エキサイトイズム エキサイト(シンプル版) | エキサイトイズム | サイトマップ
合字(6) tz 合字
二つ前の記事「合字(5)」で、このローマン体活字書体 Baskerville の中の tz 合字について読者からのご質問をいただきました。
合字(6) tz 合字_e0175918_1815638.jpg

右から二番目が tz 合字。

図版をつけた方がわかりやすいので記事にします。

tz 合字は、もともとはブラックレターで使われることが多かったので、z が下に巻き込む形になっているのも、ブラックレターの書き方です。ローマン体では、ステンペル社の Baskerville みたいに tz 合字を持っている書体は異例で、同じステンペル社でも Garamond の見本では tz 合字は出てこない。

私の本棚の中(そんなに多くない)で、書籍の本文で tz 合字を使っている例。Rudolf Larisch の『Unterricht in ornamentaler Schrift』(第八刷、1922年刊)。
合字(6) tz 合字_e0175918_16235862.jpg


合字(6) tz 合字_e0175918_16241913.jpg


7行目の最初「sitzt」は、その前の行からの単語で「besitzt」。9行目の最後の単語「umzusetzen」でも tz 合字が使われています。ちなみに、12行目のは似てるけど tz 合字でなくエスツェットです。「Anstoßes」と書いてある。

こんなふうに書籍全体を通して tz 合字を使った例は、あることはあるわけです。

下は、1950年代のステンペル社の書体見本帳。ここでは活字 Diotima のサンプルで tz 合字を使っています。 tz 合字を備えたローマン体のなかではわりと最近の例。これより最近の時代で tz 合字を持った書体があるか、すぐには思い浮かばない。未確認ですが、有名なローマン体の中ではこれが tz 合字を備えた最後の例なのかも?
合字(6) tz 合字_e0175918_16244563.jpg

合字(6) tz 合字_e0175918_1625462.jpg

1955年に出されたステンペル社60周年記念の冊子の本文も、Diotima で組んであってそこに tz 合字が使われていた気がする。本を持っているので確認しようと思ったんですが、残念ながらいま見あたりません…。

これは Diotima のイタリック体。 tz 合字ですが、z のテールを下に巻き込まずに右に流している。
合字(6) tz 合字_e0175918_16252190.jpg


最近で tz 合字が使われるケースがあるとすれば、たぶん、ほとんどがブラックレターじゃないか。実用的な文章の本文というよりは装飾的な何か、例えばディプロマとか、ロゴとかで。

活字じゃないけど、ビール「Köstritzer」のロゴ。
合字(6) tz 合字_e0175918_16293189.jpg


tz 合字が使われた「ケース」。
by type_director | 2014-03-22 16:18 | 金属活字 | Comments(18)
Commented at 2014-03-24 21:46 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by ひで at 2014-03-25 04:28 x
本当に詳しいお答え、ありがとうございます。

言葉のこと、スッキリしました!

やっぱりローマン体で tz 合字があるのは珍しいのですね。そして貴重な実例、感謝いたします。はじめの本は刊行が1920年代なのにまだローマン体の長い s が使われていて(第一刷がかなり古いのでしょうか?)、それも面白いですね。
Diotima のサンプル美しいです。組版が綺麗であることは必要でしょうけれど、こんなに読みやすいのなら、現代でも生き残り続けていいような気もします。
いま住んでいるベルリンでも、tz 合字は、ブラックレターのものをロゴや看板で見る場合がほとんどです。思いつく例外は、通り名を書いた標識でサンセリフの tz 合字が使われているくらいでしょうか。
小林さんの街の通り名の標識はどんな風ですか? またいつか記事にしてくださると楽しいです!
Commented by type_director at 2014-03-26 03:29
Berliner さん、情報ありがとうございます!
Commented by type_director at 2014-03-26 05:31
ひでさん、そうかベルリンならば通りの名前の tz は合字ですよね。他の方からも、FF Cst Berlin West というフォントに tz 合字があるという情報いただきました。みてみてください。それにしても、Diotima いいですよねー。
Commented by ひで at 2014-03-29 18:29 x
ベルリンの通り表記のフォント、発売されているのですね!情報ありがとうございました^^
Commented by mojikatzchen at 2014-04-19 04:36 x
こんにちは。Larischの同じ本持ってますが、私のは11刷(1934年)です。上の画像の右ページを見比べて何か違和感あると思ったらMの記述が、11刷ではK ein Pfahl mit zwei Schraegstaeben aus der Mitteと短くなってます。あとL ein Pfahl mit einem Fussbalken rechts unten も違う表記ですね…。面白いです。
Commented by type_director at 2014-05-01 00:29
Mojikatzchen さん、同じ本をお持ちとは! しかも読み比べまで。なんか、すごく昔の本だと思っていたけど、このページ以外の部分で、例えばスペーシングの考え方とか、けっこう良いこと書いてあるんですよね。
Commented by szkippei at 2014-05-18 22:33 x
こんにちは! 以前ご質問したローマン体のtz合字について、実際の例をたくさんご紹介いただき、とても感動しました。本当にありがとうございます! 時間を見つけては文字や活字について興味を深めています。今後ともご教授のほど宜しくお願いいたします。
エスツェットの字形が、上の古い書籍のようにs+zのようになっているものも、ローマン体ではあまり見ないような気もして(知らないだけかもしれませんが)興味深く感じました。Diotimaではss的な形がより強調されていて、これら2例はどちらも他の字との調和が図られているように感じて美しく感じました(エスツェットも他の合字と対等な仲間だという感じがして興味深いです)。
ところで、エスツェットの大文字が作られた? といったことを最近知ったのですが、ドイツでは認知が進んでいるものなのでしょうか? また機会があればご紹介ください。いつも楽しみに読ませていただきます!
Commented by type_director at 2014-06-05 23:12
szkippei さん、大文字のエスツェットはフォントの中に標準のグリフとして入れるのでつくることはつくるんですが、いまのところ、使った例に出会っていません。
Commented by akira1975 at 2014-06-23 18:15 x
FF Cst Berlin West以外だと、そのような感じのtz合字は、デジタル・フォントではあまりないかもしれませんね。とりあえずひとつ見つかりましたが。
Kner Antikva
ttp://myfonts.us/td-eYnThL

ſz式のßが入っているフォントは、たとえば、小林さんのDIN Nextをはじめとして――
DIN Next (alternate ß)
ttp://myfonts.us/td-Mcomqm
Verlag
ttp://www.typography.com/fonts/verlag/characters/
FF Antithesis (alternate ß)
ttp://myfonts.us/td-E9cp0z
FF Ernestine (alternate ß)
ttp://myfonts.us/td-r6gGSa
FF Kava (alternate ß)
ttp://myfonts.us/td-P3mNS5
Larish Alte
ttp://www.radimpesko.com/fonts/larish-alte
Larish Neue (alternate ß)
ttp://www.radimpesko.com/fonts/larish-neue

(「alternate ß」と書いているのは、デフォルトのßではなく、異体字のßという意味です)
Commented by akira1975 at 2014-06-25 09:49 x
直前の長い書き込み、すみません!
ſz式のß、Kris SowersbyのMetricを忘れていました。
ttps://klim.co.nz/retail-fonts/metric/
Commented by type_director at 2014-06-25 11:50
akira1975 さん、情報ためになります。ありがとうございます!
Commented by akira1975 at 2014-06-26 21:48 x
ベルリン・ブランデンブルク国際空港の書体もſz式のßが入っているようです。
ttp://www.xplicit.de/flughafen-ber-berlin-brandenburg-international/
Commented by type_director at 2014-07-01 09:57
akira1975 さん、ありがとうございます。おーなるほど。書体と関係なくこの空港についてですが、ドイツの朝のニュースで時々とりあげられていて「まだ完成しないのか BER 空港」みたいな見出しでネタ扱いになってる。
Commented by akira1975 at 2014-07-02 09:58 x
まだ完成していなかったんですか! では、あの書体が実際にたくさん使われるのは先なんですね。
Commented by szkippei at 2023-11-03 19:47 x
こんにちは。長年にわたりいつも素敵な記事を発信していただきありがとうございます。
少し前の記事へのコメントで失礼します。

古い書籍のデジタル閲覧を色々としていたのですが、
ドイツ語書籍でローマン系書体を使ったものの中で、
長いsを使っており、ドイツ語独特の合字を非常に多く使っている例を、
2例見かけました(両方とも1920年代頃のもの)。
ttps://imslp.org/wiki/Beethoven_und_der_deutsche_Idealismus_(Schering,_Arnold)#IMSLP339820
ttps://imslp.org/wiki/Von_der_Einheit_der_Musik_(Busoni,_Ferruccio)#IMSLP248531

ch ck や この記事でご紹介いただいた tz 意外にも、長いs関連の合字が非常に多様にあり、
しかも本当に1つの文字かのごとくデザインされているため、
アルファベットの種類がたくさん増えているようで、
見ていて楽しく不思議な気持ちになります。

もしよろしければ質問させていただきたいです。
私はネットで色々眺めている中で今まで上記の2例しか見たことがないのですが、
このような、ドイツ語書籍の過渡期的な例と言いますか、こうした例は、実際には
比較的多く見られるものでしょうか?
Commented by type_director at 2023-11-03 22:02
szkippei さん、久しぶりにコメントありがとうございます。
ご紹介いただいた1920年代の書籍はローマン体で組まれていますが、30年代になって新しい時代を感じさせるサンセリフ体 Erbar を使ったこの例なんかも、szkippei さんがお探しの「過渡期的な例」のひとつかもしれません。
digi.ub.uni-heidelberg.de/diglit/neue_frankfurt1931/0006/image,info
ただ、その当時の書籍全般に対してこういう組み方がどのくらい多かったかはわかりません。第二次大戦前までは Fraktur などのドイツ文字で組んだものが多かったので、その場合は当たり前に合字を使っていたわけです。
あと、英語圏でも19世紀初めくらいまでは長い s が使われていました。1776年のアメリカ合衆国独立宣言にも見られます。
www.loc.gov/resource/rbc0001.2004pe76546/?sp=1&r=0.17,0.232,0.682,0.285,0
0
Commented by szkippei at 2023-11-03 23:39 x
早々のお返事をいただきありがとうございます。
また、興味深い例をお教えいただきありがとうございます!

確かに英語(やラテン語?)では、長いsや、ctの合字が
何百年にもわたり当然のように使用されていたのですね。

さらに、洗練されたサンセリフ体の長いsは初めて見まして
大変勉強になりました。書体名も含めてお教えいただき、ありがとうございます!

この例や、私のお送りしたうちの前者の例のように、でっぱり? がない長いsのデザインは、
個人的にはとても好きです。
頻出するsが i l f などと同じような最も細い幅で組まれていると、
多くの単語の字面がだいぶ変わって、とても新鮮に感じます。

何となくのイメージで「過渡的」と書いてしまいましたが、
ローマン体のドイツ語テキストでは最初から大半は短いsで合字も現代と変わらない程度
だったとしますと、ドイツ文字のような長いsや多様な合字をローマン体やサンセリフ体に
持ち込もうとしたのは、むしろ実験的(先進的)、あるいは洒落たこだわりとして、
といった方向性だったのでしょうか?
……ともふと感じました(専門知識がないので単なる想像ですが……)。


※ 私のお送りしました例の、別サイトにあった高画質カラーのリンクを
 念のため貼らせていただきます。
archive.org/details/beethovenundderd00sche/
archive.org/details/vondereinheitder00buso/
『欧文書体のつくり方』
小林章著 Book & Design 刊
欧文書体の第一人者によるフォントとロゴ制作の教科書。美しく読みやすい文字をつくるための基礎知識と考え方を解説。
 
プロフィール

小林 章
欧文書体で120年の歴史を持つライノタイプ社のタイプディレクターとして 2001年よりドイツに在住。同社は 2013 年 3月よりモノタイプ社と改称。主な職務は、書体デザインの制作指揮と品質検査、新書体の企画立案など。有名な書体デザイナーであるヘルマン・ツァップ氏やアドリアン・フルティガー氏と共同で書体制作も行っている。欧米や日本での講演多数、コンテストの審査員もつとめる。
著作:『欧文書体:その背景と使い方』『欧文書体2:定番書体と演出法』『フォントのふしぎ ブランドのロゴはなぜ高そうに見えるのか?』(いずれも美術出版社)『まちモジ:日本の看板文字はなぜ丸ゴシックが多いのか?』(グラフィック社) 『英文サインのデザイン:利用者に伝わりやすい英文表示とは?』(田代眞理氏との共著、BNN 新社) 『欧文書体のつくり方:美しいカーブと心地よい字並びのために』(Book & Design)
 
カテゴリ
以前の記事
2024年 12月
2024年 11月
2024年 10月
2024年 09月
2024年 08月
2024年 07月
2024年 06月
2024年 05月
2024年 04月
2024年 03月
2024年 02月
2024年 01月
2023年 12月
2023年 11月
2023年 10月
2023年 09月
2023年 08月
2023年 07月
2023年 06月
2023年 05月
2023年 04月
2023年 03月
2023年 02月
2023年 01月
2022年 12月
2022年 11月
2022年 10月
2022年 09月
2022年 08月
2022年 07月
2022年 06月
2022年 05月
2022年 04月
2022年 03月
2022年 02月
2022年 01月
2021年 12月
2021年 11月
2021年 10月
2021年 09月
2021年 08月
2021年 07月
2021年 06月
2021年 05月
2021年 04月
2021年 03月
2021年 02月
2021年 01月
2020年 12月
2020年 11月
2020年 10月
2020年 09月
2020年 08月
2020年 07月
2020年 06月
2020年 05月
2020年 04月
2020年 03月
2020年 02月
2020年 01月
2019年 12月
2019年 11月
2019年 10月
2019年 09月
2019年 08月
2019年 07月
2019年 06月
2019年 05月
2019年 04月
2019年 03月
2019年 02月
2019年 01月
2018年 12月
2018年 11月
2018年 10月
2018年 09月
2018年 08月
2018年 07月
2018年 06月
2018年 05月
2018年 04月
2018年 03月
2018年 02月
2018年 01月
2017年 12月
2017年 11月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
最新のコメント
> 雪 朱里さん コメ..
by type_director at 00:23
小林さん、お忙しいなか「..
by 雪 朱里 at 10:13
早々のお返事をいただきあ..
by szkippei at 23:39
szkippei さん、..
by type_director at 22:02
こんにちは。長年にわたり..
by szkippei at 19:47
akira1975さん、..
by type_director at 13:46
この文字の書体は、もとも..
by akira1975 at 23:17
> かんなさん Ver..
by type_director at 17:34
小林章さん、初めてコメン..
by かんな at 20:49
小林さん、 全く同..
by Masaya KOBATAKE at 17:30
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧
雑誌「デザインの現場」の最新号のほか、デザイン関連求人、デザインニュース、本誌連動のインタビュー記事掲載などデザイナーに役立つ情報満載です。
 


XML | ATOM

会社概要
プライバシーポリシー
利用規約
個人情報保護
情報取得について
免責事項
ヘルプ