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生涯を振り返って、その少年が忘れることができない一日となったのは、一九二三年の十一月十一日だった... 生涯を振り返って、その少年が忘れることができない一日となったのは、一九二三年の十一月十一日だった。誕生日を一週間後に控えた十三歳の少年は、奇しくも正確に八十二年後、死んだ。 場所はウイーン。その日はオーストリア共和国の記念日だった。五年前、オーストリア・ハンガリー帝国皇帝カール一世が退位し、以降共和制を祝う日となった。 その日は市中の交通は止ることになっていた。街に行列が行き交うからだ。学生たちも行列を作り、赤旗を掲げ革命歌を歌った。その行列の先頭に少年がいた。が、少年はふと立ち止まった。行く手を遮る大きな水たまりを見たからだ。 立ち止まったのは少年だけだった。行列は進み、彼はうしろに残された。なぜかもう行列に戻る気にはならなかった。 その行き先にあるものを少年が直感したからではなかった。自分の人生はこれから始まる激動の時代を見つめる証人(bystander)になると感じたからだった。そし
2005/11/12 リンク