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先日の新聞各紙で「二次創作OKマーク」が大きく報じられていました。
ご覧になった方も多いんじゃないかと思います。
「同人誌での2次創作・販売はOKです」――。
インターネット時代に合わせた作品の流通促進をめざす世界的団体「クリエイティブ・コモンズ」の日本支部が、ファンらの2次創作を漫画家が許可する際に自分の作品に付けるマークをつくった。
プロの漫画家赤松健さんが28日発売の「週刊少年マガジン」の新連載で初めて使う。
(以上、朝日新聞デジタルより引用)
詳しくはリンク先を読んでいただきたいですが、作者(著作権者)側からこのような動きが出てきたことは、「同人誌と著作権」の歴史の中で、画期的なことです。
公式サイトで「Q&A」を読むとわかりますが、同人作家側の創作を過度に押さえつけないよう、よく配慮もされています。
とはいえ、このような「作家側からの二次創作の許諾」を示すマークが生まれるということは、そもそも今の世の中に「(無許可の)二次創作同人誌は、原作の著作権を侵害するものだ」という認識が、基本的には広く共有されているからではありましょう。
しかし、著作権法学界での議論がこれ一色に染まっているかといえば、そんなことはありません。
なのに、肝心の同人誌の世界の人たちの中で、近年急速に「二次創作同人誌=違法」という考え方が根付きつつあるように思います。
そこで今回は、ブログ主がこせこせと集めてきた関連資料の中から、実際のところ、著作権法の専門家たちがこの問題についてどのように言っているのかをまとめてみたいと思います。
ご覧になった方も多いんじゃないかと思います。
「同人誌での2次創作・販売はOKです」――。
インターネット時代に合わせた作品の流通促進をめざす世界的団体「クリエイティブ・コモンズ」の日本支部が、ファンらの2次創作を漫画家が許可する際に自分の作品に付けるマークをつくった。
プロの漫画家赤松健さんが28日発売の「週刊少年マガジン」の新連載で初めて使う。
(以上、朝日新聞デジタルより引用)
詳しくはリンク先を読んでいただきたいですが、作者(著作権者)側からこのような動きが出てきたことは、「同人誌と著作権」の歴史の中で、画期的なことです。
公式サイトで「Q&A」を読むとわかりますが、同人作家側の創作を過度に押さえつけないよう、よく配慮もされています。
とはいえ、このような「作家側からの二次創作の許諾」を示すマークが生まれるということは、そもそも今の世の中に「(無許可の)二次創作同人誌は、原作の著作権を侵害するものだ」という認識が、基本的には広く共有されているからではありましょう。
しかし、著作権法学界での議論がこれ一色に染まっているかといえば、そんなことはありません。
なのに、肝心の同人誌の世界の人たちの中で、近年急速に「二次創作同人誌=違法」という考え方が根付きつつあるように思います。
そこで今回は、ブログ主がこせこせと集めてきた関連資料の中から、実際のところ、著作権法の専門家たちがこの問題についてどのように言っているのかをまとめてみたいと思います。
まず、とても印象に残っているのがこの本です。
小学館でマンガ編集者&法務担当者として取締役まで務められた豊田きいち氏が書かれた『事件で学ぶ著作権』(ユニ知的所有権ブックス・2011年刊)です。
この中で、豊田氏が取り上げているのが、2007年に起きたいわゆる「ドラえもん無断最終話事件」です。
ご記憶の方も多いと思いますが、同人作家が「ドラえもん」のオリジナル“最終話”を同人誌として発行して、小学館や藤子プロから警告を受け謝罪し、売り上げの一部を藤子プロに支払ったとされる事件です。
この事件について、豊田氏は以下のように書いています。
「他人が原作者側に無断で『つづき』を描いたのだ」
「ドラえもん漫画の『最終話』と称して、20ページの冊子を売り捌いていたのだが、500円前後で1万3000部ほどが市場に流された。装丁などオリジナル本と酷似していて、原出版物と紛らわしい造本」
文章の端々から、豊田氏が本件同人誌について怒りを感じていることが滲み出ていますね。
ところが、意外なことに本項は次のような文章で結ばれます。
「この贋物商売は、演出側(原文ママ)の謝罪で終わったが、悪い理由の説明、論理構成が著作権法からすんなりと出てこない」
これはとてもびっくりする文章です。
小学館という、まさに「ドラえもん」の著作権者側におられた豊田氏自身が、こうした二次創作同人誌の違法性について「悪い説明の理由、論理構成が著作権法からすんなりと出てこない」と書かれているのですから。
もちろん豊田氏は、
「『一目でパロディと分かるような作品にすれば許される』という評者・三崎尚人の発言もあったが、それはおかしい。
フランス法では場合によっては『捩(もじ)り』・風刺画は無許諾利用OKだが、日本法では認めていない。裁判例もある。
ドラえもんは国民的財産だという発言もあるらしいが、だからといって、パブリック・ドメイン、無断利用が許されるだろうか」
と続けられていますが、非常に苦衷を感じる文章です(ちなみに、豊田氏はたぶん意図的にと思いますが、本項では「同人誌」という言葉を一切使っていません。「冊子」で通しています)。
ここにこそ、「二次創作同人誌=違法」という考え方が絶対的な「常識」となりえていない、現在の著作権法における議論の発展途上なところが現れているようにブログ主は思います。
次に、これも法律の専門書としては珍しく「コミックマーケット」「同人誌」という言葉が登場している本をご紹介します。
2010年発行のフェアユース研究会編『著作権・フェアユースの最新動向――法改正への提言』(第一法規)。
この中で、著作権に関する実務法曹の第一人者である弁護士の小倉秀夫先生が、自ら立案された著作権法の改正案と関連して、シンポジウムの中で次のように語っておられます。
駒田委員 パロディーは必要かということに関してですが、コミックマーケットで同人誌とかが売られていますけれど、ああいうのは小倉委員としてはセーフにしたいと。
小倉委員 あれって本来セーフだと思います。
また、関連してヒップホップなどの音楽的なパロディについて触れて、こう言われています。
駒田委員 合理的な理由といいますと、パロディーは嫌だというのは、合理的な理由じゃないと。
小倉委員 ええ。音楽として作品を発表しておいて、ヒップホップで使われるのは嫌だというのは合理的じゃないかもしれません。
なんと魅惑的な言葉でしょう――「本来セーフだと思います」とは!(笑)
また、ヒップホップの部分をマンガと同人誌に読み替えてみると、大変興味深いお言葉だと思います。
この小倉秀夫先生の発言の真意は、ぜひもっと詳しくお聞きしたいものですが、残念ながら同書の中ではこれ以上の言及はありません。
ただ、他のご著書(例えば『情報は誰のものか?』2004年刊)などを読むと、現行の著作権法においても、二次創作同人誌のような、「原作品と市場において競合しないような翻案――パロディはその典型である――」(同書より引用)については、原作者の著作権保護を理由に禁止するべきではないとする余地があると考えておられるように思います。
このように、有力な著作権法の専門家の意見として、「本来セーフ」という考え方があることは、ぜひ知っていただきたいものです。
さて、上記のシンポジウムでは、こちらも著作権法学者として著名な上野達弘・立教大法学部教授が、小倉弁護士の意見に対して、
上野委員 (略)いわゆる「ドラえもん最終話」みたいなものも含まれるのですか? (略) パロディーというと、アメリカでもヨーロッパでも、普通は他人の著作物を批判しているとかそういうのがイメージされるのですが、いわゆる続編みたいなのってそもそもパロディーといえるのでしょうかね。少なくとも、「ドラえもん最終話」や同人誌のようなものは単に権利者が黙認していると解するほうが美しいのではないかという気がいたします。
とも述べておられます。
上野教授のお立場は、「法解釈としては二次創作同人誌は違法と言わざるを得ないが、現実的には作者や出版者側の黙認があって違法とも言えなくなっている」ということかと思いますが、これは現在の同人誌界でもよく聞く考え方ですね。
いずれにせよ、専門家の間でも、「同人誌」についての考え方が決して統一されてはいないことと、場合によっては「本来セーフ」という考え方も成り立つのだということはわかるのではないでしょうか。
続いては、こちらも著作権法の専門家としてマスコミへの登場も多い、福井健策弁護士の著書『著作権とは何か-文化と創造のゆくえ』(2005年)です。
これは専門書ではなく、集英社新書から一般向けに出された本ですが、高い評価を受けています。
本書の中で福井弁護士は、「同人誌」の現状についてこうまとめています。
「いわゆる同人誌などの小規模なケースには」「著作権上の問題があることは多少なりとも知っているが、確信犯的にパロディをおこなっている」「ケースが多そうです」
そして、「パロディ」はそもそも著作権者の許可を得るべしとすると、それは自由なパロディになりえないと述べたうえで、
「では、仮に著作権者の許可なしでパロディがされてしまったとして、いったい著作権者はひどい迷惑を被るのか、という疑問が湧いてきます」
「パロディが作られたからオリジナルの作家側に経済的損失が生まれる、ということは通常は起きない気がします」
「こうした理由で、少なくとも普通の盗作や海賊版と比べると、同じ翻案とはいってもパロディはより緩やかな基準で存在を許されてもいいんじゃないか、という気がしてきます」
そして、このように現状と法制度が齟齬を来している状況について、
「すでに述べた通り、筆者はパロディというものは、オリジナル作品の翻案や複製をある程度しないと成立しにくいものが多いし、また狭い意味のパロディはオリジナル作品にとって必ずしも害悪は大きくないものだと思っています。
仮に著作権が、芸術文化を育む土壌を育てるべく存在しているのだとしたら、日本においてパロディが置かれている矛盾的状況は、早い段階で解決がはかられるべきではないでしょうか」
と書かれています。
つまり、法改正などで、パロディ文化が法的にも認められる存在にするべきではというわけです。
小倉秀夫弁護士や、この福井健策弁護士の「同人誌は本来セーフ」「パロディは許容されてもいいのでは」というお考えのもとになっているのは、文中でも出ていましたが、
「パロディや二次創作同人誌が作られたからといって、原著作権者の経済的な利益が何か失われるわけではない。それどころか、社会全体で見れば、新たな創作が生まれ、文化的な豊かさがもたらされる」
という視点です。
ここには、著作権制度というのは「著者を保護するためだけのものではない。社会全体として文化を豊かにするためのものだ」という、最近の著作権法学界で主流になりつつある考え方があります。
いずれにせよ、現状“グレーゾーン”にあるとされる二次創作同人誌について、専門家の間で一概に否定されているものではないことは、確かと言ってよいでしょう。
しかしながら。
もちろん、「何よりも著作権者の権利をしっかり守るのが大事だ」という専門家も大勢います。
「同人誌を作りたいなら、原作者の許可を取るべきだ」
正論もここに極まれりという考え方ですが、では実際にそんなことができるかといえば難しいわけで、「同人誌」というものの実際を知らない専門家の書いた本を見ると、この手の解説が多くちょっとガッカリしてしまうわけです。
例えば、2010年に発行された『著作権のことならこの1冊』(自由国民社)では、
「アニメキャラを使った小説を同人誌に載せたいが」
という項目があり、以下のように弁護士による「回答」が書かれています。
「著作者は二次的著作物の創作を許可しない権利がある」
「あなたの小説やイラストは同人誌に載るそうですが、その読者が本当にファンだけとしても、それは特定多数の人です。あなたの創作物は公衆向けとなり私的使用の範囲を超えています。(略)あなたは原著作者の許可をもらう必要があるのです」
「同人誌への公表でも原著作者の許可がなければ著作権侵害である」
うーむ。
「著作権のことならこの1冊」と言っておいて、結論が「原作者の許可を取れ」では、実用性がないことこの上ないと思うのですが(笑)、これは、現在の同人誌界で力を持ちつつある「二次創作同人誌=違法」という考え方そのものでもありますね。
先ほどご紹介した小倉秀夫弁護士や福井健策弁護士といった専門家が、“その先”を見据えての主張を展開されているのとは好対照です。
さて、同様の立場は、2007年に発行された社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会編『クリエイターのための著作権入門講座』(毎日コミュニケーションズ)にも見られます。
「『よく似た作品』と著作権侵害」という章の中で、同人誌についても触れられているのです。
「著作権のルールを学ぶと、『同人誌はどうなの?』『テレビでやっているパロディはどうなの?』といったことが気になってきます」
「他人の作品を利用して同人誌やパロディ作品を制作する場合、他人の著作物の利用にあたるのであれば、元の作品の著作権者に許諾を得る必要があります。しかし、パロディの内容によっては、
『心血を注いで創りだした自分の作品がパロディにされるのは不愉快だ』
といった具合に、許可を出さない著作権者もいるでしょう。そこで、パロディ作品の制作については、基となる作品の著作権者の許諾を不要にしてはどうか、という意見もあります」
前掲書よりは、“理解がある”と言ってよさそうですが(笑)、残念ながら本書も結論としては、次のように月並みなところで終わります。
「現在の著作権法では、そのような特別扱いはされていません」
「『見つからなければ、何をやっても良い』と手前勝手な解釈をする人もいるようですが、潜在的に存在する刑事・民事の訴訟リスクを考えれば、勝手な解釈をせず、著作権者に許可を得てから行うべきです」
ここでも「許可を取れ」で議論は止まっているのでした。
ただ、こうして「二次創作同人誌=許可がないから違法」という考え方について書かれた文章を読んでいくと、この手の結論は、“その先”へ思考を伸ばしていくことをあえて切り捨てて、法律のストレートな解釈のみで思考を停止させた結果ではないかという気はしてきますね。
さて、実用的な著作権法の解説書であっても、このような同人誌に厳しい(?)見方を取るものばかりではありません。
2009年に発行された桑野雄一郎弁護士著『出版・マンガビジネスの著作権』では、なかなか具体的な事例に踏み込んでの解説があります。
「マンガやアニメのファンの世界では、(略)単に面白いからという理由で、好きなマンガのキャラクターを使って独自の物語をつくってしまう作品もあります」
「藤子・F・不二雄の人気マンガ『ドラえもん』の『最終話』と称した独自のマンガ作品などはそのいい例です」
「同人誌」という単語は使われていませんが、ここでもまた「ドラえもん無断最終話事件」が出てきましたね。
では、その「違法性」については、本書はどのような立場なのでしょうか。
「このような作品が、元となった他人の作品との同一性や類似性がない、似て非なる作品になっていれば、著作権の侵害にもならないでしょう」
「アーサー・コナン・ドイルの息子のアドリアン・コナン・ドイルがディクスン・カーと共同で書いたシャーロック・ホームズシリーズのパロディー作品『シャーロック・ホームズの功績』があります。シャーロック・ホームズという登場人物自体は著作物ではありませんから、これも著作権の侵害ということにはなりません」
登場人物の設定を利用しての“新たな創作”だから原作の著作権は侵害していない――これがそのまま、現代日本における小説作品の二次創作同人誌について「当てはまる」かどうかは、ちょっと断言できませんが、これは他の本では見られないなかなか踏み込んだ解説です。
例えば、落乱の現代転生パロ小説とか、BLEACHのイチウリ社会人パロ小説とかで、イラストも一切つけてないような同人誌であれば、上記の「シャーロック・ホームズ」の二次創作が著作権侵害にならないというのと同じく、現著作権者の許可なく発行しても問題ないのかなという風にも読めますが、どうなんでしょうね(笑)。
さて、上記のような具体論に触れたあとで、本書は次のようにこの項を結びます。
「パロディーやオマージュの中には、パロディーやオマージュと称した悪質なコピー作品も無数ありますが、その一方で作品としてとても優れたもの、芸術的価値の高いものもあります。それらがすべて一律に著作権侵害となってしまうという結論には疑問もあるように思います」
やはり、一概にパロディ(同人誌)を否定する立場ではありませんね。
前述の福井健策弁護士の立場と非常に似ているように思います。
続いては、法律書ではありませんが、かなり早い段階で「同人誌と著作権」について扱っていた本を見付けたので、これもご紹介しておきます。
2003年に発行された日経産業新聞編『ドキュメント 知財攻防』(日本経済新聞社)というルポ本です。
これは著作権に限らず、知的財産権に関する当時の新しい潮流を新聞紙上で連載したルポを本にまとめたものですが、その中で、「パロディーはどこまで許されるか?」という一章があり、これがまるまる二次創作同人誌についての記事になっています。
ちょっと時代を感じさせる表現もありますが(笑)、勃興する同人誌市場と、それに対策を取ろうとする著作権者側の動きが大変よく取材されている本です。
「たとえば、(略)名前だけ『キャプテン翼』の登場人物たちと同じキャラクターたちが同性同士で勝手な恋愛物語を繰り広げる――。
原作漫画の熱烈なファンたちが登場人物などを愛着を込めて『いじった』これらの作品は、かつては一部の小さなコミュニティー間で楽しまれるだけだった」
「だが、同人誌市場は参加者たちの予測をも超える勢いで急拡大した。
全国各地で『コミックマーケット』が開催され、屋台のような売り場で自分が描いた作品を幅広く提供できるようになっただけではない。
東京都内の池袋や秋葉原といった地域では、同人誌を専門に販売するショップも登場。
来店したファンたちは紙袋にいっぱいの同人誌を購入し、同人誌市場は今や年間千億円規模ともいわれるまでに膨張した」
「さらにインターネットの登場は、描いたパロディー作品が同人誌ファン以外の一般の人の目に触れることを容易にした。
これまで閉ざされた世界でのみ存在してきたパロディー作品は、いつでもどこでも人々の目に触れる表舞台に姿を現しつつある。
今まで『ファンたちの遊び』を黙認してきた著作権関係者も、パロディー作品の影響力の拡大に頭を悩まされることとなったのである」
“勝手な恋愛物語”“屋台のような売り場で”“全国各地で『コミックマーケット』が開催”など、ツッコミどころは多いですが(笑)、よくまとまっていると思います。
そして、「揺れる出版社の対応」という見出しとともに記事は続きます。
「出版社の対応も揺れている。
講談社は2001年10月、商品紹介サイト『講談社BOOK倶楽部』のホームページ上で実質的な『パロディー禁止令』を掲載した。
ネット上で作者に無断でパロディー的なイラストや作品を紹介することは『送信可能化権』や『複製権』の侵害にあたることを通告するものだ。
漫画ファンからの反響は大きく、『作品を応援する善意のイラストやストーリー紹介がどうしてだめなの?』『ホームページはだめなのに、同人誌はいいの?』といった質問が講談社に次々と舞い込んだ」
「同社はネット上でファンたちからの疑問に回答し、『著作権法では善意悪意を区別していない』『応援する気持ちの掲載も悪意の第三者にコピーされ広がる可能性がある』『同人誌活動も作者の許諾を得ないパロディー作品は著作権侵害にあたる』と丁寧に説明した」
「一方で、講談社も同人誌即売会では編集部が自らブースを設けるなどの活動を展開しているのが実情だ。
同人誌は『新人が腕を磨くゆりかご』であると同時に、熱烈な漫画ファンが集う場所でもあるからだ。
『矛盾した動きだとは言われるが、会社としての統一見解はまだない』(同社幹部)と苦しい立場を説明する」
ブログ主はずっとBL商業誌一本槍のオタクでして、二次創作やおいにハマったのは、ついこの5年ほどです。
なので、上記のような動きがあったことは、この本を読んで初めて知りました。
一読すると、最初にご紹介した小学館の元取締役・豊田きいち氏と同じ苦衷を感じますね。
この記事は、全体としては、同人誌文化が日本のマンガ文化を支える役割を果たしていることなどについても触れ、著作権侵害として一概に否定されるべきでないこともきっちり触れた、かなり「同人誌」側の肩を持ったルポ記事です。
記事の最後では、コミックマーケット代表(当時)の米沢嘉博氏が登場して次のようにコメントしています。
「『大衆文化は伝播によって進化する。著作者の権利ばかりが強調されると、力強い大衆文化の発展が阻害されかねない』と、同人誌即売会主催者の米沢嘉博氏。同人誌にも一定の権利および義務を定めた新たな法整備の必要性を訴える」
今回ご紹介した専門家の意見と同じく、著作権者の保護に傾きすぎる著作権法制度に反対する立場からのコメントですね。
2003年の段階で、はっきりとこの趣旨でのコメントをされていたことは、米沢氏のさすがの慧眼と感じ入りますね。
じつは、「同人誌と著作権」についての文献ということでいえば、すでに2001年に、この米沢嘉博氏の監修で『マンガと著作権 ~パロディと引用と同人誌と~』(コミケット叢書)という本が発行されています。
1999年のポケモン同人誌事件を受けて、マンガ家や評論家、弁護士、弁理士などの専門家がシンポジウム形式で交わした議論が収録された一冊です。
この本では、現在問題になっている「同人誌と著作権」についての基本的な論点や考え方がほとんど網羅されており、じつは今でもこの問題を考える際に真っ先に読む本だと思います。
今回は残念ながら割愛しますが…。
いまでもAmazonで買えるので、興味のある方にはぜひご一読をお勧めします。
さて、クソ長い本記事もいよいよ最後となりました。
今回ご紹介した文献の数々は、ブログ主が書店や図書館で探したものですが、ブログ主はなぜこんな「二次創作同人誌は違法なのか」という問題についての資料を集めようかと思ったのでしょうか。
最初は軽い気持ちでした。
「同人誌は違法。作者のお目こぼしでやらせてもらってるんだから、世間に目立たないようにすべき」
ツイッターなどでこんな言葉をよく目にするようになって、「二次創作同人誌は著作権を侵害している」という考え方はどのくらい世の中で認められているものなのか、自分の目で確かめてみようと思ったのです。
ところが!
本当に驚いたんですが、著作権法の教科書や概説書、判例集をいくら漁っても、同人誌の「ど」の字も出てこないのです。
よく、同人誌の世界の中では、「同人誌は違法」と言う時の“根拠”として、1999年のポケモン同人誌事件が取り上げられますが、じつは著作権法の専門書の中で、この事件について触れているものは皆無です(さらに言えば、この略式裁判で問題になったのは「複製権」の侵害であって、二次創作そのものの違法性が問題となったわけでもありません)。
それでも諦めずに、「二次創作同人誌と著作権について説明してくれているものはないか…」と書店や図書館に通って見つけ出したのが、今回ご紹介した文献です(一部ですが)。
でも、お読みいただければわかるとおり、専門家が執筆したものではありますが、断片的だったり、一般向けの解説本だったりで、いわゆる「法律書」として、同人誌について論じてくれたものは、本当にどこにもなかったのでした。
繰り返しますが、著作権法の専門書で「二次創作同人誌」の法的性質についてきっちり解説してくれている本など、これまで一冊もなかったんです!!!(あったらすいません・笑)
ところが!!! ←こればっかり
2011年に学陽書房から『エンターテインメント法』という分厚い法律書が発行されました。
ブログ主は、先日書店でたまたまこの本を見付けて、中をパラ読みしてビックリしました。
なんとそこには、
「マンガ同人誌の制作」
という項目があるではありませんか。
買って帰りました…7500円もしましたが!!!
いわゆる「基本書」「概説書」と呼ばれるもので、「二次創作同人誌」についてきちんと項目を立てて扱ってくれたのは、たぶん本書が初めてです。
そこで、本記事の最後は、このブログ主の感動をみなさまにもお伝えすべく(?)、この『エンターテインメント法』をご紹介して終わろうと思います。
本書は、法律的な面だけではなく、「二次創作同人誌」の歴史的な移り変わりについてもきちんと認識しており、その点で得がたい法律の解説書となっています。
まず本書は、同人誌の起源は1950年代に遡ることや、石ノ森章太郎先生が作られた同人サークル「東日本マンガ研究会」が発行した同人誌「墨汁一滴」の名前まで挙げる博識ぶりを見せつけながら、以下のように言います。
「同人誌の普及に伴い、マンガ家志望者がまず同人誌から活動し、後にプロマンガ家として認められることも少なくなく、その意味で、マンガの同人誌は今日の日本のマンガの発展にとって重要な一翼を担ってきたことは否定できない。
また、最近ではコミック・マーケットの規模の拡大に伴い、マンガの制作費を超えて生活費等まで稼ぎ出すいわゆるプロ同人も出現し、逆に商業誌で活躍するプロマンガ家が自己の作品をコミック・マーケットで販売するなど、コミック・マーケットの拡大により、マンガ業界全体が多様な変化を見せ始めている」
法律書で「プロ同人」なんて言葉を見る日が来るとは思いませんでしたね(笑)。
繰り返しますが、こうした同人誌についての現状認識の確かさが、本書のもっとも意義ある点です。
そして、そのような「マンガ業界全体の変化」を受けて、「同人誌と著作権」についての意識も変化しつつあるとして、本書は以下のように言います。
「ところが、近時、高性能化したパソコンの普及およびIT技術の普及に伴い、一般人でも容易に著作物の複製や翻案をすることが可能になった事態を踏まえて、社会全体の流れとして著作権の意識が急速に高まることとなり、これはマンガ業界においても当然に無視できない状況となっている。
特にコミック・マーケットの急激な拡大や、それによるプロ同人の出現などの業界全体の変化に直面して、マンガの著作権について活発な議論がなされるようになってきている」
本書の同人誌についての記述は、このように極めて具体的です。
それだけでなく、「同人誌と著作権」について、これまで同人誌界の中で言われてきた“定説”などまで取り上げて、「同人誌と著作権」についての法的な解説に踏み込んでいきます。
例えば、以下の部分。
「このような複製物や二次的創作物については、インターネット上の一部を中心として、いわゆる『パクリ』(模造のこと)ではなく、あくまでも『パロディ』であるから著作権侵害にはならない、もしくはグレーゾーンであるという論がささやかれている」
あははは(笑)。
いますよね、こういう考え方をツイートしてる人(笑)。
「彼らの主張はこうである。
すなわち、パクリとは、元ネタ(オリジナル作品のこと)をそのまま模造し、かつ模造者が元ネタを隠し自らのオリジナル作品として販売することであり、この行為は確かに複製権ないし翻案権の侵害であるが、パロディとは、元ネタを暗黙にでも明らかにした上で元ネタに手を加えるものであり、元ネタに愛情や尊敬の念がうかがわれるから著作権法違反にはならない、といった主張である」
これに対して、本書は以下のように言います。
「しかし、元ネタ(オリジナル作品)の作者からして見れば、複製物や二次的創作物の作成者がそれにより利益を得ようが得なかろうが、その創作物を無断で利用されたこと自体にはなんら変わりはなく、また元ネタに愛情や尊敬があったからといって、改変を許さなければならない理由はない。
すなわち、現行の著作権法は、オリジナル作品を無断で複製や翻案すれば、それだけで著作権侵害を認める立場に立っており、そこに経済的利益の有無や、愛情や尊敬といった主観面が入り込む余地を与えていない。
したがって、コミック・マーケットで販売される多くの同人誌が、彼らの言うパロディであったとしても、原則として原著作権者の著作権を侵害することには何ら変わりはない」
同人界隈でたまに言われる「リスペクト無罪」がバッサリ一刀両断です(笑)。
これまで、こんな細かいところまで法律的に解説してくれる本は、本当にありませんでした。
これだけでもありがたいことですよ…。
また本書では、これも同人界隈でよく聞く、
「フランスではパロディは正当な権利として認められている。アメリカでもフェアユースの一類型としてパロディは認められている。日本でも認められるべきだから、二次創作同人誌も違法じゃない」
という考え方についても、そもそも「二次創作同人誌」は著作権法上の「パロディ」には当たらないということを論じて、まったく否定しています(このへんはややこしいから割愛)。
つまり、「二次創作同人誌は違法じゃない」という理由として俗間言われてきたさまざまな考え方について、本書は初めて法的にきちんと解説した本でもあるわけです。
そこで強調されているのは、「マンガ界」「マンガ文化」の特殊性です。
「ではなぜ、本来は『違法』とされる同人誌が、摘発されたり訴訟されたりされず、今も発行され続けているのか」
「コミック・マーケットが開催される以前もしくは初期のころのマンガ同人誌については、その流通が非常に限られた範囲であり、また、印刷技術が未熟で商業誌に比べて稚拙なものであったことから、それが二次的創作物であったとしても、創作元となったオリジナル作品のマンガ家が著作権を行使するほどの影響力はなく、ほとんど無視できる存在であった」
「多くのマンガ家がかつては自分も一度は通った道であるとして、自己のマンガが他の作品に使われていても大目に見る(あるいは、そもそも権利侵害であるとの認識がない)という慣習のようなものが次第にマンガ業界全体に広がっていったのかもしれない」
「著作権の使用許諾については、必ずしも明示の許諾を要するものではなく、黙示に許諾することも可能である。
そうすると、このようなマンガ業界の雰囲気を法律的に見れば、二次的創作物の作成については、よほど悪質(例えば、猥褻な表現等不快感を与える表現)なものでもない限り、黙示に許諾(黙認)するという慣例があったものとも考えられよう」
「その理由としては幾つかあげられるが、まず、マンガの発展にとって、マンガ家志望者やマンガ人気の下支えとなる同人誌が不可欠の存在であり、特に同人誌出身のプロマンガ家にとってみれば、同人誌はむしろ許容されるべきであるという意識がある点があげられよう。
また、同人誌の作成者やそれを購入する読者の多くは、結局オリジナル作品自体の熱烈なファンであることが多く、同人誌と商業誌が競合することはほとんどないことから、著作権侵害など訴えない方がむしろ相乗効果も期待でき経営上有利であるとの判断や、同人誌のマンガ家の大多数は個人であり、かつ発行部数も少数であるから、1つひとつ彼らに対し著作権侵害を訴えても結局費用倒れになるリスクが高いとの経営的な判断などがあるとも言えよう。
したがって、このように原著作権者に同人誌が著作権侵害との認識があっても、現実的には経営判断等により、事実上黙認されるケースが多いのが実情である」
長い引用になりましたが、本書はこのように「違法」なはずの「二次創作同人誌」が今も存在し続け、そしてコミック・マーケットが史上最高の人出で賑わうような現状について、マンガ文化や業界内部の意識の特殊性に基づくものだと分析しています。
そして、次のように言います。
「もっとも、この問題を議論するに当たっては、やはりマンガ文化の発展の観点から目を背けることはできない。著作権の保護を重視しすぎても、逆に軽視しすぎても、いずれもマンガ文化の発展を阻害してしまう可能性を秘めており、著作権法の取り扱い方次第で、今後のマンガの発展が左右されることに間違いはなく、場合によっては法改正の必要性も含めながら、マンガ業界に携わる者全員で適切な議論がなされる必要がある」
二次創作同人誌という存在は、日本のマンガ文化の発展に必要であり、“違法”と解釈される余地があるとしても、消滅させていいようなものではない、「適切」に議論していかねば――。
小学館でマンガ編集者&法務担当者として取締役まで務められた豊田きいち氏が書かれた『事件で学ぶ著作権』(ユニ知的所有権ブックス・2011年刊)です。
事件で学ぶ著作権 (ユニ知的所有権ブックス) (2011/02/26) 豊田きいち 商品詳細を見る |
この中で、豊田氏が取り上げているのが、2007年に起きたいわゆる「ドラえもん無断最終話事件」です。
ご記憶の方も多いと思いますが、同人作家が「ドラえもん」のオリジナル“最終話”を同人誌として発行して、小学館や藤子プロから警告を受け謝罪し、売り上げの一部を藤子プロに支払ったとされる事件です。
この事件について、豊田氏は以下のように書いています。
「他人が原作者側に無断で『つづき』を描いたのだ」
「ドラえもん漫画の『最終話』と称して、20ページの冊子を売り捌いていたのだが、500円前後で1万3000部ほどが市場に流された。装丁などオリジナル本と酷似していて、原出版物と紛らわしい造本」
文章の端々から、豊田氏が本件同人誌について怒りを感じていることが滲み出ていますね。
ところが、意外なことに本項は次のような文章で結ばれます。
「この贋物商売は、演出側(原文ママ)の謝罪で終わったが、悪い理由の説明、論理構成が著作権法からすんなりと出てこない」
これはとてもびっくりする文章です。
小学館という、まさに「ドラえもん」の著作権者側におられた豊田氏自身が、こうした二次創作同人誌の違法性について「悪い説明の理由、論理構成が著作権法からすんなりと出てこない」と書かれているのですから。
もちろん豊田氏は、
「『一目でパロディと分かるような作品にすれば許される』という評者・三崎尚人の発言もあったが、それはおかしい。
フランス法では場合によっては『捩(もじ)り』・風刺画は無許諾利用OKだが、日本法では認めていない。裁判例もある。
ドラえもんは国民的財産だという発言もあるらしいが、だからといって、パブリック・ドメイン、無断利用が許されるだろうか」
と続けられていますが、非常に苦衷を感じる文章です(ちなみに、豊田氏はたぶん意図的にと思いますが、本項では「同人誌」という言葉を一切使っていません。「冊子」で通しています)。
ここにこそ、「二次創作同人誌=違法」という考え方が絶対的な「常識」となりえていない、現在の著作権法における議論の発展途上なところが現れているようにブログ主は思います。
次に、これも法律の専門書としては珍しく「コミックマーケット」「同人誌」という言葉が登場している本をご紹介します。
2010年発行のフェアユース研究会編『著作権・フェアユースの最新動向――法改正への提言』(第一法規)。
著作権・フェアユースの最新動向―法改正への提言 (2010/03/10) フェアユース研究会 商品詳細を見る |
この中で、著作権に関する実務法曹の第一人者である弁護士の小倉秀夫先生が、自ら立案された著作権法の改正案と関連して、シンポジウムの中で次のように語っておられます。
駒田委員 パロディーは必要かということに関してですが、コミックマーケットで同人誌とかが売られていますけれど、ああいうのは小倉委員としてはセーフにしたいと。
小倉委員 あれって本来セーフだと思います。
また、関連してヒップホップなどの音楽的なパロディについて触れて、こう言われています。
駒田委員 合理的な理由といいますと、パロディーは嫌だというのは、合理的な理由じゃないと。
小倉委員 ええ。音楽として作品を発表しておいて、ヒップホップで使われるのは嫌だというのは合理的じゃないかもしれません。
なんと魅惑的な言葉でしょう――「本来セーフだと思います」とは!(笑)
また、ヒップホップの部分をマンガと同人誌に読み替えてみると、大変興味深いお言葉だと思います。
この小倉秀夫先生の発言の真意は、ぜひもっと詳しくお聞きしたいものですが、残念ながら同書の中ではこれ以上の言及はありません。
ただ、他のご著書(例えば『情報は誰のものか?』2004年刊)などを読むと、現行の著作権法においても、二次創作同人誌のような、「原作品と市場において競合しないような翻案――パロディはその典型である――」(同書より引用)については、原作者の著作権保護を理由に禁止するべきではないとする余地があると考えておられるように思います。
このように、有力な著作権法の専門家の意見として、「本来セーフ」という考え方があることは、ぜひ知っていただきたいものです。
さて、上記のシンポジウムでは、こちらも著作権法学者として著名な上野達弘・立教大法学部教授が、小倉弁護士の意見に対して、
上野委員 (略)いわゆる「ドラえもん最終話」みたいなものも含まれるのですか? (略) パロディーというと、アメリカでもヨーロッパでも、普通は他人の著作物を批判しているとかそういうのがイメージされるのですが、いわゆる続編みたいなのってそもそもパロディーといえるのでしょうかね。少なくとも、「ドラえもん最終話」や同人誌のようなものは単に権利者が黙認していると解するほうが美しいのではないかという気がいたします。
とも述べておられます。
上野教授のお立場は、「法解釈としては二次創作同人誌は違法と言わざるを得ないが、現実的には作者や出版者側の黙認があって違法とも言えなくなっている」ということかと思いますが、これは現在の同人誌界でもよく聞く考え方ですね。
いずれにせよ、専門家の間でも、「同人誌」についての考え方が決して統一されてはいないことと、場合によっては「本来セーフ」という考え方も成り立つのだということはわかるのではないでしょうか。
続いては、こちらも著作権法の専門家としてマスコミへの登場も多い、福井健策弁護士の著書『著作権とは何か-文化と創造のゆくえ』(2005年)です。
これは専門書ではなく、集英社新書から一般向けに出された本ですが、高い評価を受けています。
著作権とは何か ―文化と創造のゆくえ (集英社新書) (2005/05/17) 福井 健策 商品詳細を見る |
本書の中で福井弁護士は、「同人誌」の現状についてこうまとめています。
「いわゆる同人誌などの小規模なケースには」「著作権上の問題があることは多少なりとも知っているが、確信犯的にパロディをおこなっている」「ケースが多そうです」
そして、「パロディ」はそもそも著作権者の許可を得るべしとすると、それは自由なパロディになりえないと述べたうえで、
「では、仮に著作権者の許可なしでパロディがされてしまったとして、いったい著作権者はひどい迷惑を被るのか、という疑問が湧いてきます」
「パロディが作られたからオリジナルの作家側に経済的損失が生まれる、ということは通常は起きない気がします」
「こうした理由で、少なくとも普通の盗作や海賊版と比べると、同じ翻案とはいってもパロディはより緩やかな基準で存在を許されてもいいんじゃないか、という気がしてきます」
そして、このように現状と法制度が齟齬を来している状況について、
「すでに述べた通り、筆者はパロディというものは、オリジナル作品の翻案や複製をある程度しないと成立しにくいものが多いし、また狭い意味のパロディはオリジナル作品にとって必ずしも害悪は大きくないものだと思っています。
仮に著作権が、芸術文化を育む土壌を育てるべく存在しているのだとしたら、日本においてパロディが置かれている矛盾的状況は、早い段階で解決がはかられるべきではないでしょうか」
と書かれています。
つまり、法改正などで、パロディ文化が法的にも認められる存在にするべきではというわけです。
小倉秀夫弁護士や、この福井健策弁護士の「同人誌は本来セーフ」「パロディは許容されてもいいのでは」というお考えのもとになっているのは、文中でも出ていましたが、
「パロディや二次創作同人誌が作られたからといって、原著作権者の経済的な利益が何か失われるわけではない。それどころか、社会全体で見れば、新たな創作が生まれ、文化的な豊かさがもたらされる」
という視点です。
ここには、著作権制度というのは「著者を保護するためだけのものではない。社会全体として文化を豊かにするためのものだ」という、最近の著作権法学界で主流になりつつある考え方があります。
いずれにせよ、現状“グレーゾーン”にあるとされる二次創作同人誌について、専門家の間で一概に否定されているものではないことは、確かと言ってよいでしょう。
しかしながら。
もちろん、「何よりも著作権者の権利をしっかり守るのが大事だ」という専門家も大勢います。
「同人誌を作りたいなら、原作者の許可を取るべきだ」
正論もここに極まれりという考え方ですが、では実際にそんなことができるかといえば難しいわけで、「同人誌」というものの実際を知らない専門家の書いた本を見ると、この手の解説が多くちょっとガッカリしてしまうわけです。
著作権のことならこの1冊 (はじめの一歩) (2010/08/11) 飯野たから;真田 親義 商品詳細を見る |
例えば、2010年に発行された『著作権のことならこの1冊』(自由国民社)では、
「アニメキャラを使った小説を同人誌に載せたいが」
という項目があり、以下のように弁護士による「回答」が書かれています。
「著作者は二次的著作物の創作を許可しない権利がある」
「あなたの小説やイラストは同人誌に載るそうですが、その読者が本当にファンだけとしても、それは特定多数の人です。あなたの創作物は公衆向けとなり私的使用の範囲を超えています。(略)あなたは原著作者の許可をもらう必要があるのです」
「同人誌への公表でも原著作者の許可がなければ著作権侵害である」
うーむ。
「著作権のことならこの1冊」と言っておいて、結論が「原作者の許可を取れ」では、実用性がないことこの上ないと思うのですが(笑)、これは、現在の同人誌界で力を持ちつつある「二次創作同人誌=違法」という考え方そのものでもありますね。
先ほどご紹介した小倉秀夫弁護士や福井健策弁護士といった専門家が、“その先”を見据えての主張を展開されているのとは好対照です。
クリエイターのための著作権入門講座―自分の作品を守り、他者の権利を侵害しないために (2007/04/01) 不明 商品詳細を見る |
さて、同様の立場は、2007年に発行された社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会編『クリエイターのための著作権入門講座』(毎日コミュニケーションズ)にも見られます。
「『よく似た作品』と著作権侵害」という章の中で、同人誌についても触れられているのです。
「著作権のルールを学ぶと、『同人誌はどうなの?』『テレビでやっているパロディはどうなの?』といったことが気になってきます」
「他人の作品を利用して同人誌やパロディ作品を制作する場合、他人の著作物の利用にあたるのであれば、元の作品の著作権者に許諾を得る必要があります。しかし、パロディの内容によっては、
『心血を注いで創りだした自分の作品がパロディにされるのは不愉快だ』
といった具合に、許可を出さない著作権者もいるでしょう。そこで、パロディ作品の制作については、基となる作品の著作権者の許諾を不要にしてはどうか、という意見もあります」
前掲書よりは、“理解がある”と言ってよさそうですが(笑)、残念ながら本書も結論としては、次のように月並みなところで終わります。
「現在の著作権法では、そのような特別扱いはされていません」
「『見つからなければ、何をやっても良い』と手前勝手な解釈をする人もいるようですが、潜在的に存在する刑事・民事の訴訟リスクを考えれば、勝手な解釈をせず、著作権者に許可を得てから行うべきです」
ここでも「許可を取れ」で議論は止まっているのでした。
ただ、こうして「二次創作同人誌=許可がないから違法」という考え方について書かれた文章を読んでいくと、この手の結論は、“その先”へ思考を伸ばしていくことをあえて切り捨てて、法律のストレートな解釈のみで思考を停止させた結果ではないかという気はしてきますね。
さて、実用的な著作権法の解説書であっても、このような同人誌に厳しい(?)見方を取るものばかりではありません。
出版・マンガビジネスの著作権 (エンタテインメントと著作権―初歩から実践まで 4) (2009/02/25) 桑野 雄一郎 商品詳細を見る |
2009年に発行された桑野雄一郎弁護士著『出版・マンガビジネスの著作権』では、なかなか具体的な事例に踏み込んでの解説があります。
「マンガやアニメのファンの世界では、(略)単に面白いからという理由で、好きなマンガのキャラクターを使って独自の物語をつくってしまう作品もあります」
「藤子・F・不二雄の人気マンガ『ドラえもん』の『最終話』と称した独自のマンガ作品などはそのいい例です」
「同人誌」という単語は使われていませんが、ここでもまた「ドラえもん無断最終話事件」が出てきましたね。
では、その「違法性」については、本書はどのような立場なのでしょうか。
「このような作品が、元となった他人の作品との同一性や類似性がない、似て非なる作品になっていれば、著作権の侵害にもならないでしょう」
「アーサー・コナン・ドイルの息子のアドリアン・コナン・ドイルがディクスン・カーと共同で書いたシャーロック・ホームズシリーズのパロディー作品『シャーロック・ホームズの功績』があります。シャーロック・ホームズという登場人物自体は著作物ではありませんから、これも著作権の侵害ということにはなりません」
登場人物の設定を利用しての“新たな創作”だから原作の著作権は侵害していない――これがそのまま、現代日本における小説作品の二次創作同人誌について「当てはまる」かどうかは、ちょっと断言できませんが、これは他の本では見られないなかなか踏み込んだ解説です。
例えば、落乱の現代転生パロ小説とか、BLEACHのイチウリ社会人パロ小説とかで、イラストも一切つけてないような同人誌であれば、上記の「シャーロック・ホームズ」の二次創作が著作権侵害にならないというのと同じく、現著作権者の許可なく発行しても問題ないのかなという風にも読めますが、どうなんでしょうね(笑)。
さて、上記のような具体論に触れたあとで、本書は次のようにこの項を結びます。
「パロディーやオマージュの中には、パロディーやオマージュと称した悪質なコピー作品も無数ありますが、その一方で作品としてとても優れたもの、芸術的価値の高いものもあります。それらがすべて一律に著作権侵害となってしまうという結論には疑問もあるように思います」
やはり、一概にパロディ(同人誌)を否定する立場ではありませんね。
前述の福井健策弁護士の立場と非常に似ているように思います。
続いては、法律書ではありませんが、かなり早い段階で「同人誌と著作権」について扱っていた本を見付けたので、これもご紹介しておきます。
2003年に発行された日経産業新聞編『ドキュメント 知財攻防』(日本経済新聞社)というルポ本です。
ドキュメント 知財攻防―著作権ビジネスを支配するのは誰か? (2003/08) 日経産業新聞 商品詳細を見る |
これは著作権に限らず、知的財産権に関する当時の新しい潮流を新聞紙上で連載したルポを本にまとめたものですが、その中で、「パロディーはどこまで許されるか?」という一章があり、これがまるまる二次創作同人誌についての記事になっています。
ちょっと時代を感じさせる表現もありますが(笑)、勃興する同人誌市場と、それに対策を取ろうとする著作権者側の動きが大変よく取材されている本です。
「たとえば、(略)名前だけ『キャプテン翼』の登場人物たちと同じキャラクターたちが同性同士で勝手な恋愛物語を繰り広げる――。
原作漫画の熱烈なファンたちが登場人物などを愛着を込めて『いじった』これらの作品は、かつては一部の小さなコミュニティー間で楽しまれるだけだった」
「だが、同人誌市場は参加者たちの予測をも超える勢いで急拡大した。
全国各地で『コミックマーケット』が開催され、屋台のような売り場で自分が描いた作品を幅広く提供できるようになっただけではない。
東京都内の池袋や秋葉原といった地域では、同人誌を専門に販売するショップも登場。
来店したファンたちは紙袋にいっぱいの同人誌を購入し、同人誌市場は今や年間千億円規模ともいわれるまでに膨張した」
「さらにインターネットの登場は、描いたパロディー作品が同人誌ファン以外の一般の人の目に触れることを容易にした。
これまで閉ざされた世界でのみ存在してきたパロディー作品は、いつでもどこでも人々の目に触れる表舞台に姿を現しつつある。
今まで『ファンたちの遊び』を黙認してきた著作権関係者も、パロディー作品の影響力の拡大に頭を悩まされることとなったのである」
“勝手な恋愛物語”“屋台のような売り場で”“全国各地で『コミックマーケット』が開催”など、ツッコミどころは多いですが(笑)、よくまとまっていると思います。
そして、「揺れる出版社の対応」という見出しとともに記事は続きます。
「出版社の対応も揺れている。
講談社は2001年10月、商品紹介サイト『講談社BOOK倶楽部』のホームページ上で実質的な『パロディー禁止令』を掲載した。
ネット上で作者に無断でパロディー的なイラストや作品を紹介することは『送信可能化権』や『複製権』の侵害にあたることを通告するものだ。
漫画ファンからの反響は大きく、『作品を応援する善意のイラストやストーリー紹介がどうしてだめなの?』『ホームページはだめなのに、同人誌はいいの?』といった質問が講談社に次々と舞い込んだ」
「同社はネット上でファンたちからの疑問に回答し、『著作権法では善意悪意を区別していない』『応援する気持ちの掲載も悪意の第三者にコピーされ広がる可能性がある』『同人誌活動も作者の許諾を得ないパロディー作品は著作権侵害にあたる』と丁寧に説明した」
「一方で、講談社も同人誌即売会では編集部が自らブースを設けるなどの活動を展開しているのが実情だ。
同人誌は『新人が腕を磨くゆりかご』であると同時に、熱烈な漫画ファンが集う場所でもあるからだ。
『矛盾した動きだとは言われるが、会社としての統一見解はまだない』(同社幹部)と苦しい立場を説明する」
ブログ主はずっとBL商業誌一本槍のオタクでして、二次創作やおいにハマったのは、ついこの5年ほどです。
なので、上記のような動きがあったことは、この本を読んで初めて知りました。
一読すると、最初にご紹介した小学館の元取締役・豊田きいち氏と同じ苦衷を感じますね。
この記事は、全体としては、同人誌文化が日本のマンガ文化を支える役割を果たしていることなどについても触れ、著作権侵害として一概に否定されるべきでないこともきっちり触れた、かなり「同人誌」側の肩を持ったルポ記事です。
記事の最後では、コミックマーケット代表(当時)の米沢嘉博氏が登場して次のようにコメントしています。
「『大衆文化は伝播によって進化する。著作者の権利ばかりが強調されると、力強い大衆文化の発展が阻害されかねない』と、同人誌即売会主催者の米沢嘉博氏。同人誌にも一定の権利および義務を定めた新たな法整備の必要性を訴える」
今回ご紹介した専門家の意見と同じく、著作権者の保護に傾きすぎる著作権法制度に反対する立場からのコメントですね。
2003年の段階で、はっきりとこの趣旨でのコメントをされていたことは、米沢氏のさすがの慧眼と感じ入りますね。
じつは、「同人誌と著作権」についての文献ということでいえば、すでに2001年に、この米沢嘉博氏の監修で『マンガと著作権 ~パロディと引用と同人誌と~』(コミケット叢書)という本が発行されています。
マンガと著作権―パロディと引用と同人誌と (コミケット叢書) (2001/08) 米沢 嘉博 商品詳細を見る |
1999年のポケモン同人誌事件を受けて、マンガ家や評論家、弁護士、弁理士などの専門家がシンポジウム形式で交わした議論が収録された一冊です。
この本では、現在問題になっている「同人誌と著作権」についての基本的な論点や考え方がほとんど網羅されており、じつは今でもこの問題を考える際に真っ先に読む本だと思います。
今回は残念ながら割愛しますが…。
いまでもAmazonで買えるので、興味のある方にはぜひご一読をお勧めします。
さて、クソ長い本記事もいよいよ最後となりました。
今回ご紹介した文献の数々は、ブログ主が書店や図書館で探したものですが、ブログ主はなぜこんな「二次創作同人誌は違法なのか」という問題についての資料を集めようかと思ったのでしょうか。
最初は軽い気持ちでした。
「同人誌は違法。作者のお目こぼしでやらせてもらってるんだから、世間に目立たないようにすべき」
ツイッターなどでこんな言葉をよく目にするようになって、「二次創作同人誌は著作権を侵害している」という考え方はどのくらい世の中で認められているものなのか、自分の目で確かめてみようと思ったのです。
ところが!
本当に驚いたんですが、著作権法の教科書や概説書、判例集をいくら漁っても、同人誌の「ど」の字も出てこないのです。
よく、同人誌の世界の中では、「同人誌は違法」と言う時の“根拠”として、1999年のポケモン同人誌事件が取り上げられますが、じつは著作権法の専門書の中で、この事件について触れているものは皆無です(さらに言えば、この略式裁判で問題になったのは「複製権」の侵害であって、二次創作そのものの違法性が問題となったわけでもありません)。
それでも諦めずに、「二次創作同人誌と著作権について説明してくれているものはないか…」と書店や図書館に通って見つけ出したのが、今回ご紹介した文献です(一部ですが)。
でも、お読みいただければわかるとおり、専門家が執筆したものではありますが、断片的だったり、一般向けの解説本だったりで、いわゆる「法律書」として、同人誌について論じてくれたものは、本当にどこにもなかったのでした。
繰り返しますが、著作権法の専門書で「二次創作同人誌」の法的性質についてきっちり解説してくれている本など、これまで一冊もなかったんです!!!(あったらすいません・笑)
ところが!!! ←こればっかり
2011年に学陽書房から『エンターテインメント法』という分厚い法律書が発行されました。
ブログ主は、先日書店でたまたまこの本を見付けて、中をパラ読みしてビックリしました。
なんとそこには、
「マンガ同人誌の制作」
という項目があるではありませんか。
買って帰りました…7500円もしましたが!!!
エンターテインメント法 (2011/05/19) 金井 重彦、龍村 全 他 商品詳細を見る |
いわゆる「基本書」「概説書」と呼ばれるもので、「二次創作同人誌」についてきちんと項目を立てて扱ってくれたのは、たぶん本書が初めてです。
そこで、本記事の最後は、このブログ主の感動をみなさまにもお伝えすべく(?)、この『エンターテインメント法』をご紹介して終わろうと思います。
本書は、法律的な面だけではなく、「二次創作同人誌」の歴史的な移り変わりについてもきちんと認識しており、その点で得がたい法律の解説書となっています。
まず本書は、同人誌の起源は1950年代に遡ることや、石ノ森章太郎先生が作られた同人サークル「東日本マンガ研究会」が発行した同人誌「墨汁一滴」の名前まで挙げる博識ぶりを見せつけながら、以下のように言います。
「同人誌の普及に伴い、マンガ家志望者がまず同人誌から活動し、後にプロマンガ家として認められることも少なくなく、その意味で、マンガの同人誌は今日の日本のマンガの発展にとって重要な一翼を担ってきたことは否定できない。
また、最近ではコミック・マーケットの規模の拡大に伴い、マンガの制作費を超えて生活費等まで稼ぎ出すいわゆるプロ同人も出現し、逆に商業誌で活躍するプロマンガ家が自己の作品をコミック・マーケットで販売するなど、コミック・マーケットの拡大により、マンガ業界全体が多様な変化を見せ始めている」
法律書で「プロ同人」なんて言葉を見る日が来るとは思いませんでしたね(笑)。
繰り返しますが、こうした同人誌についての現状認識の確かさが、本書のもっとも意義ある点です。
そして、そのような「マンガ業界全体の変化」を受けて、「同人誌と著作権」についての意識も変化しつつあるとして、本書は以下のように言います。
「ところが、近時、高性能化したパソコンの普及およびIT技術の普及に伴い、一般人でも容易に著作物の複製や翻案をすることが可能になった事態を踏まえて、社会全体の流れとして著作権の意識が急速に高まることとなり、これはマンガ業界においても当然に無視できない状況となっている。
特にコミック・マーケットの急激な拡大や、それによるプロ同人の出現などの業界全体の変化に直面して、マンガの著作権について活発な議論がなされるようになってきている」
本書の同人誌についての記述は、このように極めて具体的です。
それだけでなく、「同人誌と著作権」について、これまで同人誌界の中で言われてきた“定説”などまで取り上げて、「同人誌と著作権」についての法的な解説に踏み込んでいきます。
例えば、以下の部分。
「このような複製物や二次的創作物については、インターネット上の一部を中心として、いわゆる『パクリ』(模造のこと)ではなく、あくまでも『パロディ』であるから著作権侵害にはならない、もしくはグレーゾーンであるという論がささやかれている」
あははは(笑)。
いますよね、こういう考え方をツイートしてる人(笑)。
「彼らの主張はこうである。
すなわち、パクリとは、元ネタ(オリジナル作品のこと)をそのまま模造し、かつ模造者が元ネタを隠し自らのオリジナル作品として販売することであり、この行為は確かに複製権ないし翻案権の侵害であるが、パロディとは、元ネタを暗黙にでも明らかにした上で元ネタに手を加えるものであり、元ネタに愛情や尊敬の念がうかがわれるから著作権法違反にはならない、といった主張である」
これに対して、本書は以下のように言います。
「しかし、元ネタ(オリジナル作品)の作者からして見れば、複製物や二次的創作物の作成者がそれにより利益を得ようが得なかろうが、その創作物を無断で利用されたこと自体にはなんら変わりはなく、また元ネタに愛情や尊敬があったからといって、改変を許さなければならない理由はない。
すなわち、現行の著作権法は、オリジナル作品を無断で複製や翻案すれば、それだけで著作権侵害を認める立場に立っており、そこに経済的利益の有無や、愛情や尊敬といった主観面が入り込む余地を与えていない。
したがって、コミック・マーケットで販売される多くの同人誌が、彼らの言うパロディであったとしても、原則として原著作権者の著作権を侵害することには何ら変わりはない」
同人界隈でたまに言われる「リスペクト無罪」がバッサリ一刀両断です(笑)。
これまで、こんな細かいところまで法律的に解説してくれる本は、本当にありませんでした。
これだけでもありがたいことですよ…。
また本書では、これも同人界隈でよく聞く、
「フランスではパロディは正当な権利として認められている。アメリカでもフェアユースの一類型としてパロディは認められている。日本でも認められるべきだから、二次創作同人誌も違法じゃない」
という考え方についても、そもそも「二次創作同人誌」は著作権法上の「パロディ」には当たらないということを論じて、まったく否定しています(このへんはややこしいから割愛)。
つまり、「二次創作同人誌は違法じゃない」という理由として俗間言われてきたさまざまな考え方について、本書は初めて法的にきちんと解説した本でもあるわけです。
では――ここが一番大事なところですが――、本書は上記のような「二次創作同人誌=違法」という結論を、最終的なものとして読者に提示しているのでしょうか?
これはブログ主の読み取り方にもよるとは思いますが、じつは決してそんなことはありません。
本記事でご紹介してきた専門家が、「条文解釈としては違法だが…」の“その先”をさらに考えていったのと同じく、本書もそこで議論を止めず、現在の「二次創作同人誌」をめぐる状況を把握しつつ、さらに議論を進めていくのです。 そこで強調されているのは、「マンガ界」「マンガ文化」の特殊性です。
「ではなぜ、本来は『違法』とされる同人誌が、摘発されたり訴訟されたりされず、今も発行され続けているのか」
「コミック・マーケットが開催される以前もしくは初期のころのマンガ同人誌については、その流通が非常に限られた範囲であり、また、印刷技術が未熟で商業誌に比べて稚拙なものであったことから、それが二次的創作物であったとしても、創作元となったオリジナル作品のマンガ家が著作権を行使するほどの影響力はなく、ほとんど無視できる存在であった」
「多くのマンガ家がかつては自分も一度は通った道であるとして、自己のマンガが他の作品に使われていても大目に見る(あるいは、そもそも権利侵害であるとの認識がない)という慣習のようなものが次第にマンガ業界全体に広がっていったのかもしれない」
「著作権の使用許諾については、必ずしも明示の許諾を要するものではなく、黙示に許諾することも可能である。
そうすると、このようなマンガ業界の雰囲気を法律的に見れば、二次的創作物の作成については、よほど悪質(例えば、猥褻な表現等不快感を与える表現)なものでもない限り、黙示に許諾(黙認)するという慣例があったものとも考えられよう」
「その理由としては幾つかあげられるが、まず、マンガの発展にとって、マンガ家志望者やマンガ人気の下支えとなる同人誌が不可欠の存在であり、特に同人誌出身のプロマンガ家にとってみれば、同人誌はむしろ許容されるべきであるという意識がある点があげられよう。
また、同人誌の作成者やそれを購入する読者の多くは、結局オリジナル作品自体の熱烈なファンであることが多く、同人誌と商業誌が競合することはほとんどないことから、著作権侵害など訴えない方がむしろ相乗効果も期待でき経営上有利であるとの判断や、同人誌のマンガ家の大多数は個人であり、かつ発行部数も少数であるから、1つひとつ彼らに対し著作権侵害を訴えても結局費用倒れになるリスクが高いとの経営的な判断などがあるとも言えよう。
したがって、このように原著作権者に同人誌が著作権侵害との認識があっても、現実的には経営判断等により、事実上黙認されるケースが多いのが実情である」
長い引用になりましたが、本書はこのように「違法」なはずの「二次創作同人誌」が今も存在し続け、そしてコミック・マーケットが史上最高の人出で賑わうような現状について、マンガ文化や業界内部の意識の特殊性に基づくものだと分析しています。
そして、次のように言います。
「もっとも、この問題を議論するに当たっては、やはりマンガ文化の発展の観点から目を背けることはできない。著作権の保護を重視しすぎても、逆に軽視しすぎても、いずれもマンガ文化の発展を阻害してしまう可能性を秘めており、著作権法の取り扱い方次第で、今後のマンガの発展が左右されることに間違いはなく、場合によっては法改正の必要性も含めながら、マンガ業界に携わる者全員で適切な議論がなされる必要がある」
二次創作同人誌という存在は、日本のマンガ文化の発展に必要であり、“違法”と解釈される余地があるとしても、消滅させていいようなものではない、「適切」に議論していかねば――。
やはり本書も、「二次創作同人誌」を一概に「著作権侵害だから」と切り捨てず、“その先”に目を向けていると言ってよいと思います。
さて、こうして「同人誌と著作権」について、専門家の方々の考え方をいろいろ見てくると、
さて、こうして「同人誌と著作権」について、専門家の方々の考え方をいろいろ見てくると、
「二次創作同人誌は原作の著作権を侵害する違法なものだ」
という考え方と、
「違法なんかじゃない。実際、ほとんど誰も文句を付けてないじゃないか」
という現実重視の考え方は、単純に思考の過程の“時系列”において、どの段階を強調するかの差でしかないようにも思えます。
じつはこの2つは対立する考え方などではなく、同じコインの表裏の関係にすぎないのではないかとすら思うわけです。
もしかしたら、もう「二次創作同人誌は違法かどうか」なんてことを論ずること自体、現実問題としては意味がないのではないかと思うほどに…。
今回、さまざまな専門家の意見をご紹介したわけですが、ブログ主としては、べつにどれか一つの考え方を他人様に強制してやろうと思って、この記事をまとめたわけではありません(笑)。
それはどうぞみなさんがよくお考えになっていただければと思いますが、専門家の間でも「同人誌と著作権」については多様な考え方が存在していることは、わかっていただけたらな~と思います。
そしてもう一つ、例え「現行法では、二次創作同人誌は違法と解さざるをえない」という専門家であっても、多くが“その先”に言及していたことは、特筆しておきたいと思います。
「同人誌なんか作ったらダメです。はい、この話はおしまい」という専門家がなぜいないのかといえば、今回見てきたとおり、専門家の間でも次のような考えがしっかり認識されているからでありましょう。
同人誌というカルチャーは、日本のマンガ文化を支える重要な役割を果たしており、簡単になくしてしまってよいものではない――。
「二次創作」という行為は、原作品に依拠するという特殊性は有しますが、それは間違いなく新たな「創作行為」です。
だからこそ、多くの著作権法の専門家が、そこに我々の文化そのものを豊かにしてくれる可能性を見いだし、なんとか「二次創作同人誌」というものを著作権法の体系の中に織り込んでいこうと尽力してくれているわけです――「違法だ」という言葉で片付けてしまうことなく。
その中で、当事者である我々オタク自身が思考停止に陥っていないか、“常識”にとらわれていないかは、いま一度、よく考えてみてもよいように思います。
毎度のこととはいえ、またもやこんなクソ長い記事になってしまってすいません。
もしお読みくださった方がいたとしたら、本当にありがとうございました!
じつはこの2つは対立する考え方などではなく、同じコインの表裏の関係にすぎないのではないかとすら思うわけです。
もしかしたら、もう「二次創作同人誌は違法かどうか」なんてことを論ずること自体、現実問題としては意味がないのではないかと思うほどに…。
今回、さまざまな専門家の意見をご紹介したわけですが、ブログ主としては、べつにどれか一つの考え方を他人様に強制してやろうと思って、この記事をまとめたわけではありません(笑)。
それはどうぞみなさんがよくお考えになっていただければと思いますが、専門家の間でも「同人誌と著作権」については多様な考え方が存在していることは、わかっていただけたらな~と思います。
そしてもう一つ、例え「現行法では、二次創作同人誌は違法と解さざるをえない」という専門家であっても、多くが“その先”に言及していたことは、特筆しておきたいと思います。
「同人誌なんか作ったらダメです。はい、この話はおしまい」という専門家がなぜいないのかといえば、今回見てきたとおり、専門家の間でも次のような考えがしっかり認識されているからでありましょう。
同人誌というカルチャーは、日本のマンガ文化を支える重要な役割を果たしており、簡単になくしてしまってよいものではない――。
「二次創作」という行為は、原作品に依拠するという特殊性は有しますが、それは間違いなく新たな「創作行為」です。
だからこそ、多くの著作権法の専門家が、そこに我々の文化そのものを豊かにしてくれる可能性を見いだし、なんとか「二次創作同人誌」というものを著作権法の体系の中に織り込んでいこうと尽力してくれているわけです――「違法だ」という言葉で片付けてしまうことなく。
その中で、当事者である我々オタク自身が思考停止に陥っていないか、“常識”にとらわれていないかは、いま一度、よく考えてみてもよいように思います。
毎度のこととはいえ、またもやこんなクソ長い記事になってしまってすいません。
もしお読みくださった方がいたとしたら、本当にありがとうございました!
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Comments
具体的な事件などについても言及しておいたほうがよいかと思います。
参考:http://homepage1.nifty.com/akiopage/doujinsi.html
個人的には違法なことを認めた上で同人権なるものをいかに獲得するのかが課題になるのではないかと思います。
なあなあにしているとそのうち痛い目に会うような気がしています。
参考:http://homepage1.nifty.com/akiopage/doujinsi.html
個人的には違法なことを認めた上で同人権なるものをいかに獲得するのかが課題になるのではないかと思います。
なあなあにしているとそのうち痛い目に会うような気がしています。
二次創作系同人誌が違法かそうでないかが専門書で書かれないのは著作権侵害が「親告罪」だからです
同人行為単独では違法かどうか決まらないのです
完全に合法にしたければ原著作権者に許可をとる
但し連絡して「不許可」だったら完全にアウト
同人作家からすれば、わざわざ「完全にアウト」にはしたくない
原著作権者(や出版社)からすれば、問い合わせられたら「許可」とは言えない(場合が多い)けど、問題にはしたくない(場合が多い)
という理由から現状グレーなままなんです
赤松センセは、著作権違反がTPPで親告罪じゃなくなる可能性があるのでマークを提案したのです
同人行為単独では違法かどうか決まらないのです
完全に合法にしたければ原著作権者に許可をとる
但し連絡して「不許可」だったら完全にアウト
同人作家からすれば、わざわざ「完全にアウト」にはしたくない
原著作権者(や出版社)からすれば、問い合わせられたら「許可」とは言えない(場合が多い)けど、問題にはしたくない(場合が多い)
という理由から現状グレーなままなんです
赤松センセは、著作権違反がTPPで親告罪じゃなくなる可能性があるのでマークを提案したのです
話に割り込んだ上に少し話がずれてしまい恐縮ですが、親告罪というのは「被害者が訴えなければ違法ではない」という事ではありません。
親告「罪」とあるように例え被害者からの告訴が無くても違法行為であることには違いありません。
親告罪とはざっくり言えば「被害にあった人が申告しないと裁判にかけられない違法行為」の事だと理解しています。
なので同人行為は違法かどうかという議論自体は可能ではないでしょうか。
いや、むしろ親告罪だからこそ「違法か否か」という議論が重要になってくるのかもしれません。
親告「罪」とあるように例え被害者からの告訴が無くても違法行為であることには違いありません。
親告罪とはざっくり言えば「被害にあった人が申告しないと裁判にかけられない違法行為」の事だと理解しています。
なので同人行為は違法かどうかという議論自体は可能ではないでしょうか。
いや、むしろ親告罪だからこそ「違法か否か」という議論が重要になってくるのかもしれません。
人や本によって「違法」の定議が違うのが揉める元です
違法 = 権利侵害
なのか
違法 = 警察に捕まる(多分、別の正確な言葉がある)
なのか
「親告」が絡むので、この間にさらに何段階かありそうです
違法 = 権利侵害
なのか
違法 = 警察に捕まる(多分、別の正確な言葉がある)
なのか
「親告」が絡むので、この間にさらに何段階かありそうです
作者が決めればいいじゃない
嫌な人もいるだろうし別にいい人もいるだろう
作者第一で考えるのがいいとおもう
法律的にそれを定めるのは難しいけれどね
外部の人がとやかくいうことじゃないと思う
まぁ、実際そうなったら二次を認めない作者さんを批判する声がでそうだな
嫌な人もいるだろうし別にいい人もいるだろう
作者第一で考えるのがいいとおもう
法律的にそれを定めるのは難しいけれどね
外部の人がとやかくいうことじゃないと思う
まぁ、実際そうなったら二次を認めない作者さんを批判する声がでそうだな
二次創作と著作権について、そしてそれが違法なのかどうかについて、これだけのことを調べるのはとてつもない労力が必要だったかと思います。非常に有益かつ勉強になりました。記事をまとめてくださって、ありがとうございました。
本筋には関係ないのですが、一点気になった箇所があったのでコメントを残させて頂きました。(重箱の隅を突くようで申し訳ありません)
「とはいえ、このような「作家側からの二次創作の許諾」を示すマークが生まれるということは、そもそも今の世の中に「(無許可の)二次創作同人誌は、原作の著作権を侵害するものだ」という認識が、基本的には広く共有されているからではありましょう。 」
という部分に関してなのですが、赤松先生の同人マークは、「現時点で二次創作が違法である(という認識をされている)」からではなく、「TPP対策」で作られました。
TPPでは現在は親告罪である著作権の侵害が、非親告罪になってしまう可能性があるのです。
今までは黙認されていた二次創作を、警察が簡単に摘発できるようになるかもしれない……そんな場合に、著作権者側から同人許可のしるしがあれば、警察も簡単に捜査には踏み込めません。警察の萎縮効果を狙ったものなのです。
ネットニュースでも同人マークがTPP対策であるとは書かれていないものが多いのですが、赤松先生のツイッターなどをチェックすると、より詳しく説明されていますので、もし興味がおありでしたら、そちらも参考にしてみますと、これからの著作権と二次創作の関わり方についてより考えを深められるかと思います。
細かい部分で煩わしいコメント、失礼致しました。