2007-01-30 Tue 15:43
けれど、その青年は、それにまるで気づくこともなく作業に没頭している。ディスプレイには、文字の羅列が次々に表示され、点滅を繰り返している。 ディスプレイを見つめたまま、傍ら似合った紅茶のカップを手に取ろうとしたとき、青年は低くうめいた。 頭を押さえ、じっと黙り込む。その目には暗い影が宿る。 「もう、やになっちゃうな」 不安を打ち消すかのように、勤めて明るくそういうと、また、作業に取り掛かろうと、資料らしき紙の束をめくり始めた。 そのとき、玄関でチャイムが鳴った。 「はい」 青年は即座に返事をしたものの、今日たずねてくる相手に心当たりがないらしい。首をひねりながら、上着を羽織り玄関まで出た。 「ハロ、ハロ」 ドアを開けたとたん、ピンク色のロボットが転がり込む。 「ラクスっ!」 「久しぶりですわ」 柔和な笑みを浮かべた女性がひとり、家の前に立っていた。 青年――キラ・ヤマトの恋人であるラクス・クラインその人であった。 「よかった。本当に、心配していたんだよ」 キラは、優しく手を伸ばし、ラクスを抱きしめた。 ラクスは、オーブについてはじめて、緊張を解き、微笑んだ。 「ありがとう、キラ」 「それにしても、大変なことになってしまったね。まさか、シャトルが襲撃されるなんて」 キラは、ラクスにも紅茶を入れると、部屋の真ん中に置かれたテーブルに座った。 「ええ。今、和平を望まぬものたちは、きっかけを切望しています。そんな彼らに、格好の材料を作ってしまった。世界が、また、争いの渦に巻き込まれなければ、いいのですが……」 ラクス、目を伏せ、険しい表情をした。 「でも、ラクスは平和な世界を維持していくために、がんばっているんでしょ。僕なんかより、ずつと、偉いよ」 「キラも、プラントにいくべきですわ。あなたには、力がある。今のプラントなら、あなたを受け入れることが出来るはずです」 「力……」 キラは、溜息をついた。 思い出す。 ラウ・ル・クルーゼとコロニーメンデルで対峙したときのこと。 そして、ヤキン・ドゥーエで戦ったときのこと。 「僕は、力なんか……」 「キラ、ごめんなさい。そんなつもりじゃ」 彼女ですら、呪縛から逃れることが難しいのだと、キラは、少しさびしくなった。それは、自分が最高のコーディネーターであるという、呪縛だ。純粋な彼女ですら、「キラ」を「キラ」としてだけ、見ることはもはや難しいのかもしれない。 キラのことをよく知る誰もが、いや、自分さえも、自らの生まれから逃れることは出来ないのだろうか。 「そういえば、これを拾ったんだ」 ポケットから、キラは、光るにび色のものを取り出した。 「まあ、これは?」 「今日、近くの海岸に出たとき、見つけたんだ。僕は、MSのかけらじゃないかと思う」 キラは、優しく親指で表面を撫でた。 まるで、四年前、MSを駆っていた頃を、思い出しているかのように……。 「ええ、私も、そう思いますわ。それに、この色……」 ラクスは、思い出していた。シャトルの中から、見た所属不明の機体。その色によく似ている。 「私たちのシャトルを狙ったMSは、四散してしまって、まだ身元がわかっていませんの。これは、そのMSのことを知る重要な手がかりになりますわ」 ラクスは、興奮した面持ちでキラを見やる。 「うん、そうだね」 そんな、ラクスをなだめるかのようにキラは、穏やかにうなづいた。 その時、家の外で闇をつんざく、大きな音がした。 二人は、立ち上がって、あたりを警戒する。 「キラ……」 「ラクスっ」 キラは、引き出しに入れてあった銃を取り出し、ラクスをかばうように、構えた。 ドアが勢いよく開き、外から覆面の男たちがなだれ込んでくる。 キラが銃で応戦し、裏口から逃れようと、後ろに歩を進める。 覆面の男たちはプロのようだ。動きに隙がない。 それでも、キラは、全神経を集中させて、それに対抗する。 しかし、人数の面で圧倒的に不利だ。 しかも、相手の男たちからは、張り詰めた殺気が漂っている。 武器を振るうことに躊躇している様子はない。 ラクスを狙って撃った銃弾の一発がキラの肩を貫通し、キラは、低くうめいた。ラクスが息を呑み、キラを助けようと腕を伸ばすまもなく、もうひとつの弾が、キラの左足を貫く。 「にげろ、ラクス! 君だけでも」 「キラをおいてはいけません!」 「駄目だ!」 その隙に、ラクスの横頬を銃弾がかする、白い肌に赤い血が滴る。 男たちが、大またで近寄り、ラクスの二の腕をわしづかみにする。 手に持っていた電子麻酔をラクスの額にかざすと、ラクスは、瞬時に意識を失った。 「ラクスッ!」 動かない足を引きづりながら、キラは、後を追う。キラの放った銃弾が、ラクスを掴んでいた二人の肩を貫いたが、反撃はそこまでだった。 他のひとりがキラの腹をめがけて、非情に銃弾を放った。 交わそうと、体をひねった瞬間、あの症状が、また、起こった。 一瞬の空白。 しかし、致命的な空白。 次の瞬間、目にしたのは、自分の腹から飛び散る鮮血と、誰もいなくなった室内だけだった。 ドアが、キイキイと、風に嬲られてゆれていた。 |
2007-01-30 Tue 15:39
闇に包まれ始めた行政府の建物に、サーチライトの光が反射していた。 オーブ行政府の執務室に集まったメンバーは思いのほか多かった。 オーブ側は、 カガリオーブ首長国連邦代表、そして、副代表ユウナ・ロマ・セイラン。 そして、シン・アスカ二等兵。そしてその直属の上官であり、カガリの相談役アレックス・ディノ曹長。 プラント側は、デュランダル最高評議会議長。そして、その補佐役 ラクス・クライン最高評議会議員。 護衛のレイ・ザ・バレルと、ルナマリア・ホークが直立でわきに控えた。 「困ったことにならなければいいのですが……」というデュランダルに、カガリの顔も曇る。 「とにかく、友好条約締結会議は一時延期する、会議場にいる議員達にそう伝えてくれ」 「このようなことは、強硬派に都合のいい口実を与えてしまうだけですのに」 ラクスは落胆の色を隠せない。 「まったくだ」 カガリは憤然としてラクスに同意した。 「今まさに、世界情勢は戦争を望むものにとってこの上ない状況になっている、とそういうことか」 ユウナは、腕組みをして、他人ごとのように微笑んだ。 「至急、本国の国民に対して冷静を呼びかけようと思う。尊い犠牲を出してしまったが、彼らが目標としたであろう私達シャトルの乗客は全員助かったのだ。 戦争を望む者たちに対する口実になってやる必要はないからね」 デュランダル議長は側近に指示を出し、使いには知らせた。どうやら、本国と連絡を取るらしい。 「戦争を望む者たち? そんなやつらが、いるていうのか?」 思わず声を上げたシンに一堂の視線が集まった。 「シン、気持ちはわかるが、ここは俺達が口を挟む場面ではない」 「わかって、わかってます。でも・・・・・」 抑えきれない怒りが、表情に浮かび上がっている。 「そうそう、君達の処分を考えなくっちゃねぇ」 ユウナは紫色の瞳で、意地悪くシンとアレックスの顔を覗き込んだ。シンは、耐え切れず、視線をそらした。 「内政干渉になってしまうのはわかるが、彼らの処遇は消して厳しいものにしないで欲しい。なにせ私達の命の恩人なのだから」 「しかし、命令もなしに出撃。そして、何よりの問題はオーブ領空外の敵に攻撃したことだ」 ユウナはいらだたしげにこぶしで机を叩いた。 「しつれいいたします。解析班より、新たな情報が入りましたので、お持ちしました」 「入ってくれ」 カガリが促すと、長身の男が大またで入ってきた。厳重に鍵をかけられた箱には、フロッピーが入っていた。 「何か的に関する情報が掴めたのか?」 「残念ながらそうではありません」 期待するカガリに男は首を振った。 「ならなんだというのだ」 ユウナのいらいらはまだ収まってはいない。 「そこにいるシン・アスカ二等兵にとっては重要な情報かと」 「俺、いや、私でありますか?」 シンは当惑した。フロッピーを聞きに差し込むと映像が流れ始めた。 「この線が領空を示す線です」 男が説明を始めると一同はそろって画面を注視した。 画面には、所属不明機とそれと争う二機の機体――赤と白のザクが写っていた。光線は激しさを増し、幾筋のビームが空を埋め尽くしている。 やがて、領空県から、一機のMSが踊りだしてきたフリーダムmark2だ。 男はそこで画像を止め、コマ送りで巻き戻しを始めた。 「彼が到着する以前のシーンに注目してください―――ここです」 男の指先は、一条の閃光を刺していた。 「この攻撃は敵機のものです。そして、この攻撃は領空を審判して、新型機を狙っています」 その言葉に、画面を見つめるものたちの顔色が変わった。 「では、シン・アスカ二等兵は」 目を丸くしたカガリが詰め寄ると、男は肯いた。 「そうです。彼の行動は防衛行動とみなされます」 「それでもさ、独断専行による命令違反だろう。軍法会議にかかれば、不名誉除隊ものだろう」 邪気を纏っているような不敵な表情でユウナは紫色の髪の毛を掻き上げた。シンは腹のそこにたまる怒りの感情を理性で抑えようと勤めた。 この行動に否があることを自分自身認めていたから、平静を装うことができたが、そうでなければ殴っていただろう。 「ユウナ・ロマ。しかし、彼がいなければ、シャトルが沈んでいたんだぞ。分かっているのか」 「分かっているさ、カガリ。軍を出したくないといったのは君じゃないか? シャトルも助かった。その上で、彼を正当な手続きによって処罰すれば、国際上非難される理由もない。四方丸く収まるってもんじゃないか」 「しかしっ、それでは、シンの立場は」 声を上げたのはアレックスだった。シンは驚いた。いつも、厳しい上官がまさか自分をかばってくれるとは思っていなかったからだ。 「君は、黙っていてくれ。今の自分の立場をわきまえたらどうだ、曹長殿」 「くっ」 アレックスは投げ返された恥辱の言葉に、一瞬顔を歪めたが、それに対して言い返すことはなかった。 「俺は、俺は絶対に軍をやめたりなんかしない。やめたくない。俺は戦いたいんだ、平和のために。もし、オーブ軍が俺を放り出すのなら、ZAFTに入ってでも俺はこの意思を貫き通す」 「貴様っ!!」 逆上したユウナの目が血走った。だが、振り上げたこぶしを真の横面に下ろさなかったのは、文官としての矜持か、それとも、デュランダル議長に対する対面を気にしてのことであろうか。 「私は、私は軍の最高司令部がどういおうと、シン・アスカに不名誉除隊を命ずることを禁止する。シン・アスカ二等兵と、その上官アレックス・ディノに重営倉謹慎一週間だ。これは勅令だ」 小柄な体から力強い声が発せられ、その場にいるものたちを射すくめた。 「馬鹿なことを。軍紀を乱れさせるつもりか」 しかし、一同はカガリの言葉に従いばたばたと動き始めた。 アレックスは、代表の正装である国民服が、あまりにも華奢な彼女の体を包んでいる様子が、痛々しく感じた。 「シン・アスカ二等兵」 「はい」 シンとアレックスは、両脇を兵士に挟まれ、執務室を後にした。 ※ 「あの、アス・・・・・・アレックスさん」 「ラクスっ、あっ、クライン議員」 アレックスが後ろからの呼びかけに答えた。 シンがふりかえると、そこにはピンク色の髪をした美しい女性が立っていた。 「知り合い、何ですか?」 アレックスが親しげに呼び返したことを不審に思い、尋ねるも「まあな」とあいまいな返事しかしない。オーブ軍人であるアレックスとクライン議員がどんな経緯で入相なのか、シンにはまるで見当がつかなかった。 「ごめんなさい、アレックス。貴方の名を奪ったのは、私の責任。私が今ここにいられるのも、貴方を踏み台にしたせいだわ」 「それは、違う。俺は、自分で選んでここにいるんだ」 アレックスはそれだけいうと、足早にその場を離れた。クライン議員は、まだ何かいい打下な目をして、アレックスの背中を見つめていた。 ※ シンは付き添いの兵に従われたまま重営巣へ向かった。 途中、ハイネが待っていて、 「もう、いいよ。後は俺が連れて行くから」 「いや、しかし、命令ですので……」 うろたえる兵士の肩を、ハイネは軽く叩き 「こんど、飲もーぜー」 と明るくいい、丸め込んでしまう。 そんな様子をシンは黙ってみていた。 無言でまで歩く二人。 ハイネは突如 「馬鹿なことをやったな」 と、低い声で言った。 「すみません」 憮然とあやまるシンに、ハイネは何かを投げてよこす。 「お前の勲章だ」 あわてて受け取り、それをまじまじと眺めた。 「こ……、これは!?」 「工廠の扉の破片だ。おまえ、ぶっ壊して出撃したろ」 掌のなかで鈍く輝く銀。シンは、それをそっと握り締めた。 「よくやったよ。お前は……」 「ハイネさん」 シンが顔を上げるとハイネは笑っていた。 「まったく。ちっと、一週間休憩しとけっ」 言われると同時に、シンは営倉へと投げ込まれた。 シンは、床に転がると、銀の破片と、ポケットに入れていたピンク色の携帯電話を取り出し、光にかざした。 「俺は……、守るんだ。みんなを」 シンは、ひとりごとを言った。 その頃、ユニウスセブン宙域に、不審な船が航行していた。その船からはジンが次つぎと飛び出してきた。 二人一組になり、なにやら大きな機械を運んでいる。 「お前はB2ブロックへ迎え……、よし……、地上班との連絡は取れてるな」 「はい、異常なし、計画どうり進行中とのことです」 「ならいい。……世の中は、今、間違った方向に進もうとしている、和平など幻想でしかないとなぜ気づかん。今こそ、パトリック・ザラのなしえなかった夢を現実にするときがきたのだ」 漆黒の闇が彼の眼下に広がっている。その瞳は星ぼしの明るさなどとは無縁だった。 つづく Next phase 飛べない翼 |
2007-01-28 Sun 15:59
「こっのー! もう、これ以上はやらせないわよ」 ルナマリアは、できる限りの力を振り絞って敵のMSにライフルを発射し続けていた。こちらは新型機のはずなのに、相手のパワーも火力もそれに劣らないように見える。 なぜ? インクのしみのように不安が、心の中に広がっていく。 淡々と、戦闘を続けるレイの存在がいなければ、おかしくなってしまいそうだった。 「俺が敵を引き付ける。ルナはシャトルの進路を確保しろ。このままでは、埒が明かない」 「わかったわ」 レイは、シャトル脇を旋回し、敵機を引き付け、シャトルの後方へとおびき寄せた。その隙を狙って、ルナマリアは前方に残っていた二機に接近し、ビームトマホークを振るった。一機は爆発し、もう一機は逃げおおせた。 進路を確保することができたシャトルは、わずかながら、前進を始めた。しかし、領空圏まではいまだ遠い。 なかなか決着がつかない戦いに業を煮やしたのか、敵もシャトルに火力を集中させてきた。それを必死にシールドで受け流しつつ、少しでもシャトルが領空に近づくことをルナマリアは祈っていた。 しかし、計器の一つをみて、愕然とした。 「バッテリー残量が……、あと、三分くらいしかもたない」 「おちつけ、ルナマリア。まだ三分あると思え。領空に入れば、オーブ軍の救援がくるはずだ」 「レイ……」 レイのバッテリーの状況も似たようなものに違いない。それなのになぜ、こうも冷静でいられるのか。レイは、不思議なほど、常に落ち着いている。しっかりしているだけじゃない。なにか大切なものをあきらめてしまっているから生み出される強さの気もする。 だけど、ルナマリアはレイにその何かをずっと聞けずにいた。 もし、生きてオーブにたどり着けたら、その時は聞いてみよう。レイの隠しているだろう、何かを。 しかし、オーブに本当に辿り着けるのだろうか。 バッテリーの残量は刻々と減り続けている。 そのとき、シャトルとすれ違う何かがあった。 みると、それは青い翼をしたMSの機体だった。 ※ 練習用では出ないほどのスピードで高度1600の地点まで辿りついた シンは、やがて雲の間に浮かぶ銀色のシャトルを発見し胸を躍らせた。 シャトルの周りに群がる虫のように黒いMSが四機、旋回している。 シンは、シャトルをと通り過ぎ、高い地点まで到達するといったんブーストを切り、重力に引きづられながら、敵にライフルを向けた。 敵機も突然の乱入に驚いたのか、一斉にシンめがけてビームを放った。シンの手は冷や汗に濡れていた。が、機体の上下前後に飛行させ、それらをすり抜けることに成功した。今までの機体なら、一個くらいはビームを食らっていたかもしれない。しかし、このMSは違った。操作に対するレスポンスが格段に早いおかげで、細かい動きにも対応できる。 シンは、目前の敵機に意識を集中しようとするが、高鳴る鼓動が邪魔をする。初めての実践。そんな中で、新型機の複雑な武装を理解するのは、至難の業だ。ライフルで応戦しつつ、一つ一つの武装を確認していく。 まず高エネルギービームライフル二丁。 そして、シュペールラケルタビームサーベル。 これの操作は、練習機のライフルとサーベルの延長線上だと思えばいい。ビームライフルは、連結することにより、より強力なビームを放つことができそうだ。 次に、翼に収納されたパラエーナ プラズマ収束ビーム砲。 これは、発射時には、両肩の上に展開させられる。シンは、敵に狙いをつけて発射する。炎は、敵MSの半分を消失させた。 すごい火力だ。 だが、強い火力のせいで、自分の機体の体勢が崩れてしまう。間もできやすい。敵機も、それを察して、間合いに詰め寄ってきた。シンは、ととっさにビームサーベルで受け止める。 そして、クスフィアス3レール砲というレールキャノンまでが両腰に装備されている。 オーブの練習機とは、まるで違う。 「あなた……! 何者?」 回線の周波数がわからないせいだろう。ざらついた声がスピーカーから聞こえてきた。 「援護する」 シンは、それだけを言って、迫ってきた敵の背後に急旋回した。今は、名乗っても仕方のないことだ。 また一機、敵機を背後から切りつける。そして、もう一機も、コクピットをわずかにはずしはしたものの、ライフルを命中させた。 シンの援護で、形勢が逆転していた。全滅させるのも時間の問題だった。ほっとした矢先、赤いザクの装甲の色が見る間に退色した。 フェイズシフトダウン――。 シンは、とっさにその機体と敵との斜線軸にわって入った。狙われないようにするためだ。白いザクは、高速で、敵の攻撃をかわし、敵を追い詰めた。シンも、援護射撃を繰り返し、敵機は、やがて半ば半死半生の状態で無残に飛び回ることしかできなくなっていた。 完全に負けを覚悟したテロリストらは、――のこり二機だったが――自爆し果てて、その姿を消し去った。細かい破片も残らないほと゛霧散し果てた。 テロリストらのMSは、もともと、システムに異常をきたした時点で自爆するようにできていたのか。 正体を解析されることを恐れたためだろう。 「こちらオーブ首長国連邦所属艦 オオクニ」 必死で戦闘しているうちに、どうやら領空に限りなく近づいていたらしい。 「これから先はオーブ軍が誘導させていただきます」 シャトルに発した通信らしきものが、シンの通信機にも入ってきていた。 シンは、シャトルとともに、降下することに決めた。 フリーダムmark2の武装を考えてみました。フリーダムと、ストライクフリーダムを足して二で割ったような機体です。ドラクーンは、ラウ、レイ、ムゥの血統以外は使いたくないので、フリーダムmark2にはつけませんでした。ZAFTのセカンドシリーズと同程度の性能。若干、強力なものです。 機体番号は、『ORB-01』って、「暁」と一緒になっちゃうけど、「暁」の方を変えます。ここでは、暁はロゴス製だし。 敵のMSが空気中の塵となって消え去った。 それを確認したシャトルのパイロットは、レバーを倒し機関の動力を再び活気付かせた。黒い外壁のシャトルが、冬眠から覚めた巨大な動物のようにゆっくりと加速を始めた。敵を倒しおおせたことで放心した三体のMSは動きを停止させていたが、やがて白いザクを先頭にシャトルの動きを追随した。 「どうやら、助かりましたね」 デュランダル議長が、必死に窓の外を眺めやっていたラクスの背後から、悠然とした声をかける。 「ええ……。でも、こんなことに――。シャトルを守っていただいたパイロットの方たちがたくさんお亡くなりにっ」 ラクスは、耐え切れず涙をこぼした。公人として、ここは冷静でいなければならないとわかってはいても、それは辛いことだった。 「そうですね」 軽蔑とも、同情ともとれない響きで、デュランダル議長はラクスの嘆きに答えた。デュランダル議長は、ゆっくりと背もたれに身を浸し、ゆっくりとまぶたを閉じた。 「しかし、あなたの予感はあたってしまったかも知れませんね」 「えっ……」 ラクスは涙をぬぐい、顔を引き締める。 「プラントがオーブとの国交正常化交渉に望むということは、やはり連合側にとって歓迎すべきことではありませんからね。しかし、このような強硬手段でこられるとは」 「時期尚早だったのでしょうか……。議長は、今回のこと、連合の仕業だと?」 「断定は良くないがね、しかし、オーブもプラントも、一部の強硬派を除いては、テロを起こす理由がないからね」 「このことに対して、世界はどう反応してしまうのか、怖いですわ」 「まったく……だ」 ※ 徐々に高度を下げていくと、領空内では、オーブのMSがうじゃうじゃとひしめき合っていた。 「シン、何をやっている!」 アレックスの怒声がスピーカー越しにシンの耳を貫いた。 シンは、ぐったりした体をシートにもたれかけ、そのお説教を聴いた。聞いたといっても、半ば放心状態のシンに、どれだけ語句の意味が伝わっていたのかは疑問だ。大体、自分勝手な行動をとがめていたように聞こえる。 しかし、シンにとっては、このMSを起動させた時からわかりきっていたこととだった。 MS操縦の大部分を自動にしていた。戦闘の疲労が、重くシンに襲い掛かっていたシンはコクピット中で丸まっていた。 操作しようにも、体が震えてしまってしょうがない。 もう終わったはずの、戦闘の音が耳についてはなれない。 初めての戦闘。 敵を初めて倒した。 地上では、カガリが、首長らとともに、着地地点で待っていた。 オーブ軍とともに、白いザク、赤いザク、そして、フリーダムMark2が地上へと舞い降りた。 しかし、フリーダムMARK2は着地と同時に周りをオーブ兵で固められてしまった。 「シン・アスカを逮捕する」 あああああーーーーー! 冷静に考えたら、ザクは、大気圏内の飛行はできないんだった……。 でも、空中戦結構多いし、飛行ユニットが装備できるとか、ザクっぽいけど、ジン、とか、ゲイツとかの系譜に連なるような飛べる新機体に変えちゃおうかな。 「待ってください」 シンの機体を取り囲んだ兵士たちを、カガリは呼び止めた。 「カガリ代表。しかし、シン・アスカ二等兵は軍基違反だ。それに、彼は専守防衛を破っている」 「それはわかっています。彼の罪状をかばいだてはしない。しかし、彼がシャトルを助けに行かなければシャトルの乗員の命は守られなかったでしょう。それに、彼は、まだ、新兵です……」 「しかしっ」 戸惑う兵士を横目に、カガリはひらりと昇降機に乗り込み、コクピットの高さまで上がっていき、外から、コクピットを叩く。 「シン・アスカ。どうした?でてこないのか?」 もう、着地し格納されてから、10分以上経過していた。しかし、ハッチが開く気配はまるでない。 大気圏突入の摩擦に耐えうるほどの強度を誇る装甲を通してでは、中の声はわからない。一方、カガリの声も届いていないと見るほうが、妥当だ。 「すまないが、外部操作で強制的にハッチを開いてくれ」 カガリは、技術士にそう頼んだ。 ※ アスランは、コクピットから降りると足早にシンの元に向かおうとした。上官として何か一言いってやらなければという気持ちがあった。ただ、その言葉が、叱責をするべきなのか、それとも、いたわりの言葉をかけてやるべきなのか悩んでいた。 ふと、アスランが歩を止めた。そこに、少年が立っていたからだ。 その少年の瞳は、氷を思わせる薄い青色をしていた。金色の髪と細身の立ち姿が西洋人形を思わせた。 その少年にアスランは、なぜか既視感があった。 「君は……」 「はじめまして。私はZ.A.F.T軍第33独立艦隊所属予定のレイ・ザ・バレルと申します」 「ああ、私はアレックス・ディノ。オーブ軍第14艦隊11部隊隊長、階級は曹長だ。君……」 「なんですか」 レイは、抑揚のない声で問うた。 「前にあったことは、……、あるわけないか」 「ええ、お会いするのは初めてです」 二人は、儀礼的な握手を交わして別れた。 アレックスは振り返り、レイをじっと眺めた。 ※ 作業員の操作によって開かれたコクピットの中では、シンが震えていた。 「どうした、だいじょうぶか?」 おびえている思い込んだ、カガリは優しく声をかけた。しかし、シンは笑っていたのだ。 「はは、はははははっ、やったよ。倒したんだ。俺が倒したんだっ!」 半ば放心状態で、シンは笑い続けていた。カガリは不気味さを感じ、思わず眉をひそめた。 シンの目は、泳いでいた。 たいていの新兵の初出撃の場合は、おびえていることが多い。自分が始めて敵を撃ったということに、動揺するのだ。 だが、シンは違った。 不気味に笑い続けるシンに周りを取り囲んだ兵たちも、動くに動けなかった。 「どのみち、この状態で取調べは無理だ。救護班。シン・アスカを医務室へ連れて行け」 「ははっ、だ、大丈夫ですよっ」 シンは薄笑いを浮かべながらよろりと立ち上がり、ふらふらとコクピットから歩み出た。 「シン・アスカ二等兵。無事ならば、至急、軍司令部へ来るんだ」 気難しげな上官の一人が拳銃を向けながら、シンをせかした。周りの兵もそれに習ってシンに再び銃を向ける。 「待ってくれといったはずだっ」 「しかし、カガリ様っ」 「私からも、お願いしたい。彼は私達を救ってくれた恩人なのだから」 兵士達がいっせいに言葉の主のほうへ振り向く。 カガリが慌ててその人の名を呼んだ。 「デュランダルプラント最高評議会議長!」 その声にその場にいた全員がとっさに敬礼をした。その場は水を打ったように静まった。 「とにかく、デュランダル議長は執務室へおこしください。シン・アスカ二等兵、それから、アレックス・ディノ曹長もついてくるんだ」 カガリが、目でシンを促す。 シンは頷き、素直に従った。 アレックス・ディノも、デュランダル議長とカガリの後追った。 ※ 一方、ザクから降り立ったルナマリアは、呆然と立ちつくしていた。 「隊長……、みんな……。私が、私がもっと上手に機体を操れていたら、もっと犠牲が少なくてすんだかもしれないのにッ」 壁をこぶしで叩き、ルナマリアは唇を噛んだ。泣きたくはなかった。ルナマリアはプライドの高い女性だった。 「うう、ぅぅぅ・・・・・・」 しかし、足はがくがくと震え今にも倒れてしまいそうだ。 戦闘の場面が頭を駆け巡る。味方がたくさん死んだ。尊敬していたドリス隊長までもが 「気を確かに持て。今は議長とともに行くぞ」 レイが歩み寄ってきて、ルナマリアの二の腕を支えた。 「わ、わかってるわ」 ルナマリアは、恥ずかしさから、その手を払って歩み始めた。 |
2007-01-28 Sun 15:54
「まだなのか……」 カガリは、つめを噛みながら、フロアをせわしなく歩き回った。 「落ち着け、カガリ」 その言葉は焼け石に水だと気がついていても、アスランは、言わずには、いられなかった。 「あと、どのぐらいで領空に入るんだ?」 情報端末を操って軍からの情報を処理しているオペレーターに、カガリは食って掛かった。 「所属不明機、ザフト軍機を四機撃墜。シャトルいまだ、領空圏より距離よ1500の高度を維持したまま、停止中です」 「どうしたら……」 オペレーターの淡々と発せられた言葉に、カガリは頭を抱えた。 「簡単だよ。カガリ」 なれなれしげに呼びかける声に振り向くと、 そこには、ウナト・ロマ・セイランの息子ユウナ・ロマ・セイランが立っていた。 「軍を出撃させれば、いいんだよ。救援の、ね」 「馬鹿な。そんなことできるわけないだろう。わが国は、中立でなければ、ならないはずだ。国土に攻撃を仕掛けた敵でなければ、軍を出すこは出来ない」 「それは……、昔の話さ。今は、中立なんかじゃあない。連邦の庇護を受けている身じゃないか。奇麗事はやめてくれよ」 「うるさいっ、だまれっ。奇麗事だからと、あきらめてしまうのか。それでも守らなければならないものがあるはずだ」 カガリだとて、ユウナの言うことも痛いほどわかる。シャトルの中にいる議長やラクスのことを考えると、今すぐにでも、自分でMS を駆って救援に向かいたい衝動に駆られる。 だけれど、そうやって、安易に軍を出してしまえば、オーブの決定的な大切な何かを失ってしまうと、カガリは思うのだ。 「なんだ、あの機体は?」 執務室の窓際にいた男が、声を上げた。 いっせいに、部屋にいた全員が声に反応し、窓の外を見やる。 雲がわずかに浮かぶ青空に、一機、青い翼の機体が上昇していくのが、見えた。 「軍に連絡を取れ、……、至急、所属を……」 カガリは、そういいかけて、やめた。 「フリーダム?」 隣で、アスランがつぶやく。その声は、隠し切れない動揺を含んでいた。 「あれは、私が指示して、モルゲンレーテに作らせたものだ」 「カガリ!?」 「もちろん、国を守るための力だ。しかし、あれは、まだOSの調整中で、ナチュラルが扱えるはずはないのに……」 「第二号の工場長から、ターミナルに緊急通信。新型機がシン・アスカ二等兵により奪取されたとのことです」 「シンが?」 アスランは、今度こそ、驚きを隠し通すことが出来そうになかった。 その頃、オーブ上空で、シンはフリーダムを駆り、急上昇を続けていた。気圧の変化には対応しているが、加速による強烈なGをパイロットスーツごしにかんじつづけなければなかった。 --MSは、ナチュラルの手に余る。-- 日頃から、軍の先輩たちがぼやいていることを、いまさらながらに、実感した。 OSの改良により、ナチュラルでも乗りこなせるようになったMSだが、 コーディネーターに比べ身体的に劣るという欠点を、カバーすることは難しかった。 シンは、あまりの苦痛により意識を失いそうになるが、シャトルを守りたいという意志の力がそれを何とか防いでいた。 しかし、初めてのるMSである。基本的な操作は変わらないが、パワーも、複雑さもまるでレベルが違う。いつも練習で使わせてもらうMSと比べると、まるで軽自動車と10tトラックの差があるのではないだろうか。 シャトルの出発地点と到着地点を元に、自転によるゆがみを考慮しつつ、演算により、シャトルの位置は割り出してある。やがてモニターに、目標地点を示す、赤い点がともり始めた。 |
2007-01-26 Fri 14:41
ちょうど同時刻頃 プラント本国、評議会会議場 「それでは、以上の議題を持ちまして、本日の評議会を閉会いたします」 議員たちが、ばらばらと立ち上がり、評議会の会場を後にする。その中に、ピンク色の髪を後頭部で束ねた一人の女性がいた。女性は、ふわふわと一人軽い重力の中にいるような浮遊感を感じさせる物腰の柔らかさを持っていた。しかし、その表情には、知性に裏打ちされた厳しさをも感じられる。 「デュランダル……、ギルバート・デュランダル議長」 女性は、長身で黒い長髪の男に、声をかけた。議長と呼ばれたその男は、優雅に振り返って、足を止め、女性が近寄ってくるのを待った。 「デュランダル議長! 今回の任務につかせて頂いたこと、感謝いたします」 「今回の任務ってシャトルの護衛のことですの? まだ若いですのに」 ※ 「君は、オーブにいたことがあるとかいってたな」 ※ ルナマリアが、オーブを思っているそのころ、そのオーブでは、会談の準備が着々と進んでいた。シンも、車を走らせ資材の運搬に大わらわだ。 それを行政府の窓から、眺めている一人の女性がいた。 「あいつは、昔の俺と似ているんだ。だから……、つい」 プラント アレル・ルイ宇宙港 ※ 議長をのせたシャトルがプラントを飛び立ったという報告を受け、オーブ行政府とその周辺はにわかに慌しくなった。行政府の中庭には、赤いビロードの絨毯がしかれ、両脇にアストレイが整然と並んでいた。ライフルなどは、 もちろん、式典用のもので殺傷能力はない。いざ緊急事態になったときのためには、正規の装備をしたMSが行政府に近いオケ島のオーブ軍基地から迎撃に向かうことになっている。 「また、きたのか。ちょっとは、仲間と騒いできたら、どうなんだ 「議長の乗ったシャトルが、所属不明機に襲撃された」 ※ その頃、 空では、 6機のザクが必死に応戦していた。 敵機は、黒で塗装され、所属を示すモチーフなどは一切ない。 そして、ドリス隊長のグレーのザクが落ちた。 ルナマリアは、思わず悲鳴を上げそうになった。だけど、自分は軍人だ。どんな思いで、軍に身を投じたとおもっているの、と顔も見えない相手を心の中でののしって、なんとか平常心を保つことに成功した。 「出来ることは、ひとつ。MSを操作する手を休めないことだ」 そのころ、オーブでは、カガリがいらいらした顔で上空を睨んでいた。 ※ その頃、シンは、ハイネに尋ねていた。 カガリは言う。 「オーブ領空権内まであと、1500。しかし……、管制からの情報では、その空域に足止めされているらしい。なんとか、領空に入ってくれなければ、国是に背くことになってしまう」 ※ 「もとの中立をなんとしても、取り戻したいのだ。 そのために、ここで国是にそむくことをするわけにはいかない。しかし、そのためにわざわざ来てもらっているプラントのシャトルを、守ることも出来ないなんて」 ※ 「そんなの変ですよ。だって、守らなかったら、死んじゃうんですよ。人が死ぬのに、なにが国是だ」 シンは、 ハイネに力の限り叫んで、その場を走り去った。 思い出していた。 ああなりたい、あのMSのように大切なものを守って戦いたいと、 シンは、そのとき確かにそう思ったのだった。 シンの心は決まっていた。軍規違反、ややもすると、もっと重い罪に 問われるかもしれないことなど、どうでも良かった。 誰も、死なせたくない。 ただ、それだけだ。 先ほどの工廠に戻ったシンは、整備兵が戸惑っている横を通り過ぎ、 機体に乗ろうとした。 「おい、それは、まだ整備が済んでない。それで、出たらやられるだけだぞ」 「それは、見ちゃいけない。第一級の軍事機密だ」 「これは……」 続く NEXT PHASE 正義の末路 |
2007-01-26 Fri 14:37
CE.75 オオハツセ湾沿岸、ヲケ島オーブ軍基地。 人工的に作られたいくつかの低い丘と無機質なコンクリート建造物の合間に、練習用ライフルの音が響きわたっていたが、 ひとつの戦闘が終わったのかあたり一帯は静寂に包まれた。緊迫した雰囲気とは裏腹に、梢に宿る野鳥のさえずりが聞こえるほどであった。 しかし、まだ全てが終わったわけではない。 MSが五体、点々と身を隠すように建造物の影に、息をひそめている。MSはシンプルなつくりで、外の塗装もグレー一色であった。 また、修繕、改造を施すのが容易なようにねじがむき出しとなっていた。 そのうちの一機のみだけ肩を黒く塗ってある。この隊の隊長機であろう。 「ガガガ……最終目的地のE地点まではもうすぐだ。シンとトーレスは右に迂回して目的ポイントまでいけ。俺とサデスは直進して敵の注意をひきつける」 「了解」 隊長機からの呼びかけに、全機がほぼ同時に答をかえした。 それを聞き、隊長であるアレックス・ディノは気合を込めて叫んだ。 「では、いくぞ!」 隊長機ともう一機サデスのMS が建物の陰から踊りだした。 それに反応して、同じく身を潜めていたらしい敵機が二機飛び出してきた。 どちらのMSも、サーベルとライフルのみのシンプルな装備だ。 隊長機は、敵機のサーベルをあっさり受け流すと、ライフルで相手のコクピットを打ち抜いた。 練習用ライフルのため、威力は押さえられている。コクピット周辺を黒く焦がすだけの出力しかない。 しかし、これであいての『負け』が確定したとみなされる。敵機一機は後退していった。 「まずいな」 隊長は回線を開いた。 「シン、トーレス聞こえるか? 思ったより、こっちに敵が反応しない。もう少し奥まで攻めてみるが、もし、迂回路のほうに三機以上の機体が応戦してきたとしたら、迷わず退却しろ。いいな」 「はい」 しかし、反応を返したのは、トーレスだけだった。 「シンッ! 聞いているのか」 「きましたよ。四機です」 抑揚のないシンの声がした。 「d地点まで、退却しろ」 「やれます。倒せます」 「退却だ!」 回線が一方的に切られた。 「くそっ。サデス、迂回路に向かってくれ。俺も、こいつを倒してから向かう」 アレックスは、サーベルを引き抜き、敵機に向かってダッシュした。敵機はとっさにシールドを前方に掲げる。しかし、あっさりと後ろにまわりこまれ、サーベルの閃光に包まれた。 追記 練習用MSは゛エコール デュシエル゛作 美樹本晴彦 にでていた『ジムカンヌ』が自分のイメージに似ていたので、そういうものだと思っておいてください。 一方、迂回路では、急接近するモビルスーツをシンとトーレスが向かい撃っていた。 「シン。無理だ」 トーレスの放った言葉にシンからの返答はなかった。 シンは、ハイスピードで敵モビルスーツを翻弄しながら、確実にライフルを命中させていた。だが、コクピットに当たらない限り、倒したことにはならない。 そのとき、敵の一機がトーレス機をサーベルで切りつけようと、特出してきた。 「うわわわわっ」 その速さに、トーレスがバランスを崩した。トーレスは、シンと同じ二等兵である。実戦経験もまだない。 一方、敵機は教官クラスで構成されている。同じ五機対五機の戦闘。よほど注意しなければ、敗者になるのはこちら側だ。 シンは、一瞬そちらに気をとられた。 その隙をほかの敵MSは見逃さなかった、すばやくシン機のわきに滑り込み、サーベルを抜いた。 捕った――。 敵機のパイロットはそう思った。だが、シンの機体は、瞬時に高い跳躍をし上空で、サーベルの軌跡をかわした。落下の勢いに機体を任せシンは、上下逆さのままサーベルを敵MSに突き刺した。訓練用でなければ、敵パイロットは即死であろう。 しかし、着地の瞬間を狙っていた機体がいた。 ライフルがシンの機体を完全に捕らえていた。 シンも、警戒音に反応し、急いでシールド用のレバーを握る。しかし、間に合わなかった。モニターにビームの弾道がみえた。 「くそっ」 やられたーーそう思った。 しかし、直前、何かがビームをはじいた。 みると、地面に転がったシールドが見える。 こんなことをする人は、あの人しかいない。 振り返るとやはり隊長のアレックスの機体が見えた。 シンは、複雑な心境になりながら、応戦の体制を整えた。 「敵機が下がっていく。追うぞ」 全MSにアレックスの声が響いた。 演習終了後、MSから降りてきたシンを隊長であるアレックス=ディノが待っていた。 「シン、なぜ、命令に従わなかった」 「やれると思ったからです」 アレックスの緑色の目から視線をそらし、シンは言った。 「もし、実戦だったらどうする。俺が間に合わなければ、やられていたんだぞ」 「軍人は何も考えず、命令に従っておけばいいって、いいたいんですね」 「ちがう。軍人は命令に従うことが基本だ、だが、何も考えるなとはいわない。何も考えなければ、ただの殺人マシーンと一緒だ。俺が言いたいのは、命を大切にしろってことだ」 「……。俺は、命なんていらないです。それで、オーブが、戦争を嫌い平和を愛するオーブが守られるのなら」 「ばかやろう! そんな気持ちでMSにのるなっ」 「あんたに何がわかるんですかっ」 「おまえっ!」 シンは赤い目をたぎらせてアレックスを睨んだ。 アレックスには、シンに伝えたいことが山ほどあった。だが、シンのその一途な視線には、人の言葉を押しとどませる気迫があった。 「すいません。アレックス曹長。代表がお呼びです。至急、お願いいたします」 代表の秘書官の男が、そこに立っていた。 「ああ、わかった。すぐにいく」 アレックスは返事をすると、シンを見、無言のままその場を立ち去っていった。 アレックスがさった後、シンは、ヘルメットを強く地面に叩きつけた。 「あの人はいつも、いつもっ」 コーディネーターの癖に、曹長でしかない。そんな男に毎回お説教を食らう。そのことが不快でたまらなかった。 不満を抱いて立ち尽くしているシンの耳にMSを降りてきた僚機のパイロットの会話が耳に入ってきた。 「まったく、たかが演習で熱くなるなよってやつだよな」 「そうそう、だいたいさ、俺たちがいくらがんばったって、大西洋連邦のおかざりじゃん」 「MSも、何年も開発がストップしてたから時代遅れだし」 「それに、いざとなりゃ、連邦が助けてくれんだろ」 その会話の主にシンは、殴りかかって言った。 「くそーっ! そんなんだから、オーブが焼かれるんだろ。俺たちが守らなくて、誰がオーブを守るんだよ!」 続く シンのこぶしが、相手の頬を捉える。 「なんだよ。本当のことだろっ」 後方へ飛ばされた兵が、状態を起き上がらせ、シンへと噛み付く。 「だれが、オーブを滅ぼした? 連邦も参加している連合軍だろ! それなのに、そんな国に頼って、それで、くやしくないのかよ」 「うるさいんだよ。いきがってんじゃねーよ」 こぶしの応酬が、ひとしきり続く。まわりの野次もふくらんで、歓声を上げ始めた。 バシャ――ン。 「おいおい、ちょっと頭、冷やそうぜー」 水しぶきが殴りあう二人を襲い、二人とまわりの兵たちは動きを止めた。 「ハ、ハイネ・ヴェステンフルス一尉!」 誰かの声に反応して、兵たちは、一斉に敬礼をする。 ハイネと呼ばれたのは、オレンジ色の髪に端整な顔つきの男。多数の犠牲者を出したオーブ沖での攻防戦で、生き残った数少ない兵士の一人である。 シンも、晴れない顔つきで、遅ればせながら敬礼する。 「こんなところで、油売ってる暇はないぞ。午後からは、今日のプラントとオーブの首脳会談の準備に借り出されるんだからな。それに、早く行かないと、今日の日替わり定食のカツレツ丼が売り切れるぜ」 そんなハイネの軽口に、兵士たちは、緊張を解かれて笑う。やがて、ざわざわと、宿舎のほうへ向かい始めた。ひとり、シンだけが残っていた。 「おまえ、またやったのか」 シンは入隊してからというもの、同僚とのいざこざが絶えない。 まじめすぎるのだ。ハイネはそう思う。孤児院の出ということは、家族を前大戦で失ったのだろう。ときどき、誰かの形見らしいピンク色の携帯を握り締めている姿を見る。 その苦しみを二度と味わいたくない。その思いが強すぎて、融通が利かなくなってしまっているのだ。 ハイネ自身、数々の僚機があっけなく海に落ちていく姿を見ている。たしかに、大切なものの死とは、人に耐え難い傷を残す。 「だけどな、兵士はいつだって冷静でいられないと、実戦に出たとき、やってらんないぜ」 半ば自分にいいきかせるようにハイネは言った。 「ちくしょう」 そういってシンは、地面にしゃがみこんだ。歯を食いしばり、必死で泣くのを我慢しているようだった。 |
2007-01-26 Fri 14:34
注)この話は 、前大戦から4年後の話です。
CE72 オーブへの連合軍の侵攻が突如として始まった。 シン・アスカは家族とともに避難を急いでいた。 ポケットにはいつも、ピンクの携帯電話が入っているのだが。それは、道の脇の斜面に落ちていた。母親のユミは、マユを助け起こそうと手を差し伸べた。その間シンは、携帯電話を取りに走った。 はやくーーこれをマユに! 「危ない!」 一番最初に見えたものはマユの腕だった。 急いで助け起こそうと近づくと、それは、『腕』でしかないことに気づいた。付け根から先に、人間の肉体がないのだ。激しい衝撃に揺さぶられる頭をなんとか制して、あたりを眺める。 「うわああああああああああっ!」 |
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