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2007-01-30 Tue 15:39
執務室の前には、銃を持った兵士が立哨していた。事件の後ということもあり、通常よりも四名増員されて六名が立っていた。行政府周辺も警戒を 強め、 闇に包まれ始めた行政府の建物に、サーチライトの光が反射していた。
オーブ行政府の執務室に集まったメンバーは思いのほか多かった。 オーブ側は、 カガリオーブ首長国連邦代表、そして、副代表ユウナ・ロマ・セイラン。 そして、シン・アスカ二等兵。そしてその直属の上官であり、カガリの相談役アレックス・ディノ曹長。
プラント側は、デュランダル最高評議会議長。そして、その補佐役 ラクス・クライン最高評議会議員。 護衛のレイ・ザ・バレルと、ルナマリア・ホークが直立でわきに控えた。 「困ったことにならなければいいのですが……」というデュランダルに、カガリの顔も曇る。 「とにかく、友好条約締結会議は一時延期する、会議場にいる議員達にそう伝えてくれ」 「このようなことは、強硬派に都合のいい口実を与えてしまうだけですのに」 ラクスは落胆の色を隠せない。 「まったくだ」 カガリは憤然としてラクスに同意した。 「今まさに、世界情勢は戦争を望むものにとってこの上ない状況になっている、とそういうことか」 ユウナは、腕組みをして、他人ごとのように微笑んだ。 「至急、本国の国民に対して冷静を呼びかけようと思う。尊い犠牲を出してしまったが、彼らが目標としたであろう私達シャトルの乗客は全員助かったのだ。 戦争を望む者たちに対する口実になってやる必要はないからね」 デュランダル議長は側近に指示を出し、使いには知らせた。どうやら、本国と連絡を取るらしい。
「戦争を望む者たち? そんなやつらが、いるていうのか?」 思わず声を上げたシンに一堂の視線が集まった。 「シン、気持ちはわかるが、ここは俺達が口を挟む場面ではない」 「わかって、わかってます。でも・・・・・」 抑えきれない怒りが、表情に浮かび上がっている。 「そうそう、君達の処分を考えなくっちゃねぇ」 ユウナは紫色の瞳で、意地悪くシンとアレックスの顔を覗き込んだ。シンは、耐え切れず、視線をそらした。 「内政干渉になってしまうのはわかるが、彼らの処遇は消して厳しいものにしないで欲しい。なにせ私達の命の恩人なのだから」 「しかし、命令もなしに出撃。そして、何よりの問題はオーブ領空外の敵に攻撃したことだ」 ユウナはいらだたしげにこぶしで机を叩いた。
「しつれいいたします。解析班より、新たな情報が入りましたので、お持ちしました」 「入ってくれ」 カガリが促すと、長身の男が大またで入ってきた。厳重に鍵をかけられた箱には、フロッピーが入っていた。 「何か的に関する情報が掴めたのか?」 「残念ながらそうではありません」 期待するカガリに男は首を振った。 「ならなんだというのだ」 ユウナのいらいらはまだ収まってはいない。 「そこにいるシン・アスカ二等兵にとっては重要な情報かと」 「俺、いや、私でありますか?」 シンは当惑した。フロッピーを聞きに差し込むと映像が流れ始めた。 「この線が領空を示す線です」 男が説明を始めると一同はそろって画面を注視した。 画面には、所属不明機とそれと争う二機の機体――赤と白のザクが写っていた。光線は激しさを増し、幾筋のビームが空を埋め尽くしている。 やがて、領空県から、一機のMSが踊りだしてきたフリーダムmark2だ。 男はそこで画像を止め、コマ送りで巻き戻しを始めた。 「彼が到着する以前のシーンに注目してください―――ここです」 男の指先は、一条の閃光を刺していた。 「この攻撃は敵機のものです。そして、この攻撃は領空を審判して、新型機を狙っています」 その言葉に、画面を見つめるものたちの顔色が変わった。 「では、シン・アスカ二等兵は」 目を丸くしたカガリが詰め寄ると、男は肯いた。 「そうです。彼の行動は防衛行動とみなされます」 「それでもさ、独断専行による命令違反だろう。軍法会議にかかれば、不名誉除隊ものだろう」 邪気を纏っているような不敵な表情でユウナは紫色の髪の毛を掻き上げた。シンは腹のそこにたまる怒りの感情を理性で抑えようと勤めた。 この行動に否があることを自分自身認めていたから、平静を装うことができたが、そうでなければ殴っていただろう。 「ユウナ・ロマ。しかし、彼がいなければ、シャトルが沈んでいたんだぞ。分かっているのか」 「分かっているさ、カガリ。軍を出したくないといったのは君じゃないか? シャトルも助かった。その上で、彼を正当な手続きによって処罰すれば、国際上非難される理由もない。四方丸く収まるってもんじゃないか」 「しかしっ、それでは、シンの立場は」 声を上げたのはアレックスだった。シンは驚いた。いつも、厳しい上官がまさか自分をかばってくれるとは思っていなかったからだ。 「君は、黙っていてくれ。今の自分の立場をわきまえたらどうだ、曹長殿」 「くっ」 アレックスは投げ返された恥辱の言葉に、一瞬顔を歪めたが、それに対して言い返すことはなかった。 「俺は、俺は絶対に軍をやめたりなんかしない。やめたくない。俺は戦いたいんだ、平和のために。もし、オーブ軍が俺を放り出すのなら、ZAFTに入ってでも俺はこの意思を貫き通す」 「貴様っ!!」 逆上したユウナの目が血走った。だが、振り上げたこぶしを真の横面に下ろさなかったのは、文官としての矜持か、それとも、デュランダル議長に対する対面を気にしてのことであろうか。 「私は、私は軍の最高司令部がどういおうと、シン・アスカに不名誉除隊を命ずることを禁止する。シン・アスカ二等兵と、その上官アレックス・ディノに重営倉謹慎一週間だ。これは勅令だ」 小柄な体から力強い声が発せられ、その場にいるものたちを射すくめた。 「馬鹿なことを。軍紀を乱れさせるつもりか」 しかし、一同はカガリの言葉に従いばたばたと動き始めた。 アレックスは、代表の正装である国民服が、あまりにも華奢な彼女の体を包んでいる様子が、痛々しく感じた。 「シン・アスカ二等兵」 「はい」 シンとアレックスは、両脇を兵士に挟まれ、執務室を後にした。 ※ 「あの、アス・・・・・・アレックスさん」 「ラクスっ、あっ、クライン議員」 アレックスが後ろからの呼びかけに答えた。 シンがふりかえると、そこにはピンク色の髪をした美しい女性が立っていた。 「知り合い、何ですか?」 アレックスが親しげに呼び返したことを不審に思い、尋ねるも「まあな」とあいまいな返事しかしない。オーブ軍人であるアレックスとクライン議員がどんな経緯で入相なのか、シンにはまるで見当がつかなかった。 「ごめんなさい、アレックス。貴方の名を奪ったのは、私の責任。私が今ここにいられるのも、貴方を踏み台にしたせいだわ」 「それは、違う。俺は、自分で選んでここにいるんだ」 アレックスはそれだけいうと、足早にその場を離れた。クライン議員は、まだ何かいい打下な目をして、アレックスの背中を見つめていた。 ※ シンは付き添いの兵に従われたまま重営巣へ向かった。 途中、ハイネが待っていて、 「もう、いいよ。後は俺が連れて行くから」 「いや、しかし、命令ですので……」 うろたえる兵士の肩を、ハイネは軽く叩き 「こんど、飲もーぜー」 と明るくいい、丸め込んでしまう。 そんな様子をシンは黙ってみていた。 無言でまで歩く二人。 ハイネは突如 「馬鹿なことをやったな」 と、低い声で言った。 「すみません」 憮然とあやまるシンに、ハイネは何かを投げてよこす。 「お前の勲章だ」 あわてて受け取り、それをまじまじと眺めた。 「こ……、これは!?」 「工廠の扉の破片だ。おまえ、ぶっ壊して出撃したろ」 掌のなかで鈍く輝く銀。シンは、それをそっと握り締めた。 「よくやったよ。お前は……」 「ハイネさん」 シンが顔を上げるとハイネは笑っていた。 「まったく。ちっと、一週間休憩しとけっ」 言われると同時に、シンは営倉へと投げ込まれた。
シンは、床に転がると、銀の破片と、ポケットに入れていたピンク色の携帯電話を取り出し、光にかざした。 「俺は……、守るんだ。みんなを」 シンは、ひとりごとを言った。
その頃、ユニウスセブン宙域に、不審な船が航行していた。その船からはジンが次つぎと飛び出してきた。
二人一組になり、なにやら大きな機械を運んでいる。 「お前はB2ブロックへ迎え……、よし……、地上班との連絡は取れてるな」 「はい、異常なし、計画どうり進行中とのことです」 「ならいい。……世の中は、今、間違った方向に進もうとしている、和平など幻想でしかないとなぜ気づかん。今こそ、パトリック・ザラのなしえなかった夢を現実にするときがきたのだ」 漆黒の闇が彼の眼下に広がっている。その瞳は星ぼしの明るさなどとは無縁だった。
つづく
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