プレイバック2024

ゼンハイザー「MOMENTUM 4 Wireless」でヘッドフォンの苦手意識を払拭 by鈴木誠

MOMENTUM 4 Wireless(ブラック)

メガネ装用時の相性にストレスがあり、ヘッドフォンそのものを長らく諦めていました。イヤフォンを選ぶ基準も「電車でなるべく静かに過ごせるノイズキャンセル」か、「楽器演奏時のモニターとして装着感が良いカナル型」という実用一辺倒で、音色を気にしたことはありませんでした。

しかし本誌取材でe⭐︎イヤホンを訪れたことをきっかけに、十分なノイズキャンセリング性能を持った製品が今ではBOSEとソニー以外にも豊富にあると知りました。それからというもの、お店に寄り道してはイヤフォンやヘッドフォンの展示機を端から試聴。そこでジワジワと特別な印象を抱いたのがMOMENTUM 4 Wirelessでした。

シンデレラフィットを感じた装着感

MOMENTUM 4 Wirelessの店頭デモ機を手に取って頭に載せると、いきなり音がストレートに聞こえるフィットが得られました。私が不慣れなためか、適切なフィットをすんなり得られるヘッドフォンは貴重。どうしても音が訛るというか、変なピークが発生するようなクセのある聞こえ方になってしまうことが多いのも、ヘッドフォンに苦手意識を持っていた一因です。

じっくり音楽を聞いてみると、音域全体がキチンと統率されていて「聴きやすい」と感じたのです。試聴した中には蛇口を全開にしたように全音域が溢れ出てくる高級機もあって、わからないなりに「耳にキツいけど、いやでも、これが高音質ということなのだろう」と言い聞かせてみたりもしたのですが、我慢は長続きしません。聴力は人それぞれ、音の好みにも正解がないからこそ、これほど製品数が多いのでしょうし。

特に魅力を感じたのは低音域。EQで増強した感じではなく、余裕の出力でドライブされたようなスピード感と情報量があり、「よく聞くと上質な低音がタップリ出ている」という、イヤフォンでは得がたそうな魅力を感じました。低音表現としてはJBLのイヤフォン「TOUR PRO 2」、「TOUR PRO 3」も愛用していますが、それとはまた違った味があります。

ドイツ・プロダクトらしい主義主張が見えてくる

左:「サウンドパーソナライゼーション」初期設定後の微調整画面。よくある濃い味のプリセットEQを一度も使ったことがない私でも、この微調整は積極的に活用しています
右:MOMENTUM 4 Wirelessは右側のハウジングがタッチ対応。シンプルで忘れにくい操作です。タッチ操作自体をオフにすることも可能。なにげに内蔵DAC機能もあります(右)

操作性も好みでした。iPhoneユーザーの筆者はAirPods Proの操作性に慣れており、洗練されたシンプル操作を無意識に求めます。すると、本機の「ハウジングを4方向にスワイプして音量や曲目を操作する」というスタイルは忘れにくく好みにピッタリ。物理ボタンは電源ボタン1つだけなので、それを右手親指で押したことさえ思い出せれば、ノールックでL/Rを正しく装着できます。

ゼンハイザーが好きな人はとにかくゼンハイザーが好き、なぜならゼンハイザーだから、的なイメージがあり、多少の近寄りがたさを覚えつつも理由が気になっていました。そして初めてゼンハイザー製品を買ってみて、この装着感や操作性、シンプルなデザインに触れると、私が“ドイツ”に期待する確固たる主義主張(a.k.a.頑固)が感じられました。あらゆる要望を全て取り入れることを是としてきた日本製品に囲まれて暮らしていると、この潔さにこそ憧れ、惹きつけられるのかもしれません。

鈴木 誠

ライター。デジカメ Watch副編集⻑を経て2024年独立。カメラのメカニズムや歴史、ブランド哲学を探るレポートを得意とする。インプレス社員時代より老舗カメラ誌やライフスタイル誌に寄稿。ライカスタイルマガジン「心にライカを。」連載中。日本カメラ財団「日本の歴史的カメラ」審査委員。趣味はドラム/ギターの演奏とドライブ。 YouTubeチャンネル「鈴木誠のカメラ自由研究」