1998年の8月危機と米国債

なにが起こっているのか誰にもわからなかった。債券市場では、共通のルールの下にいかに多くの、しかも巨額のマネー・マシーンが稼動していたかをみてきた。それは例えばモーゲージ債のように、投資家サイドに何らかの非合理的な理由があるがために割安な値付けをされているものを買って、米国債のように若干割高な証券を売るというものだ。
マネー・マシーンを稼動させているエンジンはしばしば流動性格差である。投資家はすぐに現金化できる資産を評価し、それができないものを評価しない。全マネー・マシーンの最古参だったメリウェザーのオン・ザ・ラン/オフ・ザ・ラン米国債トレードはこの方法で機能していた。
そしていまや、マネー・マシーンが停止し始めたのだ、影響はギアをバックに入れた状態になった。流動性の高い証券の価格だけが上昇し、他はみな下落した。だが、トレーダーは市場に対して自分達自身が及ぼしているインパクトに気づかなかったのである。彼らにとっては、みなが突然不合理に行動し始めたようにしか見えなかったのだ。「質への逃避」とか「流動性への逃避」という言葉が踊る。
このマーケット・ウイルスは相関性についても破壊的な影響をもたらす。VARの枠組みでは、異なる資産はしばしば反対方向に動くので、二単位のリスクを一単位の価格でとることができると考える。いまや、すべてが同じ方向に動き始めていた。唯一の例外がオン・ザ・ランの米国債であり、それだけが違う方向に向かっていたのだ。突然、リスクがもっとはるかに大きなものに見え始め、これが伝染病を悪化させることになる。(『LTCM伝説』東洋経済新報社、2001年 364−365)
(From the translated version of "Inventing Money" pp.364-365. Thanks to Nicholas Dunbar.)

LTCM伝説―怪物ヘッジファンドの栄光と挫折

LTCM伝説―怪物ヘッジファンドの栄光と挫折