大宮日記 ラテン語、チョコザップ、漢文、大宮図書館

食べて飲んで、勉強して、本を読んで、運動して生きていく。ここ、さいたま大宮で。

【読了】キム・スタンリー・ロビンスン著、大西憲訳『荒れた岸辺』早川書房

さいたま市立西部図書館所蔵

資料詳細 - さいたま市図書館

2024/10/06 大宮図書館より借入

2024/10/08 読書開始

2024/10/11 上巻を大宮図書館へ返却

2024/10/13 読了

2024/10/14 下巻を大宮図書館へ返却予定

 

熱核戦争後の世界を描いたSFではない。1984年、アメリカ合衆国本土に何者かによって持ち込まれた中性子爆弾数千発が爆発し、合衆国は報復することなく一方的に滅亡する。その63年後、2047年の「アメリカの」物語である。

大破滅を生き抜いた長老トムは、叫ぶ。

大量虐殺、皆殺しってことだ。ああ、前にも行なわれたことはある。われわれ自身、インディアンに対して行なったからな。たぶんこのせいで、今度はわれわれがやられたのかもしれない。わたしは理由を求めつづけているが、まだ充分じゃない。けれどもこう考えるほうが、ほかの国々に嫉妬されて殺られたなどと考えるよりもましだろう。そんなことをされていいはずがないんだ。どんな国も、このように荒廃させられていいわけはないんだ。われわれは無数の過ちを犯したし、強さに合うだけの欠点もある。だが、こんなことをされていいわけがないんだ。(下巻P.169)

どの国に攻撃されたのかは不明なまま。生存者はいたので本来であれば、63年も経てば復興の歴史があるのだろうが、国境は他国から封鎖され、貿易はおろか国内の通信や交通も遮断されて産業は壊滅し、人々は分断され、自給自足の農耕漁猟生活に後戻りしてしまっている。西海岸を封鎖しているのは日本であり、ハワイは占領されて、西海岸の監視を行っている。宇宙空間からは監視衛星が見張っており、少しでも国内の連帯の動きがあれば攻撃してくるのだ。

西海岸、オノファー川渓谷の小さな村の物語である。そしてそれは、アメリカとは何なのかという物語でもある。

作中では、少数ながらもアメリカ人同士連帯して日本に対して無謀なレジストをするか、それとも今は力をためて遠い将来の希望につなげるべきか、登場人物のそれぞれの生きざまが描かれている。戦うとしても、それは双方が同じ火力で戦った米国独立戦争の時とは違い、ライフル銃対ミサイルの戦いなのである。

主人公ヘンリーは、友人スティーヴと共に戦う道を歩むが結局、挫折する。それでは、アメリカは?どうなるのか?

作者は、その答えは示していないが、たぶん、もうかつての「アメリカ帝国」ではないアメリカを、いや、過去どこかで間違えってしまった歴史をもう一度やり直して、もっとましな国になるしかないんだということではないのか。世界中から嫌われることなく攻撃されないアメリカを。

海に目をやると、いまだに何条かの光の筋が雲を貫いて、波のある海面を輝かせていた。トムはそこを指さした。
「あんたがやるべきなのは、もういちどクジラを獲ることだよ。もうそろそろやつらが通るはずだからね」
おやじさんとぼくはうなった。
「いいや、実際あんたたちはあいつをあまりにも早くあきらめすぎたのさ〔…〕」

(下巻P.276)

それにしても下巻の表紙だが、少々盛りすぎですなコレ。

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