新しい暗号資産の「4つに1つが詐欺」だった:トークンにまつわる調査結果が明らかにしたこと

新たに発行された暗号資産のトークンのうち、4つに1つが詐欺だった可能性が高い──。そんな調査結果を、暗号資産の追跡とブロックチェーンの分析を手がけるChainalysisが発表した。
A 3D line graph rising and falling against an orange backdrop.
Photograph: Daniel Grizelj/Getty Images

暗号資産(暗号通貨、仮想通貨)の世界は、たった10年ほどの間に1種類の通貨から数百万のコインや資産へと爆発的に拡大した。そして、現在は小さな持ち分が今後は大きな価値をもつようになると、どれもが約束している。

金鉱のように見せかけている“地雷原”に投資する人にとっての課題は、非常に多くの詐欺にまみれるデジタル経済のペニー株(超低位株)とデジタルの宝物を見分けることだろう。だが、こうしたがらくたとも言える資産の広がりが、新たな研究によって数字で示された。2022年に発売された暗号資産の新たなトークン(価値が上がったものを集計)の約4分の1は、発売から1週間以内に購入者の金をだましとる明らかな短期詐欺だったのである。

暗号資産の追跡とブロックチェーンの分析を手がけるChainalysisは23年2月16日(米国時間)に発表した年次犯罪レポートで、トークンが関与するいわゆる「パンプ&ダンプ」(価格を意図的につり上げ、高値のうちに売り抜ける行為)による詐欺の新たな調査結果を公表した。ここで言うトークンとは、少なくとも理論上は何らかの価値をもつ企業やプロジェクトの持ち分を表すブロックチェーンに基づくデジタル資産のことである。

パンプ&ダンプの詐欺では、詐欺師がしばしば根拠のない誇大な宣伝により、自分たちの保有する資産の価格をつり上げる(パンプ)。その後、警告もなく保有している資産すべてを売却する。その結果、価格が暴落して価値が低下した資産を、だまして買わせた相手たちに「押し付ける」(ダンプ)わけだ。

トークンの多くが「詐欺」であるという衝撃

Chainalysisは調査において、このパンプ&ダンプ詐欺のある特定の形態に注目している。前から存在するトークンを操作して利益を狙うのではなく、新たなトークンを作成することによる詐欺の形態だ。

「ブロックチェーンのデータを調べていて、わたしたちが貢献できる最もいい方法は、流動性プロバイダーが明らかなパンプ&ダンプ詐欺の目的で作成するトークンに注目することだと気づきました」と、Chainalysisの調査部門の責任者のキム・グラウアーは語る。彼の言う「流動性プロバイダー」とは、トークンの作成者か発行者のことを意味する。「そのようなトークンは何百万と存在します。そのうちどれくらいが合法的なもので、どれくらいが詐欺なのでしょうか?」

多くが「詐欺」であるというのが、その答えである。22年に作成された100万種類以上のトークンをChainalysisが調べたところ、誰かに買わせた結果として価値が上がったケースは、ごく一部の9,902件だけであることがわかった。24%はトークン作成者が仕組んだ厚かましい短期のパンプ&ダンプ詐欺であり、発売から1週間以内にダンプされていたという。

さらにショッキングなのは、おそらくトークン詐欺の世界における連続犯の数だろう。

Chainalysisはパンプ&ダンプ詐欺の利益を追跡することで、何百人もの連続詐欺師たちの暗号ウォレットに流れ込む資金を監視した。その結果、445の個人や組織が22年に短期のパンプ&ダンプ詐欺を2回以上成功させていることが判明したのである。うち23の個人や組織は10回以上で、ある非常に多忙なパンプ&ダンプ起業家による詐欺は264回にも達していた。

このような1週間以内の詐欺の広がりと、詐欺を繰り返す一部の連中が投入したであろう労力の量にもかかわらず、それらが特に利益を生んでいないことをChainalysisは明らかにしている。儲け(詐欺の被害者にとっては損失)の総額はわずか3,000万ドル(約40億円)で、Chainalysisが集計した22年の詐欺収益の総額59億ドル(約7,900億円)の0.5%にすぎなかった。

それでも今回の調査結果は、暗号資産のトークンの世界が最も恥知らずな種類の詐欺師たちによって、どれだけ徹底的に腐敗させられてきたかを浮き彫りにしている。

Chainalysisのグラウアーによると、同社が計測したパンプ&ダンプ詐欺の平均的な儲けが3,000ドル(約40万円)強であることを考えると、これはローリスク・ローリターンの詐欺であり、数千ドルが西側諸国より高い価値をもつ国の人々によるものだった可能性が高いという。

「おそらく、それが大金になるような地域に住んでいるのでしょう」と、グラウアーは言う。「それらの人々は可能なときに少額の資金を組織的にだまし取っています。それでも、こうした人々にとってはうまみがあるに違いありません。そうでなければ、264回もやらないでしょうから」

Chainalysisが開発した抽出ツールの威力

Chainalysisが最初にパンプ&ダンプ詐欺に注目したのは、21年後半にオランダの警察が同社のソフトウェアツールを使い、オランダで被害が出ていたトークンに基づく詐欺の捜査を始めたときだった(それがどのトークンなのかChainalysisは明らかにしていない)。

この事件の後、Chainalysisの研究員たちは、パンプ&ダンプ詐欺をより広範に探し出して計測するフィルターを構築できるか調べてみることにした。「『つくってみよう。この標準的な事例を使い、そこから拡大させていこう』と考えたのです」と、Chainalysisのグラウアーは説明する。

研究員たちが最終的に構築したツールは、ブロックチェーンのデータをスキャンすることで、発売から1週間以内に作成者か発行者によって売却され、最高価格に達してから1日後までに90%以上の価値を失ったトークンを抽出するツールだった。

そのフィルターにさらに磨きをかけるため、Chainalysisはトークンのオープンソースコードを調べて詐欺の兆候をチェックするサービス「Token Sniffer」のデータも取り入れた。このサービスが調べるのは、例えば通常の取引場所である分散型取引所でトークンが即売されることを防ぐために設計されたコードの要素などだ。

このように、フィルターが比較的厳密に定義されていることを考えれば、22年に起きたパンプ&ダンプ詐欺の総数は、Chainalysisが保守的に計測した約10,000件よりはるかに多かった可能性が高い。

詐欺師たちの身元特定も可能に

この詐欺のエコシステムにおける最悪の犯罪者の多くを、Chainalysisは突き止めることができた。しかし、それらの詐欺師たちの現実世界での身元を探そうとはしていない。

グラウアーによると多くの場合、詐欺師たちが儲けを現金化する中央集権的な取引所の口座は、容易に追跡できる可能性があるという。そのような取引所の多くはノウ・ユア・カスタマー(KYC、本人確認)の要件を備えていることから、保有している身元情報を捜査当局に渡すことができる。

つまり、政府機関がChainalysisの調査結果を利用して取引所に召喚状を送り、詐欺師たちの身元特定を始められるかもしれないのだ。おそらく、Chainalysisが指摘した「最も多忙な詐欺師」も、正体を突き止めることができるだろう。

しかし、いまのところはトークン経済の実態がいかに詐欺で溢れているか、そしてどの詐欺師が問題の元凶であるかを正確に知るだけでも、おそらく十分に価値があるだろうとグラウアーは指摘する。

「わたしたちはパンプ&ダンプについて、ここに悪者たちの集団がいて、その数は445人です、といった具合に示すことができます」と、グラウアーは言う。「わたしたちは詐欺師を見分けることができます。“見る”ことができるのです。そして実際に何人であるのかを確認することが、非常に強力な手段になります」

(WIRED US/Edit by Daisuke Takimoto)

※『WIRED』による暗号資産(暗号通貨、仮想通貨)の関連記事はこちら。


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