2007-01-28 Sun 15:59
「こっのー! もう、これ以上はやらせないわよ」 ルナマリアは、できる限りの力を振り絞って敵のMSにライフルを発射し続けていた。こちらは新型機のはずなのに、相手のパワーも火力もそれに劣らないように見える。 なぜ? インクのしみのように不安が、心の中に広がっていく。 淡々と、戦闘を続けるレイの存在がいなければ、おかしくなってしまいそうだった。 「俺が敵を引き付ける。ルナはシャトルの進路を確保しろ。このままでは、埒が明かない」 「わかったわ」 レイは、シャトル脇を旋回し、敵機を引き付け、シャトルの後方へとおびき寄せた。その隙を狙って、ルナマリアは前方に残っていた二機に接近し、ビームトマホークを振るった。一機は爆発し、もう一機は逃げおおせた。 進路を確保することができたシャトルは、わずかながら、前進を始めた。しかし、領空圏まではいまだ遠い。 なかなか決着がつかない戦いに業を煮やしたのか、敵もシャトルに火力を集中させてきた。それを必死にシールドで受け流しつつ、少しでもシャトルが領空に近づくことをルナマリアは祈っていた。 しかし、計器の一つをみて、愕然とした。 「バッテリー残量が……、あと、三分くらいしかもたない」 「おちつけ、ルナマリア。まだ三分あると思え。領空に入れば、オーブ軍の救援がくるはずだ」 「レイ……」 レイのバッテリーの状況も似たようなものに違いない。それなのになぜ、こうも冷静でいられるのか。レイは、不思議なほど、常に落ち着いている。しっかりしているだけじゃない。なにか大切なものをあきらめてしまっているから生み出される強さの気もする。 だけど、ルナマリアはレイにその何かをずっと聞けずにいた。 もし、生きてオーブにたどり着けたら、その時は聞いてみよう。レイの隠しているだろう、何かを。 しかし、オーブに本当に辿り着けるのだろうか。 バッテリーの残量は刻々と減り続けている。 そのとき、シャトルとすれ違う何かがあった。 みると、それは青い翼をしたMSの機体だった。 ※ 練習用では出ないほどのスピードで高度1600の地点まで辿りついた シンは、やがて雲の間に浮かぶ銀色のシャトルを発見し胸を躍らせた。 シャトルの周りに群がる虫のように黒いMSが四機、旋回している。 シンは、シャトルをと通り過ぎ、高い地点まで到達するといったんブーストを切り、重力に引きづられながら、敵にライフルを向けた。 敵機も突然の乱入に驚いたのか、一斉にシンめがけてビームを放った。シンの手は冷や汗に濡れていた。が、機体の上下前後に飛行させ、それらをすり抜けることに成功した。今までの機体なら、一個くらいはビームを食らっていたかもしれない。しかし、このMSは違った。操作に対するレスポンスが格段に早いおかげで、細かい動きにも対応できる。 シンは、目前の敵機に意識を集中しようとするが、高鳴る鼓動が邪魔をする。初めての実践。そんな中で、新型機の複雑な武装を理解するのは、至難の業だ。ライフルで応戦しつつ、一つ一つの武装を確認していく。 まず高エネルギービームライフル二丁。 そして、シュペールラケルタビームサーベル。 これの操作は、練習機のライフルとサーベルの延長線上だと思えばいい。ビームライフルは、連結することにより、より強力なビームを放つことができそうだ。 次に、翼に収納されたパラエーナ プラズマ収束ビーム砲。 これは、発射時には、両肩の上に展開させられる。シンは、敵に狙いをつけて発射する。炎は、敵MSの半分を消失させた。 すごい火力だ。 だが、強い火力のせいで、自分の機体の体勢が崩れてしまう。間もできやすい。敵機も、それを察して、間合いに詰め寄ってきた。シンは、ととっさにビームサーベルで受け止める。 そして、クスフィアス3レール砲というレールキャノンまでが両腰に装備されている。 オーブの練習機とは、まるで違う。 「あなた……! 何者?」 回線の周波数がわからないせいだろう。ざらついた声がスピーカーから聞こえてきた。 「援護する」 シンは、それだけを言って、迫ってきた敵の背後に急旋回した。今は、名乗っても仕方のないことだ。 また一機、敵機を背後から切りつける。そして、もう一機も、コクピットをわずかにはずしはしたものの、ライフルを命中させた。 シンの援護で、形勢が逆転していた。全滅させるのも時間の問題だった。ほっとした矢先、赤いザクの装甲の色が見る間に退色した。 フェイズシフトダウン――。 シンは、とっさにその機体と敵との斜線軸にわって入った。狙われないようにするためだ。白いザクは、高速で、敵の攻撃をかわし、敵を追い詰めた。シンも、援護射撃を繰り返し、敵機は、やがて半ば半死半生の状態で無残に飛び回ることしかできなくなっていた。 完全に負けを覚悟したテロリストらは、――のこり二機だったが――自爆し果てて、その姿を消し去った。細かい破片も残らないほと゛霧散し果てた。 テロリストらのMSは、もともと、システムに異常をきたした時点で自爆するようにできていたのか。 正体を解析されることを恐れたためだろう。 「こちらオーブ首長国連邦所属艦 オオクニ」 必死で戦闘しているうちに、どうやら領空に限りなく近づいていたらしい。 「これから先はオーブ軍が誘導させていただきます」 シャトルに発した通信らしきものが、シンの通信機にも入ってきていた。 シンは、シャトルとともに、降下することに決めた。 フリーダムmark2の武装を考えてみました。フリーダムと、ストライクフリーダムを足して二で割ったような機体です。ドラクーンは、ラウ、レイ、ムゥの血統以外は使いたくないので、フリーダムmark2にはつけませんでした。ZAFTのセカンドシリーズと同程度の性能。若干、強力なものです。 機体番号は、『ORB-01』って、「暁」と一緒になっちゃうけど、「暁」の方を変えます。ここでは、暁はロゴス製だし。 敵のMSが空気中の塵となって消え去った。 それを確認したシャトルのパイロットは、レバーを倒し機関の動力を再び活気付かせた。黒い外壁のシャトルが、冬眠から覚めた巨大な動物のようにゆっくりと加速を始めた。敵を倒しおおせたことで放心した三体のMSは動きを停止させていたが、やがて白いザクを先頭にシャトルの動きを追随した。 「どうやら、助かりましたね」 デュランダル議長が、必死に窓の外を眺めやっていたラクスの背後から、悠然とした声をかける。 「ええ……。でも、こんなことに――。シャトルを守っていただいたパイロットの方たちがたくさんお亡くなりにっ」 ラクスは、耐え切れず涙をこぼした。公人として、ここは冷静でいなければならないとわかってはいても、それは辛いことだった。 「そうですね」 軽蔑とも、同情ともとれない響きで、デュランダル議長はラクスの嘆きに答えた。デュランダル議長は、ゆっくりと背もたれに身を浸し、ゆっくりとまぶたを閉じた。 「しかし、あなたの予感はあたってしまったかも知れませんね」 「えっ……」 ラクスは涙をぬぐい、顔を引き締める。 「プラントがオーブとの国交正常化交渉に望むということは、やはり連合側にとって歓迎すべきことではありませんからね。しかし、このような強硬手段でこられるとは」 「時期尚早だったのでしょうか……。議長は、今回のこと、連合の仕業だと?」 「断定は良くないがね、しかし、オーブもプラントも、一部の強硬派を除いては、テロを起こす理由がないからね」 「このことに対して、世界はどう反応してしまうのか、怖いですわ」 「まったく……だ」 ※ 徐々に高度を下げていくと、領空内では、オーブのMSがうじゃうじゃとひしめき合っていた。 「シン、何をやっている!」 アレックスの怒声がスピーカー越しにシンの耳を貫いた。 シンは、ぐったりした体をシートにもたれかけ、そのお説教を聴いた。聞いたといっても、半ば放心状態のシンに、どれだけ語句の意味が伝わっていたのかは疑問だ。大体、自分勝手な行動をとがめていたように聞こえる。 しかし、シンにとっては、このMSを起動させた時からわかりきっていたこととだった。 MS操縦の大部分を自動にしていた。戦闘の疲労が、重くシンに襲い掛かっていたシンはコクピット中で丸まっていた。 操作しようにも、体が震えてしまってしょうがない。 もう終わったはずの、戦闘の音が耳についてはなれない。 初めての戦闘。 敵を初めて倒した。 地上では、カガリが、首長らとともに、着地地点で待っていた。 オーブ軍とともに、白いザク、赤いザク、そして、フリーダムMark2が地上へと舞い降りた。 しかし、フリーダムMARK2は着地と同時に周りをオーブ兵で固められてしまった。 「シン・アスカを逮捕する」 あああああーーーーー! 冷静に考えたら、ザクは、大気圏内の飛行はできないんだった……。 でも、空中戦結構多いし、飛行ユニットが装備できるとか、ザクっぽいけど、ジン、とか、ゲイツとかの系譜に連なるような飛べる新機体に変えちゃおうかな。 「待ってください」 シンの機体を取り囲んだ兵士たちを、カガリは呼び止めた。 「カガリ代表。しかし、シン・アスカ二等兵は軍基違反だ。それに、彼は専守防衛を破っている」 「それはわかっています。彼の罪状をかばいだてはしない。しかし、彼がシャトルを助けに行かなければシャトルの乗員の命は守られなかったでしょう。それに、彼は、まだ、新兵です……」 「しかしっ」 戸惑う兵士を横目に、カガリはひらりと昇降機に乗り込み、コクピットの高さまで上がっていき、外から、コクピットを叩く。 「シン・アスカ。どうした?でてこないのか?」 もう、着地し格納されてから、10分以上経過していた。しかし、ハッチが開く気配はまるでない。 大気圏突入の摩擦に耐えうるほどの強度を誇る装甲を通してでは、中の声はわからない。一方、カガリの声も届いていないと見るほうが、妥当だ。 「すまないが、外部操作で強制的にハッチを開いてくれ」 カガリは、技術士にそう頼んだ。 ※ アスランは、コクピットから降りると足早にシンの元に向かおうとした。上官として何か一言いってやらなければという気持ちがあった。ただ、その言葉が、叱責をするべきなのか、それとも、いたわりの言葉をかけてやるべきなのか悩んでいた。 ふと、アスランが歩を止めた。そこに、少年が立っていたからだ。 その少年の瞳は、氷を思わせる薄い青色をしていた。金色の髪と細身の立ち姿が西洋人形を思わせた。 その少年にアスランは、なぜか既視感があった。 「君は……」 「はじめまして。私はZ.A.F.T軍第33独立艦隊所属予定のレイ・ザ・バレルと申します」 「ああ、私はアレックス・ディノ。オーブ軍第14艦隊11部隊隊長、階級は曹長だ。君……」 「なんですか」 レイは、抑揚のない声で問うた。 「前にあったことは、……、あるわけないか」 「ええ、お会いするのは初めてです」 二人は、儀礼的な握手を交わして別れた。 アレックスは振り返り、レイをじっと眺めた。 ※ 作業員の操作によって開かれたコクピットの中では、シンが震えていた。 「どうした、だいじょうぶか?」 おびえている思い込んだ、カガリは優しく声をかけた。しかし、シンは笑っていたのだ。 「はは、はははははっ、やったよ。倒したんだ。俺が倒したんだっ!」 半ば放心状態で、シンは笑い続けていた。カガリは不気味さを感じ、思わず眉をひそめた。 シンの目は、泳いでいた。 たいていの新兵の初出撃の場合は、おびえていることが多い。自分が始めて敵を撃ったということに、動揺するのだ。 だが、シンは違った。 不気味に笑い続けるシンに周りを取り囲んだ兵たちも、動くに動けなかった。 「どのみち、この状態で取調べは無理だ。救護班。シン・アスカを医務室へ連れて行け」 「ははっ、だ、大丈夫ですよっ」 シンは薄笑いを浮かべながらよろりと立ち上がり、ふらふらとコクピットから歩み出た。 「シン・アスカ二等兵。無事ならば、至急、軍司令部へ来るんだ」 気難しげな上官の一人が拳銃を向けながら、シンをせかした。周りの兵もそれに習ってシンに再び銃を向ける。 「待ってくれといったはずだっ」 「しかし、カガリ様っ」 「私からも、お願いしたい。彼は私達を救ってくれた恩人なのだから」 兵士達がいっせいに言葉の主のほうへ振り向く。 カガリが慌ててその人の名を呼んだ。 「デュランダルプラント最高評議会議長!」 その声にその場にいた全員がとっさに敬礼をした。その場は水を打ったように静まった。 「とにかく、デュランダル議長は執務室へおこしください。シン・アスカ二等兵、それから、アレックス・ディノ曹長もついてくるんだ」 カガリが、目でシンを促す。 シンは頷き、素直に従った。 アレックス・ディノも、デュランダル議長とカガリの後追った。 ※ 一方、ザクから降り立ったルナマリアは、呆然と立ちつくしていた。 「隊長……、みんな……。私が、私がもっと上手に機体を操れていたら、もっと犠牲が少なくてすんだかもしれないのにッ」 壁をこぶしで叩き、ルナマリアは唇を噛んだ。泣きたくはなかった。ルナマリアはプライドの高い女性だった。 「うう、ぅぅぅ・・・・・・」 しかし、足はがくがくと震え今にも倒れてしまいそうだ。 戦闘の場面が頭を駆け巡る。味方がたくさん死んだ。尊敬していたドリス隊長までもが 「気を確かに持て。今は議長とともに行くぞ」 レイが歩み寄ってきて、ルナマリアの二の腕を支えた。 「わ、わかってるわ」 ルナマリアは、恥ずかしさから、その手を払って歩み始めた。 |
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