第八刷、1922年刊)。
7行目の最初「sitzt」は、その前の行からの単語で「besitzt」。9行目の最後の単語「umzusetzen」でも tz 合字が使われています。ちなみに、12行目のは似てるけど tz 合字でなくエスツェットです。「Anstoßes」と書いてある。
こんなふうに書籍全体を通して tz 合字を使った例は、あることはあるわけです。
下は、1950年代のステンペル社の書体見本帳。ここでは活字 Diotima のサンプルで tz 合字を使っています。 tz 合字を備えたローマン体のなかではわりと最近の例。これより最近の時代で tz 合字を持った書体があるか、すぐには思い浮かばない。未確認ですが、有名なローマン体の中ではこれが tz 合字を備えた最後の例なのかも?
1955年に出されたステンペル社60周年記念の冊子の本文も、Diotima で組んであってそこに tz 合字が使われていた気がする。本を持っているので確認しようと思ったんですが、残念ながらいま見あたりません…。
これは Diotima のイタリック体。 tz 合字ですが、z のテールを下に巻き込まずに右に流している。
最近で tz 合字が使われるケースがあるとすれば、たぶん、ほとんどがブラックレターじゃないか。実用的な文章の本文というよりは装飾的な何か、例えばディプロマとか、ロゴとかで。
活字じゃないけど、ビール「Köstritzer」のロゴ。
tz 合字が使われた「ケース」。