コバニとは? わかりやすく解説

アイン・アル=アラブ

(コバニ から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/07 03:54 UTC 版)

アイン・アル=アラブ / コバニ

عين العرب

`Ayn al-`Arab / Kobani
アイン・アル=アラブ / コバニ
シリア国内の位置
北緯36度53分23秒 東経38度21分20秒 / 北緯36.88972度 東経38.35556度 / 36.88972; 38.35556
シリア
アレッポ県
アイン・アル=アラブ郡英語版
標高
520 m
人口
(2004)
 • 合計 44,821人
等時帯 UTC+3
民族構成 クルド人、アラブ人、トルクメン人、アルメニア[1]
宗教 イスラム教スンニ派、キリスト教

アイン・アル=アラブ(ローマ字表記:Ayn al-Arabعين العرب, ʿAyn al-ʿArab)、またはクルド語コバニ (Kobanî) あるいはコバネKobanê)は、シリア(シリア・アラブ共和国)北西部の都市で、アレッポ県(県都アレッポ)に属する。

人口は2004年の国勢調査で44,821人[2]。街の人口のほとんどはクルド人で、その他アラブ人 (5%)、トルクメン人 (5%)、アルメニア人 (1%) と続く[1]。シリアのクルド民主連合党 (Kurdish Democratic Union Party, PYD) の指導者で、シリア内戦におけるクルド人側の主要人物でもあるサーリフ・ムスリムはコバニの出身である。

名称

アラビア語名は「アラブの泉」を意味するアイン・アル=アラブ[3]クルド語名の「コバニ」の由来は不明である。サーリフ・ムスリムは、オスマン帝国時代にバグダード鉄道を建設したドイツ資本の鉄道会社の「会社」(Kompanie, コンパニー)という語が崩れてコバニとなったという民間語源説を紹介している[4]

歴史

オスマン帝国時代の1892年、半農半遊牧のクルド人が住むこの地に小さな村ができた[5]1912年にはバグダード鉄道が通り、小さな駅ができて労働者が集まった。この時期に駐留していたドイツ人技師は、アラブ・プナル(Arab Punar, トルコ語で「アラブの泉」)と呼ばれるこの村を「ユーフラテス川の東35キロメートルの位置にある小さなクルド人の村」と書いており、家々は泥煉瓦を積んでできていることや、近隣のクルド人部族による鉄道工事襲撃があったことを記録している[6]

1915年、オスマン帝国によるアルメニア人虐殺を逃れたアルメニア人たちが駅の横に小さな町を作り、近くに暮らしていたクルド人などもこの町に集まってきた[3][4]1921年トルコとシリアの国境がバグダード鉄道沿いに引かれ、町の一部は鉄道の北側のトルコ領となった。現在はシャンルウルファ県シュリュジュ英語版地区に属するミュルシトプナル (Mürşitpınar) という町になっており、同名の国境検問所がある。

アイン・アル=アラブの都市基盤は、フランス委任統治領シリアの時代に、フランス統治当局が計画・建設したものが主となっている。今日もフランス時代に建てられた建物が多数現存し使われている[1]

20世紀半ばまでは多数のアルメニア人が住み、3つのアルメニア教会が建っていたが、1960年代にアルメニア人のほとんどはソビエト連邦領内のアルメニアへと移民して町を去っていった[4]

シリア内戦

包囲下のコバニ

シリア内戦が起こると、2012年7月19日にアイン・アル=アラブ(コバニ)から政府軍が撤退し、クルド人の反政府武装勢力クルド人民防衛隊 (People's Protection Units, YPG) が占領した[7]。これ以来クルド人の統治が始まり、YPGやクルド民主連合党のクルド人政治家らはこの周辺の地域をシリアのクルディスタンの一部とみなして自治の確立を模索していた[8][9]2014年1月27日にはシリアのクルディスタン(ロジャヴァ)のコバニ地区 (Kobanê Canton) が置かれコバニはその中心地となったが、周囲ではサラフィー・ジハード主義武装勢力ISILの攻勢が始まり、7月2日にはコバニと周囲の農村に対する本格的な攻撃が始まった[10]2014年9月16日にはISILによる西側と南側からの包囲戦(コバニ包囲戦)が再開され、多くの避難民が出て国際社会による注目が集まった。10月には防衛線があちこちで破られ市街地の多くをISILが掌握した。クルド勢力の中心の一つがISILにより陥落する寸前となり、残っている住民や兵士に対する虐殺の恐れもあるため[11]、アメリカ合衆国を主とする多国籍軍による空爆が行われクルド人への支援が集まった。2015年1月27日、クルド勢力は市街地を完全に奪還した[12]

2019年10月に発生したトルコのシリア領内への侵攻過程では、クルド人勢力がロシアを仲介役としてシリア政府軍に支援を要請。クルド側がアイン・アル=アラブを放棄することとなり、同月16日にはシリア政府軍とロシア軍が市内へ進駐した[13]

脚注

  1. ^ a b c The Second Report: Ayn al-Arab/Kobani, Etana Billetin-First issue”. Etana Files (2013年12月1日). 2014年4月28日閲覧。
  2. ^ General Census of Population and Housing 2004 Archived 2012年12月3日, at Archive.is. Syria Central Bureau of Statistics (CBS). Aleppo Governorate. (アラビア語)
  3. ^ a b Cockburn, Patrick (2014年10月7日). “Isis in Kobani: Turkey’s act of abandonment may mark an "irrevocable breach" with Kurds across the region”. Independent. http://www.independent.co.uk/news/world/middle-east/isis-in-kobani-turkeys-act-of-abandonment-may-mark-an-irrevocable-breach-with-kurds-across-the-region-9780941.html 
  4. ^ a b c Cheterian, Vikin (2 October 2013). "Kurdish Leader Denies Syrian Kurds Seek Secession". Translated by Abboud, Sami-Joe. Al Monitor. 2014年4月28日閲覧 Originally published in Arabic by Al-Hayat as أكراد سورية لا يريدون الانفصال نحارب النظام و«النصرة» ونخشى مجازر on 28 September 2013.
  5. ^ Index Anatolicus
  6. ^ Boyes, William (March 1916). “Persönliche Erinnerungen vom Bau der Bagdadbahn” (German). The Technologist: Mitteilungen des deutsch-amerikanischen Techniker-Verbandes 21 (3): 80–86. 
  7. ^ “More Kurdish Cities Liberated As Syrian Army Withdraws from Area”. Rudaw. (2012年7月20日). http://www.rudaw.net/english/kurds/4978.html 
  8. ^ Rozoff, Rick (2012年8月3日). “NATO's Secret Kurdish War: Turkey Prepares Iraq-style Attacks Inside Syria”. Eurasia Review. http://www.eurasiareview.com/03082012-natos-secret-kurdish-war-turkey-prepares-iraq-style-attacks-inside-syria-oped/ 2014年10月3日閲覧。 
  9. ^ “Liberated Kurdish Cities in Syria Move into Next Phase”. Rudaw. (2012年7月25日). オリジナルの2012年7月28日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20120728023132/http://www.rudaw.net/english/news/syria/4999.html 
  10. ^ “What's happening in Kobane?”. Kurdish Question. (2014年7月6日). オリジナルの2015年1月7日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20150107081700/http://kurdishquestion.com/kurdistan/west-kurdistan/what-s-happening-in-kobane.html 
  11. ^ イスラム国、コバニのクルド人部隊司令部を制圧 虐殺の恐れ 2014年10月11日 08:56 AFP BB
  12. ^ “イスラム国 シリア北部の要衝から撤退”. NHKニュース (日本放送協会). (2015年1月27日). オリジナルの2015年1月27日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20150127133538/http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150127/k10015011651000.html 2015年1月28日閲覧。 
  13. ^ シリア政権軍とロシア軍、トルコ国境の要衝コバニに進軍”. AFP (2019年10月17日). 2019年10月21日閲覧。

関連項目


コバニ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/03/06 09:25 UTC 版)

2015年ラマダン攻撃」の記事における「コバニ」の解説

6月25日ISIL戦闘員シリアのコバニにあるロジャヴァにて多数民間人殺害した。この攻撃により230名以上の民間人79名のISIL戦闘員23名のクルド人民防衛隊員が死亡した2014年6月29日カリフ制宣言して以来ISILが行った殺戮としては二番目大規模なのである。 表 話 編 歴 シリア内戦勢力勢力図アサド政権 バアス党 - 社会民族党 - シリア軍共和国防衛隊・第4機甲師団特殊戦力師団) - 国民防衛隊 - ロシア航空宇宙軍 - イスラム革命防衛隊 - ヒズボラ - シリア電子軍 反体制派 イスラム主義自由シリア軍- ハズム運動 - 同胞団 - シリアの友人たち - シリア国民連合- ハマス イスラム過激派イスラム戦線 - HTS(旧ヌスラ戦線シリア征服戦線) - 東トルキスタンイスラム運動 - ファトフ軍 - ISIL - アルカイダ トルコ軍 - 有志連合() クルド勢力 ロジャヴァ: クルド民主統一党 - クルド人民防衛隊 - クルド女性防衛部隊 - シリア民主軍 - アメリカ軍 - ロシア航空宇宙軍 イラク領クルディスタン:ペシュメルガトルコ領クルディスタン:クルディスタン労働者党 人物 アサド政権バッシャール・アル=アサド - マーヘル・アル=アサド - ファールーク・アッ=シャルア - ワリード・アル=ムアッリム - アースィフ・シャウカト - スハイル・アル=ハッサン - イサーム・ザフルッディーン - ムハンマド・アル=ハバシュ反体制派ハーリド・ハウジャ - ムアーズ・アル=ハティーブ - ムハンマド・ファーリスISILアブー・バクル・アル=バグダーディー - アブイブラヒム・ハシミ - ジハーディ・ジョン - マヘル・ミシャールロジャヴァ:サレフ・ムスリム・モハメド - ポラト・ジャンその他:オムラン・ダクニシュ - バナ・アルアベド - ハレド・アサド - ユスラ・マルディニ 主な戦闘事件 2011年ホムス戦(-172012年ロジャヴァ革命 - ホウラ虐殺 - アレッポ戦(-16) - イドリブ戦I2013年:グータ化学攻撃 - ラッカ戦I - ラッカII(-14)2014年:コバニ戦(-15) - 生来の決意作戦(-継続中2015年:ISによる日本人殺害 - パルミラ戦(-17) - ラマダン攻撃 - イドリブII - ロシア軍による空爆(-継続中) - ロシア軍撃墜 2016年人民議会選 - ユーフラテスの盾(-17) - ラッカIII(-17)2017年イドリブIII - カーン・シェイクン化学攻撃 - シャイラト基地攻撃2018年オリーブの枝2019年バグダーディー殺害 文化 ホワイト・ヘルメット(映画) - アレッポ 最後の男 - ラッカは静かに虐殺されている 関連項目 グレート・ゲーム - アラブの春 - 2015年欧州難民危機 - 国連シリア監視団 - シリア人権監視団 - ホワイト・ヘルメット - ザータリ難民キャンプ

※この「コバニ」の解説は、「2015年ラマダン攻撃」の解説の一部です。
「コバニ」を含む「2015年ラマダン攻撃」の記事については、「2015年ラマダン攻撃」の概要を参照ください。

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