左翼アレルギー(追記あり)

buyobuyoさんのブクマコメントを読んで、mujinさんのところにコメントしたことをちょっとふくらませておこうかと思って。

2008年08月31日 buyobuyo これが若さか お前のおかしいところは、批判のホコサキが政策推進者にいかないところ。悪いのは止められないサヨクのせいかよ
(http://b.hatena.ne.jp/entry/http://d.hatena.ne.jp/HALTAN/20080830/p1)

もちろん左翼もいろんな間違いをしてきた(している)わけで、事実に即してそれを批判するのはけっこうなんですが・・・

2007年01月20日
[サヨク][日本はじまったな]「国民を災害から守ることを守ることを任務とされているはずの自衛隊が、国による命令を受けて救援に向ったのは、数日を経て後のことであった。」お前のとこの村山のせいだよ!旧社会党・社民党系だけは生涯許さん。
(http://b.hatena.ne.jp/fuku33/サヨク/)

本館の方もお読みいただいている方はご存知かもしれませんが、私も被災者の一人です。私は匿名でブログをやっている以上、自分の属人的な情報をひきあいに出して何かを論じることはなるべく避けているんだけど、この件についてはすでに何度か書いているのであえてひきあいに出します。で、災害に巻き込まれた当事者というのは逆に俯瞰的な情報を欠いていたりすることがあるので私が知らないだけかもしれないのですが、「自民党所属の閣僚が、あるいは官僚が必死になって自衛隊の派遣を進言し続けたにもかかわらず、村山首相が“いや、自衛隊は違憲じゃから”といってそれを斥けた」なんてことが当時の関係者の証言から明らかになったんでしょうか? もしそうなら、ご教示いただければ幸いです。それなら、私も村山富市を許しませんから。もっとも、この話題については以前に本館でもとりあげたことがあるんですが、そうした事実を指摘してくださった方はおられませんでしたね*1。ブクマタグで「はてサ」とか言われてしまう私ですが、あの日の朝、瓦礫を掘り返しながら近所の人に「伊丹に第3師団の駐屯地がありますから」とかいったはなしはしていたわけです。あっちこっちで道路が寸断されてる、なんてことは知らずに。もちろん、村山元首相は単に「その時首相だった」という事実だけをとっても責任を免れることはできませんよ。ある種の地位には、その地位を占める個人に何ができたかということとは別に、地位そのものに由来する責任というものがありますから。それを否定する気はさらさらない。そして、それ以上の実質的な責任がある可能性も否定しないし、具体的な根拠があれば当然認めますよ。しかしですね、上述した本館のエントリへのコメント欄でも言及した、こういう証言があるわけです。

 阪神大震災に話はもどりますが、1974年京都大学と大阪市立大学が神戸市の委託をうけて都市計画の前提となる地盤の研究をおこない、神戸市に答申しました。近い将来、必ず大地震がおこる。激甚・甚大な被害が予想される。今からその対応をすべきだと答申しました。


 そしたら、当時の宮崎市長とその関係委員会は、震度6から7の地震に備えるためには、莫大な予算がいるとして、想定震度を5.5に引き下げてしまった。大地震がくることを隠し、自治体の構築物や民間の建物を耐震強度、震度6から7で補強や新築の基準にしなかった。
(http://www.news.janjan.jp/special/0601/0512250875/1.php)

どうです? 経営学者としては無視できないはなしではないかと愚考しますが? あるいは、今日阪神大震災の犠牲者として数えられる死者の中には、仮設住宅などでいわゆる「孤独死」を迎えた人々もいるわけです。地震直後の自衛隊派遣をめぐる判断(の誤り)が、神戸市の都市計画やら震災後の長期的な支援政策(の不備)と比べてより多くの犠牲者を生みだした、と考えるべき実証的な根拠はあるんですか、id:fuku33氏? 「旧社会党・社民党系だけは生涯許さん」が単なる左翼嫌いの吐露以上の意味をもつためにはそうした根拠が必要だと思うんですが。旧社会党の首相が自衛隊の派遣を渋った(という実証的な根拠があれば、のはなしですが)のはそのイデオロギーのせいだが、住宅を失った被災者への個人補償を自民党が拒否したのはイデオロギーのせいではないんですか?*2 日本政府の不作為やら作為のせいで犠牲者が増えた・・・という事例は他にもいっぱいありますよね? 戦後の大半の期間政権与党だった自民党を「生涯許さん」なんて思わないのは、単にあなたが阪神大震災には関わっているけど水俣病には縁がなかったからですか? 大日本帝国はサイパンが陥落して「絶対国防圏」が崩壊して以降に軍人・軍属の戦死者のおよそ半数を死亡させており、民間人に関しては東京大空襲、沖縄戦、広島、長崎での10万人規模の犠牲を筆頭にその大半が「絶対国防圏」崩壊後に亡くなっているわけですが、だとすればこういう戦争を指導した人間を「英霊」として顕彰しようとする面々は「生涯」どころか七回生まれ変わっても許さん、と思っておられるのでしょうか?


追記

2008年09月01日 wiseler 自衛隊による救出が遅れた時点で、指揮官(首相)の責任は大きい。それだけで十分じゃない。
(http://b.hatena.ne.jp/entry/http://d.hatena.ne.jp/Apeman/20080901/p1)

うん、村山富市の責任についてはそれで「十分」なの。そのことはちゃんとエントリにも書いてあるでしょ? 問題は阪神大震災の被害を大きくした他の要因とか、日本政府の作為・不作為によるその他の犠牲を差し置いてなぜ「旧社会党・社民党系」にだけ怒りが向かうのか、ってところなの。


追記2

 それは、人々の一回だけの生を受け入れ、そのまちがいも成功も含めて受け入れる、ということだ。半世紀前にぼくたちの先祖がこんなことをできたかもしれない――それは思考実験としてはおもしろい。でも、それを基準にいまの人たちを断罪したり糾弾したりしてはならない。人々は、自分の――そして先祖たちの――選択の結果を自らいまこの瞬間に生きている。それを否定してもいいけれど、それはあなたが自分自身を否定するということでもあるのだ。
(http://cruel.org/other/gdp.html)

なんだそうですよ。福耳先生、村山富市を批判するのは止めて「旧社会党・社民党系」を赦しましょう! ほかならぬ、左翼批判のために「ポル・ポト」を引き合いに出すお仲間のおっしゃることですから!

*1:いやもちろん、銀座に戦車を走らせたがった石原閣下のような人が首相だったら、阪神大震災に限って言えば結果として死者が減っていただろう・・・ということはできますよ。しかしそれはそれで「イデオロギー」ゆえの判断がたまたま吉と出たというだけのはなしであって、別の場面ではそのイデオロギーがより大きな犠牲を生んだ可能性は誰にも否定できないわけです。可能性の問題ですから。

*2:なお、私は阪神大震災で住宅を失った被災者への個人補償に関しては、少なくとも積極的な賛成派ではないが、これはもちろん私のイデオロギー故の判断です。